「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・内乱伝 3
神様たちの話、第296話。
みにくいあらそい。
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3.
ハンとクーがメリーを巡るいさかいを起こしたその日から、遠征隊全軍を巻き込む騒動は幕を開けた。
「ハンニバル・シモンは現在錯乱状態にあり、到底軍務を全うできる状態にはございません! にもかかわらず職を辞さないばかりか、職権を濫用して遠征隊を私物化しようと画策しています! このままでは隊の本懐、所期の目的である北方との友好関係を築くどころか、我々がこの北方にとって悪逆非道の輩として認識されることとなり、お父様、いいえ、ゼロ・タイムズ陛下の顔に泥を塗るような自体にも発展いたしかねません! ひいては実力行使を以てハンニバル・シモンを隊長の座から引き下ろし、隊の状態を正常なものに戻すべきです!」
クーはマリアを伴って城の中を周り、賛同者を募っていた。一方、ハンも隊の瓦解を防ぐべく、クーへの非難も構わず弁舌を奮っていた。
「またあのお姫様が自分勝手なことをしているようだが、これは言うまでも無く越権行為、彼女の裁量では許されざる行動だ。決して耳を貸すな。彼女に加担すれば間違い無く服務規程違反をはじめとする、数々の罪が問われるだろう。帰郷すれば直ちに軍法会議にかけられ、決して軽くないであろう刑に処されることは明らかだ。彼女自身にしても、彼女が陛下の娘だからと言って恩赦が認められるようなことは、陛下の清廉潔白な心情からすればまず、有り得ない処置だ。彼女も含め、全員が公明正大な判断の下、等しく罰を受けることになるだろう。そうなりたくなければ、今まで通りに俺の側に付くことを強く勧める。いや、これは命令だ。決して彼女に協力するんじゃない」
ハンのこの一方的な主張も当然、クーたちの側に伝わり、それを受けてさらに罵り合いを重ねるうち、両者の対立は次第に激化していった。
無論、両者とも「ええトシこいた」大人であり、どちらも相手に面と向かって罵ったり、直接攻撃を加えたりするようなことはしなかったものの、城内・街中問わず、自分たちの正当性と相手の不当性を喧伝することに躍起になっており、街の空気は瞬く間に、険悪で陰鬱な色に染まっていった。
(うわー……なんか大事になってきてる)
この間、ビートは両者のどちらにも与せず、のらりくらりと逃げ回りつつ、エリザからの指示を忠実に守っていた。
(あ、……と、正午になる。解除、解除、と)
街のあちこちに仕掛けておいた魔法陣を一斉解除し、ビートはエリザに連絡を取る。
「『トランスワード:エリザ』、……どうも、ビートです。……ええ、はい。先生の仰っていた通りになってきてます。……やっぱりシェロの件は確かですか。……ええ、分かってます。勿論、どちらにも伝えません。妨害に気付かれたら、僕の立場も危なくなりますし。……はい、……はい、了解です。はい、……はい」
通信を終えてすぐ、ビートは魔法陣を再起動させた。
対立から3日、4日と経過し、ビートと、そしてエリザの予想した通り、どちらからともなく通信を行ったものの――。
「つながらないんですか?」
「ええ。まったく反応がございません」
「クーちゃんの調子の問題ですか? それとも、向こうで何かあったとか?」
尋ねたマリアに、クーは忌々しげな表情を向ける。
「恐らく、妨害術を仕掛けられておりますわね。言うまでもなく、ハンの仕業でしょう」
「あー……、でしょうね。陛下がクーちゃんから今の状況聞かされたら、絶対陛下、尉官を更迭するでしょうしね。先生にしたって、こんな状況で尉官の肩持ったりしないでしょうし」
「まったく、あの方はどこまで陰険なのかしら! こんな姑息な根回しまでして、自分の地位を保とうとされるなんて!」
「本当ですよねー」
なお――当然ながらハンの側でも通信妨害に気付いており、同様にクーへの非難を吐いている。
両者とも、この妨害が他ならぬエリザの仕業であるなどとは夢にも思わず、エリザが帰還するまでの一週間余りを、醜い内輪揉めに費やしていた。
「アンタらアホちゃうか、ホンマに」
その連日に渡る愚行をエリザに手厳しく叱咤され、当事者三人は揃ってうつむくしかなかった。
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みにくいあらそい。
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3.
