「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・決意伝 4
神様たちの話、第304話。
壮行演説。
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4.
帝国への進撃が許可されてすぐに、遠征隊は全軍を挙げて東山間部への出撃準備を始めた。
「一気に慌ただしくなりましたね」
「ああ。……ところで」
ハンは横に付いた二人――ビートと、そしてマリアに尋ねた。
「メリーはどこにいる? 結局、聞いてないが……」
「まだ狙ってるんですか、まさか?」
尋ね返したマリアに、ハンは首を振って返す。
「いや、それはもう無い。その件については、エリザさんと一緒に話した時に言ったことがすべてだ。俺はどうかしてたよ」
「それで済むと?」
「済ませてくれないのか」
ハンの返事に、マリアはとがった視線を向けてくる。
「全軍が真っ二つになるかどうかって騒動を、『気の迷いだった』『今のナシ』で終わりにできると思ってるんですか? それで皆納得すると思います?」
「思ってないから尋ねたんだ」
そう返され、マリアの険が薄まる。
「じゃ、この後どうするか教えて下さい」
「まず、メリーに謝りたい。こんな馬鹿な騒動の中心人物にしてしまったことを、誠心誠意謝罪したいと考えている。その上で、今後のことを話し合いたい。お前たちと一緒に。争いはしたが、マリア、お前と俺はチームだからな。ケンカ別れなんて、……その、何と言うか、情けなさすぎるし」
「……ま、61点ってとこにしといてあげます」
マリアは肩をすくめ、こう続けた。
「メリーは一応、あたしが保護した形ですね。でもあたしの部屋に閉じ込めるとか、そーゆーことはしてません。騒ぎになる直前、あたしが命令でっち上げて『ノルド王国への視察』って形で、そっちに行ってもらってました。あそこまで離れてもらえば、もしこっちで最悪、戦闘にまで発展しちゃったとしても、確実に安全ですからね。こんなことに巻き込んだら、本当にメリーが可哀想ですから」
「そうだったのか。……済まなかった、本当に」
「あとですね、100点にしたいなら『皆の前で正式に謝る』も追加でお願いしますよ」
「……ああ、そうするよ。ありがとう、マリア」
「お互い様です」
このくだらない内乱が功を奏していたとすれば、それは両陣営の対立が戦闘に発展することを互いに想定しており、それに備えて軍備を備蓄していたことだった。
その内乱をエリザが両成敗したこと、直後に皇帝が突然現れるも即時撃退されたこと、まもなくクーが行方不明になったこと、そしてそれを皇帝が誘拐したものと断定し、その奪還のため出撃が決定されたことなど、一連の経緯は全軍に逐次伝わっており、用意されていた軍備はそのまま、出撃に回されたのである。
結果として、通常であれば数日を要するはずの準備は半日と経たずに完了し、出撃の辞令が下ったその日の内に、遠征隊と王国兵の混成軍1000名が、グリーンプール郊外に整列した。
ハンとエリザが整列する兵士たちの前に立ち、全体を見渡す。
「今作戦の実行に至った経緯と内容を、改めて説明する」
全員の視線が自分たちに集まったところで、ハンが口を開いた。
「既に全員が知っていることだろうが、本日午前、クラム・タイムズ殿下が帝国皇帝、レン・ジーンによって誘拐された。このことを軍上層部、そしてゼロ・タイムズ陛下に報告し、ゲート・シモン将軍を交え協議を行った結果、可及的速やかに帝国への侵攻を行い皇帝を撃破し、殿下の身柄を奪還することが決定された。諸君らは今作戦に従軍し、目的遂行のために全力を尽くすこと。以上だ。
……と言いたいところだが、諸君らの中に、誘拐の直前に起こっていたことについて詳細な説明が欲しいと考えている者は、決して少なくないと考えている。それについても、この場を借りて説明する」
ここで言葉を切り、ハンは皆に対して、深々と頭を下げた。
「まず第一に、皆に謝罪する。今回の件は、俺に大きな失点、失態があった。本当に済まなかった」
自分たちの上官が頭を下げるのを見て、一同にざわめきが広がる。いつものハンであればそれを、規律の乱れだと叱咤するところだったが、彼は静かに頭を上げ、淡々と話を続けた。
「そもそもの原因は、俺の直轄の班員に対し、俺が不当に過酷な労働を強いているとして、クラム殿下から叱責を受けたことだ。その班員と殿下は親しくしていたらしく、その行動は、彼女がその班員を慮ってのものだった。だが俺は殿下の諌めに聞く耳を持たず、邪険に扱った。その結果、他の班員が殿下の側に付き、遠征隊を二分する騒動に発展してしまった。最初から俺が、殿下の言葉をよく聞いていれば、騒動は起こり得なかったであろうことは、自明のことだ。
すべては俺の不寛容ゆえに起こったことだ。今後はこのようなことが起こらないよう、誰に対しても公平な態度で臨むよう、心がけるつもりだ。以上」「と言いたいところやけども」
ハンが話を締めようとしたところで、エリザが口を挟んできた。
「アンタはアホか」
