「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・空位伝 7
神様たちの話、第282話。
ブレーキの不在。
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7.
メリーと街を散策したその翌日、クーは早速ハンの元へ向かった。
「……どうした、クー? 何の用だ?」
しばらくまともに話していなかったからか、ハンはどことなく、きまり悪そうな様子で出迎える。
「あなたにお話しておきたいことがございまして」
そんな冷ややかな態度に構わず、クーは率直に、昨日メリーと約束していた内容を伝えた。
「メリーのことです」
「なに?」
「あなたは最近、彼女をあちこちに連れ回してお仕事をさせていらっしゃるようですけれど、はっきり申せば、彼女は迷惑なさっていますわ。特に距離計算について、彼女は苦手と仰っています。これ以上、測量に同行させないよう、強く進言いたします」
「何故そんなことを君に言われなきゃならない?」
途端に、ハンは目に見えて不機嫌な様子になった。
「それは遠征隊、いや、俺たちの班の仕事だ。その仕事の裁量は俺に任されている。君にどうこう言われる筋合いは無い」
「ではハン、あなたはメリーが何の不満も抱えていないと?」
「本人からそう言われたなら勿論、検討も対処もする。だが第三者にそんな込み入ったことを言われて、はいそうですかと素直に応じると思うのか、君は? 君がメリーに嫉妬して、彼女のことを悪く吹聴している可能性は皆無とは言えないだろう?」
この発言を聞いて、となりにいたマリアが信じられないと言いたげな、呆れた表情を浮かべていたが、ハンに気付いた様子は無い。
「嫉妬!? わたくしがそんなことで……」
「ともかく、メリーが不満に思っていると言うのなら、本人をここに連れて来て話をするように言ってくれ。俺からは以上だ」
「以上? わたくしの話を聞かない、と?」
「そう言っただろう? 君が他人のことをどうこう言う筋合いは無いはずだ。違うか?」
「あなたっ……!」
あからさまに邪険な扱いをされた上、メリーに対するあまりにぞんざいな言葉を受けて、クーの頭に血が上った。
「いい加減になさい! わたくしのことを遠ざけるのはまだ容赦いたせますけれど、他の人間にまでその無神経を向けるおつもり!?」
「無神経? 俺が?」
「あなた以外に誰がいらっしゃるの!? あなた、メリーのことをちっともご理解なさっていらっしゃらないじゃない!」
「……ッ」
クーに指摘された途端、ハンの顔に、明らかに怒りの色が浮かんだ。
「君までそんなことを言うのか」
「はい?」
「俺が彼女のことを分かってないって? 分かってるさ、俺にモノを言えない性格だって言いたいんだろ? だが俺はそんな話、メリー本人から聞いてない。周りの予想に過ぎないだろ? 本人からそうだって、聞いたと言うのか?」
「聞いたからそう伝えているのです!」
「嘘を付け!」
ハンは顔を真っ赤にし、クーに怒鳴りつけた。
「君が彼女と話をしたって? そんなことがあるわけないだろう!?」
「え、ちょっと、ちょっと、尉官?」
と、ここまで成り行きを見守っていたマリアが、口を挟む。
「そんなの変でしょ? クーちゃんだってそりゃ、メリーと話くらいするでしょーし」
「お前は黙っていろ!」
が、ハンはマリアにまで怒りを向ける。
「……尉官、あのですね」
「黙れと言ったのが分からないのか!? お前に関係無い話だろう!?」
「あっ、そー」
次の瞬間――マリアはべちっ、とハンに平手打ちした。
「う……っ」
「じゃ、あたし懲罰房行ってきます。どうせ命令不服従と上官への反抗でブチ込むでしょ?」
「な……いや……」
ほおを押さえ、呆気に取られた様子のハンに背を向けつつ、マリアはクーに告げた。
「クーちゃん、もうこの人に何言ったって無駄だよ。この人、自分の勝手な意見以外、聴く気無くなっちゃったみたいだから」
「ええ、まったくそのようですわね。ではわたくしも、これで失礼させていただきます。でもマリア、あなたが房に入ることはございませんわ。わたくしの命により、その措置は免除いたします」
「どーも」
「しばらくわたくしと一緒に行動なさい。この方はもう、あなたの上官にはふさわしくございませんわ」
「はーい」
そのまま二人が去って行った後も、ハンは憮然としたまま、その場に立ち尽くしていた。
(……最悪だ)
と、この騒ぎをこっそり見ていたビートは、頭を抱える。
