「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・遠望伝 1
神様たちの話、第283話。
東部戦線異状なし?
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1.
エリザは沿岸部での諸用をハンたちに任せて、いつものようにロウと丁稚たちを伴い西山間部を周っていた。
「さよでっか。つまり何も動きは無し、ちゅうコトですな」
その外遊の途中、新たな王国を立ち上げたミェーチの元に立ち寄り、彼から近況報告を受けていたが――いつも通り、大仰かつ取り留めの無い話ばかりされたので――エリザは途中で口を挟み、話を切り上げさせた。
「うむ。この地に居を構えてより半年以上が経つも、帝国は依然として動きを見せるどころか、付近に兵を差し向ける気配すら無い。女史が懸念しておられた防衛線構築も先月、何の妨害もされぬまま完了したところである。故に今後、帝国が本腰を上げて攻め入ったとしても、恐らくたやすく撃破・撃退してしまえるであろう」
「アタシの方でも確認させてもらいましたけども、確かにあんだけ固めとったら十分やろと思います」
「女史のお墨付きがあるなら安心である。防衛に関しては問題無しと考えて良いだろうな」
「ほな、統治の方はどないです? 今まで『軍団』でしたけども、『王国』と名乗ったからには、そっちも考えていかんとあきませんやろと思うんですけども」
エリザに問われ、ミェーチは恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
「うむ、まったくご心配の通りでな。吾輩一人では手が回らず、婿に頼りっぱなしの有様である。いや、本当にシェロにはすっかり頭が上がらんわい。この間も……」「そら結構ですな」
話が長引きそうなことを察し、エリザはさくっと差し込む。
「ほんなら今んとこ、大きな問題は無いっちゅうコトですな」
「であるな。他の西山間部諸国との交流も円満であるし、女史より依頼されておった西山間部全域の街道整備も、はや半分が終了したと報告を受けておる」
「そうですな。アタシらも通りましたけども、去年に比べたら全然、通りやすさが違いましたわ。馬車もそない跳ねたりもハマったりもしませんでしたし。ほな、予定よりずっと工事完了は早そうですな。当初は年末までかかるんちゃうやろかと言うてましたけども」
「うむ。この具合ならもう半年もしないうち、峠まで延伸できるであろう。整備計画の本懐である西山間部諸国および沿岸部からの援軍招致の高速化も、現実のものとなるであろうな」
「万事つつがなし、っちゅうワケですな。……問題無く行き過ぎて、むしろ心配になってくるくらいですわ」
そう返したエリザに、ミェーチが首をかしげる。
「何故であるか?」
「帝国さんが何の交渉もせん、何の邪魔もせんっちゅうのんは不自然ですやろ? 防衛線構築も街道整備も、完成したら帝国にとっては大打撃どころのハナシやありませんからな。どっちも完成してしもたら、帝国は攻撃がまともに通らへんくなる上、速攻で反撃に出られてまうコトになるんですからな」
「ふむ、確かに」
「ソレでですな、コレはまだ確証を得てへん話になるんですけども」
エリザは沿岸部でハンと話していた皇帝不在論を、ミェーチに話した。
「……ちゅうワケで、もしかしたら進軍や妨害工作を指示でける人間がおらんせいで、帝国さんは動くに動けへんのちゃうやろか、と」
「なるほど、……ふーむ、一理あるやも知れんな」
話を聞いたミェーチは腕を組み、考え込む様子を見せる。
「承知した。吾輩の方でも斥候を出し、東山間部の様子を探るとしよう」
「よろしゅうお願いします」
エリザがぺち、と両手を合わせて頼んだところで――ミェーチが「あっ」と声を上げた。
「いやいや、大事な話を忘れておった。いや、先程シェロの件に触れた際に、あいつについて話しておこうと思っておったのだが、なかなか話が切り出せんでな」
「なんです? あの子、何や粗相でもしよったんですか?」
「いやいやいや、粗相どころか!」
心配するエリザにぶんぶんと手を振って返し、ミェーチは満面の笑みでこう続けた。
「実はな、シェロとリディアの間に子供ができたと言うのだ」
「……あら、あらあらあら!」
一転、エリザも顔をほころばせる。
「そらホンマにええお話やないですの」
「うむ、今年一番の吉報である! それで女史、良ければ二人に会ってもらえんだろうか? シェロもリディアも、女史には大恩がある。きっと報告したがっていると思うのでな」
「そらもう、勿論ですわ」
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東部戦線異状なし?
