「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・決意伝 3
神様たちの話、第303話。
揉める中枢。
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3.
《今度は何?》
明らかにうっとうしそうに応じてきたゼロに、エリザは真面目な声色を作って告げた。
「単刀直入に言います。緊急事態です」
《緊急? また皇帝が攻めて来たとでも?》
「ソレやったらまだ良かったんですけどもな」
《……何があったの?》
エリザの真剣な気配を察したらしく、ようやくゼロもまともな態度で返した。
「クーちゃん……、クラム・タイムズ殿下が誘拐されました」
《……何だって? も、もう一度言ってくれないか?》
「クラム殿下が誘拐されました。恐らく、皇帝が交渉材料を作るために連れ去ったものやと」
《じょ、……冗談に、しては、笑えない。まさか、だよね》
「アタシがこんな冗談抜かすほどしょうもないヤツやと思とるんですか?」
《……本当に?》
「ホンマです」
エリザもゼロも互いに無言になり、ハンが口を開こうとする。
「陛下、これは本当に……」「しっ」
が、エリザがそれを止め、ふたたび口を開く。
「ハンくんも今言いかけましたが、ホンマにホンマのコトです。事実として、遠征隊と王国兵が総出で街中を探しましたが、ドコにもおらへんのです。その事実と、皇帝がこの国に突然出現し、襲撃した事実とを合わせて考えれば、クーちゃんが誘拐されたコトは自明でしょう」
《何故、……何故そんなことに?》
「帝国側も正攻法で我々を攻略するコトは無理やと見たんでしょうな。となれば交渉材料を作るんは、戦略として当然やないでしょうか」
《ぐっ……!》
憤ったようなうなり声が漏れたきり、ゼロからの返事が途切れる。
「陛下?」
もう一度ハンが声をかけたが、ゼロは応じず、代わりにゲートの声が返って来た。
《ハン、今の話はマジなのか?》
「マジだよ。クーは見付からない。エリザさんと話し合ったが、やはり誘拐されたとしか思えない」
《だとしたらまずいな。……おいゼロ、いつまで呆けてんだよ? こうなったらやることは一つしか無いだろうが》
《しゅ、出撃させろって言うのか? 娘一人のために? そ、そんなことを、僕が命じろと?》
《何言ってんだ!? クーがどうなったって構わないって言うのか、お前!?》
《だけどそんな理由で、じ、実力行使に出るだなんて、他の皆が……》
弱腰のゼロに対し、ゲートは声を荒げて主張する。
《クーがヤバいってのに、誰が反対なんかするってんだ! そもそもお前だけだぞ、『反対する人の気持ちも考えたら』とか『現地民の感情を煽るようなことは』とか言ってグズってんのは! 居もしない反対派やら会ってもいない人間の言葉やらをでっち上げてまで、一体なんでそんなに攻めたがらないんだよ!?》
《い、いないとは断言できないだろう? も、もしいたら、後になって、か、必ず、せ、せ、責める材料に……》
《なら言ってみろよ! その反対派とやらの名前を! 怒ってるって現地民の名前を! 俺が直接行って、一人ひとり説得してやらあッ!》
ふたたび沈黙が訪れ、ハンとエリザは「頭巾」を外し、顔を見合わせた。
「揉めとるな」
「そのようですね。『反対派』と言うのは……?」
「おっさんのコトや、自分の主張を『みんな言うとるもん』っちゅうコトにしたくて工作したんやろ」
「それもエリザさんを貶めるために、……ですか」
「しょうもないな。……さ、続きや」
二人が「頭巾」をかぶり直したところで、ゲートの声が飛んで来る。
《悪いな、ちょっと頭に血が上っちまった。……まあ、アレだ。今、ゼロから言質取ったぞ。今後しばらくは俺が遠征隊の総指揮権を受け持つことになった》
「あら、ホンマに?」
《ああ。ゼロは『僕にはもう荷が重すぎる』だとさ。だもんで、今後しばらくの間、俺が監督することになった。ま、『しばらく』つっても遠征が終わるまでだろうし、もしかしたらすぐ終わりかも知れないけどな》
「アンタが任されたんやったら、願ったり叶ったりやな」
嬉しそうな声を上げたエリザに、ゲートも照れ臭そうに返事する。
《おう。ま、よろしくな。だが正直言って、俺はそっちの事情に詳しくない。だから基本、お前らの行動は全面的に許可するものとする。よっぽどメチャクチャじゃなければな。……俺の首がかかっちまったから、なるべく無茶しないでくれると助かる》
「分かってる。それは俺も一緒だしな」
ハンの言葉に、ゲートは笑いながら答える。
《もし親子揃ってクビになったら、一緒に農家やって過ごすとすっか、ははは……》
「ははは……、だな。……じゃあ」
ハンは殊更堅い口調を作り、申請を行った。
「シモン遠征隊は全軍これより帝国首都の陥落、および皇帝討伐を目的とした進軍を行うべく、許可を求めます」
《ああ。ゲート・シモン将軍は、それを許可するものとする。ハンニバル・シモン尉官、そしてエリザ・ゴールドマン顧問。両名はその目的の達成のため、粉骨砕身の努力をされたし》
「了解であります」
《あいよー》
遠く離れたゲートに向かって、ハンとエリザは敬礼した。
