「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・北征伝 1
神様たちの話、第306話。
久々のシモン班集合。
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1.
皇帝討伐、いや、クー救出を目的として行軍を開始した遠征隊は、まずは沿岸部の隣国、ノルド王国へ到着した。
「事情は聞いておる。我が国も協力は惜しまん。……と言っても軍備はいつもの如くすっからかん同然であるので、せいぜい人的援助、兵士200名程度でしかないが」
「いえ、大変ありがたい申し出です。ご厚意、痛み入ります」
堅い挨拶を交わし、ハンが頭を下げたところで、ノルド王はニヤニヤとした笑みを向けて来た。
「して、隊長殿」
「はい」
「壮行演説の内容、わしも聞き及んでおるよ」
「……はい?」
「『姫を救う方が1億倍大事だ』、と。なかなか感動的ではないか。漢を見せたのう」
「きょ、恐縮至極です」
ハンは顔を真っ赤にし、もう一度頭を下げた。
「行く先々でこんな風にいじられてはたまらない。やってしまったよ、本当に……」
一通りの話し合いを終え、その日の宿を取ったところで、ハンは班の皆の前で頭を抱えてテーブルに突っ伏した。ちなみにマリアが言っていた通り、メリーはこの国に出張していたため、班員が全員揃うのは約半月ぶりとなった。
「あの、本当に、お疲れ様です。どうぞ、お酒です」
そのメリー本人が、どことなく困った様子でハンに酌をする。
「いや」
と、ハンは進められた杯を押し返す。
「クーを救うまで、酒は呑まんと決めた。一々体調を崩してられないしな」
「すみません、差し出がましいことを……」
「いや、いいんだ。誰にもまだ、伝えていなかったからな。……その、それで、だ」
ハンは姿勢を正し、メリーに向き直った。
「グリーンプールで騒動が起きていたことは、君も聞いていただろう? その原因も、恐らくは」
「はい。尉官とクーちゃん、……いえ、殿下がわたしの処遇をめぐって対立したことが原因だと。本当に、申し訳ありません」
メリーに謝られ、ハンはぎょっとした顔をした。
「なんで君が謝る?」
「わたしのせいですから」
「いや、そうじゃない。君は何も悪くない。俺がクーの言葉を悪い方に受け止めてしまったせいだ。最初から俺が、どんな時も素直に行動していれば、こんなことにはならなかったんだから」
「でも……」
「そもそも、それについて、君に謝らなくちゃならないことがある」
ハンの言葉に、メリーはきょとんとする。
「えっ? えーと、……わたしにですか?」
「俺がこんな性格だから、君に直接言い寄ったりはしなかったが、でも多分、俺が君と付き合いたいと考えていたと言うようなことは、君も勘付いていたかも知れない。だけど、それは結局『逃げ』だったんだ。クーとの関係をはっきりさせたくなかったってだけの、くだらない理由で、君に多大な迷惑をかけてしまった。誠心誠意、それを謝りたい。本当に済まなかった」
「はあ、……えーと、はい」
メリーは終始困った顔のまま、ハンの謝罪を聞いていた。と、その様子を眺めていたビートとマリアが、耳打ちし合う。
(まさかと思いますけど、もしかしてメリーさんは尉官の気持ちに気付いてなかったんじゃないでしょうか?)
(まさかとは思うけどねー。でもあの様子だと、マジで気付いてなかったっぽいよ)
(ですよね。どう見たって、『自分がそんな対象に見られてたなんて思っても見なかった』って言いたそうな顔ですし)
(そんなんで『お前にコクろうとしてたけどやめた』なーんて言われても、そりゃぽかんとするよねー)
(こんな言い方したら失礼ですけど、メリーさんって、何と言うかその、すごくニブい人なんじゃないかって。案外、マリアさんの口実だって、本当に軍務上の理由だと受け止めてたのかも知れませんよ)
(あたしがこっちに行かせたアレ? まさかぁ。いくら何でも……)
(でも合流した第一声が、『お久しぶりです。こちらでの調査結果を報告します』でしたよ? そもそも騒動の原因を本当に分かってたら、いきなり尉官本人に話しかけませんって)
まだ困った顔で固まっているメリーの様子を見て、二人は再び顔を見合わせた。
(……マジっぽいね)
(でしょう?)
