「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・夜騎伝 4
神様たちの話、第292話。
身を賭した一撃。
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4.
相手をなじり、優位を取り繕おうとはしていたものの、シェロの内心には苦い思いがにじんでいた。
(やり辛くなった……! 油断してる間に、初太刀で殺るつもりだったが)
それでもシェロは、懸命に次の手を打つ。
「そらよッ!」
「食らうかッ!」
シェロの予想通り、二太刀目はあっさり防がれ、間髪入れずにジーンの反撃が飛んで来る。
「ぐ……っ」
どうにか受けるも、剣に伝わるその感触から、シェロは己の攻撃の機会が狭められつつあることを察していた。
(クソが……剣が欠けやがった! こっちは鉄製だってのに! 向こうで製鉄してるって話は聞いてねえぞ!?)
「顔色が悪いぞ、海外人」
シェロが感じた劣勢をジーンも気取ったらしく、薄い笑みを歪めてくる。
「何か不都合でも生じたか?」
「ヘッ」
ジーンの問いには答えず、シェロはもう一度斬り掛かる。
「先程より太刀筋に勢いが無いぞ。察するに剣が折れるか欠けるかしたようだな」
ばきん、と音を立て、ジーンはシェロの剣を叩き折った。
「う……っ」
真っ二つになり、元の半分以下になってしまった剣を見て、シェロは状況が絶望的になったことを悟った。
「剣が無くては最早、余を討つ機はあるまい。万策尽きたな」
「……」
シェロは剣を捨て、懐から短剣を取り出す。
「まだだ。まだ、手は残ってる」
「無駄なあがきだ」
明らかに興が冷めたような顔をし、ジーンはシェロとの間合いを詰める。
「これで決着だ、海外人」
どす、とシェロの胸をジーンの剣が貫き、シェロの動きが止まる。
「か……は……」
が――シェロの意識はまだ、辛うじて保たれていた。
(……よっ……しゃ……来やがった……!)
力を振り絞り、シェロは握っていた短剣をジーンの胸に刺した。
「うあ……!?」
ばっと体を離し、ジーンは己の胸に突き立てられた短剣をつかむ。
「き……きさ……まっ……」
「……や……った……ぜ……」
シェロはがくんと膝を着き、その場に座り込む。
「うぐ……ぐ……ぐっ……ふぐっ……」
ジーンは慌てた様子で短剣を胸から抜くが、途端に鮮血が地面に降り注ぐ。
「ごば……っ」
口からも大量に吐血し、ジーンも倒れる。
「貴様……まさか……相討ちを……!」
「……へっ……へへ……」
既に意識がかすみ始めていたが、シェロは笑い声を絞り出した。
「何故だ……何故……貴様は……そうまで……!?」
「……だから……だ……」
自分の中から力が抜けて行くのを無理矢理押し留めながら、シェロは最期に吐き捨てた。
「……てめえと違って……俺は人間だからだ……好きなヤツの……ために……なんか……しなきゃ……って……思うのが……」
台詞を吐き切るまでには息が続かなかったが――意識が消えゆくその瞬間、シェロは満足感を抱いていた。
2つの血溜まりの中、両者とも、ぴくりとも動かない。どちらも事切れているのは明らかだった。
いや――。
「起きろ、レン」
「……」
うつ伏せに倒れている方に、一つの黒い影が近付く。
「胸を刺された程度で、『御子』たるお前が死ぬはずもあるまい。起きろ、レン」
「……あ……るか」
びくん、と体を震わせ、血溜まりの中から起き上がる。
「……すまぬ……不覚を取った」
ふらふらと立ち上がったジーンは、傍らの黒いフードに向き直る。
「まさかこの小童に、こうまでしてやられるとはな」
「精進することだ。二度は許さんぞ」
「承知しておるわ」
ジーンは穴の空いた血まみれのシャツを破り、己の胸を確かめる。
「うむ……痕も残らず塞がっておる。貴様にはつくづく感謝せねばならぬようだな、アル」
「その意を示すのであれば、覇業を全うすることだ」
「うむ」
ジーンはフードの男、アルから替えのシャツを受け取りつつ、もう一つの血溜まりに目を向ける。
「敵ながら見事な男であった。余は特別の敬意を向けてやろう。貴様には……」
シャツを着終えたジーンはその亡骸に近付き――剣を振り上げた。
「我が帝都を見渡す名誉をくれてやる! その首一つで余の栄華を、心ゆくまで味わうが良いッ!」
翌日より、帝国首都フェルタイルの宮殿前広場に敵将シェロ・ナイトマンの首と、ジーンの剣を突き立てられたままの体が並んで置かれた。
寒冷地であるためその首と体とが腐り切るまでに十数日を要し、その十数日に渡って群衆の目と風雨に晒され、徹底的に辱められることとなった。
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身を賭した一撃。
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相手をなじり、優位を取り繕おうとはしていたものの、シェロの内心には苦い思いがにじんでいた。
(やり辛くなった……! 油断してる間に、初太刀で殺るつもりだったが)
それでもシェロは、懸命に次の手を打つ。
「そらよッ!」
「食らうかッ!」
シェロの予想通り、二太刀目はあっさり防がれ、間髪入れずにジーンの反撃が飛んで来る。
「ぐ……っ」
どうにか受けるも、剣に伝わるその感触から、シェロは己の攻撃の機会が狭められつつあることを察していた。
(クソが……剣が欠けやがった! こっちは鉄製だってのに! 向こうで製鉄してるって話は聞いてねえぞ!?)
