「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・湖戦伝 2
神様たちの話、第312話。
決戦初日。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
帝国軍が到着したその翌日から、戦闘が始まった。
「交渉も宣戦布告も無く、いきなり襲ってくるとは」
「話し合いっちゅう考えが無いんやろな、皇帝さん」
遠征隊側、即ち防衛線西側の本営にて、ハンとエリザは状況を逐一報告されていた。
「現在、関所東側各所で交戦中です。ただし女将さんに厳命された通り、こちらからの攻撃・反撃は一切行わず、防御を徹底し防衛線を堅持しています」
「うんうん、引き続きその調子でよろしゅうな」
伝令が下がったところで、ハンが苦い顔をする。
「一応、俺がここのトップなはずなんですがね」
「ここぞと言う時にはビシッと命令してもらうから、ソレまでのんびりしとき。細かいトコはアタシがやるさかい」
「やれやれ……。そんな調子でいいんでしょうかね?」
「えーねんえーねん。焦った顔してピリピリイライラしとるのんを見せるより、こうしてのんびりどっしり構えとるトコ見せたった方が、みんな安心するで。想像してみ、皇帝さんなんか向こうで十中八九、辺り構わず怒鳴り散らしとるやろで。そんなん下の者はうっとうしくてしゃあないやろ」
「なるほど。容易に想像が付きますね」
「ちゅうワケで、のんびりお話でもしよか。どのみち、防御を徹底しとるっちゅうコトやったら、誰も死にはせんやろしな」
エリザが煙管を口にくわえる一方で、ハンも手元の地図の清書を始める。
「元から壁が重厚長大な上、その手前であれだけ頑丈で巨大な、防壁同然の盾を持って陣取られては、敵も味方も容易に動けないでしょうしね。
それでエリザさん、防御を徹底させた理由は? 被害を極力抑えると言う目的は分かりますが、あなたのことですからそれだけではないんでしょう?」
「おっ、よお分かってるやないの」
ぷか、と紫煙の輪っかを宙に飛ばし、エリザはニコニコと笑う。
「ま、一言で言うたら無力感を与えるっちゅうヤツやね。目一杯押せど叩けど、一人も倒せん、なんもでけへん、ただただ疲れるだけとなれば、やる気も失せてくるやろ?」
「ふむ」
「今日、明日はその調子で攻めるだけ攻めさせて、消耗させるんや。となれば明後日辺り、皇帝さんが何かしら出張って来て、すっかりヘトヘトになった向こうの兵隊さんらにやいやい言い出す。アタシはそう読んどるんよ」
「十分有り得る流れですね」
「何にも成果も勲功も上がらへんのに、一方的に文句だけ言われてみいや? ただでさえすり減っとる士気が、余計無くなっていくやんか。で、ソコにご飯の匂いがフワーッと漂ってきたら、向こうさんはどんな顔するやろな?」
これを聞いて、ハンは苦笑する。
「相当辛いことになりますね、それは」
「その翌日辺りから、向こうさんの人数減ってくはずやで。上からは殺す殺す言われて、前は一向に破られへん。もう限界やっちゅうトコにそんな誘惑受けてみいや。逃げたくもなるやんか」
「なるほど。となれば決着は4日、5日と言うところですか」
「や、まだもうひと手間っちゅうトコやな。人数減ってきたら、皇帝さんが自分で動くやろからな。なんぼなんでも皇帝さんが出陣するとなったら、向こうさんももうひと頑張りせなアカンくなるやろし」
「そこで皇帝を操る策を発動、と言うことですか」
「そう言うこっちゃ。で、上手いコト皇帝さんを遠ざけたところで、アタシらが残った向こうさんらに『やめにせえへんか』と呼びかけるワケや。ソコで向こうが投降すれば、皇帝さんにもう武器はあらへん。丸々残ったアタシら2500人を、一人で相手せなアカン状況になる」
「まともな思考が相手にあるなら、その時点で逃亡するでしょうね。と言って、まともじゃなければ……」
「そんなもん……」
エリザは煙管の先を机にこつん、と置き、こう続けた。
「そのままプチっとやっておしまいや」
