「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・内乱伝 6
神様たちの話、第299話。
内奥への襲来。
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6.
「へ?」「なっ」「えっ」
突然現れたその男に、エリザもハンも、そしてマリアも、唖然とする。しかし――。
「なっ、……んだ?」
突如出現したその男もまた、驚いた表情を浮かべていた。
その時、最も早く反応したのはマリアだった。彼女は突然目の前に現れたその小男を、明らかな脅威・危険と見なし、攻撃に出た。
「やあッ!」
瞬時に椅子から飛び上がり、ぐるんと回転しつつ椅子を蹴っ飛ばす。
「うおっ!?」
椅子は男の胸に当たり、そのままテーブルの上から弾き出した。
「き、きさっ」
男が立ち上がりかけるその一瞬の間に、マリアはテーブルを乗り越えて男に肉薄し、両脚で踏みつけるように飛び蹴りを叩き込んでいた。
「うぐおっ!?」
受け身も取れず、男は簡単にその場から吹っ飛び、庭を転がる。
「よ、余を誰だと……」
そしてその男にとってさらに不幸だったのは、そこに丁度、ロウが帰って来たことだった。
「送って来たっスよ、エリザさ……」「ロウくん! パンチ!」
ロウを見て、エリザがすぐさま命じる。
「へっ? ……うっス!」
ロウは命じられるまま、目の前に転がり込みつつもどうにか立ち上がってきたその男のあごを、目一杯殴り付けた。
「うごおっ……!?」
男は宙を舞い――そのまますとんと着地したものの、途端にひざを着いた。
「はっ、はっ……、はあっ」
「アンタ誰や」
うずくまったままの男に、エリザが魔杖を向けて尋ねる。
「はぁ、はぁ……、お、驚いた……ぞ。余の襲撃を、察したか、め、女狐」
「アンタ、まさか皇帝やっちゅうんやないやろな?」
「その、……その、まさか、だ」
ようやく男は立ち上がり、もったいぶった仕草で名乗りを上げた。
「余はレン・ジーン。この地を統べる、天の星である」
「はっ」
対するエリザは、それを鼻で笑う。
「『この庭でスベる』の間違いやろ。しょうもな」
「……っ」
ジーンの額に青筋が一瞬浮かぶが、すぐに平静を装った様子で続ける。
「余を愚弄したこと、今は容赦してやろう。じきに報いは受けさせるがな。それよりも、……そうか、貴様があの『狐の女将』だな? なるほど、その姿は確かに『狐』だ。単なる通り名では無かったと言うことか。
元来の余であればケダモノ風情、単に侮(あなど)るだけであるが、こうして余の強襲を迎撃された今、その認識を改めてやろうではないか。なるほど、なかなかの智将であるな」
「そらどーも」
エリザは不敵に笑いつつ、話を促す。
「ほんで、皇帝直々に笑いを取りに来たっちゅうワケやないわなぁ? アタシに用事があるんか?」
「結論から言おう。余にその首を差し出せ」
ジーンは剣を抜き、エリザに切っ先を向ける。
「貴様の画策によって、この沿岸部と西山間部は海外人の手に陥(お)ちた。その深謀遠慮、確かに驚嘆に値する。だが、余にはただのうっとうしい蝿に過ぎぬ。たかが蝿一匹、この余が統べる帝国、余が率いる大軍勢に太刀打ちできるものでは無いこと、容易に察せられるはずだ。貴様もこれから余の居城まで攻め込むまでの途方も無い手間を考えれば、ここできっぱりすべてを捨て去ってしまった方がはるかに楽であろう? これは余の慈悲だ」
「アタマおかしいヤツがなんやキモチワルいコトわーわー抜かしとるけど」
エリザは斜に構えたまま、こう答えた。
「ココであっさり死ぬよりアンタをボッコボコにしたった方が、100倍楽しいやろなぁ? そんなお楽しみ、捨てる方がどうかしとるわ」
「余の命令が聞けぬと言うのか」
「アンタに命令されるいわれは無いな。寝言は寝て言うてんか」
「そうか。では……」
ジーンは一歩踏み出したが、ハンとマリアがエリザの前に立ちはだかる。同時にロウも構え、ジーンを遠巻きながらも囲む形となった。
「……ふむ」
「どないした? アタシを殺すんやないんか?」
「兵(つわもの)に守られて安泰と思うなよ、女狐」
ジーンは剣を振り上げ――その切っ先から、炎を飛ばしてきた。
「……!」
飛んで来た火球を見て、ハンもマリアも面食らった様子を見せる。
「魔術!?」「北の人間が……!?」
が、二人の背後からにゅっと魔杖が伸び、魔術の盾が作られる。
「ぬ……!?」
盾に防がれ、火球はぽん、と弾けた。
「もっかい言うけども」
エリザは魔杖を掲げたままで、さきほどと一言一句違わず、同じことを尋ねた。
「どないした? アタシを殺すんやないんか?」
「……」
先程まで見せていた余裕の表情が、ジーンの顔から消える。
「貴様、何者だ? 余の秘術のことごとくを破るとは……!? そうか、今日まで余がこの地へ飛ぶことができなかったのは、貴様の仕業だったのか?」
「さあ、どないやろな? で? 今やったら帰したるけど?」
「……」
ジーンは答えず――現れた時のように、その場から突然、姿を消した。
