「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・夜騎伝 3
神様たちの話、第291話。
"Night" become "Knight"。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「あなた!?」「若!」
妻や部下たちの声を背中に受けながら、シェロはジーンと共に馬車の外へと飛び出した。
「行け! 俺に構わず逃げろ!」
地面を転がりながら、シェロは馬車に向かって叫ぶ。
「そ、そんな……」「俺が止める! 逃げるんだッ!」
加勢しようとした部下に叫び返し、シェロは馬車を背にする形で立ち上がった。
「き……さま」
流石のジーンも、シェロが捨て身の行動に出るとは予想していなかったらしい。どうやら受け身も取れなかったらしく、よろよろとした仕草で立ち上がった。
「余の玉体をこうまで傷付けた男は、貴様が初めてだぞ」
「そりゃあ良かったな、クソが」
シェロは剣を抜き、ジーンと対峙する。
(……行ったか)
その間に背後の気配を探り、馬車が動き出したことを確認する。
「この屈辱、どうして晴らしてくれようか」
「じゃあ俺は恨みを晴らしてやるよ。てめえのせいで俺は今日、大事な人や仲間を何十人も失ったんだからな」
「取るに足らぬ。ケダモノの数十匹がどうだと言うのだ」
ジーンも剣を構え直し、シェロとの距離を詰め始めた。
「問おう。貴様は本当に、あのようなケダモノどもが、自分と同じヒトだと思っておるのか?」
「思うさ」
シェロもにじり寄りつつ、相手の出方を探る。
「道具を使える、服も着てる、言葉を交わせる。コレだけアタマ使えるコトができて、てめえは耳や目の形が違うだの、尻尾が付いてるだのって理由だけで、あいつらが人間じゃないって言うのか?
てめえのちっぽけな常識が世界の常識だと思ってんじゃねえぞ、カス野郎」
「ヒトはそのわずかな違いこそが許容できぬ生き物だ」
ジーンも出方を図っているらしく、構えたままで会話に応じてくる。
「己の使う手が右か左か。己の食らう物が肉か魚か。己の着る服が布か革か――ヒトはそんな些末なことで一々、くだらぬ争いを繰り広げる生き物だ。争う限り、ヒトはまとまりはせぬ。であればどんな細かなことであれ、『差異』は取り除くべし。我が世の平和を築くためには、だ」
「ソレがちっぽけだっつってんだよ」
両者とも牽制し合い、円を描くように動いていたが、ここでシェロが一歩前に出る。
「てめえはそのちょっとした趣味の違いとやらで人を殺すのか? 他の人間もみんなそうだってのか? 少なくとも俺の周りにそんなバカはいねえよ。ヒトは話し合う生き物だからな。ケンカするはるか手前で、どうすりゃいいかって話し合うのがマトモな人間だろ?
左利きがいるんなら、どっちの手でも使える道具を作りゃいい。肉好きに魚を勧めたら、案外食うかも知れねえさ。布と革を合わせてみりゃ、イケてる服ができるかも知れねえ。ドレもコレも全部、意見が違う、趣味が違うってヤツらが話し合って、意見を出し合ってやるコトだ。
てめえはソレをやらねえ。話し合う前に殺す。他人の意見を、いいや、他人そのものを顧みねえ。自分の常識が世界基準だと思ってる、ちっぽけなアホだからだ」
「やはり貴様は、余の崇高たる考えを理解できぬ小人であるな。これ以上の会話は無為であろう」
ジーンも一歩、前に踏み出す。その瞬間、シェロが強く踏み込み、一気に間合いを詰めた。
「はあああッ!」
大きく横薙ぎに振りかぶり、シェロはジーンの首を狙う――と見せかけた。
(業を煮やして俺が飛び掛かってきた、……と思わせる)
当然、ジーンは即応し、一歩引いて攻撃をかわす。と同時に剣を垂直に振り上げ、シェロの腹を狙ってくる。
(ほらな、そう来た)
その剣閃の一歩手前で右足を着き、シェロはぐるんと一回転する。
「うぬ?」
ジーンの剣は完全に空振りし、シェロの着ていたコートのフードを裂くに留まる。その間に一回転してきたシェロの剣が、ざく、とジーンのほおをかすめた。
「おう……っ!?」
反応したジーンに、シェロは舌打ちする。
(コレも避けるってのか……どんな反射神経してんだよ、コイツ?)
