「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・空位伝 1
神様たちの話、第276話。
存在感の無さ。
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1.
「なーんかなぁ」
憂鬱そうな声で、エリザが話を切り出して来た。
「何も無しやねんな」
「何がです?」
エリザの言わんとすることがさっぱり分からず、ハンは首をかしげる。
「や、アレから結構経ったやん?」
「アレってなんですか」
「西山間部を掌握してから。ほんで、その直後からアタシな、東山間部の方へも商売の手ぇ伸ばして、その裏でソレとなく帝国さんの動きを探っとったんやけどもな」
「帝国の動きが何も無い、と言うことですか」
「せやねん」
エリザはうんうんとうなずきつつ、煙管を口にくわえる。
「ええ加減、アタシがウロウロしとるコトと、遠征隊が情報収集しとるコトをつなげて考えるヤツも出てきておかしないやろと思うんやけどな」
「異邦人が商売しに来たなんて、そう考えない方がおかしいでしょうからね。俺ならその可能性を念頭に置くでしょう」
「せやろ? せやからな、向こうで商売する時もロウくんやら何やら、護衛を仰山付けて回っとるんやけども、なーんも危険な目に遭わへん。や、危険な目に遭いたいっちゅうワケちゃうけども、ほんでも起きてもおかしないはずのコトがまったく起こらへんっちゅうのんはなー……」
「ふむ」
ハンはもう一度首をかしげ、エリザの話を吟味する。
「既にあれから半年以上、いや、もっとになりますよね」
「せやな」
「未だ帝国が動かない、と言うのは確かに妙です。事実として現在、帝国はその陣地を大きく奪われ、相当不利な形勢に追い込まれていますし、となればこちらと停戦交渉を行うなり、覚悟を決めて決戦に出るなりしても、何らおかしくないでしょう。
一方、このまま沈黙を続けることは、帝国にとって不利でしか無いはずです。こちら側の勢力は――厳密に言えば西山間部の豪族らとミェーチ軍団、いや、現在はミェーチ王国でしたか――帝国に対し、強い敵対心を持っています。であれば当然、防衛策を採る。事実、ゼルカノゼロの南側は既に、ミェーチ軍団が防衛線の構築に取り掛かっていると聞いています」
「取り掛かっとるっちゅうか、もうソレ、ほぼほぼ完成しとるな。……ま、そやな。ソコが妙やねんな。何もせんとじっとしとったら、敵のアタシらは防御を完璧に固めるし、そしたら攻撃しても無駄になる。ちゅうコトはこっちとの政治的な交渉材料が1個、潰れるワケやん?」
「確かに。攻撃に効果があるからこそ、停戦交渉の意味があるわけですしね。効果が無くなれば、『攻めるぞ』とおどしたところで無意味でしょう」
「せやろ? ソレやのに自分から交渉材料潰すなんて、自分の状況も分からへんくらいのアホなんか、ソレともまだ挽回でけるっちゅう、よほどの自信があるかやけども」
「前者であるとは考えにくいでしょう。実際に、20年前に北方征服を完遂させた相手ですからね」
「ソレとも他に何や理由があるんか、やな。……なーんかなぁ」
エリザは煙管から口を離し、ふう、と紫煙を吐き出した。
「ホンマにいとるんかっちゅう気がしてきたわ」
「誰がです?」
「帝国の皇帝さん。レン・ジーン言うたっけ」
「ええ、そんな名前だったと。……ふむ」
エリザの言葉に、ハンも不可解なものを感じ始めた。
「確かに上陸から今まで、名前や業績は嫌と言うほど聞きましたし、彼の命令を――間接的にせよ――受けたと言う軍隊とも交戦してきましたが、彼本人の姿を見たことはありませんし、沿岸部や西山間部で見たと言う人間も皆無です」
「ミェーチ王さんやノルド王さんにしたかて、命令やら何やらは皇帝さんから直接や無しに、その皇帝さんから命令を受けた将軍さんから又聞きしたっちゅう形らしいからな。……コレ、もしかしたらもしかするんとちゃうか?」
「まさか本当に、皇帝は存在しないと?」
「おかしすぎるやろ? ココまで何の動きも無いやなんて。もしかしたら今、とっくに死んではったりするんちゃうやろか」
「帝国の象徴であり、最高指導者である皇帝が後継者も指名せず亡くなれば、帝国は崩壊を余儀なくされる。故に死を公表することなどできない――それで帝国の実務者層も動くに動けず、こうして沈黙した状況が続いている、と?」
「可能性は高いと思うで、アタシは」
エリザはすっかり燃え尽きた煙管の灰をトン、と灰皿に落とし、胸元にしまい込んだ。
「今後はソレを想定して調査してみるわ。ホンマに死んではるんやったら、帝国さんと取引したはる店屋さんが、何かしらつかんどるかも分からんからな」
