「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・北征伝 3
神様たちの話、第308話。
一本槍戦法のデメリット。
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3.
「足止め?」
「せや」
エリザは煙管に火を点けつつ、相手についての予測を語った。
「突然敵の陣地のド真ん中に入り込んで引っ掻き回し、ガチガチに守られとるはずのトップをあっさり狩る。ソレが相手の――皇帝さんの基本戦術やろ。そしてソレが、『皇帝に対する恐怖と無力感を与えて従わせる』っちゅう戦略にもつながるワケや。逆に言うたら、その戦略を成立させるためには、皇帝さんが一人で乗り込まなアカンっちゅうコトやん?」
「まあ、そうなるでしょうね。仮に軍勢を率いて乗り込んだとすれば、その軍勢全体を恐れこそすれ、一人ひとりに恐怖を感じることは無いでしょう。ましてや皇帝一人を、直接恐れるようなことにはならないでしょうし」
「ほんで皇帝さんは、その戦略一本でこの20年、君臨してきたワケやん? ソレはなんでや?」
「ふむ……」
ハンはあごに手を当て、思案する。
「費用対効果ですか? 集団で動くより一人で動く方がコストがかからないのは道理ですし、それでいて、効果は軍勢を率いるよりも高いとなれば、他の方法を選択する必要は無いのでは」
「ソレもあるやろけども、アタシが言いたいんはソコやなくてな、20年その方法『しか』使わへんのはなんでや、っちゅうトコやねん」
「それも今、俺が言った通りな気がしますね。わざわざ他の方法を考える必要が無かったからじゃないですか?」
「ソレは戦略的に危ないと思わへんか?」
エリザに問い返され、ハンはきょとんとする。
「危ない?」
「例えばや、『ファイアランス』やとか『エクスプロード』やとか、火の術で今まで出て来とったバケモノを瞬殺でけてたとしてや、次に現れたバケモノが、火の一切効かへん相手やったら? その途端に詰むやないの。
一本槍戦法は折れたら後が無いで。武器は2つ、3つ持っとかんと」
「つまり皇帝には、代替案を持っている様子が見られない、と?」
「そう言うこっちゃ。アンタの言う通り、単独潜入が効果的すぎて、他の手段を講じる必要が無かったからやろな。せやから前回飛び込んで来た時も単独潜入でアタシらを討っておしまいにしたかったやろうし、今でもそう思ってはるやろな。でもその方法は今、封じられとる。となれば他の方法を講じなアカン。
封じられとるコトが皇帝さんに分かっとったら、の話やけどな」
エリザの言葉に、ハンはまた「ふむ」とうなる。
「確かに各地で妨害術が展開されているこの状況を、皇帝が把握しているとは思えませんね。皇帝が魔術を使えることは確かとしても、それを部下や臣民に伝授していた節は全く見られませんでしたし、我々のように通信術で連絡を取り合い即時対応すると言うようなことは、到底不可能でしょう」
「せやろ? となると相手には、いきなり瞬間移動がでけへんようになった原因がつかめへんワケや。そらまあ、アタシが何かしらしとると言う予測は立てられるやろうけども、ソレはあくまでも『予測』や。『確信』、『確定』や無い。
人間はどないしても確実や、絶対に間違い無いっちゅう判断がでけへん以上は、『もしかしたら』と期待してまう生き物や。せやから『ホンマに必要か分からへんけど20年頼ってきたやり方通じひんような気ぃするからきっぱり辞めます』なんちゅうブッ飛んだ判断、まともな人間であればあるほど、するワケあらへん。ましてや他に方法を知らんっちゅうのんであれば、尚更や」
「では、皇帝は今後も単独潜入に固執し続け、我々が本当に眼前、帝国首都近辺に迫るまで、他の対策を講じることは全く無いだろう、と?」
「最低でもアタシらが防衛線に到達するまでは、ずーっとウジウジこだわるやろな」
エリザは自信たっぷりに、そう言い切った。
西山間部の西部から中部、そして東部へと移るに伴い、西山間部5ヶ国からもノルド王国と同様に人員や物資の援助を受けたことで、行軍の規模は沿岸部出発時の倍以上、2200名に拡大した。
そしてエリザの予測通り、帝国軍が行軍・戦力増強の妨害や防衛線突破など、積極的に動き出すことは一切無く、遠征隊側は何の懸念もせずに、進攻準備を完全な形で整えることができた。