ハンとクーがメリーを巡るいさかいを起こしたその日から、遠征隊全軍を巻き込む騒動は幕を開けた。
「ハンニバル・シモンは現在錯乱状態にあり、到底軍務を全うできる状態にはございません! にもかかわらず職を辞さないばかりか、職権を濫用して遠征隊を私物化しようと画策しています! このままでは隊の本懐、所期の目的である北方との友好関係を築くどころか、我々がこの北方にとって悪逆非道の輩として認識されることとなり、お父様、いいえ、ゼロ・タイムズ陛下の顔に泥を塗るような自体にも発展いたしかねません! ひいては実力行使を以てハンニバル・シモンを隊長の座から引き下ろし、隊の状態を正常なものに戻すべきです!」
クーはマリアを伴って城の中を周り、賛同者を募っていた。一方、ハンも隊の瓦解を防ぐべく、クーへの非難も構わず弁舌を奮っていた。
「またあのお姫様が自分勝手なことをしているようだが、これは言うまでも無く越権行為、彼女の裁量では許されざる行動だ。決して耳を貸すな。彼女に加担すれば間違い無く服務規程違反をはじめとする、数々の罪が問われるだろう。帰郷すれば直ちに軍法会議にかけられ、決して軽くないであろう刑に処されることは明らかだ。彼女自身にしても、彼女が陛下の娘だからと言って恩赦が認められるようなことは、陛下の清廉潔白な心情からすればまず、有り得ない処置だ。彼女も含め、全員が公明正大な判断の下、等しく罰を受けることになるだろう。そうなりたくなければ、今まで通りに俺の側に付くことを強く勧める。いや、これは命令だ。決して彼女に協力するんじゃない」
ハンのこの一方的な主張も当然、クーたちの側に伝わり、それを受けてさらに罵り合いを重ねるうち、両者の対立は次第に激化していった。
無論、両者とも「ええトシこいた」大人であり、どちらも相手に面と向かって罵ったり、直接攻撃を加えたりするようなことはしなかったものの、城内・街中問わず、自分たちの正当性と相手の不当性を喧伝することに躍起になっており、街の空気は瞬く間に、険悪で陰鬱な色に染まっていった。
(うわー……なんか大事になってきてる)
この間、ビートは両者のどちらにも与せず、のらりくらりと逃げ回りつつ、エリザからの指示を忠実に守っていた。
(あ、……と、正午になる。解除、解除、と)
街のあちこちに仕掛けておいた魔法陣を一斉解除し、ビートはエリザに連絡を取る。
「『トランスワード:エリザ』、……どうも、ビートです。……ええ、はい。先生の仰っていた通りになってきてます。……やっぱりシェロの件は確かですか。……ええ、分かってます。勿論、どちらにも伝えません。妨害に気付かれたら、僕の立場も危なくなりますし。……はい、……はい、了解です。はい、……はい」
通信を終えてすぐ、ビートは魔法陣を再起動させた。
対立から3日、4日と経過し、ビートと、そしてエリザの予想した通り、どちらからともなく通信を行ったものの――。
「つながらないんですか?」
「ええ。まったく反応がございません」
「クーちゃんの調子の問題ですか? それとも、向こうで何かあったとか?」
尋ねたマリアに、クーは忌々しげな表情を向ける。
「恐らく、妨害術を仕掛けられておりますわね。言うまでもなく、ハンの仕業でしょう」
「あー……、でしょうね。陛下がクーちゃんから今の状況聞かされたら、絶対陛下、尉官を更迭するでしょうしね。先生にしたって、こんな状況で尉官の肩持ったりしないでしょうし」
「まったく、あの方はどこまで陰険なのかしら! こんな姑息な根回しまでして、自分の地位を保とうとされるなんて!」
「本当ですよねー」
なお――当然ながらハンの側でも通信妨害に気付いており、同様にクーへの非難を吐いている。
両者とも、この妨害が他ならぬエリザの仕業であるなどとは夢にも思わず、エリザが帰還するまでの一週間余りを、醜い内輪揉めに費やしていた。
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