「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・遠望伝 6
神様たちの話、第288話。
希望は遠く、消え去るのか。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
6.
「う……うわあああっ!?」
おびただしい血を噴き出していた自分の右腕をようやく確認し、シェロは絶叫する。
「どう……した? 貴様の言う通り、仕掛けてやった……ぞ」
まだボタボタと鼻血を流しつつも、ジーンはいつの間にか剣を抜いており、フラフラと立ち上がった。
「て、てめっ、お、俺の、腕をっ」
「どの道……貴様は、死ぬ運命だ。腕の一本や二本、失ったとて……どうと言うことはあるまい?」
「ああ、あ、ううっ」
呼吸を乱し、気を失いそうになりながらも、シェロは踏みとどまり、自分の右腕を拾って距離を取る。
「はう、うっ、……ふうっ、……はあっ」
荒れた息を整え、止血を施しつつ、シェロはジーンに目をやる。
(わ……らって……やが……るっ)
ジーンはこの間ずっと攻撃もせず、近寄りもせず、薄気味悪い笑みを浮かべて、シェロの行動を眺めていた。
「ふむ」
と、ジーンがその顔のまま口を開く。
「そう言えば貴様らには妙なうわさが立っておったな。何やら、人知を超えた術を使うそうではないか。触れもせずに人を吹き飛ばし、たちどころに人を眠らせるとか。
普通、腕を失えばそれきりだ。元通りにつなげられはせん。拾ったところで、何の意味も無い。ましてや小知恵を振りかざして軍を動かす貴様のこと、ここで無為な所業をするとは思えぬ。問おう。何故貴様は役に立たぬはずの己の右腕を拾った? 腕が元通りになる術があるとでも言うのか?」
「……っ」
「答えぬか。流石に小賢しいだけある。己の手の内は簡単にさらさぬと言うわけだ。だが沈黙は結局、答えているのと変わりあるまい。つまり『ある』と言うことだ。ふーむ……」
ジーンはそこでようやく、シェロとの距離を詰め始めた。
「つまり貴様らは多少の負傷を与えたところで治癒できる、と言うわけだな。なるほど、なるほど、……くくく、なるほど」
シェロも逃げ続けるが、ジーンとの距離はじわじわと詰まっていく。
「実に面白い。それを手に入れれば、余の処刑もより一層愉悦(ゆえつ)が増すと言うものだ。加減なぞ考える必要無く、何度でもなぶれると言うことだからな。くくく、くくくくく」
「……~ッ」
さらりと恐ろしげな言葉を吐かれ、シェロはふたたびぞっとさせられた。
(コイツ……狂ってやがる)
耐え切れず、シェロは全速力で逃げ出す。
「くくくくく……逃さんぞ!」
続いてジーンも、シェロの後を追おうと動きかけた。
と――。
「させんぞッ!」
がん、と強い糸を弾く音が廊下に響き、ジーンの脚に矢が突き刺さる。
「うぐう……っ」
ジーンが倒れたところで、ミェーチの怒鳴る声がシェロに届いた。
「シェロ! この場は吾輩が止める! お前はリディアを連れて外へ!」
「陛下!」
ミェーチは多数の兵士を連れ、ジーンを取り囲んだ。
「お、俺も……」
戻りかけたシェロを、ミェーチがもう一度怒鳴り付ける。
「バカモン! その腕でどうにかできるのか!? 早くリディアに治してもらえ! そして直ちに逃げるのだ!」
「逃げ、……そんなこと!」
「吾輩らには抑えるので精一杯だ! 今、お前やリディアまで死ねば、一体誰が後に残ると言うのだ!?
