「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・湖戦伝 1
神様たちの話、第311話。
ブリーフィング。
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1.
これもエリザの読み通りとなったが――遠征隊が防衛線に到着して5日後、帝国軍が防衛線から東南東に10キロ強の地点に陣取ったことが、遠征隊側の斥候によって確認された。
「とは言え、士気は低いっちゅう話やったな」
「ええ。一様に怯えた様子であったと」
斥候からの報告を受け、エリザとハン、そしてイサコをはじめとする分隊の指揮官たちは作戦会議を開いた。
「恐らく、皇帝が威圧しているんでしょうね」
「せやろね。大方、『戦わな殺す。逃げたら殺す。討たれても殺す』みたいなムチャ言うて、無理矢理けしかけとんのやろ」
「想像に難くないですな」
指揮官たちが一様に苦い顔を並べる一方、ハンは別の理由から顔をしかめている。
「それでこの地図を参考にするとして――どこまで正確なのかは疑問だが――敵陣とこちらの間に、特に障害となるような地点は無く、いわゆる平地・交地となっているわけだ。この一点だけでも敵の、『軍としての』戦闘能力が著しく低いことは明らかだろう」
「どう言う意味です?」
指揮官の何人かは首をかしげるが、緒戦から参加してきたイサコは理解したような様子でうなずいている。
「『攻め』については辛うじて考慮した様子は見られても、『守り』に関してその配慮が見られない、と言うことか」
「その通りだ」
ハンもうなずいて返し、指揮官たちに詳しく説明した。
「この布陣からは相手が抵抗、あるいは攻撃に出ることを想定した気配が全く見られない。恐らく皇帝が20年前に組み立てた――既に大勢が決し、敵にもならなくなったボロボロの相手を押し潰すことを目的とした攻め一辺倒の布陣を、そのまま流用したものなんだろう。
だが、繰り返すがこの布陣に防御力は皆無だ。いち早く攻め込めば、恐らく相当早い段階で決着が付くだろう。以上の理由から、今夜中にも出撃することを提案する」
と、エリザが手を挙げる。
「アンタにしては積極的やけども、今ひとつやな」
「まずいですか?」
憮然とするハンに、エリザが肩をすくめて返す。
「確かに決着はするやろな。でもこっちにも、結構な被害が出るコトは予想でけるやろ?」
「それはまあ、確かに」
「ソレはもったいなさすぎるで。アタシの案やったら、もっと被害を少なくでける。上手いコト行ったら被害無しも有り得る手や」
「そんな手が?」
目を丸くするハンと指揮官たちに、エリザはニヤッと笑って見せた。
「相手の士気は低いっちゅう話やったな? せやのにこうして最前線まで追いやられとるっちゅうコトやったら、ちょっと『誘惑』したったら転ぶんとちゃうか?」
「誘惑?」
ざわめく指揮官たちを見て、エリザはケラケラと笑う。
「や、何も色仕掛けっちゅう話とちゃうで? もっと別の欲で釣るっちゅう作戦や」
「別の? まさかノルド王国や西山間部でやったように、食事で、と?」
「ソレや。ちゅうても、まさか直で『うまいもんあるでー』って呼ぶワケやないで」
「それはそうでしょう。皇帝が真後ろにいる状況では、流石に応じないでしょうからね。そんな状況で動こうものなら即、処罰されてしまうでしょうから」
「ソコもチョイチョイってなもんでな。皇帝さんもある程度、動きを操れるやろと目論んどるんよ」
「操る? そんな魔術があるんですか?」
「ちゃうちゃう」
ふたたびざわついた場を抑えつつ、エリザはこう説明した。
「みんなももう知っとるやろけども、皇帝さんは一瞬で、かつ、自由自在に好きなトコ行ける術を持っとるらしいんよ。ほんで、この術にはアタシらの妨害術が効くらしいっちゅうコトも分かっとる。で、この2ヶ月ずーっと妨害術で防ぎ続けとるワケやけども、皇帝さんにしてみたらこの状況、イライラしてしゃあないやろな、っちゅうコトや」
「ふむ……?」
「向こうにしてみたら、『何で今まで好き勝手やっとったのにでけへんようなってんねん』、やんか? ソコで急にポンと使えるようになったとしたら?」
「迷わず使うでしょうね。罠と警戒する可能性もあるでしょうが、単騎潜入と暗殺が相手の戦略の要、主要な戦闘手段となれば、どちらにせよ使わざるを得ないでしょう」
ハンの回答に、エリザは満面の笑みでうなずいて見せる。
「そう言うこっちゃ。つまりこの一点に関しては、皇帝さんの行動を操れるっちゅうワケや」
