「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・占験録 4
晴奈の話、第255話。
経験差の勝利。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
小鈴が示した占いの結果は当たりつつあった。
最初の頃は直線的にぶつかり合っていた晴奈とシリンだったが、刀と格闘術の打ち合いが互角と見た晴奈は冷静に対応を思索し、戦法を変えた。
自分からの攻撃を若干緩め、防御重視で対応し始めたのだ。
「せいッ! たあッ! とうッ!」
シリンからの攻撃は、どれも一撃必殺の威力を込めた正拳突きやラリアット、回し蹴り、かかと落とし――振るう度にブンブンと空気が切り裂かれる音が鳴り、凄味がある。非常に威力が高く、確かに脅威だが、逆に言えば一撃一撃が非常に大味で、スタミナを使うのだ。
晴奈はかつて、これとそっくりな状況に遭遇した覚えがある――奇しくも晴奈の師匠、雪乃とクラウンが紅蓮塞で戦った時の状況と似ているのだ。
(あの時の師匠は、ひたすらクラウンを走り回らせていた。結果、クラウンはひどく疲労し、自爆に近い負け方をしていた。
それと同じことをする。ひたすらシリンに打たせ続け、動きが鈍ったところを狙う!)
とは言え、相手は愚鈍で浅はかなクラウンとは違う。下手にこちらからの攻撃を止めれば、策が勘付かれて膠着(こうちゃく)状態に陥る恐れがある。
極めて慎重に、迎撃のチャンスを狙わなければならなかった。
「ホラ、どないしたんや!? もっと気張らんかい!」
少しでも手を緩めると、シリンが強く攻勢に出る。かと言って、こちらがあまりに圧すと晴奈のスタミナが切れる。
(体躯が一回り違うからな……。あまりこちらから、仕掛けたくは無い)
晴奈はできる限り動き回るのをやめ、シリンの攻撃を紙一重でかわしていく。そして交わす瞬間、わざと急所を狙った攻撃を繰り出すことにした。
「おお、っと! そんなもん食らうかいな!」
この作戦は成功した。シリンは素早く避け、余計に動き回ってくれる。
「ほれ、お返しやッ!」
そしてすぐ殴りかかってくれるので、何度でも同じように仕掛けて動き回らせることができた。
試合を眺めていた小鈴も晴奈の意図に気付き、ぽつりとつぶやく。
「何て言うか、ヨーヨーみたい」
「え?」
「さっきからシリン、晴奈から付いたり離れたりしてる。逆に、晴奈はあんまり動いてないわね。……ははーん、そーゆーつもりか」
「どうされたのです?」
きょとんとしているフォルナに肩をすくめて見せ、小鈴はニヤニヤと笑みを返した。
「ナイショ、ナイショ」
試合開始から15分以上が経過し、流石のシリンにも疲労の色が見え始めた。
「ゼェ、ハァ……。っは、きっついわー」
「ふぅ、……すー」
一方、晴奈も額にびっしょりと汗を浮かべてはいるものの、シリンほど疲れてはいない。
「どうした、シリン? お主の根性はそんなものか?」
晴奈はここで挑発してみる。散々動き回らされ、苛立っていたシリンは簡単に乗った。
「アホ言うなや、まだまだあッ!」
シリンはまた回し蹴りを放ってくる。だが、初弾の時に比べ勢いが無い。
(今だッ!)
晴奈はしゃがんで蹴りをかわし、シリンの軸足を逆に蹴り飛ばす。
「あ、ひゃっ!?」
足を取られたシリンはぐるんと倒れ、尻餅をつく。
「いったぁ……、あ」
「勝負ありだ」
晴奈はすぐに立ち上がり、シリンの首に刀を当てていた。
試合終了後、ピースが上機嫌で晴奈の元にやって来た。
「いやぁ、今日の試合は良かった! シリンへの賭け率が若干多かったから、結構払い戻しがでっかくなっちゃったよ、はは……」
「ほう。やはりシリンの方が上と見られていたのですね」
残念がる晴奈に、ピースがフォローを入れる。
「ま、前回のリーグ2位だからね。そりゃ期待もされるよ。
でも、僕はセイナに賭けてた」
「はは、かたじけない」
と、そこに唇を尖らせたシリンが合流する。
「やられたわぁ」
「ふふふ、だから言ったろう?」
晴奈は先ほどとは一転、嬉しそうにこう言った。
「伊達に死線は潜っていない、とな」
「ホンマ勝負強いわ、姉やんは」
シリンは参ったと言う顔をして、晴奈の肩をポンポン叩いた。
「次は負けへんでー」
「ああ、望むところだ」
晴奈とシリンは互いにニヤリと笑い、握手を交わした。
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経験差の勝利。
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小鈴が示した占いの結果は当たりつつあった。
最初の頃は直線的にぶつかり合っていた晴奈とシリンだったが、刀と格闘術の打ち合いが互角と見た晴奈は冷静に対応を思索し、戦法を変えた。
自分からの攻撃を若干緩め、防御重視で対応し始めたのだ。
「せいッ! たあッ! とうッ!」
シリンからの攻撃は、どれも一撃必殺の威力を込めた正拳突きやラリアット、回し蹴り、かかと落とし――振るう度にブンブンと空気が切り裂かれる音が鳴り、凄味がある。非常に威力が高く、確かに脅威だが、逆に言えば一撃一撃が非常に大味で、スタミナを使うのだ。
晴奈はかつて、これとそっくりな状況に遭遇した覚えがある――奇しくも晴奈の師匠、雪乃とクラウンが紅蓮塞で戦った時の状況と似ているのだ。
(あの時の師匠は、ひたすらクラウンを走り回らせていた。結果、クラウンはひどく疲労し、自爆に近い負け方をしていた。
それと同じことをする。ひたすらシリンに打たせ続け、動きが鈍ったところを狙う!)