「顔色が悪いぞ、海外人」
シェロが感じた劣勢をジーンも気取ったらしく、薄い笑みを歪めてくる。
「何か不都合でも生じたか?」
「ヘッ」
ジーンの問いには答えず、シェロはもう一度斬り掛かる。
「先程より太刀筋に勢いが無いぞ。察するに剣が折れるか欠けるかしたようだな」
ばきん、と音を立て、ジーンはシェロの剣を叩き折った。
「う……っ」
真っ二つになり、元の半分以下になってしまった剣を見て、シェロは状況が絶望的になったことを悟った。
「剣が無くては最早、余を討つ機はあるまい。万策尽きたな」
「……」
シェロは剣を捨て、懐から短剣を取り出す。
「まだだ。まだ、手は残ってる」
「無駄なあがきだ」
明らかに興が冷めたような顔をし、ジーンはシェロとの間合いを詰める。
「これで決着だ、海外人」
どす、とシェロの胸をジーンの剣が貫き、シェロの動きが止まる。
「か……は……」
が――シェロの意識はまだ、辛うじて保たれていた。
(……よっ……しゃ……来やがった……!)
力を振り絞り、シェロは握っていた短剣をジーンの胸に刺した。
「うあ……!?」
ばっと体を離し、ジーンは己の胸に突き立てられた短剣をつかむ。
「き……きさ……まっ……」
「……や……った……ぜ……」
シェロはがくんと膝を着き、その場に座り込む。
「うぐ……ぐ……ぐっ……ふぐっ……」
ジーンは慌てた様子で短剣を胸から抜くが、途端に鮮血が地面に降り注ぐ。
「ごば……っ」
口からも大量に吐血し、ジーンも倒れる。
「貴様……まさか……相討ちを……!」
「……へっ……へへ……」
既に意識がかすみ始めていたが、シェロは笑い声を絞り出した。
「何故だ……何故……貴様は……そうまで……!?」
「……だから……だ……」
自分の中から力が抜けて行くのを無理矢理押し留めながら、シェロは最期に吐き捨てた。
「……てめえと違って……俺は人間だからだ……好きなヤツの……ために……なんか……しなきゃ……って……思うのが……」
台詞を吐き切るまでには息が続かなかったが――意識が消えゆくその瞬間、シェロは満足感を抱いていた。
2つの血溜まりの中、両者とも、ぴくりとも動かない。どちらも事切れているのは明らかだった。
いや――。
「起きろ、レン」
「……」
うつ伏せに倒れている方に、一つの黒い影が近付く。
「胸を刺された程度で、『御子』たるお前が死ぬはずもあるまい。起きろ、レン」
「……あ……るか」
びくん、と体を震わせ、血溜まりの中から起き上がる。
「……すまぬ……不覚を取った」
ふらふらと立ち上がったジーンは、傍らの黒いフードに向き直る。
「まさかこの小童に、こうまでしてやられるとはな」
「精進することだ。二度は許さんぞ」
「承知しておるわ」
ジーンは穴の空いた血まみれのシャツを破り、己の胸を確かめる。
「うむ……痕も残らず塞がっておる。貴様にはつくづく感謝せねばならぬようだな、アル」
「その意を示すのであれば、覇業を全うすることだ」
「うむ」
ジーンはフードの男、アルから替えのシャツを受け取りつつ、もう一つの血溜まりに目を向ける。
「敵ながら見事な男であった。余は特別の敬意を向けてやろう。貴様には……」
シャツを着終えたジーンはその亡骸に近付き――剣を振り上げた。
「我が帝都を見渡す名誉をくれてやる! その首一つで余の栄華を、心ゆくまで味わうが良いッ!」
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