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    「双月千年世界 4;琥珀暁」
    琥珀暁 第6部

    琥珀暁・湖戦伝 4

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    神様たちの話、第314話。
    急変の夜。

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    4.
     敵陣からの出火の報を聞き、エリザは寝間着姿のまま、本営に飛び込んだ。
    「向こうが燃えとるって?」
    「ええ、ですがこちらが独断で動いた形跡はありません。どうやら相手が自ら火をかけたようです」
     ハンから状況を伝えられ、エリザは腕を組んでうなる。
    「ちゅうコトは皇帝さんがけしかけよったな。ひどいコトしはるわ。兵隊さんの退路断って、無理矢理こっちを陥とさせようとしとんのやろ」
    「どうしますか?」
    「どうもこうも、やな。昼間やってたように、防御を徹底や。ただし……」
     エリザは上を指差し、こう付け加えた。
    「今、白い月が西の方におったな? アレが山の向こうに隠れるくらいの辺りで、妨害術解除や。同時に『ショックビート』使て、攻めて来とるヤツを全員鎮圧してしまおか」
    「解除? では……」
    「せや。ボチボチ皇帝さんを、こっちにおびき寄せるで」



     拠点を焼き出され、帝国軍は必死の形相で防衛線に食らい付いていた。だが、初日のまだ余力があった頃でさえびくともしなかった防御が、この期に至って急に崩せるようになるはずも無く、攻撃開始から2時間もしない内に、その虚勢はすっかりしぼんでしまった。
    「はぁ……はぁ……」
    「ひっ……ひい……ダメだぁ」
    「どうにもならねえ……!」
     辛うじて彼らを突き動かしていた皇帝への恐怖も、やがて積み重なった疲労に押しやられてしまい、兵士たちはその場にうずくまってしまった。
    「も……もう……いい……」
    「どっちにしたって死ぬんだ……」
    「好きにしてくれや、畜生……!」
     すっかり意気消沈してしまい、辺りは沈黙に包まれた。いや――。
    「用意!」
     ここで初めて、関所の方から鋭く声が響く。
    「あ……? 用意って?」
    「知るかよ」
    「どうせ矢でも……」
     次の瞬間、彼ら全員の耳奥にとてつもない重低音が響き渡り――その全員が、声も上げずにバタバタと倒れていった。

    「敵、完全に沈黙しました!」
    「よっしゃ、急いで……」「急いで回収し拘束せよ! 後続勢力への警戒も怠るな!」
     エリザを押しのける形で号令を発し、ハンははっとした顔を彼女に向ける。
    「あ、……すみません」
    「アハハ……、ええよええよ。ま、そう言う感じでよろしゅう」
    「はっ……」
     伝令が去ったところで、エリザはハンが清書した地図を机に広げた。
    「ほんで、現状やけども」
    「『後続を警戒せよ』とは言いましたが、恐らく敵兵士については、防衛線付近にいた者で全員でしょう。彼らの事情を鑑みれば、残存勢力を残しておけるような状況ではないでしょうからね」
    「せやね。となればいよいよお出ましやろ」
    「こちらが何ら物理的手段を講じていないにもかかわらず、いきなり自陣が瓦解したと知れば、相手も妨害術が解除されていることに気付くでしょうからね」
    「ソコで、や」
     エリザは地図上の、現在自分たちがいる地点を煙管の先で指し示した。
    「皇帝さんが現状を知った、魔術使えるんちゃうかと思い立った、と。ほなドコに現れるやろ?」
    「流石にこちらの中心部や本営にいきなり現れることはしないでしょう。それじゃ暗殺になりませんからね」
    「仮にド真ん中に来たとて、精鋭揃いや。クラム王国ん時みたく、ボコボコにされるだけやしな。どんだけアホやとしても、流石に自分が経験したコトは忘れへんやろ」
    「となれば離れた場所から接近、と考えるのが常道でしょう」
    「そうなるやろな。せやけども、ソレがドコかまでは流石に分からん。ソコでや」
     エリザは拠点の西に煙管の先を向け、こう続けた。
    「あらかじめな、こっち側の警備しとる子らに頼んで、今回の作戦が始まったら全員撤収するように言うてあんねん。もうボチボチ、みんな引き上げとる頃やろ」
    「それは流石に危ないんじゃ……」
     不安そうな目を向けるハンに、エリザはニヤ、と笑みを返す。
    「勿論、罠も仕掛けとる。真っ正直に飛び込んで来よったら、あっちゅう間におしまいやっちゅうくらいにはな。仮に罠に気付いて引き返しよっても、ソレはソレでもう終わりやん? もう兵隊さんは全員ウチん中やしな」
    「なるほど。どうあれ、飛び込むしか相手に手は無い、と」
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