「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・夜騎伝 1
神様たちの話、第289話。
落ち延びて。
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1.
城下町、と言うと城のすぐ近くに形成される印象があるが、それは平和な時代の話である。いつ攻め込まれるか分からないこの暗黒の時代において、敵が優先的に攻撃目標にするような、そんな危険地帯に居を構えたがる民は――兵役に就いている者を除き――そうそうおらず、ミェーチ王国の城下町に当たるこの村も、砦から西北西へ20キロほど離れた川向いに築かれていた。
「若、報告いたします」
どうにかこの村に逃げ込んだシェロの元に、同様に逃げ延びてきた兵士たちから、襲撃の経緯が伝えられていた。
「結論から申し上げますと、砦は陥落しました。殿は我々に逃げるよう命じ、最後まで戦っておられましたが、恐らく今はもう……」
「そうか。……そうか」
シェロは顔を覆い、もたれかかるように椅子に座り込んだ。
「敵は何名いたんだ? まさか1人だけじゃないよな」
「……1名です」
「こんな時に冗談なんか聞きたくない。たった1人で陛下を討ち取り、多くの兵をなぶり殺しにし、その上砦を焼き討ちしたって言うのか?」
「冗談でも、嘘でもございません。私も、他の者も、あの銀髪の男以外に敵を見た者はおりません。……その、銀髪の男に関して、もう一つ報告がございます」
「なんだ?」
「あの男が、自分でこう名乗っておりました。『余はレン・ジーン。帝国の最頂上に君臨する、天の星である』と」
「……なんだと?」
シェロは立ち上がり、兵士の襟をつかんだ。
「ふざけてんのか!? いきなり敵の総大将が単騎で俺たちの砦に乗り込んで来てムチャクチャやりやがったって言うのかよ!?」
「……そうで、あると、しか」
「ぐっ……」
シェロはふたたび座り込み、深いため息をついた。
「ああ……、マジかよ? マジで一人で、乗り込んで来たってのか? 大体、防衛線が破られたなんて話も無いってのに、どうやって西山間部まで侵入してきたんだ?」
「防衛線に駐留している者と『頭巾』での連絡を行ったところ、異常は見られなかったと。どの箇所も、問題無く機能していたそうです」
「ああ、俺もそう聞いた。……怒鳴ったよ。『んなワケあるか』って」
「私も、同じ気持ちです」
と、そこへリディアがやって来る。
「エリザ先生との連絡が終わりました」
「そうか。……何て言ってた?」
「『急いで向かう』と。今はオルトラ王国東部にいらっしゃるそうです。そちらからも兵士を集めて、こちらへ戻って来ていただけるとのことです」
「分かった。……悪いな、お前にまでそんなことを頼んで」
頭を下げるシェロに、リディアは首を横に振った。
「今は大変な時ですもの。わたしにもできることがあれば、何でも言って下さい」
「ああ。ありがとう、リディア」
ひとまず危機を脱し、愛する者と会話を交わしたせいか、シェロの心も若干の落ち着きを取り戻す。
「……よし、……じゃあ、まずは、……そうだな、防衛線ともう一度連絡を取ろう。こっちの混乱に乗じて攻め込まれるってコトは十分有り得るからな。まだ俺が残ってるコトを伝えれば、混乱も収まるだろう。……考えてみれば砦を襲ったのはむしろ、そのためなのかもな」
「と申しますと?」
けげんな表情を浮かべる兵士らに、シェロは細かく説明する。
「今、帝国にとって重要なのは、防衛線の突破だ。アレがある以上、西山間部への再侵攻はできないからな。だからっていきなり防衛線を攻撃するのは、無謀もいいところだ。皇帝、……いや、ジーンは確かにムチャクチャ強かったけど、いくらなんでもあの防衛線を一人で破壊できるワケが無い。
だけど機能させなくするってコトなら、指示を出すヤツを消しちまうだけで事足りる。だからこそ司令中枢である砦が襲われ、最高責任者である陛下が狙われたんだ」
「でもそれだと、今度はあなたが狙われるんじゃないですか?」
リディアの言葉に、シェロははっとする。
「確かにな。うかつに動けば、今度は俺が、……か。だけどこのまま放っておけば防衛線の連中は混乱するだろう。そうなりゃいずれ突破される。指示は出さなきゃならない。
だからその間に、俺たちは急いで先生と合流しよう。攻撃魔術の大家でもある先生と一緒にいれば、あんなヤツに不足を取るコトは絶対無い。当座の危機は、ソレで何とかしのげるはずだ」