「な……」
ふたたびどよめく兵士たちを背にしたエリザが、ぺちん、とハンの額を叩いた。
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帝国への進撃が許可されてすぐに、遠征隊は全軍を挙げて東山間部への出撃準備を始めた。
「一気に慌ただしくなりましたね」
「ああ。……ところで」
ハンは横に付いた二人――ビートと、そしてマリアに尋ねた。
「メリーはどこにいる? 結局、聞いてないが……」
「まだ狙ってるんですか、まさか?」
尋ね返したマリアに、ハンは首を振って返す。
「いや、それはもう無い。その件については、エリザさんと一緒に話した時に言ったことがすべてだ。俺はどうかしてたよ」
「それで済むと?」
「済ませてくれないのか」
ハンの返事に、マリアはとがった視線を向けてくる。
「全軍が真っ二つになるかどうかって騒動を、『気の迷いだった』『今のナシ』で終わりにできると思ってるんですか? それで皆納得すると思います?」
「思ってないから尋ねたんだ」
そう返され、マリアの険が薄まる。
「じゃ、この後どうするか教えて下さい」
「まず、メリーに謝りたい。こんな馬鹿な騒動の中心人物にしてしまったことを、誠心誠意謝罪したいと考えている。その上で、今後のことを話し合いたい。お前たちと一緒に。争いはしたが、マリア、お前と俺はチームだからな。ケンカ別れなんて、……その、何と言うか、情けなさすぎるし」
「……ま、61点ってとこにしといてあげます」
マリアは肩をすくめ、こう続けた。
「メリーは一応、あたしが保護した形ですね。でもあたしの部屋に閉じ込めるとか、そーゆーことはしてません。騒ぎになる直前、あたしが命令でっち上げて『ノルド王国への視察』って形で、そっちに行ってもらってました。あそこまで離れてもらえば、もしこっちで最悪、戦闘にまで発展しちゃったとしても、確実に安全ですからね。こんなことに巻き込んだら、本当にメリーが可哀想ですから」
「そうだったのか。……済まなかった、本当に」
「あとですね、100点にしたいなら『皆の前で正式に謝る』も追加でお願いしますよ」
「……ああ、そうするよ。ありがとう、マリア」
「お互い様です」
このくだらない内乱が功を奏していたとすれば、それは両陣営の対立が戦闘に発展することを互いに想定しており、それに備えて軍備を備蓄していたことだった。
その内乱をエリザが両成敗したこと、直後に皇帝が突然現れるも即時撃退されたこと、まもなくクーが行方不明になったこと、そしてそれを皇帝が誘拐したものと断定し、その奪還のため出撃が決定されたことなど、一連の経緯は全軍に逐次伝わっており、用意されていた軍備はそのまま、出撃に回されたのである。
結果として、通常であれば数日を要するはずの準備は半日と経たずに完了し、出撃の辞令が下ったその日の内に、遠征隊と王国兵の混成軍1000名が、グリーンプール郊外に整列した。
ハンとエリザが整列する兵士たちの前に立ち、全体を見渡す。
「今作戦の実行に至った経緯と内容を、改めて説明する」
全員の視線が自分たちに集まったところで、ハンが口を開いた。
「既に全員が知っていることだろうが、本日午前、クラム・タイムズ殿下が帝国皇帝、レン・ジーンによって誘拐された。このことを軍上層部、そしてゼロ・タイムズ陛下に報告し、ゲート・シモン将軍を交え協議を行った結果、可及的速やかに帝国への侵攻を行い皇帝を撃破し、殿下の身柄を奪還することが決定された。諸君らは今作戦に従軍し、目的遂行のために全力を尽くすこと。以上だ。
……と言いたいところだが、諸君らの中に、誘拐の直前に起こっていたことについて詳細な説明が欲しいと考えている者は、決して少なくないと考えている。それについても、この場を借りて説明する」
ここで言葉を切り、ハンは皆に対して、深々と頭を下げた。
「まず第一に、皆に謝罪する。今回の件は、俺に大きな失点、失態があった。本当に済まなかった」
自分たちの上官が頭を下げるのを見て、一同にざわめきが広がる。いつものハンであればそれを、規律の乱れだと叱咤するところだったが、彼は静かに頭を上げ、淡々と話を続けた。
「そもそもの原因は、俺の直轄の班員に対し、俺が不当に過酷な労働を強いているとして、クラム殿下から叱責を受けたことだ。その班員と殿下は親しくしていたらしく、その行動は、彼女がその班員を慮ってのものだった。だが俺は殿下の諌めに聞く耳を持たず、邪険に扱った。その結果、他の班員が殿下の側に付き、遠征隊を二分する騒動に発展してしまった。最初から俺が、殿下の言葉をよく聞いていれば、騒動は起こり得なかったであろうことは、自明のことだ。
すべては俺の不寛容ゆえに起こったことだ。今後はこのようなことが起こらないよう、誰に対しても公平な態度で臨むよう、心がけるつもりだ。以上」「と言いたいところやけども」
ハンが話を締めようとしたところで、エリザが口を挟んできた。
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