「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・夜騎伝 5
神様たちの話、第293話。
一縷の望み。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
シェロがリディアたちをジーンから逃がした、その30分ほど後――。
「おっ……? アレ、ミェーチさんトコの子らやないか?」
リディアの連絡を受け、街道を引き返していたエリザたちは、彼女らと合流することができた。そして聡明なエリザは、幌が破られボロボロになった馬車と、その大きさの割に馬が1頭しかいないことから、彼女らの身に何が起こったかを察した。
「シェロくんは?」
尋ねたエリザに、兵士たちの一人が答える。
「若は、……皇帝から我々を逃がすために、一人で残られ……」
「……そうかー」
エリザは馬車の中に目をやり、リディアが真っ青な顔で震えているのを確認してから、兵士たちと周りの者にてきぱきと指示を送った。
「みんなアタシの馬車に乗り。アンタらの馬車はココら辺に放っとき。残った馬はアタシの馬車につないで。イサクくん、お茶4人分出して。ロウくんも毛布出したってや。リディアちゃん、立てそうか?」
「は、はい」
「気分は? や、そら悪いやろけど、吐きそうとかお腹痛いとか、そんな感じはあるか?」
「いえ、大丈夫です」
「ほんならこっち来て」
「はい」
リディアはエリザの手を取って馬車を降り、彼女に引かれるまま歩き出す。
「しっかりしいや」
うつろな目をしていたリディアに、エリザが声をかける。
「一日で、いや、半日もせん内の間に色んなコトが起こって、アタマん中ぐわんぐわんなっとるやろけどな、アンタが今しっかりせな、お腹の子が危ななるで」
「はい」
「少なくともな、アタシがおる今なら何も不安になるコトはあらへん。ソレはアタシが保証したる。安心し」
「……はい」
エリザはリディアの肩に手を置き、もう一言付け加えた。
「今は何も考えんとき。考えそうになったらアタシに声を掛け。気ぃ紛らわすくらいのコトやったらなんぼでもしたるから」
「……ありがとうございます」
エリザは元々泊まっていた町までリディアたちを送り、手早く手配と情報収集を進めた。
「ロウくん、ご飯もん買うて来て。全員分やで。……うん、うん、やっぱりソイツ、皇帝さんや言うてたんやね。……アンタは新しい馬の調達よろしゅう。カネは言い値で構へん。……そうか、防衛線は異状無し、と。……ほんでユーリくん、宿屋さんに予約の変更伝えといて。で、リディアちゃんらはしばらく逗留するように言うとってな」
と、宿について指示された丁稚がきょとんとする。
「ミェーチさんはここに残すんですか?」
「身重の子やで? しかもダンナとお父さんがついさっき殺されたところやし、どんだけショック受けとるか。ココから沿岸部までの道のり考えたら、無理矢理連れてくよりココで安静にさせといた方がええやろ」
「分かりました」
「……あー、と」
宿の受付に向かいかけた丁稚の手を引き、エリザはこう付け加えた。
「アタシらはこのまま沿岸部向かうけど、アンタはココに残っといてくれへん?」
「俺ですか?」
「2個な、気になるコトもあるし。このまんまリディアちゃんを放っとく言うのんも具合悪いやろ? どんな様子か、一日一回『頭巾』で連絡よこして欲しいんよ」
「あ、なるほど」
「後もいっこは、言うたら『監視』やね。一応な、リディアちゃんにもゼロさんやらゲートやらとお話さしたコトがあるし、向こうと連絡しようと思えばできるねん。リディアちゃんも心細うなっとるやろし、アタシがいなくなった後で、もしかしたら連絡するかも分からんしな。でも下手にこの現状を知らせたら、ちょとまずいコトになるかも分からへんやろ?」
「ああ……そっちの王様が神経質になってるって言ってたヤツですか」
「せや。正直、ゼロさんがどんな行動に出ようとするかは読み切れんし、過敏に反応して全軍引き上げみたいなコトを言い出すかも分からん。そんなんされたら撤回させるにしても無視するにしても、後々困ったコトになるやろし。そんなめんどいコトになる前に、連絡自体させへんようにしとった方がええやろ」
「じゃあ、俺がずっと見張ってる感じですか」
「や、ソレはアカンやろ。リディアちゃんも嫌がるやろし。隣部屋で『フォースオフ』くらいでええやろ」
「え? でもそれだと、女将さんへの連絡も……」
「ほら、昼くらいに話しとったやん? 正午だけグリーンプールからの連絡受ける、て。その後くらいに連絡くれれば問題無いやろ」
「了解っす」
「頼んだで」