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エリザは沿岸部での諸用をハンたちに任せて、いつものようにロウと丁稚たちを伴い西山間部を周っていた。
「さよでっか。つまり何も動きは無し、ちゅうコトですな」
その外遊の途中、新たな王国を立ち上げたミェーチの元に立ち寄り、彼から近況報告を受けていたが――いつも通り、大仰かつ取り留めの無い話ばかりされたので――エリザは途中で口を挟み、話を切り上げさせた。
「うむ。この地に居を構えてより半年以上が経つも、帝国は依然として動きを見せるどころか、付近に兵を差し向ける気配すら無い。女史が懸念しておられた防衛線構築も先月、何の妨害もされぬまま完了したところである。故に今後、帝国が本腰を上げて攻め入ったとしても、恐らくたやすく撃破・撃退してしまえるであろう」
「アタシの方でも確認させてもらいましたけども、確かにあんだけ固めとったら十分やろと思います」
「女史のお墨付きがあるなら安心である。防衛に関しては問題無しと考えて良いだろうな」
「ほな、統治の方はどないです? 今まで『軍団』でしたけども、『王国』と名乗ったからには、そっちも考えていかんとあきませんやろと思うんですけども」
エリザに問われ、ミェーチは恥ずかしそうに笑みを浮かべる。
「うむ、まったくご心配の通りでな。吾輩一人では手が回らず、婿に頼りっぱなしの有様である。いや、本当にシェロにはすっかり頭が上がらんわい。この間も……」「そら結構ですな」
話が長引きそうなことを察し、エリザはさくっと差し込む。
「ほんなら今んとこ、大きな問題は無いっちゅうコトですな」
「であるな。他の西山間部諸国との交流も円満であるし、女史より依頼されておった西山間部全域の街道整備も、はや半分が終了したと報告を受けておる」
「そうですな。アタシらも通りましたけども、去年に比べたら全然、通りやすさが違いましたわ。馬車もそない跳ねたりもハマったりもしませんでしたし。ほな、予定よりずっと工事完了は早そうですな。当初は年末までかかるんちゃうやろかと言うてましたけども」
「うむ。この具合ならもう半年もしないうち、峠まで延伸できるであろう。整備計画の本懐である西山間部諸国および沿岸部からの援軍招致の高速化も、現実のものとなるであろうな」
「万事つつがなし、っちゅうワケですな。……問題無く行き過ぎて、むしろ心配になってくるくらいですわ」
そう返したエリザに、ミェーチが首をかしげる。
「何故であるか?」
「帝国さんが何の交渉もせん、何の邪魔もせんっちゅうのんは不自然ですやろ? 防衛線構築も街道整備も、完成したら帝国にとっては大打撃どころのハナシやありませんからな。どっちも完成してしもたら、帝国は攻撃がまともに通らへんくなる上、速攻で反撃に出られてまうコトになるんですからな」
「ふむ、確かに」
「ソレでですな、コレはまだ確証を得てへん話になるんですけども」
エリザは沿岸部でハンと話していた皇帝不在論を、ミェーチに話した。
「……ちゅうワケで、もしかしたら進軍や妨害工作を指示でける人間がおらんせいで、帝国さんは動くに動けへんのちゃうやろか、と」
「なるほど、……ふーむ、一理あるやも知れんな」
話を聞いたミェーチは腕を組み、考え込む様子を見せる。
「承知した。吾輩の方でも斥候を出し、東山間部の様子を探るとしよう」
「よろしゅうお願いします」
エリザがぺち、と両手を合わせて頼んだところで――ミェーチが「あっ」と声を上げた。
「いやいや、大事な話を忘れておった。いや、先程シェロの件に触れた際に、あいつについて話しておこうと思っておったのだが、なかなか話が切り出せんでな」
「なんです? あの子、何や粗相でもしよったんですか?」
「いやいやいや、粗相どころか!」
心配するエリザにぶんぶんと手を振って返し、ミェーチは満面の笑みでこう続けた。
「実はな、シェロとリディアの間に子供ができたと言うのだ」
「……あら、あらあらあら!」
一転、エリザも顔をほころばせる。
「そらホンマにええお話やないですの」
「うむ、今年一番の吉報である! それで女史、良ければ二人に会ってもらえんだろうか? シェロもリディアも、女史には大恩がある。きっと報告したがっていると思うのでな」
「そらもう、勿論ですわ」
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