「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・空位伝 2
神様たちの話、第277話。
皇帝不在論の浮上。
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2.
「皇帝がいない、……ですって?」
「かも知れない、だ」
エリザから皇帝不在論を聞かされたその晩、ハンは班員たちにその話を聞かせ、皆の意見を仰いでいた。
「だが可能性は考えられると、俺も思っている。そりゃ確かに皇帝と称されるような相手だし、そうそう簡単に人前に出るようなものでもないだろう。俺たちの側にしても、陛下ご自身は気さくな方だが、街へお出でになることはあまり無いし、そもそもクロスセントラルから離れられたことも、ここ十数年無いと聞いている」
「お忙しい方ですからね。こちらの皇帝も同様の身と考えれば、姿を見ないのは納得できます」
「そうだな」
ビートに同意しつつも、ハンはかぶりを振って返す。
「だが、東山間部の人間でさえ一度も見たことが無いと言うのはおかしい。エリザさんから聞いたが、西山間部での戦いで捕虜にした人間も、将軍以下、誰も姿を見たことが無いと言っていたそうだ」
「将軍でもですか? 偉いはずなのに」
きょとんとするマリアに、ハンは「いや」と注釈を入れる。
「帝国の将軍は上級、下級に分かれているらしい。捕虜にしたのは下将軍だ。聞いたところによれば、拝謁を許されるのは上将軍と大臣だけだそうだ。それ以外は会えば不敬と見なされ、即刻処刑されると言っていた」
「ひどいですね」
悲しそうな顔でつぶやくメリーに、ハンも大きくうなずく。
「確かに残忍と取れる。だが見方によれば、かなり極端な情報統制を敷いていると言うことでもある」
「情報統制、……つまり、皇帝がいないことを隠そうとしている、と?」
「可能性はある。実際処刑された者がいるかどうかまでは聞いていないし、本当にいないとするならば、これは皇帝の存在を探る者が現れぬよう定められた法だとも考えられる。と言うか実際、目にしただけで処刑はやりすぎだろう。そんな極端なことをしていたんじゃ、誰も皇帝に信頼を寄せるはずが無い。いくらこの邦に最高指導者が一人しかいない、他に従う者がいない地であるとは言え、仕打ちがあまりにも過酷すぎるからな」
「内情を聞けば聞くほど、確かに、皇帝の存在が疑わしくなってくるような気がします」
メリーがこくこくとうなずく一方、マリアは首をかしげている。
「じゃあ本当に、皇帝はいないってことなんですかね?」
「断言はできない。だが、いないとするなら、一連の行動があまりにも消極的であったこととつじつまが合う。状況的に、最も自然と言えるだろう」
ハンの言葉を受けてもなお、マリアは納得しかねた様子でいる。
「でもそれだと、変なとこもありますよね」
「と言うと?」
「だって、それって突き詰めると、リーダーって言うかトップって言うか、あたしたちの方で言えば尉官とかエリザさんとか、そう言う人たちがずーっと不在のままってことですよね?」
「まあ、そうなるな」
「もし今、急にエリザさんがいなくなるとかしたら、あたしたち即パニックでしょ?」
マリアにそう問われ、ハンは一瞬顔をしかめかけたが、うなずいて返す。
「だろうな。俺も少なからず戸惑うだろう。俺が残っていたとしてもな」
「でもそう言う様子、全然無いんですよね。この2年戦ってきて、その間、帝国が混乱してた様子も無かったですし。もし混乱してたならですよ、沿岸部の戦いだって、西山間部の話だって、あんなに抵抗されることも無かったんじゃないかなーって」
「……ふむ」
マリアの意見を受け、ハンは中空に目をやる。
「となると、不在になったのはここ最近のことだと考えられるな。もし俺たちが上陸する前から不在だったと言うなら、マリアの言う通り、もっと動揺していてもおかしくない。……いや、しかしそれだと、皇帝を探らぬよう配慮していたことに説明が付けられないか」
「元々から人嫌いだったからそう言うことしてた、とかじゃないですか?」
「そうだな、その可能性は高い。これまでの行動を考えても、他人に対する苛烈な措置を鑑みれば、その節が見て取れる。
つまり――まだ推測、予想の域を出ない話だが――征服後20数年、俺たちが上陸して以降も人を避け続けていた皇帝が、ここ最近になって死亡。明確な指針を失った帝国は進退を窮め、動くに動けないでいる、……と言ったところか」
「じゃあもし今、我々が積極的攻勢に出れば……」
ビートの言葉に、ハンは小さくうなずいた。