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決戦初日。
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帝国軍が到着したその翌日から、戦闘が始まった。
「交渉も宣戦布告も無く、いきなり襲ってくるとは」
「話し合いっちゅう考えが無いんやろな、皇帝さん」
遠征隊側、即ち防衛線西側の本営にて、ハンとエリザは状況を逐一報告されていた。
「現在、関所東側各所で交戦中です。ただし女将さんに厳命された通り、こちらからの攻撃・反撃は一切行わず、防御を徹底し防衛線を堅持しています」
「うんうん、引き続きその調子でよろしゅうな」
伝令が下がったところで、ハンが苦い顔をする。
「一応、俺がここのトップなはずなんですがね」
「ここぞと言う時にはビシッと命令してもらうから、ソレまでのんびりしとき。細かいトコはアタシがやるさかい」
「やれやれ……。そんな調子でいいんでしょうかね?」
「えーねんえーねん。焦った顔してピリピリイライラしとるのんを見せるより、こうしてのんびりどっしり構えとるトコ見せたった方が、みんな安心するで。想像してみ、皇帝さんなんか向こうで十中八九、辺り構わず怒鳴り散らしとるやろで。そんなん下の者はうっとうしくてしゃあないやろ」
「なるほど。容易に想像が付きますね」
「ちゅうワケで、のんびりお話でもしよか。どのみち、防御を徹底しとるっちゅうコトやったら、誰も死にはせんやろしな」
エリザが煙管を口にくわえる一方で、ハンも手元の地図の清書を始める。
「元から壁が重厚長大な上、その手前であれだけ頑丈で巨大な、防壁同然の盾を持って陣取られては、敵も味方も容易に動けないでしょうしね。
それでエリザさん、防御を徹底させた理由は? 被害を極力抑えると言う目的は分かりますが、あなたのことですからそれだけではないんでしょう?」
「おっ、よお分かってるやないの」
ぷか、と紫煙の輪っかを宙に飛ばし、エリザはニコニコと笑う。
「ま、一言で言うたら無力感を与えるっちゅうヤツやね。目一杯押せど叩けど、一人も倒せん、なんもでけへん、ただただ疲れるだけとなれば、やる気も失せてくるやろ?」
「ふむ」
「今日、明日はその調子で攻めるだけ攻めさせて、消耗させるんや。となれば明後日辺り、皇帝さんが何かしら出張って来て、すっかりヘトヘトになった向こうの兵隊さんらにやいやい言い出す。アタシはそう読んどるんよ」
「十分有り得る流れですね」
「何にも成果も勲功も上がらへんのに、一方的に文句だけ言われてみいや? ただでさえすり減っとる士気が、余計無くなっていくやんか。で、ソコにご飯の匂いがフワーッと漂ってきたら、向こうさんはどんな顔するやろな?」
これを聞いて、ハンは苦笑する。
「相当辛いことになりますね、それは」
「その翌日辺りから、向こうさんの人数減ってくはずやで。上からは殺す殺す言われて、前は一向に破られへん。もう限界やっちゅうトコにそんな誘惑受けてみいや。逃げたくもなるやんか」
「なるほど。となれば決着は4日、5日と言うところですか」
「や、まだもうひと手間っちゅうトコやな。人数減ってきたら、皇帝さんが自分で動くやろからな。なんぼなんでも皇帝さんが出陣するとなったら、向こうさんももうひと頑張りせなアカンくなるやろし」
「そこで皇帝を操る策を発動、と言うことですか」
「そう言うこっちゃ。で、上手いコト皇帝さんを遠ざけたところで、アタシらが残った向こうさんらに『やめにせえへんか』と呼びかけるワケや。ソコで向こうが投降すれば、皇帝さんにもう武器はあらへん。丸々残ったアタシら2500人を、一人で相手せなアカン状況になる」
「まともな思考が相手にあるなら、その時点で逃亡するでしょうね。と言って、まともじゃなければ……」
「そんなもん……」
エリザは煙管の先を机にこつん、と置き、こう続けた。
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