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ブリーフィング。
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これもエリザの読み通りとなったが――遠征隊が防衛線に到着して5日後、帝国軍が防衛線から東南東に10キロ強の地点に陣取ったことが、遠征隊側の斥候によって確認された。
「とは言え、士気は低いっちゅう話やったな」
「ええ。一様に怯えた様子であったと」
斥候からの報告を受け、エリザとハン、そしてイサコをはじめとする分隊の指揮官たちは作戦会議を開いた。
「恐らく、皇帝が威圧しているんでしょうね」
「せやろね。大方、『戦わな殺す。逃げたら殺す。討たれても殺す』みたいなムチャ言うて、無理矢理けしかけとんのやろ」
「想像に難くないですな」
指揮官たちが一様に苦い顔を並べる一方、ハンは別の理由から顔をしかめている。
「それでこの地図を参考にするとして――どこまで正確なのかは疑問だが――敵陣とこちらの間に、特に障害となるような地点は無く、いわゆる平地・交地となっているわけだ。この一点だけでも敵の、『軍としての』戦闘能力が著しく低いことは明らかだろう」
「どう言う意味です?」
指揮官の何人かは首をかしげるが、緒戦から参加してきたイサコは理解したような様子でうなずいている。
「『攻め』については辛うじて考慮した様子は見られても、『守り』に関してその配慮が見られない、と言うことか」
「その通りだ」
ハンもうなずいて返し、指揮官たちに詳しく説明した。
「この布陣からは相手が抵抗、あるいは攻撃に出ることを想定した気配が全く見られない。恐らく皇帝が20年前に組み立てた――既に大勢が決し、敵にもならなくなったボロボロの相手を押し潰すことを目的とした攻め一辺倒の布陣を、そのまま流用したものなんだろう。
だが、繰り返すがこの布陣に防御力は皆無だ。いち早く攻め込めば、恐らく相当早い段階で決着が付くだろう。以上の理由から、今夜中にも出撃することを提案する」
と、エリザが手を挙げる。
「アンタにしては積極的やけども、今ひとつやな」
「まずいですか?」
憮然とするハンに、エリザが肩をすくめて返す。
「確かに決着はするやろな。でもこっちにも、結構な被害が出るコトは予想でけるやろ?」
「それはまあ、確かに」
「ソレはもったいなさすぎるで。アタシの案やったら、もっと被害を少なくでける。上手いコト行ったら被害無しも有り得る手や」
「そんな手が?」
目を丸くするハンと指揮官たちに、エリザはニヤッと笑って見せた。
「相手の士気は低いっちゅう話やったな? せやのにこうして最前線まで追いやられとるっちゅうコトやったら、ちょっと『誘惑』したったら転ぶんとちゃうか?」
「誘惑?」
ざわめく指揮官たちを見て、エリザはケラケラと笑う。
「や、何も色仕掛けっちゅう話とちゃうで? もっと別の欲で釣るっちゅう作戦や」
「別の? まさかノルド王国や西山間部でやったように、食事で、と?」
「ソレや。ちゅうても、まさか直で『うまいもんあるでー』って呼ぶワケやないで」
「それはそうでしょう。皇帝が真後ろにいる状況では、流石に応じないでしょうからね。そんな状況で動こうものなら即、処罰されてしまうでしょうから」
「ソコもチョイチョイってなもんでな。皇帝さんもある程度、動きを操れるやろと目論んどるんよ」
「操る? そんな魔術があるんですか?」
「ちゃうちゃう」
ふたたびざわついた場を抑えつつ、エリザはこう説明した。
「みんなももう知っとるやろけども、皇帝さんは一瞬で、かつ、自由自在に好きなトコ行ける術を持っとるらしいんよ。ほんで、この術にはアタシらの妨害術が効くらしいっちゅうコトも分かっとる。で、この2ヶ月ずーっと妨害術で防ぎ続けとるワケやけども、皇帝さんにしてみたらこの状況、イライラしてしゃあないやろな、っちゅうコトや」
「ふむ……?」
「向こうにしてみたら、『何で今まで好き勝手やっとったのにでけへんようなってんねん』、やんか? ソコで急にポンと使えるようになったとしたら?」
「迷わず使うでしょうね。罠と警戒する可能性もあるでしょうが、単騎潜入と暗殺が相手の戦略の要、主要な戦闘手段となれば、どちらにせよ使わざるを得ないでしょう」
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