「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・北征伝 2
神様たちの話、第307話。
皇帝の謎。
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2.
遠征隊の進軍は一気呵成かつ一直線に帝国まで突き進むようなことはせず、これまで友好関係を築いてきた各国、各拠点に前後しつつ立ち寄る形で進められていた。
理由の一つは、戦力の増強である。遠征隊の兵力は1000名であるが、これまでのエリザの調査から、帝国本軍及び東山間部の配下国を合わせたそれは、3000名を超えることが予想されている。そのまままともにぶつかることがあっては返り討ちに遭うことは明白であるため、友好国と連携を取り兵力を拡大することが提案・採択された。
「ココも皇帝さんの襲撃はされてへんっぽいな」
「そのようですね」
そしてもう一つは、皇帝の襲撃がどこから来るか予想できるものではなく、直線的な進軍では進路を読まれ強襲されるおそれがあると警戒してのことである。
「ま、そうは言うてもあんまり気にはしてへんっちゅうのんが、正直なトコやねんけどな」
西山間部のある街を一通り視察して回ったところで、エリザがそんなことを言い出した。帯同していたハンは当然目を丸くし、その真意を問う。
「どう言うことです? 皇帝のあの異能は、どう考えても脅威でしょう? それとも実際に一戦交えてみて、相手にならないと判断したと言うことですか?」
「や、そうや無くてな。その脅威の『術』そのものが、多分使おうにも使えへんのとちゃうかなって」
エリザの返事に、ハンは首をかしげた。
「術? あれはやはり、魔術であると?」
「可能性は大やな。自分でも言うてはったやろ、『今日まで飛べへんかったんは』て」
「言ってましたね。では、あれは本当に、エリザさんが何か仕掛けていたと?」
「期せずしてっちゅう感じでやけどな」
エリザは魔杖をひょいと掲げ、空中にくるくると輪を描きながら説明する。
「そもそもな、アンタとクーちゃんがケンカしとったやろ? アレがこじれて、本土にヘンな連絡されたらかなわんなー思て、ビートくんに妨害術を仕掛けてもろてたワケやけども、その影響で皇帝さん、クラム王国に来られへんくなっとったんやないやろか」
「ふむ……?」
「その証拠に、アタシが帰って来たその日――ビートくんに頼んでた妨害術止めたその途端に、皇帝さんがいきなり現れよったやろ? しかも中庭のド真ん中、アタシらが話し合いしとる、その目の前にやで。強襲や暗殺やっちゅうんやったら、こっそり忍び込まな話にならんやないの。しかも現れたその瞬間、相手も『なんでやねん』みたいな顔しとったし」
「確かに。何と言うか、相手も予期していなかったような様子でしたね」
「アレは傑作やったなぁ」
揃ってクスクスと笑いながら、二人は話を続ける。
「多分アレな、何回かこっち来ようとしてはいたんやろ。でも何べんやっても上手く行かへんから、しまいには『一日一回くらいは試すだけ試しとこか』くらいになっとったんかもな。そしたらいきなり飛べてしもたから、あっちもアワ食ったんやろな」
「辻褄は合いますね。しかしそれだと結局、グリーンプール以外では強襲の危険があると言うことになるのでは?」
「ソレなんやけどな」
エリザは杖の先を空に向けたり、肩に掛けたりと、手持ち無沙汰な様子を見せつつ、話を続ける。
「ミェーチ砦が壊滅したっちゅう話もしてたやん? アレでな、リディアちゃん――シェロくんの奥さんも保護して、近くの村に泊まらせるコトにしてんな。ほんであの娘にも元々、ゼロさんとかの連絡先教えてたんやけど、もしあのタイミングで連絡されたらややこしいコトになるかも分からんと思てな。丁稚のユーリくんに妨害術仕掛けとくよう頼んでてん。
で、後で状況聞いたら、ソレ以来襲撃やら何やらは、自分トコでは起きてへんて言うてたんよ。他の街はちょくちょく現れた、襲われたっちゅう報告もあった割にな」
「妨害術の効果らしきものが、結果的に確認できたわけですね」
「ちゅうワケで、ユーリくんには引き続き妨害術を仕掛けてもろとるし、他のトコにも、アタシの店の子通じて術掛けといてって連絡したんよ。勿論、ココでもな」
「なるほど。その効果が確かであるならば、皇帝の襲撃は防げると言うわけですか」
「そう言うこっちゃ。で、もしかしたらなんやけど」
魔杖をいじることにも飽きたらしく、エリザは胸元から煙管を取り出す。
「コレが皇帝さん、と言うか帝国軍の足止めになるかも知れへんで」