(これ、放っといたらまずいことになるよな。……すぐエリザ先生に伝えなきゃ)
まだ突っ立ったままのハンをもう一度確認し、それから慌てて、ビートは魔術頭巾を取りに行った。
琥珀暁・空位伝 終
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メリーと街を散策したその翌日、クーは早速ハンの元へ向かった。
「……どうした、クー? 何の用だ?」
しばらくまともに話していなかったからか、ハンはどことなく、きまり悪そうな様子で出迎える。
「あなたにお話しておきたいことがございまして」
そんな冷ややかな態度に構わず、クーは率直に、昨日メリーと約束していた内容を伝えた。
「メリーのことです」
「なに?」
「あなたは最近、彼女をあちこちに連れ回してお仕事をさせていらっしゃるようですけれど、はっきり申せば、彼女は迷惑なさっていますわ。特に距離計算について、彼女は苦手と仰っています。これ以上、測量に同行させないよう、強く進言いたします」
「何故そんなことを君に言われなきゃならない?」
途端に、ハンは目に見えて不機嫌な様子になった。
「それは遠征隊、いや、俺たちの班の仕事だ。その仕事の裁量は俺に任されている。君にどうこう言われる筋合いは無い」
「ではハン、あなたはメリーが何の不満も抱えていないと?」
「本人からそう言われたなら勿論、検討も対処もする。だが第三者にそんな込み入ったことを言われて、はいそうですかと素直に応じると思うのか、君は? 君がメリーに嫉妬して、彼女のことを悪く吹聴している可能性は皆無とは言えないだろう?」
この発言を聞いて、となりにいたマリアが信じられないと言いたげな、呆れた表情を浮かべていたが、ハンに気付いた様子は無い。
「嫉妬!? わたくしがそんなことで……」
「ともかく、メリーが不満に思っていると言うのなら、本人をここに連れて来て話をするように言ってくれ。俺からは以上だ」
「以上? わたくしの話を聞かない、と?」
「そう言っただろう? 君が他人のことをどうこう言う筋合いは無いはずだ。違うか?」
「あなたっ……!」
あからさまに邪険な扱いをされた上、メリーに対するあまりにぞんざいな言葉を受けて、クーの頭に血が上った。
「いい加減になさい! わたくしのことを遠ざけるのはまだ容赦いたせますけれど、他の人間にまでその無神経を向けるおつもり!?」
「無神経? 俺が?」
「あなた以外に誰がいらっしゃるの!? あなた、メリーのことをちっともご理解なさっていらっしゃらないじゃない!」
「……ッ」
クーに指摘された途端、ハンの顔に、明らかに怒りの色が浮かんだ。
「君までそんなことを言うのか」
「はい?」
「俺が彼女のことを分かってないって? 分かってるさ、俺にモノを言えない性格だって言いたいんだろ? だが俺はそんな話、メリー本人から聞いてない。周りの予想に過ぎないだろ? 本人からそうだって、聞いたと言うのか?」
「聞いたからそう伝えているのです!」
「嘘を付け!」
ハンは顔を真っ赤にし、クーに怒鳴りつけた。
「君が彼女と話をしたって? そんなことがあるわけないだろう!?」
「え、ちょっと、ちょっと、尉官?」
と、ここまで成り行きを見守っていたマリアが、口を挟む。
「そんなの変でしょ? クーちゃんだってそりゃ、メリーと話くらいするでしょーし」
「お前は黙っていろ!」
が、ハンはマリアにまで怒りを向ける。
「……尉官、あのですね」
「黙れと言ったのが分からないのか!? お前に関係無い話だろう!?」
「あっ、そー」
次の瞬間――マリアはべちっ、とハンに平手打ちした。
「う……っ」
「じゃ、あたし懲罰房行ってきます。どうせ命令不服従と上官への反抗でブチ込むでしょ?」
「な……いや……」
ほおを押さえ、呆気に取られた様子のハンに背を向けつつ、マリアはクーに告げた。
「クーちゃん、もうこの人に何言ったって無駄だよ。この人、自分の勝手な意見以外、聴く気無くなっちゃったみたいだから」
「ええ、まったくそのようですわね。ではわたくしも、これで失礼させていただきます。でもマリア、あなたが房に入ることはございませんわ。わたくしの命により、その措置は免除いたします」
「どーも」
「しばらくわたくしと一緒に行動なさい。この方はもう、あなたの上官にはふさわしくございませんわ」
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