「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・湖戦伝 7
神様たちの話、第317話。
ゼルカノゼロ南岸戦、決着。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
西側が騒がしくなり、拠点にいた者たちは続々、そちらへと向かっていた。
「おい、行こうぜ!」
「え? いや、でも」
「何だよ? 西に出たってんなら、こっちから来るヤツは誰もいないだろ?」
「……それもそうか。よし、行くか!」
防衛線の守りに付いていた者たちも次第に持ち場を離れ、やがて東側を監視する者は一人もいなくなってしまった。
もぬけの殻になった防衛線を飛び越え、関所の上に皇帝レン・ジーンが降り立った。
「陽動に惑わされ、自ら守りを緩めるとは。智将と聞いていたが、こう易々と余の仕掛けた策にはまるか。くくく……!」
高笑いしつつ、ジーンは関所から飛び降りる。と同時に――。
「今の言葉、そっくりそのまんま返したろか?」
すぐ背後から声がかけられ、ジーンは驚愕の声を上げる。
「うぬっ!?」
「ロウくん、一発」
「うっス!」
ジーンが振り向くとほぼ同時に、ロウのパンチがジーンの顔面を捉える。
「ぐあっ……!」
ジーンの鼻から血しぶきが上がり、彼は3メートル近く地面を滑って行った。
「あ……がっ……」
どうにか立ち上がるも、続けてハンが斬り掛かる。
「うおおぉ……っ!」
ハンの一太刀を、ジーンもどうにか剣を抜いて防いだものの、そのたった一撃で、剣は真っ二つに折られてしまった。
「青銅製か? ソレとも黒曜石か何かか? どっちにせよ、まともに受けたら鋼鉄には敵わんな」
「う……うう……」
ほぼ柄だけになった剣を捨て、ジーンは3人から距離を取る。
「何故だ!? 何故余がここに来ることを……!?」
「策っちゅうもんは十重二十重に仕掛けてナンボや。一個目が潰れた時のために二個目、二個目がバレた時のために三個目や。
アンタがバカ正直に西から来るんやったらソレでよし。向こうで張っとった子に総攻撃してもろて終わりやった。そして今みたいに、西と見せかけて東やったとしてもや。アタシがソレを見抜けへんアホやと思とったんか?」
「く……女狐が!」
「ちゅうワケで3対1や。しかももう、アンタの後ろに人はおらん。反面、こっちは続々応援が来るで。どんどん不利になるけども、アンタどないするつもりや?」
「く……く……くくく」
エリザの威圧に対し、ジーンはなお笑いを浮かべている。
「馬鹿め……! 余がたった一人で敵陣に現れる愚鈍と思っているのか! 今頃その精鋭とやらは、余の第一の側近によって……!」
が――居丈高に振る舞っているその最中に、彼の背後からバタバタと、足音が響いて来る。
「先生! 尉官! ご無事ですか!?」
「西側から来たのは囮でしたー! だから多分、皇帝がこっちに……!」
途端にジーンの顔がこわばり、後ろを振り返る。
「……あの……あの女は! 貴様の言う精鋭、……か!? では……アルは……どこに?」
「その第一の側近とか言うのん、マリアちゃんらがやっつけてしもたらしいな。で?」
「……馬鹿な……アルを……!?」
もう一度、ジーンはエリザたちの方を振り返る。つい先程まで見せていた余裕は最早、どこにも無かった。
そうこうしている間に、やがてマリアとビートだけではなく、他の兵士たちも続々と駆け付けて来る。
「あれが、……皇帝?」
「……恐ろしい、……と、思ってたけど」
「何かもう、ボロボロになってないか?」
「うわ、鼻血ダラダラ出てるよ」
「……ぷっ……だっせ」
恐らく、本来の彼であればその嘲笑じみたざわめきを聞き逃すはずも、放っておくはずも無いのだろうが、進退を窮めた彼には、どうやらその余裕は無いようだった。
「ほら、どないするんや? 大人しく投降するか? 今やったら鎖で全身グルグル巻きにして宙吊りにするくらいで許したるで」
集まって来た兵士たちは、誰からともなくジーンの周りに武器を構えて並び、三重、四重に包囲を固める。
「ソレともココの全員を素手で相手にするか? でも良く考えや? 誰かに指一本でも触ろうとしよったら、ココにおる2000人が、アンタを挽肉にするまでボコ殴りにするで」
「ぐ……」
ジーンは右手を挙げるが、その手からは何も放たれることは無かった。
「何や? 気付いてへんのか? こうしてアンタがノコノコ乗り込んで来たんやから、誰かしら魔術封じするんは当たり前やんか。ま、どっちにしてもや、媒体にしとる剣が折れとるんやから、魔術使ても大した威力は出えへんで」
「……くっ……」
