「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・北征伝 4
神様たちの話、第309話。
彼女の、最後の希望。
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4.
「お久しぶりやね」
「はい……」
西山間部オルトラ王国、その東辺縁に位置する村を、エリザは約1ヶ月ぶりに訪れていた。
「気分はどないや?」
「……あまり」
その村に逗留させ続けていたリディアとも、久々に会ったものの――。
「やつれとるな、随分。ご飯もちゃんと食べてへんのやないか?」
「食欲が無くて……」
「しんどいやろけども、ちゃんと食べや。お腹の子に悪いで」
「……ええ」
場の空気は重く、エリザに随行して来た丁稚たちは揃って、居心地の悪そうな表情を浮かべている。その中で一人、エリザだけは明るく振る舞い、リディアを励まそうとしていた。
「あの」
と、それまでうつむきがちに応じていたリディアが、顔を上げる。
「ん? なんや?」
「ユーリさんから伺いましたが、先生は遠征隊の方たちと共に来られたのですよね?」
「せやで」
「やはり帝国と……?」
「その予定やね」
うなずいたエリザの両腕を、リディアが突然、がばっとつかんだ。
「先生! 駄目です……!」
「な、なんやの」
「父も、シェロも、皇帝に殺されたことをもう、お忘れなんですか!? 戦っては……」
「あー、はいはい」
つかまれたまま、エリザはにこ、と笑って見せる。
「そう言えばリディアちゃん、クラム王国での話聞いてへんのやな」
「え……?」
「皇帝さんな、アタシらの前にも現れたんやけども、その場で追い返したったんよ。アタシが」
「……どう言う意味ですか?」
「言うたまんまや。アタシの首を狩るやのなんやの偉そうなコト抜かしとったけども、ボッコボコにしたったんよ。な、ロウくん」
「あ、はい。オレも一発殴らせてもらったんス」
「え……っと」
エリザとロウの顔を交互に見比べてから、リディアはようやくエリザから手を離す。
「嘘、……ですよね? わたしを安心させようとしてるんですよね?」
「その気持ちは勿論あるけども、そんなんでウソなんか付くかいな。ホンマにソレ目的で何か言うんやったら、『おっさんシバいたった』みたいな辛気臭い話するより、もうちょっと景気のええコト言うわ」
「……本当の話、……なんですか?」
「ホンマや。せやからね」
エリザはリディアの頭を優しく撫でながら、やんわりとした声で話を続ける。
「アンタは何も心配せんで、ココでゆっくりしとき。めんどいコトは全部、アタシらが引き受けたるから」
「……」
リディアは無言で、こくんとうなずいた。
「ほなもうちょっと、ココにおってや。帝国さんやっつけたら、戻って来るからな」
「……はい」
エリザもこれ以上は彼女の雰囲気を良くできそうには無いと判断し、そこで話を切り上げようと、腰を上げかけた。
「ほな、また……」「あの」
と、リディアがもう一度、エリザの手を引く。
「おん?」
「お願いがあるんです」
「ん、何や? 何でも言うてみ」
「……あの、今、ミェーチ軍団は、指揮権と言うか、動かす権限と言うか、そう言うようなものを、父もシェロももういないので、……わたしが、持っています。でも、わたしに動かせるような能力も、勇気もありません。ですので、先生、……どうか、わたしの代わりに、軍団を率いていただけませんか?」
「あー、はいはい」
エリザはもう一度座り直し、リディアに深くうなずいて返した。
「ええよ。とりあえず、遠征隊に参加させるわ。みんなこっち来てはるんかな?」
「はい。半数は防衛線に残っていますが、もう半分は」
「よっしゃ、ほな声掛けてくるわ。後のコトはみんな、アタシに任しとき」
「はい。お願いします」
こうして生き残っていたミェーチ砦の兵たちも遠征隊に加わることとなり、その兵力は2500名にも上った。
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彼女の、最後の希望。
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4.
「お久しぶりやね」
「はい……」
西山間部オルトラ王国、その東辺縁に位置する村を、エリザは約1ヶ月ぶりに訪れていた。
「気分はどないや?」
「……あまり」
その村に逗留させ続けていたリディアとも、久々に会ったものの――。
「やつれとるな、随分。ご飯もちゃんと食べてへんのやないか?」
「食欲が無くて……」
「しんどいやろけども、ちゃんと食べや。お腹の子に悪いで」
「……ええ」
場の空気は重く、エリザに随行して来た丁稚たちは揃って、居心地の悪そうな表情を浮かべている。その中で一人、エリザだけは明るく振る舞い、リディアを励まそうとしていた。
「あの」
と、それまでうつむきがちに応じていたリディアが、顔を上げる。
「ん? なんや?」
「ユーリさんから伺いましたが、先生は遠征隊の方たちと共に来られたのですよね?」
「せやで」
「やはり帝国と……?」
「その予定やね」
うなずいたエリザの両腕を、リディアが突然、がばっとつかんだ。
「先生! 駄目です……!」
「な、なんやの」
「父も、シェロも、皇帝に殺されたことをもう、お忘れなんですか!? 戦っては……」
「あー、はいはい」
つかまれたまま、エリザはにこ、と笑って見せる。
「そう言えばリディアちゃん、クラム王国での話聞いてへんのやな」
「え……?」
「皇帝さんな、アタシらの前にも現れたんやけども、その場で追い返したったんよ。アタシが」
「……どう言う意味ですか?」
「言うたまんまや。アタシの首を狩るやのなんやの偉そうなコト抜かしとったけども、ボッコボコにしたったんよ。な、ロウくん」
「あ、はい。オレも一発殴らせてもらったんス」
「え……っと」
エリザとロウの顔を交互に見比べてから、リディアはようやくエリザから手を離す。
「嘘、……ですよね? わたしを安心させようとしてるんですよね?」
「その気持ちは勿論あるけども、そんなんでウソなんか付くかいな。ホンマにソレ目的で何か言うんやったら、『おっさんシバいたった』みたいな辛気臭い話するより、もうちょっと景気のええコト言うわ」
「……本当の話、……なんですか?」
「ホンマや。せやからね」
エリザはリディアの頭を優しく撫でながら、やんわりとした声で話を続ける。
「アンタは何も心配せんで、ココでゆっくりしとき。めんどいコトは全部、アタシらが引き受けたるから」
「……」
リディアは無言で、こくんとうなずいた。
「ほなもうちょっと、ココにおってや。帝国さんやっつけたら、戻って来るからな」
「……はい」
エリザもこれ以上は彼女の雰囲気を良くできそうには無いと判断し、そこで話を切り上げようと、腰を上げかけた。
「ほな、また……」「あの」
と、リディアがもう一度、エリザの手を引く。
「おん?」
「お願いがあるんです」
「ん、何や? 何でも言うてみ」
「……あの、今、ミェーチ軍団は、指揮権と言うか、動かす権限と言うか、そう言うようなものを、父もシェロももういないので、……わたしが、持っています。でも、わたしに動かせるような能力も、勇気もありません。ですので、先生、……どうか、わたしの代わりに、軍団を率いていただけませんか?」
「あー、はいはい」
エリザはもう一度座り直し、リディアに深くうなずいて返した。
「ええよ。とりあえず、遠征隊に参加させるわ。みんなこっち来てはるんかな?」
「はい。半数は防衛線に残っていますが、もう半分は」
「よっしゃ、ほな声掛けてくるわ。後のコトはみんな、アタシに任しとき」
「はい。お願いします」
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