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落ち延びて。
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城下町、と言うと城のすぐ近くに形成される印象があるが、それは平和な時代の話である。いつ攻め込まれるか分からないこの暗黒の時代において、敵が優先的に攻撃目標にするような、そんな危険地帯に居を構えたがる民は――兵役に就いている者を除き――そうそうおらず、ミェーチ王国の城下町に当たるこの村も、砦から西北西へ20キロほど離れた川向いに築かれていた。
「若、報告いたします」
どうにかこの村に逃げ込んだシェロの元に、同様に逃げ延びてきた兵士たちから、襲撃の経緯が伝えられていた。
「結論から申し上げますと、砦は陥落しました。殿は我々に逃げるよう命じ、最後まで戦っておられましたが、恐らく今はもう……」
「そうか。……そうか」
シェロは顔を覆い、もたれかかるように椅子に座り込んだ。
「敵は何名いたんだ? まさか1人だけじゃないよな」
「……1名です」
「こんな時に冗談なんか聞きたくない。たった1人で陛下を討ち取り、多くの兵をなぶり殺しにし、その上砦を焼き討ちしたって言うのか?」
「冗談でも、嘘でもございません。私も、他の者も、あの銀髪の男以外に敵を見た者はおりません。……その、銀髪の男に関して、もう一つ報告がございます」
「なんだ?」
「あの男が、自分でこう名乗っておりました。『余はレン・ジーン。帝国の最頂上に君臨する、天の星である』と」
「……なんだと?」
シェロは立ち上がり、兵士の襟をつかんだ。
「ふざけてんのか!? いきなり敵の総大将が単騎で俺たちの砦に乗り込んで来てムチャクチャやりやがったって言うのかよ!?」
「……そうで、あると、しか」
「ぐっ……」
シェロはふたたび座り込み、深いため息をついた。
「ああ……、マジかよ? マジで一人で、乗り込んで来たってのか? 大体、防衛線が破られたなんて話も無いってのに、どうやって西山間部まで侵入してきたんだ?」
「防衛線に駐留している者と『頭巾』での連絡を行ったところ、異常は見られなかったと。どの箇所も、問題無く機能していたそうです」
「ああ、俺もそう聞いた。……怒鳴ったよ。『んなワケあるか』って」
「私も、同じ気持ちです」
と、そこへリディアがやって来る。
「エリザ先生との連絡が終わりました」
「そうか。……何て言ってた?」
「『急いで向かう』と。今はオルトラ王国東部にいらっしゃるそうです。そちらからも兵士を集めて、こちらへ戻って来ていただけるとのことです」
「分かった。……悪いな、お前にまでそんなことを頼んで」
頭を下げるシェロに、リディアは首を横に振った。
「今は大変な時ですもの。わたしにもできることがあれば、何でも言って下さい」
「ああ。ありがとう、リディア」
ひとまず危機を脱し、愛する者と会話を交わしたせいか、シェロの心も若干の落ち着きを取り戻す。
「……よし、……じゃあ、まずは、……そうだな、防衛線ともう一度連絡を取ろう。こっちの混乱に乗じて攻め込まれるってコトは十分有り得るからな。まだ俺が残ってるコトを伝えれば、混乱も収まるだろう。……考えてみれば砦を襲ったのはむしろ、そのためなのかもな」
「と申しますと?」
けげんな表情を浮かべる兵士らに、シェロは細かく説明する。
「今、帝国にとって重要なのは、防衛線の突破だ。アレがある以上、西山間部への再侵攻はできないからな。だからっていきなり防衛線を攻撃するのは、無謀もいいところだ。皇帝、……いや、ジーンは確かにムチャクチャ強かったけど、いくらなんでもあの防衛線を一人で破壊できるワケが無い。
だけど機能させなくするってコトなら、指示を出すヤツを消しちまうだけで事足りる。だからこそ司令中枢である砦が襲われ、最高責任者である陛下が狙われたんだ」
「でもそれだと、今度はあなたが狙われるんじゃないですか?」
リディアの言葉に、シェロははっとする。
「確かにな。うかつに動けば、今度は俺が、……か。だけどこのまま放っておけば防衛線の連中は混乱するだろう。そうなりゃいずれ突破される。指示は出さなきゃならない。
だからその間に、俺たちは急いで先生と合流しよう。攻撃魔術の大家でもある先生と一緒にいれば、あんなヤツに不足を取るコトは絶対無い。当座の危機は、ソレで何とかしのげるはずだ」
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