「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・決意伝 5
神様たちの話、第305話。
Off the Wall。
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5.
額を押さえ、唖然とした顔を向けるハンに、エリザがまくし立てる。
「グダグダグダグダと、ぼんやりした話しくさりよって。なーにが『班員が』『殿下が』や。大事なトコぼやかしてもったいぶって、偉そうな口ぶりでしょうもない話しよる方がよっぽど恥ずかしいで? 見てみいや、みんなの顔。『何言うてんねんコイツ』思とる顔しとるやないの」
エリザはハンに背を向け、兵士たちに目をやりながら、こう続ける。
「『意固地になってしくじりました』? そんなもん、みんな知っとるわ。いつものコトやからな。ソレで反省しますーっちゅうのんも当たり前の話やないの。失敗したヤツが反省せんでどないすんねん。みんな分かっとるコト、当たり前のコトをさも大事な話打ち明けますみたいに、べちゃくちゃべちゃくちゃと……。
みんなが聞きたいんは、そんなコトちゃうな? 要は『遠征隊隊長殿』や無く、この『ハンニバル・シモン』っちゅう一人のオトコが、一体何をどうしたいんかっちゅう話の方が1000倍、直に聞いてみたいコトやんな?」
エリザの問いかけに、兵士たちのあちこちで、うなずく者が現れる。
「な? みんな聞きたいんはソコや。もう騒ぎやなんやとか、誰が悪かったとか、そんなんはどうでもええコトや。そんなん振り返って繰り返し繰り返し話しても、何の足しにもならん。もっと大事なコト言わなアカンやろ? みんなが聞きたいっちゅうコトを懇切丁寧に、真剣に、真面目に、心を込めて」
くる、と振り返り、エリザはハンの目を見据えた。
「はっきりと、ココでしゃべりよし」
「……」
ハンののどが、ごく、と動く。
「その、……俺は、その」
「まずアンタは何したいんや? 今から皇帝倒しに行くでオラァ、ってだけや無いやろ? 倒しておしまいか?」
「それだけでは、ありません」
「せやな? アンタの、一番の目的は何や? 皇帝を倒すコトでもあらへん。帝国を潰すコトでもあらへん。ましてや、戦果を上げて故郷に凱旋するコトでもあらへんやろ? ほんなら今一番、アンタがやりたいコトは何や?」
「……クーを、救うことです」
「ソレはなんでや? 今朝までいがみ合うてた相手やろ?」
「それは、……エリザさんが仰った通り、俺が意固地になったせいです。元より彼女のことは、……そこまで憎いなんて思ってはいません。むしろ、好意的に、と言うか、……その、憎からず、いや、……」
言葉が途切れ、ハンはとても困ったような顔を、エリザに見せた。
「俺は何故、素直になれないんでしょうね、エリザさん」
「アンタの心ん中に溝やら柵やら壁やらが、仰山あるからや。二重、三重に自分のコト守ろう守ろうとするせいで、ひとつのコトしゃべろうとする度、ふたつもみっつも余計な言葉足して、本心をごまかそうとしとんねん。でもなアンタ、その壁で今まで自分を守ってきたつもりやろけども、結局その壁のせいで、いっつも揉め事起こしてるやないの。ほんならいっぺん、そんな邪魔なもん取っ払ってみいや」
「……はい」
ハンはすう、と深呼吸し、もう一度皆の方を向いた。
「正直に言う。変なごまかしはもうしない。俺は、……俺は、クーのことが好きだ。ずっと前から、好きだったんだ。
だけど俺のこの面倒な性格のせいで、いつも距離を置こう、遠ざけようとしてばかりだった。そのせいでクーを怒らせたり、泣かせたりして、……本当に、これじゃただの嫌な奴だ。その挙句、クーを一人にさせて、そのせいで皇帝にさらわれるなんてな。俺は今、心の底から、自分のバカさ加減に呆れ返っている。本当に、本当に情けなくて仕方無い。だから今はただ、素直に、クーのことを助けたい。助けて、今までのことをすべて、謝りたいんだ。
本当に、正直に言ってしまえば、皇帝なんかどうだっていい。俺にはクーの方が、……100000000倍大事なんだ!」
「ふっ、アハハ、1億かー、さよかー」
ハンの告白を聞いた途端、エリザはゲラゲラ笑い出した。
「よお言うた。よお頑張ったわ。うんうん、1億はどんな思いにも敵わへんな。……ま、そう言うワケや、みんな。ろくに見たコトも無い皇帝をどうこうなんかより、お姫様助けるっちゅう目的の方が、よっぽど納得行くやろ? そう言うワケやから、みんな気張りよし。
ほな今度こそ、以上や。すぐ出撃やで」
エリザの締めの言葉に、兵士たちは一斉に、使命感を帯びた顔つきで敬礼を返した。
壇上から降りた途端、ハンは城の壁に顔を向け、そのまま固まってしまった。
「……言ってしまった」
「お疲れ様でーす」
マリアがニヤニヤと笑みを浮かべながら声をかけたが、ハンは応じない。
「言うに事欠いて、あんな個人的なことを公の場で叫ぶなんて……」
「結局、ソレが一番やったやろ?」
ハンの肩を、エリザがぽんぽんと叩く。
「ごまかしてソレっぽいキレイゴト並べて取り繕うより、素直にやりたいコト言うた方がみんな納得するわ。結局、素直が一番やで。さ、いつまでも壁とおしゃべりしてへんと、進軍の音頭取りいや。遠征隊隊長殿のお仕事やで」
「……そ、そうですね。では」
