「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・内乱伝 7
神様たちの話、第300話。
皇帝の戦略とは。
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7.
ジーンが去った後も、一同は動けずにいた。
「……今の、は」
ようやくハンが口を開き、エリザがそれに続く。
「自分で言うてはった通りやろな。アレが皇帝や」
「まさか! ……と言いたいところですが、どうやらエリザさんは、本当にそう思っているみたいですね」
「そら、な。……そもそもこの話をまずせなアカンと思っとったんやけども」
そう前置きし、エリザはミェーチ王国が陥落したこと、ミェーチとシェロが討死したことをハンたちに伝えた。
「壊滅ですって!? 何故それを先に言わないんですか!?」
「アホ抜かすなや。アンタ、アタシに会うなり『どっち付くんですか』言い出したやろが。そんな態度のヤツに、アタシから『ちょい待ちいや、大事な話があんねん』ちゅうたところで、『いや、こちらの件の方が重要です』てはねつけるやろが」
「う……」
「ともかく、現時点で対外的に最も大きな脅威としては、いよいよ帝国が動き出しよったっちゅうコトや。いや、正確に言うたら皇帝本人が、っちゅうところか」
「同じこと、……ではないですね。比喩ではなく、本当に皇帝が一人でここを訪れたわけですから」
「ソレや」
エリザはまだ中庭に置かれたままのテーブルをつい、と指でなでつつ、今起こったことを整理し始めた。
「事実として、皇帝を名乗るヤツが単騎で、沿岸部の、この中庭に突然現れよった。ソレが何を意味するか、アンタ分かるか?」
「山間部の東西結節点に築いた防衛線が、何の意味も成さない、……と言うことですね」
ハンの回答に、エリザは深くうなずく。
「そうなる可能性はめちゃ高やな。や、ソレ以前に、アタシら全員が常に暗殺の危機にさらされとるっちゅうコトや。ソレが皇帝の、最大の狙いやったんやろうな」
「最大の?」
尋ねたハンに、エリザは東――山間部の稜線を指し示す。
「アタシらがどんだけ攻め込もうと、どんだけ陣地を固めようと――そしてどんだけ結束を強めようと、アイツには無意味っちゅうコトや。そしてこうしてアタシらの前に堂々と現れて、その事実をアタシら全員に痛感させる。もしコレが巷のうわさになったら、みんなどう思う?」
「……!」
ハンは普段から青い顔を、さらに青ざめさせた。
「そんなことになれば、……つまり我々が無力な存在だと、そう思われれば、我々がこれまで培い、築き上げてきた信用、信頼が、一瞬で崩れ去ってしまう。我々に傾いていた世論、形勢が、一気に逆転する。そうなれば人民は皇帝が与える恐怖に操られ、我々を攻撃、排斥する流れへと傾くことになる、……と?」
「せや。遠征隊が皇帝に対してさっぱり相手にならんわ、っちゅうようにみんなが思たら、もう誰もアタシらに協力なんかせえへんわ。そんなコトして、さて家に帰ってきたら、なんと皇帝が剣持って玄関から出てきました、……みたいなコトを、嫌でも想像するやろからな。
コレはホンマに参ったわ。ご飯より色恋よりカネよりも、『ヤバい』『コワい』が100倍効くからな。や、ホンマによお考えたもんやで。軍隊ウロウロさせるより全然効率ええわな」
「どうするんですか……?」
恐る恐る尋ねたハンに、エリザは――どう言うわけか、ニヤッと笑って返した。
「言うた通りや。恐怖の方がよっぽど効く。ソレが恐怖やと思うとる限りはな」
「……ど、どう言うことですか?」
「皇帝さんの狙いは、みんなに『皇帝怖いから言うコト聞いとこ』と思わせるコトや。でもその皇帝さん、今この場でどうなった?」
「……追い返しましたね。事実として」
「ソレや」
エリザはニヤニヤと笑みを浮かべながら、大声で――恐らく、中庭の様子を戦々恐々として眺めていた者たちに向かって――こう言い放った。
「なーんやアレ! しょうもなあーっ! 皇帝陛下がなんぼのもんじゃい!? わざわざアタシらの前にノコノコ現れて、無様晒しただけのアホやないか! アタシを殺すとか寝ぼけたコト抜かしとったけど、結局その本人にしっしって追い払われとるやないか! あーっ、アホくさーっ! 程度が知れるっちゅうもんやわ、あっはははははははっ!」
「え、エリザさん」
一瞬、ハンは止めようとしたものの――周囲の張り詰めた気配が安堵に満ちていくのを察して、乗っかることにした。
「……そ、そうですね! エリザさんの力があれば、何の問題も起こらないでしょう! 我々に恐れるものなど、何一つありませんね!」
「おーおー、そう言うこっちゃ、うわっははははは、はははーっ!」
二人で仁王立ちになり、高笑いを飛ばしたことで、エリザが懸念した恐怖の伝播と言う事態は、ともかく回避することができた。
琥珀暁・内乱伝 終
