「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・剛剣録 7
晴奈の話、第251話。
クラウンの転落と暴走。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
楢崎との対戦の後、クラウンは3回戦うことになる。しかし、他の4名との力量差がありすぎたために、おおよそ試合と呼べるような展開にはならなかった。
また、楢崎戦以外の3戦はすべて賭け率が相手に偏ってしまったため賭けが成立せず、無効となっている。
話の盛り上がりとしても、また「何が起こるか分からない、一発逆転もありうる」と言う賭けの醍醐味も無い、非常につまらない展開となったため、その試合3回分だけをダイジェストとして、先に公開することにする。
10日目(5月30日) クラウン―ミーシャ
前回と同じく、先に仕掛けたのはクラウン。しかし俊敏さで「虎」のシリンに敵うはずが無く、あっさり避けられる。
とは言え、クラウンは避けられることを予想してはいた。途中で鉈を横に振り払い、シリンに投げつける。
が、シリンはそれを得意の蹴りで弾き飛ばす。空高く飛んでいく鉈を愕然とした表情で見上げるクラウンのあごに、シリンがもう一発蹴りを放つ。クラウンは歯を1本折られ、そのままリングに沈んだ。
19日目(6月9日) クラウン―コウ
晴奈の師匠が「瞬殺の女神」柊雪乃と言うこともあり、因縁の対決となった。
2度に渡る先手負けを喫したクラウンは、今度は飛び出すことはせず、じっくりと晴奈を待ち構える。
が、この戦法は晴奈にとって有利に働いた。師匠直伝の居合い抜きを放ち、一瞬で鉈の柄を真っ二つに折る。武器を失い、肉弾戦でかかろうとしたクラウンだったが、刀のリーチと「虎」以上の俊敏さを持つ晴奈に対抗できるはずも無く、試合開始から1分後にダウン。
25日目(6月15日) クラウン―ウィアード
この回が特に悲惨だった。
何故かいつもより興奮状態にあったロウが、開始早々クラウンに飛び掛った。今大会でその威力を発揮した三節棍が恐ろしい音を立ててうなり、クラウンを滅多打ち。
開始わずか12秒でクラウンは撃沈した。これはエリザリーグ史上、最速の決着となった。
「……」
26日目(6月16日)。
エリザリーグ全敗と言う悲惨な結果を受け、クラウンは朝から押し黙っていた。
この様子を盗み見ていたバートは、冷や汗を流している。
(もういい加減、逮捕に踏み切らなきゃな)
クラウンの顔色は、ひどく悪い。髪もこの1ヶ月で、頭頂部が半分近くに減っている。目も異常に血走り、重度のストレスが彼にのしかかっているのは明白だった。
(今にも爆発しかねねーぞ、あれ)
「……なあ」
不意に、クラウンが側近たちに声をかけた。
「は、はい」
「あのウィアードのクソ野郎、今何位だ?」
「え? あ、ちょっと待ってください」
幹部は新聞を広げ、試合結果を確認する。
「1位です。明後日のコウ戦で勝てば、優勝ですね」
「じゃあ、表彰されるよな」
「え、まあ、はい。されると思います」
「……なら、表彰式の時は教会にはいないよな」
「えっ?」
クラウンはのそっと立ち上がり、部屋の中央に立つ。
「あの野郎の泣き叫ぶ顔が見たくてよお……」
「ま、まさかボス、教会の子供たちをさらおうってんじゃ」
「何がまさか、だ。そのつもりだ」
幹部たちは一斉に首を振って、それを止めようとする。
「や、やめてください!」
「あぁ?」
「いくらなんでも、子供をさらうのはあんまりすぎます!」
「何寝ぼけてやがる」
クラウンは近くにいた幹部の頭をガシっとつかんだ。
「お前ら、今までずーっと人さらいしてきたんだろーが。大人なら良くて子供なら悪いのか、あ?」
「いえっ、その、大人も……」
「聞こえねえなあ?」
「大人をさらうのも、その、……ダメ、です、って、……はい」
「ざけんな、コラアアアアッ!」
頭をつかまれていた幹部が投げ飛ばされる。
(……! やべぇ!)