ジーンはしばらく硬直したままだったが――やがて両手を下ろし、「好きにするが良い」と吐き捨てた。
琥珀暁・湖戦伝 終
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西側が騒がしくなり、拠点にいた者たちは続々、そちらへと向かっていた。
「おい、行こうぜ!」
「え? いや、でも」
「何だよ? 西に出たってんなら、こっちから来るヤツは誰もいないだろ?」
「……それもそうか。よし、行くか!」
防衛線の守りに付いていた者たちも次第に持ち場を離れ、やがて東側を監視する者は一人もいなくなってしまった。
もぬけの殻になった防衛線を飛び越え、関所の上に皇帝レン・ジーンが降り立った。
「陽動に惑わされ、自ら守りを緩めるとは。智将と聞いていたが、こう易々と余の仕掛けた策にはまるか。くくく……!」
高笑いしつつ、ジーンは関所から飛び降りる。と同時に――。
「今の言葉、そっくりそのまんま返したろか?」
すぐ背後から声がかけられ、ジーンは驚愕の声を上げる。
「うぬっ!?」
「ロウくん、一発」
「うっス!」
ジーンが振り向くとほぼ同時に、ロウのパンチがジーンの顔面を捉える。
「ぐあっ……!」
ジーンの鼻から血しぶきが上がり、彼は3メートル近く地面を滑って行った。
「あ……がっ……」
どうにか立ち上がるも、続けてハンが斬り掛かる。
「うおおぉ……っ!」
ハンの一太刀を、ジーンもどうにか剣を抜いて防いだものの、そのたった一撃で、剣は真っ二つに折られてしまった。
「青銅製か? ソレとも黒曜石か何かか? どっちにせよ、まともに受けたら鋼鉄には敵わんな」
「う……うう……」
ほぼ柄だけになった剣を捨て、ジーンは3人から距離を取る。
「何故だ!? 何故余がここに来ることを……!?」
「策っちゅうもんは十重二十重に仕掛けてナンボや。一個目が潰れた時のために二個目、二個目がバレた時のために三個目や。
アンタがバカ正直に西から来るんやったらソレでよし。向こうで張っとった子に総攻撃してもろて終わりやった。そして今みたいに、西と見せかけて東やったとしてもや。アタシがソレを見抜けへんアホやと思とったんか?」
「く……女狐が!」
「ちゅうワケで3対1や。しかももう、アンタの後ろに人はおらん。反面、こっちは続々応援が来るで。どんどん不利になるけども、アンタどないするつもりや?」
「く……く……くくく」
エリザの威圧に対し、ジーンはなお笑いを浮かべている。
「馬鹿め……! 余がたった一人で敵陣に現れる愚鈍と思っているのか! 今頃その精鋭とやらは、余の第一の側近によって……!」
が――居丈高に振る舞っているその最中に、彼の背後からバタバタと、足音が響いて来る。
「先生! 尉官! ご無事ですか!?」
「西側から来たのは囮でしたー! だから多分、皇帝がこっちに……!」
途端にジーンの顔がこわばり、後ろを振り返る。
「……あの……あの女は! 貴様の言う精鋭、……か!? では……アルは……どこに?」
「その第一の側近とか言うのん、マリアちゃんらがやっつけてしもたらしいな。で?」
「……馬鹿な……アルを……!?」
もう一度、ジーンはエリザたちの方を振り返る。つい先程まで見せていた余裕は最早、どこにも無かった。
そうこうしている間に、やがてマリアとビートだけではなく、他の兵士たちも続々と駆け付けて来る。
「あれが、……皇帝?」
「……恐ろしい、……と、思ってたけど」
「何かもう、ボロボロになってないか?」
「うわ、鼻血ダラダラ出てるよ」
「……ぷっ……だっせ」
恐らく、本来の彼であればその嘲笑じみたざわめきを聞き逃すはずも、放っておくはずも無いのだろうが、進退を窮めた彼には、どうやらその余裕は無いようだった。
「ほら、どないするんや? 大人しく投降するか? 今やったら鎖で全身グルグル巻きにして宙吊りにするくらいで許したるで」
集まって来た兵士たちは、誰からともなくジーンの周りに武器を構えて並び、三重、四重に包囲を固める。
「ソレともココの全員を素手で相手にするか? でも良く考えや? 誰かに指一本でも触ろうとしよったら、ココにおる2000人が、アンタを挽肉にするまでボコ殴りにするで」
「ぐ……」
ジーンは右手を挙げるが、その手からは何も放たれることは無かった。
「何や? 気付いてへんのか? こうしてアンタがノコノコ乗り込んで来たんやから、誰かしら魔術封じするんは当たり前やんか。ま、どっちにしてもや、媒体にしとる剣が折れとるんやから、魔術使ても大した威力は出えへんで」
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