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皇帝の戦略とは。
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7.
ジーンが去った後も、一同は動けずにいた。
「……今の、は」
ようやくハンが口を開き、エリザがそれに続く。
「自分で言うてはった通りやろな。アレが皇帝や」
「まさか! ……と言いたいところですが、どうやらエリザさんは、本当にそう思っているみたいですね」
「そら、な。……そもそもこの話をまずせなアカンと思っとったんやけども」
そう前置きし、エリザはミェーチ王国が陥落したこと、ミェーチとシェロが討死したことをハンたちに伝えた。
「壊滅ですって!? 何故それを先に言わないんですか!?」
「アホ抜かすなや。アンタ、アタシに会うなり『どっち付くんですか』言い出したやろが。そんな態度のヤツに、アタシから『ちょい待ちいや、大事な話があんねん』ちゅうたところで、『いや、こちらの件の方が重要です』てはねつけるやろが」
「う……」
「ともかく、現時点で対外的に最も大きな脅威としては、いよいよ帝国が動き出しよったっちゅうコトや。いや、正確に言うたら皇帝本人が、っちゅうところか」
「同じこと、……ではないですね。比喩ではなく、本当に皇帝が一人でここを訪れたわけですから」
「ソレや」
エリザはまだ中庭に置かれたままのテーブルをつい、と指でなでつつ、今起こったことを整理し始めた。
「事実として、皇帝を名乗るヤツが単騎で、沿岸部の、この中庭に突然現れよった。ソレが何を意味するか、アンタ分かるか?」
「山間部の東西結節点に築いた防衛線が、何の意味も成さない、……と言うことですね」
ハンの回答に、エリザは深くうなずく。
「そうなる可能性はめちゃ高やな。や、ソレ以前に、アタシら全員が常に暗殺の危機にさらされとるっちゅうコトや。ソレが皇帝の、最大の狙いやったんやろうな」
「最大の?」
尋ねたハンに、エリザは東――山間部の稜線を指し示す。
「アタシらがどんだけ攻め込もうと、どんだけ陣地を固めようと――そしてどんだけ結束を強めようと、アイツには無意味っちゅうコトや。そしてこうしてアタシらの前に堂々と現れて、その事実をアタシら全員に痛感させる。もしコレが巷のうわさになったら、みんなどう思う?」
「……!」
ハンは普段から青い顔を、さらに青ざめさせた。
「そんなことになれば、……つまり我々が無力な存在だと、そう思われれば、我々がこれまで培い、築き上げてきた信用、信頼が、一瞬で崩れ去ってしまう。我々に傾いていた世論、形勢が、一気に逆転する。そうなれば人民は皇帝が与える恐怖に操られ、我々を攻撃、排斥する流れへと傾くことになる、……と?」
「せや。遠征隊が皇帝に対してさっぱり相手にならんわ、っちゅうようにみんなが思たら、もう誰もアタシらに協力なんかせえへんわ。そんなコトして、さて家に帰ってきたら、なんと皇帝が剣持って玄関から出てきました、……みたいなコトを、嫌でも想像するやろからな。
コレはホンマに参ったわ。ご飯より色恋よりカネよりも、『ヤバい』『コワい』が100倍効くからな。や、ホンマによお考えたもんやで。軍隊ウロウロさせるより全然効率ええわな」
「どうするんですか……?」
恐る恐る尋ねたハンに、エリザは――どう言うわけか、ニヤッと笑って返した。
「言うた通りや。恐怖の方がよっぽど効く。ソレが恐怖やと思うとる限りはな」
「……ど、どう言うことですか?」
「皇帝さんの狙いは、みんなに『皇帝怖いから言うコト聞いとこ』と思わせるコトや。でもその皇帝さん、今この場でどうなった?」
「……追い返しましたね。事実として」
「ソレや」
エリザはニヤニヤと笑みを浮かべながら、大声で――恐らく、中庭の様子を戦々恐々として眺めていた者たちに向かって――こう言い放った。
「なーんやアレ! しょうもなあーっ! 皇帝陛下がなんぼのもんじゃい!? わざわざアタシらの前にノコノコ現れて、無様晒しただけのアホやないか! アタシを殺すとか寝ぼけたコト抜かしとったけど、結局その本人にしっしって追い払われとるやないか! あーっ、アホくさーっ! 程度が知れるっちゅうもんやわ、あっはははははははっ!」
「え、エリザさん」
一瞬、ハンは止めようとしたものの――周囲の張り詰めた気配が安堵に満ちていくのを察して、乗っかることにした。
「……そ、そうですね! エリザさんの力があれば、何の問題も起こらないでしょう! 我々に恐れるものなど、何一つありませんね!」
「おーおー、そう言うこっちゃ、うわっははははは、はははーっ!」
二人で仁王立ちになり、高笑いを飛ばしたことで、エリザが懸念した恐怖の伝播と言う事態は、ともかく回避することができた。
琥珀暁・内乱伝 終