壁の向こうにいたバートが幹部の投げられた方向を察したが、もう遅い。
「ぎゃああっ!」「ぐえっ!」
幹部は壁をぶち破り、バートをなぎ倒した。
「俺様の言うコトに逆らうんじゃねえ! それから……」
クラウンは倒れたバートを指差し、また叫ぶ。
「公安のクソ狗が! 俺様が気付いてねえとでも思ってやがったのか、ああん!?」
「く、そ……、バレてた、か……」
クラウンは壁にできた穴をくぐり、倒れたバートの襟をつかんで引き上げる。
「こないだから何度も何度も妙にタイミングよく捜査が入りやがるから、おかしいと思ってたんだよ。てめーがチクってやがったんだな」
「く……」
「おい、お前ら! この狐野郎を例の倉庫に閉じ込めとけ! 次の取引で売っぱらってやる!」
クラウンはバートを幹部たちの前に投げ捨てる。その衝撃でバートは気絶し、動かなくなる。
「は、はいっ」
「それからオッド先生も呼べ! 今度こそ取引できるって伝えろ!」
「分かりましたっ」
幹部たちは急いでバートを拘束し、どこかへと去っていった。
蒼天剣・剛剣録 終
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クラウンの転落と暴走。
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楢崎との対戦の後、クラウンは3回戦うことになる。しかし、他の4名との力量差がありすぎたために、おおよそ試合と呼べるような展開にはならなかった。
また、楢崎戦以外の3戦はすべて賭け率が相手に偏ってしまったため賭けが成立せず、無効となっている。
話の盛り上がりとしても、また「何が起こるか分からない、一発逆転もありうる」と言う賭けの醍醐味も無い、非常につまらない展開となったため、その試合3回分だけをダイジェストとして、先に公開することにする。
10日目(5月30日) クラウン―ミーシャ
前回と同じく、先に仕掛けたのはクラウン。しかし俊敏さで「虎」のシリンに敵うはずが無く、あっさり避けられる。
とは言え、クラウンは避けられることを予想してはいた。途中で鉈を横に振り払い、シリンに投げつける。
が、シリンはそれを得意の蹴りで弾き飛ばす。空高く飛んでいく鉈を愕然とした表情で見上げるクラウンのあごに、シリンがもう一発蹴りを放つ。クラウンは歯を1本折られ、そのままリングに沈んだ。
19日目(6月9日) クラウン―コウ
晴奈の師匠が「瞬殺の女神」柊雪乃と言うこともあり、因縁の対決となった。
2度に渡る先手負けを喫したクラウンは、今度は飛び出すことはせず、じっくりと晴奈を待ち構える。
が、この戦法は晴奈にとって有利に働いた。師匠直伝の居合い抜きを放ち、一瞬で鉈の柄を真っ二つに折る。武器を失い、肉弾戦でかかろうとしたクラウンだったが、刀のリーチと「虎」以上の俊敏さを持つ晴奈に対抗できるはずも無く、試合開始から1分後にダウン。
25日目(6月15日) クラウン―ウィアード
この回が特に悲惨だった。
何故かいつもより興奮状態にあったロウが、開始早々クラウンに飛び掛った。今大会でその威力を発揮した三節棍が恐ろしい音を立ててうなり、クラウンを滅多打ち。
開始わずか12秒でクラウンは撃沈した。これはエリザリーグ史上、最速の決着となった。
「……」
26日目(6月16日)。
エリザリーグ全敗と言う悲惨な結果を受け、クラウンは朝から押し黙っていた。
この様子を盗み見ていたバートは、冷や汗を流している。
(もういい加減、逮捕に踏み切らなきゃな)
クラウンの顔色は、ひどく悪い。髪もこの1ヶ月で、頭頂部が半分近くに減っている。目も異常に血走り、重度のストレスが彼にのしかかっているのは明白だった。
(今にも爆発しかねねーぞ、あれ)
「……なあ」
不意に、クラウンが側近たちに声をかけた。
「は、はい」
「あのウィアードのクソ野郎、今何位だ?」
「え? あ、ちょっと待ってください」
幹部は新聞を広げ、試合結果を確認する。
「1位です。明後日のコウ戦で勝てば、優勝ですね」
「じゃあ、表彰されるよな」
「え、まあ、はい。されると思います」
「……なら、表彰式の時は教会にはいないよな」
「えっ?」
クラウンはのそっと立ち上がり、部屋の中央に立つ。
「あの野郎の泣き叫ぶ顔が見たくてよお……」
「ま、まさかボス、教会の子供たちをさらおうってんじゃ」
「何がまさか、だ。そのつもりだ」
幹部たちは一斉に首を振って、それを止めようとする。
「や、やめてください!」
「あぁ?」
「いくらなんでも、子供をさらうのはあんまりすぎます!」
「何寝ぼけてやがる」
クラウンは近くにいた幹部の頭をガシっとつかんだ。
「お前ら、今までずーっと人さらいしてきたんだろーが。大人なら良くて子供なら悪いのか、あ?」
「いえっ、その、大人も……」
「聞こえねえなあ?」
「大人をさらうのも、その、……ダメ、です、って、……はい」
「ざけんな、コラアアアアッ!」
頭をつかまれていた幹部が投げ飛ばされる。
(……! やべぇ!)
壁の向こうにいたバートが幹部の投げられた方向を察したが、もう遅い。
「ぎゃああっ!」「ぐえっ!」
幹部は壁をぶち破り、バートをなぎ倒した。
「俺様の言うコトに逆らうんじゃねえ! それから……」
クラウンは倒れたバートを指差し、また叫ぶ。
「公安のクソ狗が! 俺様が気付いてねえとでも思ってやがったのか、ああん!?」
「く、そ……、バレてた、か……」
クラウンは壁にできた穴をくぐり、倒れたバートの襟をつかんで引き上げる。
「こないだから何度も何度も妙にタイミングよく捜査が入りやがるから、おかしいと思ってたんだよ。てめーがチクってやがったんだな」
「く……」
「おい、お前ら! この狐野郎を例の倉庫に閉じ込めとけ! 次の取引で売っぱらってやる!」
クラウンはバートを幹部たちの前に投げ捨てる。その衝撃でバートは気絶し、動かなくなる。
「は、はいっ」
「それからオッド先生も呼べ! 今度こそ取引できるって伝えろ!」
「分かりましたっ」
幹部たちは急いでバートを拘束し、どこかへと去っていった。
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