「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・遠望伝 4
神様たちの話、第286話。
一対百。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
陣を組むとほぼ同時に、先程までミェーチがいた廊下の壁が爆ぜ、ジーンが飛び出してくる。
「来たぞ!」
廊下に最も近い位置にいた兵士たちが剣を構え、ジーンを阻もうとする。だが、ジーンはいとも簡単にその隙を抜け、かわしざまに兵士たちを斬り付ける。
「ぎゃあっ!」
「げぼ……っ」
一瞬で4人が腹や胸、のどを突かれ、ジーンの周りに血の海が出来上がる。
「余をこんな雑兵の10や20で止めようと言うのか」
「う……っ」
瞬く間に現れた地獄のような光景に、兵士たちの顔が一様にひきつり、揃って一歩、後方へ退く。ミェーチも同様に怯んでいたが、いち早く我に返り、大喝する。
「やっ、槍で牽制しろ! 距離を取るのだ!」
「は、はい!」
命じられた通り、槍を持った兵士が前に進み、二列横隊に並ぶ。槍の長さ2メートルと、さらに2メートルの間合いを取るが、誰の顔にも安堵の様子は無い。その背後、兵士に囲まれ守られているミェーチも例外ではなく、目の前にたたずむジーンの姿に、底しれぬ恐怖を抱いていた。
(彼奴の言をそのまま信じるとすれば――いや、信じる他無いのだが――こいつが、あの皇帝だと言うのか。鬼神の如き強さもさることながら、何より恐ろしいのは、一瞬でこんな修羅場を築いておき、これほど敵と得物に囲まれていると言うのに、その間一切、表情をちらりとも変えておらぬことだ。
なんと恐ろしいものか……! あの薄い笑みが、こらえがたいほど気味悪く感じる)
そうこうする内にひざの手当てが終わり、ミェーチは手当てをしてくれた従者から弓を受け取る。
(時間を稼いだ間に、兵が集まってくれたか。この中庭を囲む形で三方、彼奴の背後と左右に弓兵が構えてくれておる。庭の出入り口にも大勢寄っておる。恐らく合計して100人と言ったところか。
だが、下手に動けば吾輩を含めたこの100人すべて、先の4人と同じ末路をたどるであろう。それほどの手練だ。どう動くべきだ? どう動けば、この鬼神を退けられる?)
と、崩れた廊下の窓から、ミェーチがこの砦の中で、いや、この世で最も篤(あつ)い信頼を置く者の顔がのぞく。
(シェロ! この騒ぎを聞き付けて、やって来てくれたか! ……どうする?)
シェロに目配せすると、彼はこくんと小さくうなずき、右手を左右に振り、続けてその手を、ミェーチに手招きする形に引いた。
(左右から攻める間、吾輩らは押して動きを止めさせろ、か。相分かった)
ミェーチは弓を構え、号令を発した。
「弓兵、全員攻撃せよ! 槍兵はそのまま前進だ! 彼奴を押し潰せーッ!」
号令に従い、ジーンに向かって一斉に矢が放たれる。だが――。
「うっ……!」
「ひでえ!」
「な、何と言うことを!」
ジーンは先程斬り殺した兵士の体を持ち上げ、それを盾にして矢を全弾防いでしまった。
「何と言う邪悪……! 殺すだけでは飽き足らず、そこまで嬲りよるかッ!」
ミェーチの頭にかっと血が上った次の瞬間、ほとんど無意識に、彼は矢を放っていた。
「ふん」
が、これもジーンは遺体を盾にして防ぎ、全身くまなく矢が突き刺さったその残骸を、ぽいと投げ捨てた。
「次はどうする? このまま槍兵を進めさせるか? それとも上にいる奴らをけしかけるか? 好きなように攻めるが良い」
「う……ぐ……」
あまりにも平然とした態度を続けるジーンに、ミェーチも、そしてシェロも、次の手を打ちあぐねた。
「来ぬか。無駄だと悟ったようだな。であれば余の手番であるな」
そう言って、ジーンは槍兵たちの方へと自ら歩いてきた。
「あ……わわ……」
「へ、陛下、ご命令をっ」
悠然と歩いてくるジーンに恐れをなし、槍兵たちの隊列が乱れる。その瞬間、ジーンは一気に距離を詰め、兵士たちの中へと飛び込んで来た。
「ひぎゃ……」
「がはっ……」
「うわっ、うわっ、う」
「く、来るな、来るっ……」
周囲の兵士たちはこま切れにされ、簡単に包囲が破られた。
「陛下!」
絶叫にも近い声を上げ、シェロが指示を送る。
「逃げて下さい! 敵いません! 皆もだ! 全員撤退! 全員、撤退せよ!」
「先程からぶんぶん、ぶんぶんと」
20人ほどを惨殺したところで、ジーンがぐるん、と後ろを向いた。
「小うるさい蝿がいるようだな。察するにお前がこの砦の次官、シェロ・ナイトマンか」
「……っ」
次の瞬間、ジーンは4メートル以上も跳躍し、自分が断ち割った廊下にふたたび入り込んだ。
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4.