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300話到達。
ちょっと前にもお伝えした通り、本日時点で「琥珀暁」は脱稿しています。
そこでここまでをちょっと振り返ってみますが、今作は相当難航しました。
600話以上となった「白猫夢」は3年7ヶ月の連載でしたが、
こちらはその半分程度にもかかわらず、4年以上。
色々と止むに止まれぬ事情があるにはありましたが、
一番の理由はやりたいことが一杯ありすぎたことです。
西部劇小説書いたりドット絵描いたりイラスト描いたり、
ゲームやったりゲームやったり、あと、ゲームやったり。
ゲームばっかりやってて、申し訳無い。
ただ、僕の人生は物心付いた時からゲーム漬けだったので、
(2、3歳くらいの時にはもうゼビウスやってました)
恐らく後の人生もゲーム漬けです。
「そんなくだらない趣味は捨てて創作に専念しろ」と言われたところで、
それは僕にとって、「息を吸うな」と言われているのと同じ。
第一、何が重要で何がくだらないかなんて、人によって違うもの。
「三度のメシより野球が大好き」と言う人もいれば、
「ボール遊びなんかやって何が楽しいの?」と吐き捨てる人もいます。
「政治を真面目に考えることが自分たちの未来につながる」と力説する人もいれば、
「別に誰が首相になったって一緒じゃん」と切り捨てる人もいる。
いずれも前者にとって、後者の意見なんて聞くに値しないものであり、
また、後者にとっても、前者はただのバカにしか見えないのです。
作中でも何度か言及しましたが、自分の常識は世界の常識とは、必ずしも一致しないもの。
価値観は人それぞれ。どうしても合わないのであれば、それまでの話。
合わせてそう楽しいものでもないのですから。
その上で、合う人がいれば一緒に楽しみましょう、……ってことで。
僕は今月も、ゲーム買って遊びます。
無論、創作も趣味なので、これからも続けて行きますが。
300話到達。
ちょっと前にもお伝えした通り、本日時点で「琥珀暁」は脱稿しています。
そこでここまでをちょっと振り返ってみますが、今作は相当難航しました。
600話以上となった「白猫夢」は3年7ヶ月の連載でしたが、
こちらはその半分程度にもかかわらず、4年以上。
色々と止むに止まれぬ事情があるにはありましたが、
一番の理由はやりたいことが一杯ありすぎたことです。
西部劇小説書いたりドット絵描いたりイラスト描いたり、
ゲームやったりゲームやったり、あと、ゲームやったり。
ゲームばっかりやってて、申し訳無い。
ただ、僕の人生は物心付いた時からゲーム漬けだったので、
(2、3歳くらいの時にはもうゼビウスやってました)
恐らく後の人生もゲーム漬けです。
「そんなくだらない趣味は捨てて創作に専念しろ」と言われたところで、
それは僕にとって、「息を吸うな」と言われているのと同じ。
第一、何が重要で何がくだらないかなんて、人によって違うもの。
「三度のメシより野球が大好き」と言う人もいれば、
「ボール遊びなんかやって何が楽しいの?」と吐き捨てる人もいます。
「政治を真面目に考えることが自分たちの未来につながる」と力説する人もいれば、
「別に誰が首相になったって一緒じゃん」と切り捨てる人もいる。
いずれも前者にとって、後者の意見なんて聞くに値しないものであり、
また、後者にとっても、前者はただのバカにしか見えないのです。
作中でも何度か言及しましたが、自分の常識は世界の常識とは、必ずしも一致しないもの。
価値観は人それぞれ。どうしても合わないのであれば、それまでの話。
合わせてそう楽しいものでもないのですから。
その上で、合う人がいれば一緒に楽しみましょう、……ってことで。
僕は今月も、ゲーム買って遊びます。
無論、創作も趣味なので、これからも続けて行きますが。



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総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

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双月千年世界 目次 / あらすじ

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短編・掌編

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雑記

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- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
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