「お願いします」
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存在感の無さ。
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「なーんかなぁ」
憂鬱そうな声で、エリザが話を切り出して来た。
「何も無しやねんな」
「何がです?」
エリザの言わんとすることがさっぱり分からず、ハンは首をかしげる。
「や、アレから結構経ったやん?」
「アレってなんですか」
「西山間部を掌握してから。ほんで、その直後からアタシな、東山間部の方へも商売の手ぇ伸ばして、その裏でソレとなく帝国さんの動きを探っとったんやけどもな」
「帝国の動きが何も無い、と言うことですか」
「せやねん」
エリザはうんうんとうなずきつつ、煙管を口にくわえる。
「ええ加減、アタシがウロウロしとるコトと、遠征隊が情報収集しとるコトをつなげて考えるヤツも出てきておかしないやろと思うんやけどな」
「異邦人が商売しに来たなんて、そう考えない方がおかしいでしょうからね。俺ならその可能性を念頭に置くでしょう」
「せやろ? せやからな、向こうで商売する時もロウくんやら何やら、護衛を仰山付けて回っとるんやけども、なーんも危険な目に遭わへん。や、危険な目に遭いたいっちゅうワケちゃうけども、ほんでも起きてもおかしないはずのコトがまったく起こらへんっちゅうのんはなー……」
「ふむ」
ハンはもう一度首をかしげ、エリザの話を吟味する。
「既にあれから半年以上、いや、もっとになりますよね」
「せやな」
「未だ帝国が動かない、と言うのは確かに妙です。事実として現在、帝国はその陣地を大きく奪われ、相当不利な形勢に追い込まれていますし、となればこちらと停戦交渉を行うなり、覚悟を決めて決戦に出るなりしても、何らおかしくないでしょう。
一方、このまま沈黙を続けることは、帝国にとって不利でしか無いはずです。こちら側の勢力は――厳密に言えば西山間部の豪族らとミェーチ軍団、いや、現在はミェーチ王国でしたか――帝国に対し、強い敵対心を持っています。であれば当然、防衛策を採る。事実、ゼルカノゼロの南側は既に、ミェーチ軍団が防衛線の構築に取り掛かっていると聞いています」
「取り掛かっとるっちゅうか、もうソレ、ほぼほぼ完成しとるな。……ま、そやな。ソコが妙やねんな。何もせんとじっとしとったら、敵のアタシらは防御を完璧に固めるし、そしたら攻撃しても無駄になる。ちゅうコトはこっちとの政治的な交渉材料が1個、潰れるワケやん?」
「確かに。攻撃に効果があるからこそ、停戦交渉の意味があるわけですしね。効果が無くなれば、『攻めるぞ』とおどしたところで無意味でしょう」
「せやろ? ソレやのに自分から交渉材料潰すなんて、自分の状況も分からへんくらいのアホなんか、ソレともまだ挽回でけるっちゅう、よほどの自信があるかやけども」
「前者であるとは考えにくいでしょう。実際に、20年前に北方征服を完遂させた相手ですからね」
「ソレとも他に何や理由があるんか、やな。……なーんかなぁ」
エリザは煙管から口を離し、ふう、と紫煙を吐き出した。
「ホンマにいとるんかっちゅう気がしてきたわ」
「誰がです?」
「帝国の皇帝さん。レン・ジーン言うたっけ」
「ええ、そんな名前だったと。……ふむ」
エリザの言葉に、ハンも不可解なものを感じ始めた。
「確かに上陸から今まで、名前や業績は嫌と言うほど聞きましたし、彼の命令を――間接的にせよ――受けたと言う軍隊とも交戦してきましたが、彼本人の姿を見たことはありませんし、沿岸部や西山間部で見たと言う人間も皆無です」
「ミェーチ王さんやノルド王さんにしたかて、命令やら何やらは皇帝さんから直接や無しに、その皇帝さんから命令を受けた将軍さんから又聞きしたっちゅう形らしいからな。……コレ、もしかしたらもしかするんとちゃうか?」
「まさか本当に、皇帝は存在しないと?」
「おかしすぎるやろ? ココまで何の動きも無いやなんて。もしかしたら今、とっくに死んではったりするんちゃうやろか」
「帝国の象徴であり、最高指導者である皇帝が後継者も指名せず亡くなれば、帝国は崩壊を余儀なくされる。故に死を公表することなどできない――それで帝国の実務者層も動くに動けず、こうして沈黙した状況が続いている、と?」
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約半年ぶりの「琥珀暁」。
(現時点では)最終部です。
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