もう半回転したところで、シェロはばっと跳び、ジーンとの間合いを空ける。
「ふむ……ふむ……そうか……くくくく」
一方、ジーンはほおから流れた血を拭いもせず、薄い笑いを浮かべている。
「思っていたよりしたたかな男よ。この余をたばかるとはな」
「言ったろ? てめえはちっぽけなカスだってな」
そう返し、シェロは剣を構え直した。
@au_ringさんをフォロー
"Night" become "Knight"。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
「あなた!?」「若!」
妻や部下たちの声を背中に受けながら、シェロはジーンと共に馬車の外へと飛び出した。
「行け! 俺に構わず逃げろ!」
地面を転がりながら、シェロは馬車に向かって叫ぶ。
「そ、そんな……」「俺が止める! 逃げるんだッ!」
加勢しようとした部下に叫び返し、シェロは馬車を背にする形で立ち上がった。
「き……さま」
流石のジーンも、シェロが捨て身の行動に出るとは予想していなかったらしい。どうやら受け身も取れなかったらしく、よろよろとした仕草で立ち上がった。
「余の玉体をこうまで傷付けた男は、貴様が初めてだぞ」
「そりゃあ良かったな、クソが」
シェロは剣を抜き、ジーンと対峙する。
(……行ったか)
その間に背後の気配を探り、馬車が動き出したことを確認する。
「この屈辱、どうして晴らしてくれようか」
「じゃあ俺は恨みを晴らしてやるよ。てめえのせいで俺は今日、大事な人や仲間を何十人も失ったんだからな」
「取るに足らぬ。ケダモノの数十匹がどうだと言うのだ」
ジーンも剣を構え直し、シェロとの距離を詰め始めた。
「問おう。貴様は本当に、あのようなケダモノどもが、自分と同じヒトだと思っておるのか?」
「思うさ」
シェロもにじり寄りつつ、相手の出方を探る。
「道具を使える、服も着てる、言葉を交わせる。コレだけアタマ使えるコトができて、てめえは耳や目の形が違うだの、尻尾が付いてるだのって理由だけで、あいつらが人間じゃないって言うのか?
てめえのちっぽけな常識が世界の常識だと思ってんじゃねえぞ、カス野郎」
「ヒトはそのわずかな違いこそが許容できぬ生き物だ」
ジーンも出方を図っているらしく、構えたままで会話に応じてくる。
「己の使う手が右か左か。己の食らう物が肉か魚か。己の着る服が布か革か――ヒトはそんな些末なことで一々、くだらぬ争いを繰り広げる生き物だ。争う限り、ヒトはまとまりはせぬ。であればどんな細かなことであれ、『差異』は取り除くべし。我が世の平和を築くためには、だ」
「ソレがちっぽけだっつってんだよ」
両者とも牽制し合い、円を描くように動いていたが、ここでシェロが一歩前に出る。
「てめえはそのちょっとした趣味の違いとやらで人を殺すのか? 他の人間もみんなそうだってのか? 少なくとも俺の周りにそんなバカはいねえよ。ヒトは話し合う生き物だからな。ケンカするはるか手前で、どうすりゃいいかって話し合うのがマトモな人間だろ?
左利きがいるんなら、どっちの手でも使える道具を作りゃいい。肉好きに魚を勧めたら、案外食うかも知れねえさ。布と革を合わせてみりゃ、イケてる服ができるかも知れねえ。ドレもコレも全部、意見が違う、趣味が違うってヤツらが話し合って、意見を出し合ってやるコトだ。
てめえはソレをやらねえ。話し合う前に殺す。他人の意見を、いいや、他人そのものを顧みねえ。自分の常識が世界基準だと思ってる、ちっぽけなアホだからだ」
「やはり貴様は、余の崇高たる考えを理解できぬ小人であるな。これ以上の会話は無為であろう」
ジーンも一歩、前に踏み出す。その瞬間、シェロが強く踏み込み、一気に間合いを詰めた。
「はあああッ!」
大きく横薙ぎに振りかぶり、シェロはジーンの首を狙う――と見せかけた。
(業を煮やして俺が飛び掛かってきた、……と思わせる)
当然、ジーンは即応し、一歩引いて攻撃をかわす。と同時に剣を垂直に振り上げ、シェロの腹を狙ってくる。
(ほらな、そう来た)
その剣閃の一歩手前で右足を着き、シェロはぐるんと一回転する。
「うぬ?」
ジーンの剣は完全に空振りし、シェロの着ていたコートのフードを裂くに留まる。その間に一回転してきたシェロの剣が、ざく、とジーンのほおをかすめた。
「おう……っ!?」
反応したジーンに、シェロは舌打ちする。
(コレも避けるってのか……どんな反射神経してんだよ、コイツ?)
もう半回転したところで、シェロはばっと跳び、ジーンとの間合いを空ける。
「ふむ……ふむ……そうか……くくくく」
一方、ジーンはほおから流れた血を拭いもせず、薄い笑いを浮かべている。
「思っていたよりしたたかな男よ。この余をたばかるとはな」
「言ったろ? てめえはちっぽけなカスだってな」
そう返し、シェロは剣を構え直した。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~