陣を組むとほぼ同時に、先程までミェーチがいた廊下の壁が爆ぜ、ジーンが飛び出してくる。
「来たぞ!」
廊下に最も近い位置にいた兵士たちが剣を構え、ジーンを阻もうとする。だが、ジーンはいとも簡単にその隙を抜け、かわしざまに兵士たちを斬り付ける。
「ぎゃあっ!」
「げぼ……っ」
一瞬で4人が腹や胸、のどを突かれ、ジーンの周りに血の海が出来上がる。
「余をこんな雑兵の10や20で止めようと言うのか」
「う……っ」
瞬く間に現れた地獄のような光景に、兵士たちの顔が一様にひきつり、揃って一歩、後方へ退く。ミェーチも同様に怯んでいたが、いち早く我に返り、大喝する。
「やっ、槍で牽制しろ! 距離を取るのだ!」
「は、はい!」
命じられた通り、槍を持った兵士が前に進み、二列横隊に並ぶ。槍の長さ2メートルと、さらに2メートルの間合いを取るが、誰の顔にも安堵の様子は無い。その背後、兵士に囲まれ守られているミェーチも例外ではなく、目の前にたたずむジーンの姿に、底しれぬ恐怖を抱いていた。
(彼奴の言をそのまま信じるとすれば――いや、信じる他無いのだが――こいつが、あの皇帝だと言うのか。鬼神の如き強さもさることながら、何より恐ろしいのは、一瞬でこんな修羅場を築いておき、これほど敵と得物に囲まれていると言うのに、その間一切、表情をちらりとも変えておらぬことだ。
なんと恐ろしいものか……! あの薄い笑みが、こらえがたいほど気味悪く感じる)
そうこうする内にひざの手当てが終わり、ミェーチは手当てをしてくれた従者から弓を受け取る。
(時間を稼いだ間に、兵が集まってくれたか。この中庭を囲む形で三方、彼奴の背後と左右に弓兵が構えてくれておる。庭の出入り口にも大勢寄っておる。恐らく合計して100人と言ったところか。
だが、下手に動けば吾輩を含めたこの100人すべて、先の4人と同じ末路をたどるであろう。それほどの手練だ。どう動くべきだ? どう動けば、この鬼神を退けられる?)
と、崩れた廊下の窓から、ミェーチがこの砦の中で、いや、この世で最も篤(あつ)い信頼を置く者の顔がのぞく。
(シェロ! この騒ぎを聞き付けて、やって来てくれたか! ……どうする?)
シェロに目配せすると、彼はこくんと小さくうなずき、右手を左右に振り、続けてその手を、ミェーチに手招きする形に引いた。
(左右から攻める間、吾輩らは押して動きを止めさせろ、か。相分かった)
ミェーチは弓を構え、号令を発した。
「弓兵、全員攻撃せよ! 槍兵はそのまま前進だ! 彼奴を押し潰せーッ!」
号令に従い、ジーンに向かって一斉に矢が放たれる。だが――。
「うっ……!」
「ひでえ!」
「な、何と言うことを!」
ジーンは先程斬り殺した兵士の体を持ち上げ、それを盾にして矢を全弾防いでしまった。
「何と言う邪悪……! 殺すだけでは飽き足らず、そこまで嬲りよるかッ!」
ミェーチの頭にかっと血が上った次の瞬間、ほとんど無意識に、彼は矢を放っていた。
「ふん」
が、これもジーンは遺体を盾にして防ぎ、全身くまなく矢が突き刺さったその残骸を、ぽいと投げ捨てた。
「次はどうする? このまま槍兵を進めさせるか? それとも上にいる奴らをけしかけるか? 好きなように攻めるが良い」
「う……ぐ……」
あまりにも平然とした態度を続けるジーンに、ミェーチも、そしてシェロも、次の手を打ちあぐねた。
「来ぬか。無駄だと悟ったようだな。であれば余の手番であるな」
そう言って、ジーンは槍兵たちの方へと自ら歩いてきた。
「あ……わわ……」
「へ、陛下、ご命令をっ」
悠然と歩いてくるジーンに恐れをなし、槍兵たちの隊列が乱れる。その瞬間、ジーンは一気に距離を詰め、兵士たちの中へと飛び込んで来た。
「ひぎゃ……」
「がはっ……」
「うわっ、うわっ、う」
「く、来るな、来るっ……」
周囲の兵士たちはこま切れにされ、簡単に包囲が破られた。
「陛下!」
絶叫にも近い声を上げ、シェロが指示を送る。
「逃げて下さい! 敵いません! 皆もだ! 全員撤退! 全員、撤退せよ!」
「先程からぶんぶん、ぶんぶんと」
20人ほどを惨殺したところで、ジーンがぐるん、と後ろを向いた。
「小うるさい蝿がいるようだな。察するにお前がこの砦の次官、シェロ・ナイトマンか」
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