まだカクカクとした足取りながらも、ハンは先頭に向かって行った。
琥珀暁・決意伝 終
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額を押さえ、唖然とした顔を向けるハンに、エリザがまくし立てる。
「グダグダグダグダと、ぼんやりした話しくさりよって。なーにが『班員が』『殿下が』や。大事なトコぼやかしてもったいぶって、偉そうな口ぶりでしょうもない話しよる方がよっぽど恥ずかしいで? 見てみいや、みんなの顔。『何言うてんねんコイツ』思とる顔しとるやないの」
エリザはハンに背を向け、兵士たちに目をやりながら、こう続ける。
「『意固地になってしくじりました』? そんなもん、みんな知っとるわ。いつものコトやからな。ソレで反省しますーっちゅうのんも当たり前の話やないの。失敗したヤツが反省せんでどないすんねん。みんな分かっとるコト、当たり前のコトをさも大事な話打ち明けますみたいに、べちゃくちゃべちゃくちゃと……。
みんなが聞きたいんは、そんなコトちゃうな? 要は『遠征隊隊長殿』や無く、この『ハンニバル・シモン』っちゅう一人のオトコが、一体何をどうしたいんかっちゅう話の方が1000倍、直に聞いてみたいコトやんな?」
エリザの問いかけに、兵士たちのあちこちで、うなずく者が現れる。
「な? みんな聞きたいんはソコや。もう騒ぎやなんやとか、誰が悪かったとか、そんなんはどうでもええコトや。そんなん振り返って繰り返し繰り返し話しても、何の足しにもならん。もっと大事なコト言わなアカンやろ? みんなが聞きたいっちゅうコトを懇切丁寧に、真剣に、真面目に、心を込めて」
くる、と振り返り、エリザはハンの目を見据えた。
「はっきりと、ココでしゃべりよし」
「……」
ハンののどが、ごく、と動く。
「その、……俺は、その」
「まずアンタは何したいんや? 今から皇帝倒しに行くでオラァ、ってだけや無いやろ? 倒しておしまいか?」
「それだけでは、ありません」
「せやな? アンタの、一番の目的は何や? 皇帝を倒すコトでもあらへん。帝国を潰すコトでもあらへん。ましてや、戦果を上げて故郷に凱旋するコトでもあらへんやろ? ほんなら今一番、アンタがやりたいコトは何や?」
「……クーを、救うことです」
「ソレはなんでや? 今朝までいがみ合うてた相手やろ?」
「それは、……エリザさんが仰った通り、俺が意固地になったせいです。元より彼女のことは、……そこまで憎いなんて思ってはいません。むしろ、好意的に、と言うか、……その、憎からず、いや、……」
言葉が途切れ、ハンはとても困ったような顔を、エリザに見せた。
「俺は何故、素直になれないんでしょうね、エリザさん」
「アンタの心ん中に溝やら柵やら壁やらが、仰山あるからや。二重、三重に自分のコト守ろう守ろうとするせいで、ひとつのコトしゃべろうとする度、ふたつもみっつも余計な言葉足して、本心をごまかそうとしとんねん。でもなアンタ、その壁で今まで自分を守ってきたつもりやろけども、結局その壁のせいで、いっつも揉め事起こしてるやないの。ほんならいっぺん、そんな邪魔なもん取っ払ってみいや」
「……はい」
ハンはすう、と深呼吸し、もう一度皆の方を向いた。
「正直に言う。変なごまかしはもうしない。俺は、……俺は、クーのことが好きだ。ずっと前から、好きだったんだ。
だけど俺のこの面倒な性格のせいで、いつも距離を置こう、遠ざけようとしてばかりだった。そのせいでクーを怒らせたり、泣かせたりして、……本当に、これじゃただの嫌な奴だ。その挙句、クーを一人にさせて、そのせいで皇帝にさらわれるなんてな。俺は今、心の底から、自分のバカさ加減に呆れ返っている。本当に、本当に情けなくて仕方無い。だから今はただ、素直に、クーのことを助けたい。助けて、今までのことをすべて、謝りたいんだ。
本当に、正直に言ってしまえば、皇帝なんかどうだっていい。俺にはクーの方が、……100000000倍大事なんだ!」
「ふっ、アハハ、1億かー、さよかー」
ハンの告白を聞いた途端、エリザはゲラゲラ笑い出した。
「よお言うた。よお頑張ったわ。うんうん、1億はどんな思いにも敵わへんな。……ま、そう言うワケや、みんな。ろくに見たコトも無い皇帝をどうこうなんかより、お姫様助けるっちゅう目的の方が、よっぽど納得行くやろ? そう言うワケやから、みんな気張りよし。
ほな今度こそ、以上や。すぐ出撃やで」
エリザの締めの言葉に、兵士たちは一斉に、使命感を帯びた顔つきで敬礼を返した。
壇上から降りた途端、ハンは城の壁に顔を向け、そのまま固まってしまった。
「……言ってしまった」
「お疲れ様でーす」
マリアがニヤニヤと笑みを浮かべながら声をかけたが、ハンは応じない。
「言うに事欠いて、あんな個人的なことを公の場で叫ぶなんて……」
「結局、ソレが一番やったやろ?」
ハンの肩を、エリザがぽんぽんと叩く。
「ごまかしてソレっぽいキレイゴト並べて取り繕うより、素直にやりたいコト言うた方がみんな納得するわ。結局、素直が一番やで。さ、いつまでも壁とおしゃべりしてへんと、進軍の音頭取りいや。遠征隊隊長殿のお仕事やで」
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