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一本槍戦法のデメリット。
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「足止め?」
「せや」
エリザは煙管に火を点けつつ、相手についての予測を語った。
「突然敵の陣地のド真ん中に入り込んで引っ掻き回し、ガチガチに守られとるはずのトップをあっさり狩る。ソレが相手の――皇帝さんの基本戦術やろ。そしてソレが、『皇帝に対する恐怖と無力感を与えて従わせる』っちゅう戦略にもつながるワケや。逆に言うたら、その戦略を成立させるためには、皇帝さんが一人で乗り込まなアカンっちゅうコトやん?」
「まあ、そうなるでしょうね。仮に軍勢を率いて乗り込んだとすれば、その軍勢全体を恐れこそすれ、一人ひとりに恐怖を感じることは無いでしょう。ましてや皇帝一人を、直接恐れるようなことにはならないでしょうし」
「ほんで皇帝さんは、その戦略一本でこの20年、君臨してきたワケやん? ソレはなんでや?」
「ふむ……」
ハンはあごに手を当て、思案する。
「費用対効果ですか? 集団で動くより一人で動く方がコストがかからないのは道理ですし、それでいて、効果は軍勢を率いるよりも高いとなれば、他の方法を選択する必要は無いのでは」
「ソレもあるやろけども、アタシが言いたいんはソコやなくてな、20年その方法『しか』使わへんのはなんでや、っちゅうトコやねん」
「それも今、俺が言った通りな気がしますね。わざわざ他の方法を考える必要が無かったからじゃないですか?」
「ソレは戦略的に危ないと思わへんか?」
エリザに問い返され、ハンはきょとんとする。
「危ない?」
「例えばや、『ファイアランス』やとか『エクスプロード』やとか、火の術で今まで出て来とったバケモノを瞬殺でけてたとしてや、次に現れたバケモノが、火の一切効かへん相手やったら? その途端に詰むやないの。
一本槍戦法は折れたら後が無いで。武器は2つ、3つ持っとかんと」
「つまり皇帝には、代替案を持っている様子が見られない、と?」
「そう言うこっちゃ。アンタの言う通り、単独潜入が効果的すぎて、他の手段を講じる必要が無かったからやろな。せやから前回飛び込んで来た時も単独潜入でアタシらを討っておしまいにしたかったやろうし、今でもそう思ってはるやろな。でもその方法は今、封じられとる。となれば他の方法を講じなアカン。
封じられとるコトが皇帝さんに分かっとったら、の話やけどな」
エリザの言葉に、ハンはまた「ふむ」とうなる。
「確かに各地で妨害術が展開されているこの状況を、皇帝が把握しているとは思えませんね。皇帝が魔術を使えることは確かとしても、それを部下や臣民に伝授していた節は全く見られませんでしたし、我々のように通信術で連絡を取り合い即時対応すると言うようなことは、到底不可能でしょう」
「せやろ? となると相手には、いきなり瞬間移動がでけへんようになった原因がつかめへんワケや。そらまあ、アタシが何かしらしとると言う予測は立てられるやろうけども、ソレはあくまでも『予測』や。『確信』、『確定』や無い。
人間はどないしても確実や、絶対に間違い無いっちゅう判断がでけへん以上は、『もしかしたら』と期待してまう生き物や。せやから『ホンマに必要か分からへんけど20年頼ってきたやり方通じひんような気ぃするからきっぱり辞めます』なんちゅうブッ飛んだ判断、まともな人間であればあるほど、するワケあらへん。ましてや他に方法を知らんっちゅうのんであれば、尚更や」
「では、皇帝は今後も単独潜入に固執し続け、我々が本当に眼前、帝国首都近辺に迫るまで、他の対策を講じることは全く無いだろう、と?」
「最低でもアタシらが防衛線に到達するまでは、ずーっとウジウジこだわるやろな」
エリザは自信たっぷりに、そう言い切った。
西山間部の西部から中部、そして東部へと移るに伴い、西山間部5ヶ国からもノルド王国と同様に人員や物資の援助を受けたことで、行軍の規模は沿岸部出発時の倍以上、2200名に拡大した。
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