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久々のシモン班集合。
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皇帝討伐、いや、クー救出を目的として行軍を開始した遠征隊は、まずは沿岸部の隣国、ノルド王国へ到着した。
「事情は聞いておる。我が国も協力は惜しまん。……と言っても軍備はいつもの如くすっからかん同然であるので、せいぜい人的援助、兵士200名程度でしかないが」
「いえ、大変ありがたい申し出です。ご厚意、痛み入ります」
堅い挨拶を交わし、ハンが頭を下げたところで、ノルド王はニヤニヤとした笑みを向けて来た。
「して、隊長殿」
「はい」
「壮行演説の内容、わしも聞き及んでおるよ」
「……はい?」
「『姫を救う方が1億倍大事だ』、と。なかなか感動的ではないか。漢を見せたのう」
「きょ、恐縮至極です」
ハンは顔を真っ赤にし、もう一度頭を下げた。
「行く先々でこんな風にいじられてはたまらない。やってしまったよ、本当に……」
一通りの話し合いを終え、その日の宿を取ったところで、ハンは班の皆の前で頭を抱えてテーブルに突っ伏した。ちなみにマリアが言っていた通り、メリーはこの国に出張していたため、班員が全員揃うのは約半月ぶりとなった。
「あの、本当に、お疲れ様です。どうぞ、お酒です」
そのメリー本人が、どことなく困った様子でハンに酌をする。
「いや」
と、ハンは進められた杯を押し返す。
「クーを救うまで、酒は呑まんと決めた。一々体調を崩してられないしな」
「すみません、差し出がましいことを……」
「いや、いいんだ。誰にもまだ、伝えていなかったからな。……その、それで、だ」
ハンは姿勢を正し、メリーに向き直った。
「グリーンプールで騒動が起きていたことは、君も聞いていただろう? その原因も、恐らくは」
「はい。尉官とクーちゃん、……いえ、殿下がわたしの処遇をめぐって対立したことが原因だと。本当に、申し訳ありません」
メリーに謝られ、ハンはぎょっとした顔をした。
「なんで君が謝る?」
「わたしのせいですから」
「いや、そうじゃない。君は何も悪くない。俺がクーの言葉を悪い方に受け止めてしまったせいだ。最初から俺が、どんな時も素直に行動していれば、こんなことにはならなかったんだから」
「でも……」
「そもそも、それについて、君に謝らなくちゃならないことがある」
ハンの言葉に、メリーはきょとんとする。
「えっ? えーと、……わたしにですか?」
「俺がこんな性格だから、君に直接言い寄ったりはしなかったが、でも多分、俺が君と付き合いたいと考えていたと言うようなことは、君も勘付いていたかも知れない。だけど、それは結局『逃げ』だったんだ。クーとの関係をはっきりさせたくなかったってだけの、くだらない理由で、君に多大な迷惑をかけてしまった。誠心誠意、それを謝りたい。本当に済まなかった」
「はあ、……えーと、はい」
メリーは終始困った顔のまま、ハンの謝罪を聞いていた。と、その様子を眺めていたビートとマリアが、耳打ちし合う。
(まさかと思いますけど、もしかしてメリーさんは尉官の気持ちに気付いてなかったんじゃないでしょうか?)
(まさかとは思うけどねー。でもあの様子だと、マジで気付いてなかったっぽいよ)
(ですよね。どう見たって、『自分がそんな対象に見られてたなんて思っても見なかった』って言いたそうな顔ですし)
(そんなんで『お前にコクろうとしてたけどやめた』なーんて言われても、そりゃぽかんとするよねー)
(こんな言い方したら失礼ですけど、メリーさんって、何と言うかその、すごくニブい人なんじゃないかって。案外、マリアさんの口実だって、本当に軍務上の理由だと受け止めてたのかも知れませんよ)
(あたしがこっちに行かせたアレ? まさかぁ。いくら何でも……)
(でも合流した第一声が、『お久しぶりです。こちらでの調査結果を報告します』でしたよ? そもそも騒動の原因を本当に分かってたら、いきなり尉官本人に話しかけませんって)
まだ困った顔で固まっているメリーの様子を見て、二人は再び顔を見合わせた。
(……マジっぽいね)
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