逃げるのだ、息子よ!」
「……っ」
それ以上何も言えず、シェロはその場から逃げ去った。
シェロはリディアと、そして十数名の兵士らと共に、砦から脱出した。
「……くそ……」
リディアの術で治してもらった腕で手綱を握り、馬車で街道を駆ける最中、シェロは砦の方角を振り返り――砦のあちこちからごうごうと火柱が上がり、燃え盛っているのを確認した。
「……ねえ、あなた」
リディアが震える手で、シェロの袖を引く。
「お父様は……無事ですよね?」
「……」
何も答えられず、シェロは黙り込むしか無かった。
琥珀暁・遠望伝 終
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「う……うわあああっ!?」
おびただしい血を噴き出していた自分の右腕をようやく確認し、シェロは絶叫する。
「どう……した? 貴様の言う通り、仕掛けてやった……ぞ」
まだボタボタと鼻血を流しつつも、ジーンはいつの間にか剣を抜いており、フラフラと立ち上がった。
「て、てめっ、お、俺の、腕をっ」
「どの道……貴様は、死ぬ運命だ。腕の一本や二本、失ったとて……どうと言うことはあるまい?」
「ああ、あ、ううっ」
呼吸を乱し、気を失いそうになりながらも、シェロは踏みとどまり、自分の右腕を拾って距離を取る。
「はう、うっ、……ふうっ、……はあっ」
荒れた息を整え、止血を施しつつ、シェロはジーンに目をやる。
(わ……らって……やが……るっ)
ジーンはこの間ずっと攻撃もせず、近寄りもせず、薄気味悪い笑みを浮かべて、シェロの行動を眺めていた。
「ふむ」
と、ジーンがその顔のまま口を開く。
「そう言えば貴様らには妙なうわさが立っておったな。何やら、人知を超えた術を使うそうではないか。触れもせずに人を吹き飛ばし、たちどころに人を眠らせるとか。
普通、腕を失えばそれきりだ。元通りにつなげられはせん。拾ったところで、何の意味も無い。ましてや小知恵を振りかざして軍を動かす貴様のこと、ここで無為な所業をするとは思えぬ。問おう。何故貴様は役に立たぬはずの己の右腕を拾った? 腕が元通りになる術があるとでも言うのか?」
「……っ」
「答えぬか。流石に小賢しいだけある。己の手の内は簡単にさらさぬと言うわけだ。だが沈黙は結局、答えているのと変わりあるまい。つまり『ある』と言うことだ。ふーむ……」
ジーンはそこでようやく、シェロとの距離を詰め始めた。
「つまり貴様らは多少の負傷を与えたところで治癒できる、と言うわけだな。なるほど、なるほど、……くくく、なるほど」
シェロも逃げ続けるが、ジーンとの距離はじわじわと詰まっていく。
「実に面白い。それを手に入れれば、余の処刑もより一層愉悦(ゆえつ)が増すと言うものだ。加減なぞ考える必要無く、何度でもなぶれると言うことだからな。くくく、くくくくく」
「……~ッ」
さらりと恐ろしげな言葉を吐かれ、シェロはふたたびぞっとさせられた。
(コイツ……狂ってやがる)
耐え切れず、シェロは全速力で逃げ出す。
「くくくくく……逃さんぞ!」
続いてジーンも、シェロの後を追おうと動きかけた。
と――。
「させんぞッ!」
がん、と強い糸を弾く音が廊下に響き、ジーンの脚に矢が突き刺さる。
「うぐう……っ」
ジーンが倒れたところで、ミェーチの怒鳴る声がシェロに届いた。
「シェロ! この場は吾輩が止める! お前はリディアを連れて外へ!」
「陛下!」
ミェーチは多数の兵士を連れ、ジーンを取り囲んだ。
「お、俺も……」
戻りかけたシェロを、ミェーチがもう一度怒鳴り付ける。
「バカモン! その腕でどうにかできるのか!? 早くリディアに治してもらえ! そして直ちに逃げるのだ!」
「逃げ、……そんなこと!」
「吾輩らには抑えるので精一杯だ! 今、お前やリディアまで死ねば、一体誰が後に残ると言うのだ!?
逃げるのだ、息子よ!」
「……っ」
それ以上何も言えず、シェロはその場から逃げ去った。
シェロはリディアと、そして十数名の兵士らと共に、砦から脱出した。
「……くそ……」
リディアの術で治してもらった腕で手綱を握り、馬車で街道を駆ける最中、シェロは砦の方角を振り返り――砦のあちこちからごうごうと火柱が上がり、燃え盛っているのを確認した。
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