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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第6部

    琥珀暁・北征伝 5

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    神様たちの話、第310話。
    決戦の舞台へ。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     双月暦25年7月、遠征隊はついに山間部の東西結節点、ゼルカノゼロ塩湖南岸の前線基地に到着した。
    「お待ちしておりました、女将さん! ……と、隊長どの!」
     防衛線を守っていた兵士に出迎えられ、ハンは――表情には出さないものの――どことなく憮然とした様子で応じる。
    「俺が隊長のハンニバル・シモンだ。正式な軍事的通達・連絡は俺が受け持つ。状況はどうなっている?」
    「あ、はい。現在、帝国軍の動きはほぼ見られません。防衛線の付近を何度か、斥候がうろついていた程度です」
    「まだ見付かるような偵察体制のままなのか。学習の気配が全く見られないな。……と、そうだ」
     ハンは塩湖の方に一瞬目をやり、兵士に向き直る。
    「一つ聞いておきたいんだが、この湖は塩湖だそうだな?」
    「はい。山間部における塩の供給源となっています」
    「この湖の深さは? 人が渡ることは可能なのか?」
    「不可能です」
     断言され、ハンはもう一度塩湖を確認する。
    「あれは塩田だな? ここから見る限りでは、人が入っているようだが……?」
    「確かに湖沿岸は浅瀬ですが、奥へ進むと我々の身長の2倍、3倍以上も深くなります」
     自分の虎耳の上を手で指し示した兵士の頭を眺めつつ、ハンはざっくり計算する。
    「となると5~6メートルと言ったところか。重装備で泳いで渡るのは難しいだろうな。しかしここは寒冷地だろう? 凍ってしまえばその上を……」
    「無理です。塩水が濃いせいで、真冬でも薄く氷が張るか張らないかと言った程度ですし、ましてや今は夏ですから。あ、ちなみに舟で渡るのも難しいです」
    「何故だ?」
    「浮力が強すぎて、簡単に転覆するからです。一度、殿と若が連れ立って試されたことがありましたが、岸を離れてすぐ、揃って舟から投げ出され、一晩悶絶しておりました」
    「殿と若、……と言うと、ミェーチ王とシェロか。シェロは60キロ半ばだったし、ミェーチ王は……あの見た目からして、120キロは超えていただろう。舟自体と装備も含めれば250キロ以上はあっただろうが、……それが簡単に転覆、か。なるほど、確かに難しそうだ。
     一人ずつ舟に乗れば、何とか制御できるかも知れんが……」
    「そら無いな」
     エリザも湖に目をやりつつ、口を挟む。
    「一人ひとりでえっちらおっちらフヨフヨ~っと近付いて来たら、格好のマトになるんは目に見えとるからな。岸から矢ぁ射掛けられておしまいや」
    「確かに。では湖からの襲撃については、考える必要は無さそうですね。北岸は崖ですし」
    「この南岸の道が今んトコ、山間部の東西を結ぶ唯一のルートっちゅうワケや。ひいてはこのルートを守り切れるかどうかが、この戦いの分岐点にもなるっちゅうこっちゃ」
    「とは言え、そのルートを破ろうとしてくる相手が未だ現れないのでは、対策の取りようが無いでしょう」
     ハンの言葉に、エリザは肩をすくめて返す。
    「ま、ボチボチ動くやろ。なんぼなんでも、アタシらが着いたっちゅうコトは斥候さんらも確認でけはるやろし、ココまで来たらええ加減動かな、皇帝さんも本国でナメられてまうわ」
    「ふむ」
    「対策取るんはその後からでええやろ。少なくとも妨害術のおかげで防衛線のこっち側にいきなり来るっちゅうコトは無いやろし、ましてや魔術無しで2000人以上を相手しようなんて、そんなもん自殺と一緒や。流石に皇帝さんもそんなアホとちゃうやろ」
    「では、相手は軍で動くと?」
    「ココまで来たら、ええ加減踏ん切りも付くやろ。言うたら皇帝さんにとっては、『司令官としての』初陣になるな」
     その言い回しに、ハンはまた、「ふむ」とうなった。
    「となれば、こちらに相当有利となりそうですね。こちらは軍としての経験も豊富ですし、エリザさんの知恵もありますし」
    「お、頼りにしてくれとるんか?」
     ニヤニヤと笑って見せたエリザに、ハンも苦笑して返した。
    「ええ、何かと」

    琥珀暁・北征伝 終
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