こうして密かに連絡遮断を仕込んだ上でリディアを西山間部に残し、エリザは沿岸部へと戻って行ったが――このことがエリザと、そして遠征隊全軍に、思わぬ幸運をもたらすこととなった。
琥珀暁・夜騎伝 終
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シェロがリディアたちをジーンから逃がした、その30分ほど後――。
「おっ……? アレ、ミェーチさんトコの子らやないか?」
リディアの連絡を受け、街道を引き返していたエリザたちは、彼女らと合流することができた。そして聡明なエリザは、幌が破られボロボロになった馬車と、その大きさの割に馬が1頭しかいないことから、彼女らの身に何が起こったかを察した。
「シェロくんは?」
尋ねたエリザに、兵士たちの一人が答える。
「若は、……皇帝から我々を逃がすために、一人で残られ……」
「……そうかー」
エリザは馬車の中に目をやり、リディアが真っ青な顔で震えているのを確認してから、兵士たちと周りの者にてきぱきと指示を送った。
「みんなアタシの馬車に乗り。アンタらの馬車はココら辺に放っとき。残った馬はアタシの馬車につないで。イサクくん、お茶4人分出して。ロウくんも毛布出したってや。リディアちゃん、立てそうか?」
「は、はい」
「気分は? や、そら悪いやろけど、吐きそうとかお腹痛いとか、そんな感じはあるか?」
「いえ、大丈夫です」
「ほんならこっち来て」
「はい」
リディアはエリザの手を取って馬車を降り、彼女に引かれるまま歩き出す。
「しっかりしいや」
うつろな目をしていたリディアに、エリザが声をかける。
「一日で、いや、半日もせん内の間に色んなコトが起こって、アタマん中ぐわんぐわんなっとるやろけどな、アンタが今しっかりせな、お腹の子が危ななるで」
「はい」
「少なくともな、アタシがおる今なら何も不安になるコトはあらへん。ソレはアタシが保証したる。安心し」
「……はい」
エリザはリディアの肩に手を置き、もう一言付け加えた。
「今は何も考えんとき。考えそうになったらアタシに声を掛け。気ぃ紛らわすくらいのコトやったらなんぼでもしたるから」
「……ありがとうございます」
エリザは元々泊まっていた町までリディアたちを送り、手早く手配と情報収集を進めた。
「ロウくん、ご飯もん買うて来て。全員分やで。……うん、うん、やっぱりソイツ、皇帝さんや言うてたんやね。……アンタは新しい馬の調達よろしゅう。カネは言い値で構へん。……そうか、防衛線は異状無し、と。……ほんでユーリくん、宿屋さんに予約の変更伝えといて。で、リディアちゃんらはしばらく逗留するように言うとってな」
と、宿について指示された丁稚がきょとんとする。
「ミェーチさんはここに残すんですか?」
「身重の子やで? しかもダンナとお父さんがついさっき殺されたところやし、どんだけショック受けとるか。ココから沿岸部までの道のり考えたら、無理矢理連れてくよりココで安静にさせといた方がええやろ」
「分かりました」
「……あー、と」
宿の受付に向かいかけた丁稚の手を引き、エリザはこう付け加えた。
「アタシらはこのまま沿岸部向かうけど、アンタはココに残っといてくれへん?」
「俺ですか?」
「2個な、気になるコトもあるし。このまんまリディアちゃんを放っとく言うのんも具合悪いやろ? どんな様子か、一日一回『頭巾』で連絡よこして欲しいんよ」
「あ、なるほど」
「後もいっこは、言うたら『監視』やね。一応な、リディアちゃんにもゼロさんやらゲートやらとお話さしたコトがあるし、向こうと連絡しようと思えばできるねん。リディアちゃんも心細うなっとるやろし、アタシがいなくなった後で、もしかしたら連絡するかも分からんしな。でも下手にこの現状を知らせたら、ちょとまずいコトになるかも分からへんやろ?」
「ああ……そっちの王様が神経質になってるって言ってたヤツですか」
「せや。正直、ゼロさんがどんな行動に出ようとするかは読み切れんし、過敏に反応して全軍引き上げみたいなコトを言い出すかも分からん。そんなんされたら撤回させるにしても無視するにしても、後々困ったコトになるやろし。そんなめんどいコトになる前に、連絡自体させへんようにしとった方がええやろ」
「じゃあ、俺がずっと見張ってる感じですか」
「や、ソレはアカンやろ。リディアちゃんも嫌がるやろし。隣部屋で『フォースオフ』くらいでええやろ」
「え? でもそれだと、女将さんへの連絡も……」
「ほら、昼くらいに話しとったやん? 正午だけグリーンプールからの連絡受ける、て。その後くらいに連絡くれれば問題無いやろ」
「了解っす」
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