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皇帝の謎。
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遠征隊の進軍は一気呵成かつ一直線に帝国まで突き進むようなことはせず、これまで友好関係を築いてきた各国、各拠点に前後しつつ立ち寄る形で進められていた。
理由の一つは、戦力の増強である。遠征隊の兵力は1000名であるが、これまでのエリザの調査から、帝国本軍及び東山間部の配下国を合わせたそれは、3000名を超えることが予想されている。そのまままともにぶつかることがあっては返り討ちに遭うことは明白であるため、友好国と連携を取り兵力を拡大することが提案・採択された。
「ココも皇帝さんの襲撃はされてへんっぽいな」
「そのようですね」
そしてもう一つは、皇帝の襲撃がどこから来るか予想できるものではなく、直線的な進軍では進路を読まれ強襲されるおそれがあると警戒してのことである。
「ま、そうは言うてもあんまり気にはしてへんっちゅうのんが、正直なトコやねんけどな」
西山間部のある街を一通り視察して回ったところで、エリザがそんなことを言い出した。帯同していたハンは当然目を丸くし、その真意を問う。
「どう言うことです? 皇帝のあの異能は、どう考えても脅威でしょう? それとも実際に一戦交えてみて、相手にならないと判断したと言うことですか?」
「や、そうや無くてな。その脅威の『術』そのものが、多分使おうにも使えへんのとちゃうかなって」
エリザの返事に、ハンは首をかしげた。
「術? あれはやはり、魔術であると?」
「可能性は大やな。自分でも言うてはったやろ、『今日まで飛べへんかったんは』て」
「言ってましたね。では、あれは本当に、エリザさんが何か仕掛けていたと?」
「期せずしてっちゅう感じでやけどな」
エリザは魔杖をひょいと掲げ、空中にくるくると輪を描きながら説明する。
「そもそもな、アンタとクーちゃんがケンカしとったやろ? アレがこじれて、本土にヘンな連絡されたらかなわんなー思て、ビートくんに妨害術を仕掛けてもろてたワケやけども、その影響で皇帝さん、クラム王国に来られへんくなっとったんやないやろか」
「ふむ……?」
「その証拠に、アタシが帰って来たその日――ビートくんに頼んでた妨害術止めたその途端に、皇帝さんがいきなり現れよったやろ? しかも中庭のド真ん中、アタシらが話し合いしとる、その目の前にやで。強襲や暗殺やっちゅうんやったら、こっそり忍び込まな話にならんやないの。しかも現れたその瞬間、相手も『なんでやねん』みたいな顔しとったし」
「確かに。何と言うか、相手も予期していなかったような様子でしたね」
「アレは傑作やったなぁ」
揃ってクスクスと笑いながら、二人は話を続ける。
「多分アレな、何回かこっち来ようとしてはいたんやろ。でも何べんやっても上手く行かへんから、しまいには『一日一回くらいは試すだけ試しとこか』くらいになっとったんかもな。そしたらいきなり飛べてしもたから、あっちもアワ食ったんやろな」
「辻褄は合いますね。しかしそれだと結局、グリーンプール以外では強襲の危険があると言うことになるのでは?」
「ソレなんやけどな」
エリザは杖の先を空に向けたり、肩に掛けたりと、手持ち無沙汰な様子を見せつつ、話を続ける。
「ミェーチ砦が壊滅したっちゅう話もしてたやん? アレでな、リディアちゃん――シェロくんの奥さんも保護して、近くの村に泊まらせるコトにしてんな。ほんであの娘にも元々、ゼロさんとかの連絡先教えてたんやけど、もしあのタイミングで連絡されたらややこしいコトになるかも分からんと思てな。丁稚のユーリくんに妨害術仕掛けとくよう頼んでてん。
で、後で状況聞いたら、ソレ以来襲撃やら何やらは、自分トコでは起きてへんて言うてたんよ。他の街はちょくちょく現れた、襲われたっちゅう報告もあった割にな」
「妨害術の効果らしきものが、結果的に確認できたわけですね」
「ちゅうワケで、ユーリくんには引き続き妨害術を仕掛けてもろとるし、他のトコにも、アタシの店の子通じて術掛けといてって連絡したんよ。勿論、ココでもな」
「なるほど。その効果が確かであるならば、皇帝の襲撃は防げると言うわけですか」
「そう言うこっちゃ。で、もしかしたらなんやけど」
魔杖をいじることにも飽きたらしく、エリザは胸元から煙管を取り出す。
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