とは言え、相手は愚鈍で浅はかなクラウンとは違う。下手にこちらからの攻撃を止めれば、策が勘付かれて膠着(こうちゃく)状態に陥る恐れがある。
極めて慎重に、迎撃のチャンスを狙わなければならなかった。
「ホラ、どないしたんや!? もっと気張らんかい!」
少しでも手を緩めると、シリンが強く攻勢に出る。かと言って、こちらがあまりに圧すと晴奈のスタミナが切れる。
(体躯が一回り違うからな……。あまりこちらから、仕掛けたくは無い)
晴奈はできる限り動き回るのをやめ、シリンの攻撃を紙一重でかわしていく。そして交わす瞬間、わざと急所を狙った攻撃を繰り出すことにした。
「おお、っと! そんなもん食らうかいな!」
この作戦は成功した。シリンは素早く避け、余計に動き回ってくれる。
「ほれ、お返しやッ!」
そしてすぐ殴りかかってくれるので、何度でも同じように仕掛けて動き回らせることができた。
試合を眺めていた小鈴も晴奈の意図に気付き、ぽつりとつぶやく。
「何て言うか、ヨーヨーみたい」
「え?」
「さっきからシリン、晴奈から付いたり離れたりしてる。逆に、晴奈はあんまり動いてないわね。……ははーん、そーゆーつもりか」
「どうされたのです?」
きょとんとしているフォルナに肩をすくめて見せ、小鈴はニヤニヤと笑みを返した。
「ナイショ、ナイショ」
試合開始から15分以上が経過し、流石のシリンにも疲労の色が見え始めた。
「ゼェ、ハァ……。っは、きっついわー」
「ふぅ、……すー」
一方、晴奈も額にびっしょりと汗を浮かべてはいるものの、シリンほど疲れてはいない。
「どうした、シリン? お主の根性はそんなものか?」
晴奈はここで挑発してみる。散々動き回らされ、苛立っていたシリンは簡単に乗った。
「アホ言うなや、まだまだあッ!」
シリンはまた回し蹴りを放ってくる。だが、初弾の時に比べ勢いが無い。
(今だッ!)
晴奈はしゃがんで蹴りをかわし、シリンの軸足を逆に蹴り飛ばす。
「あ、ひゃっ!?」
足を取られたシリンはぐるんと倒れ、尻餅をつく。
「いったぁ……、あ」
「勝負ありだ」
晴奈はすぐに立ち上がり、シリンの首に刀を当てていた。
試合終了後、ピースが上機嫌で晴奈の元にやって来た。
「いやぁ、今日の試合は良かった! シリンへの賭け率が若干多かったから、結構払い戻しがでっかくなっちゃったよ、はは……」
「ほう。やはりシリンの方が上と見られていたのですね」
残念がる晴奈に、ピースがフォローを入れる。
「ま、前回のリーグ2位だからね。そりゃ期待もされるよ。
でも、僕はセイナに賭けてた」
「はは、かたじけない」
と、そこに唇を尖らせたシリンが合流する。
「やられたわぁ」
「ふふふ、だから言ったろう?」
晴奈は先ほどとは一転、嬉しそうにこう言った。
「伊達に死線は潜っていない、とな」
「ホンマ勝負強いわ、姉やんは」
シリンは参ったと言う顔をして、晴奈の肩をポンポン叩いた。
「次は負けへんでー」
「ああ、望むところだ」
晴奈とシリンは互いにニヤリと笑い、握手を交わした。



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今日の旅岡さん

~ Comment ~
NoTitle
体力というのは何気に必要な要素になってきますよね。あるいは戦場に行くとそういうのが如実に必要になってきますよね。ある程度実力が拮抗していると、それこそ長期戦になる可能性も大いにありますからね。その辺まで考慮に入れて鍛錬しているかどうかが差になりますよね。
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NoTitle
また、シリンはスプリント的、短期戦的な戦いが得意。
対する晴奈はマラソン的、長期戦的な戦いが多い。
晴奈のペースに乗せられたシリンは、苦戦すること必至でした。