「それを陛下がお許しになるとは考えづらいが、もし俺たちが積極策を講じれば、向こうは簡単に折れるかも知れないな。一度、エリザさんに相談してみよう」
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皇帝不在論の浮上。
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「皇帝がいない、……ですって?」
「かも知れない、だ」
エリザから皇帝不在論を聞かされたその晩、ハンは班員たちにその話を聞かせ、皆の意見を仰いでいた。
「だが可能性は考えられると、俺も思っている。そりゃ確かに皇帝と称されるような相手だし、そうそう簡単に人前に出るようなものでもないだろう。俺たちの側にしても、陛下ご自身は気さくな方だが、街へお出でになることはあまり無いし、そもそもクロスセントラルから離れられたことも、ここ十数年無いと聞いている」
「お忙しい方ですからね。こちらの皇帝も同様の身と考えれば、姿を見ないのは納得できます」
「そうだな」
ビートに同意しつつも、ハンはかぶりを振って返す。
「だが、東山間部の人間でさえ一度も見たことが無いと言うのはおかしい。エリザさんから聞いたが、西山間部での戦いで捕虜にした人間も、将軍以下、誰も姿を見たことが無いと言っていたそうだ」
「将軍でもですか? 偉いはずなのに」
きょとんとするマリアに、ハンは「いや」と注釈を入れる。
「帝国の将軍は上級、下級に分かれているらしい。捕虜にしたのは下将軍だ。聞いたところによれば、拝謁を許されるのは上将軍と大臣だけだそうだ。それ以外は会えば不敬と見なされ、即刻処刑されると言っていた」
「ひどいですね」
悲しそうな顔でつぶやくメリーに、ハンも大きくうなずく。
「確かに残忍と取れる。だが見方によれば、かなり極端な情報統制を敷いていると言うことでもある」
「情報統制、……つまり、皇帝がいないことを隠そうとしている、と?」
「可能性はある。実際処刑された者がいるかどうかまでは聞いていないし、本当にいないとするならば、これは皇帝の存在を探る者が現れぬよう定められた法だとも考えられる。と言うか実際、目にしただけで処刑はやりすぎだろう。そんな極端なことをしていたんじゃ、誰も皇帝に信頼を寄せるはずが無い。いくらこの邦に最高指導者が一人しかいない、他に従う者がいない地であるとは言え、仕打ちがあまりにも過酷すぎるからな」
「内情を聞けば聞くほど、確かに、皇帝の存在が疑わしくなってくるような気がします」
メリーがこくこくとうなずく一方、マリアは首をかしげている。
「じゃあ本当に、皇帝はいないってことなんですかね?」
「断言はできない。だが、いないとするなら、一連の行動があまりにも消極的であったこととつじつまが合う。状況的に、最も自然と言えるだろう」
ハンの言葉を受けてもなお、マリアは納得しかねた様子でいる。
「でもそれだと、変なとこもありますよね」
「と言うと?」
「だって、それって突き詰めると、リーダーって言うかトップって言うか、あたしたちの方で言えば尉官とかエリザさんとか、そう言う人たちがずーっと不在のままってことですよね?」
「まあ、そうなるな」
「もし今、急にエリザさんがいなくなるとかしたら、あたしたち即パニックでしょ?」
マリアにそう問われ、ハンは一瞬顔をしかめかけたが、うなずいて返す。
「だろうな。俺も少なからず戸惑うだろう。俺が残っていたとしてもな」
「でもそう言う様子、全然無いんですよね。この2年戦ってきて、その間、帝国が混乱してた様子も無かったですし。もし混乱してたならですよ、沿岸部の戦いだって、西山間部の話だって、あんなに抵抗されることも無かったんじゃないかなーって」
「……ふむ」
マリアの意見を受け、ハンは中空に目をやる。
「となると、不在になったのはここ最近のことだと考えられるな。もし俺たちが上陸する前から不在だったと言うなら、マリアの言う通り、もっと動揺していてもおかしくない。……いや、しかしそれだと、皇帝を探らぬよう配慮していたことに説明が付けられないか」
「元々から人嫌いだったからそう言うことしてた、とかじゃないですか?」
「そうだな、その可能性は高い。これまでの行動を考えても、他人に対する苛烈な措置を鑑みれば、その節が見て取れる。
つまり――まだ推測、予想の域を出ない話だが――征服後20数年、俺たちが上陸して以降も人を避け続けていた皇帝が、ここ最近になって死亡。明確な指針を失った帝国は進退を窮め、動くに動けないでいる、……と言ったところか」
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