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内奥への襲来。
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「へ?」「なっ」「えっ」
突然現れたその男に、エリザもハンも、そしてマリアも、唖然とする。しかし――。
「なっ、……んだ?」
突如出現したその男もまた、驚いた表情を浮かべていた。
その時、最も早く反応したのはマリアだった。彼女は突然目の前に現れたその小男を、明らかな脅威・危険と見なし、攻撃に出た。
「やあッ!」
瞬時に椅子から飛び上がり、ぐるんと回転しつつ椅子を蹴っ飛ばす。
「うおっ!?」
椅子は男の胸に当たり、そのままテーブルの上から弾き出した。
「き、きさっ」
男が立ち上がりかけるその一瞬の間に、マリアはテーブルを乗り越えて男に肉薄し、両脚で踏みつけるように飛び蹴りを叩き込んでいた。
「うぐおっ!?」
受け身も取れず、男は簡単にその場から吹っ飛び、庭を転がる。
「よ、余を誰だと……」
そしてその男にとってさらに不幸だったのは、そこに丁度、ロウが帰って来たことだった。
「送って来たっスよ、エリザさ……」「ロウくん! パンチ!」
ロウを見て、エリザがすぐさま命じる。
「へっ? ……うっス!」
ロウは命じられるまま、目の前に転がり込みつつもどうにか立ち上がってきたその男のあごを、目一杯殴り付けた。
「うごおっ……!?」
男は宙を舞い――そのまますとんと着地したものの、途端にひざを着いた。
「はっ、はっ……、はあっ」
「アンタ誰や」
うずくまったままの男に、エリザが魔杖を向けて尋ねる。
「はぁ、はぁ……、お、驚いた……ぞ。余の襲撃を、察したか、め、女狐」
「アンタ、まさか皇帝やっちゅうんやないやろな?」
「その、……その、まさか、だ」
ようやく男は立ち上がり、もったいぶった仕草で名乗りを上げた。
「余はレン・ジーン。この地を統べる、天の星である」
「はっ」
対するエリザは、それを鼻で笑う。
「『この庭でスベる』の間違いやろ。しょうもな」
「……っ」
ジーンの額に青筋が一瞬浮かぶが、すぐに平静を装った様子で続ける。
「余を愚弄したこと、今は容赦してやろう。じきに報いは受けさせるがな。それよりも、……そうか、貴様があの『狐の女将』だな? なるほど、その姿は確かに『狐』だ。単なる通り名では無かったと言うことか。
元来の余であればケダモノ風情、単に侮(あなど)るだけであるが、こうして余の強襲を迎撃された今、その認識を改めてやろうではないか。なるほど、なかなかの智将であるな」
「そらどーも」
エリザは不敵に笑いつつ、話を促す。
「ほんで、皇帝直々に笑いを取りに来たっちゅうワケやないわなぁ? アタシに用事があるんか?」
「結論から言おう。余にその首を差し出せ」
ジーンは剣を抜き、エリザに切っ先を向ける。
「貴様の画策によって、この沿岸部と西山間部は海外人の手に陥(お)ちた。その深謀遠慮、確かに驚嘆に値する。だが、余にはただのうっとうしい蝿に過ぎぬ。たかが蝿一匹、この余が統べる帝国、余が率いる大軍勢に太刀打ちできるものでは無いこと、容易に察せられるはずだ。貴様もこれから余の居城まで攻め込むまでの途方も無い手間を考えれば、ここできっぱりすべてを捨て去ってしまった方がはるかに楽であろう? これは余の慈悲だ」
「アタマおかしいヤツがなんやキモチワルいコトわーわー抜かしとるけど」
エリザは斜に構えたまま、こう答えた。
「ココであっさり死ぬよりアンタをボッコボコにしたった方が、100倍楽しいやろなぁ? そんなお楽しみ、捨てる方がどうかしとるわ」
「余の命令が聞けぬと言うのか」
「アンタに命令されるいわれは無いな。寝言は寝て言うてんか」
「そうか。では……」
ジーンは一歩踏み出したが、ハンとマリアがエリザの前に立ちはだかる。同時にロウも構え、ジーンを遠巻きながらも囲む形となった。
「……ふむ」
「どないした? アタシを殺すんやないんか?」
「兵(つわもの)に守られて安泰と思うなよ、女狐」
ジーンは剣を振り上げ――その切っ先から、炎を飛ばしてきた。
「……!」
飛んで来た火球を見て、ハンもマリアも面食らった様子を見せる。
「魔術!?」「北の人間が……!?」
が、二人の背後からにゅっと魔杖が伸び、魔術の盾が作られる。
「ぬ……!?」
盾に防がれ、火球はぽん、と弾けた。
「もっかい言うけども」
エリザは魔杖を掲げたままで、さきほどと一言一句違わず、同じことを尋ねた。
「どないした? アタシを殺すんやないんか?」
「……」
先程まで見せていた余裕の表情が、ジーンの顔から消える。
「貴様、何者だ? 余の秘術のことごとくを破るとは……!? そうか、今日まで余がこの地へ飛ぶことができなかったのは、貴様の仕業だったのか?」
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ジーンは答えず――現れた時のように、その場から突然、姿を消した。
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