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揉める中枢。
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《今度は何?》
明らかにうっとうしそうに応じてきたゼロに、エリザは真面目な声色を作って告げた。
「単刀直入に言います。緊急事態です」
《緊急? また皇帝が攻めて来たとでも?》
「ソレやったらまだ良かったんですけどもな」
《……何があったの?》
エリザの真剣な気配を察したらしく、ようやくゼロもまともな態度で返した。
「クーちゃん……、クラム・タイムズ殿下が誘拐されました」
《……何だって? も、もう一度言ってくれないか?》
「クラム殿下が誘拐されました。恐らく、皇帝が交渉材料を作るために連れ去ったものやと」
《じょ、……冗談に、しては、笑えない。まさか、だよね》
「アタシがこんな冗談抜かすほどしょうもないヤツやと思とるんですか?」
《……本当に?》
「ホンマです」
エリザもゼロも互いに無言になり、ハンが口を開こうとする。
「陛下、これは本当に……」「しっ」
が、エリザがそれを止め、ふたたび口を開く。
「ハンくんも今言いかけましたが、ホンマにホンマのコトです。事実として、遠征隊と王国兵が総出で街中を探しましたが、ドコにもおらへんのです。その事実と、皇帝がこの国に突然出現し、襲撃した事実とを合わせて考えれば、クーちゃんが誘拐されたコトは自明でしょう」
《何故、……何故そんなことに?》
「帝国側も正攻法で我々を攻略するコトは無理やと見たんでしょうな。となれば交渉材料を作るんは、戦略として当然やないでしょうか」
《ぐっ……!》
憤ったようなうなり声が漏れたきり、ゼロからの返事が途切れる。
「陛下?」
もう一度ハンが声をかけたが、ゼロは応じず、代わりにゲートの声が返って来た。
《ハン、今の話はマジなのか?》
「マジだよ。クーは見付からない。エリザさんと話し合ったが、やはり誘拐されたとしか思えない」
《だとしたらまずいな。……おいゼロ、いつまで呆けてんだよ? こうなったらやることは一つしか無いだろうが》
《しゅ、出撃させろって言うのか? 娘一人のために? そ、そんなことを、僕が命じろと?》
《何言ってんだ!? クーがどうなったって構わないって言うのか、お前!?》
《だけどそんな理由で、じ、実力行使に出るだなんて、他の皆が……》
弱腰のゼロに対し、ゲートは声を荒げて主張する。
《クーがヤバいってのに、誰が反対なんかするってんだ! そもそもお前だけだぞ、『反対する人の気持ちも考えたら』とか『現地民の感情を煽るようなことは』とか言ってグズってんのは! 居もしない反対派やら会ってもいない人間の言葉やらをでっち上げてまで、一体なんでそんなに攻めたがらないんだよ!?》
《い、いないとは断言できないだろう? も、もしいたら、後になって、か、必ず、せ、せ、責める材料に……》
《なら言ってみろよ! その反対派とやらの名前を! 怒ってるって現地民の名前を! 俺が直接行って、一人ひとり説得してやらあッ!》
ふたたび沈黙が訪れ、ハンとエリザは「頭巾」を外し、顔を見合わせた。
「揉めとるな」
「そのようですね。『反対派』と言うのは……?」
「おっさんのコトや、自分の主張を『みんな言うとるもん』っちゅうコトにしたくて工作したんやろ」
「それもエリザさんを貶めるために、……ですか」
「しょうもないな。……さ、続きや」
二人が「頭巾」をかぶり直したところで、ゲートの声が飛んで来る。
《悪いな、ちょっと頭に血が上っちまった。……まあ、アレだ。今、ゼロから言質取ったぞ。今後しばらくは俺が遠征隊の総指揮権を受け持つことになった》
「あら、ホンマに?」
《ああ。ゼロは『僕にはもう荷が重すぎる』だとさ。だもんで、今後しばらくの間、俺が監督することになった。ま、『しばらく』つっても遠征が終わるまでだろうし、もしかしたらすぐ終わりかも知れないけどな》
「アンタが任されたんやったら、願ったり叶ったりやな」
嬉しそうな声を上げたエリザに、ゲートも照れ臭そうに返事する。
《おう。ま、よろしくな。だが正直言って、俺はそっちの事情に詳しくない。だから基本、お前らの行動は全面的に許可するものとする。よっぽどメチャクチャじゃなければな。……俺の首がかかっちまったから、なるべく無茶しないでくれると助かる》
「分かってる。それは俺も一緒だしな」
ハンの言葉に、ゲートは笑いながら答える。
《もし親子揃ってクビになったら、一緒に農家やって過ごすとすっか、ははは……》
「ははは……、だな。……じゃあ」
ハンは殊更堅い口調を作り、申請を行った。
「シモン遠征隊は全軍これより帝国首都の陥落、および皇帝討伐を目的とした進軍を行うべく、許可を求めます」
《ああ。ゲート・シモン将軍は、それを許可するものとする。ハンニバル・シモン尉官、そしてエリザ・ゴールドマン顧問。両名はその目的の達成のため、粉骨砕身の努力をされたし》
「了解であります」
《あいよー》
遠く離れたゲートに向かって、ハンとエリザは敬礼した。
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