「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・虜帝伝 1
神様たちの話、第318話。
語らぬ皇帝。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「何や吐いたか、皇帝さん?」
「何も、……ですね」
ゼルカノゼロ南岸の戦いで皇帝レン・ジーンを拘束して以降、ハンは彼に、毎日のように尋問を行っていた。
「最後の意地、と言う奴でしょうかね。帝国の残存兵力についても、魔術を学んだ経緯についても、……そしてクーの安否について尋ねても、一言もしゃべりません」
「この期に及んでふてぶてしいやっちゃな。……ま、ええわ。後もうちょいで首都への道も開けるやろしな」
「……そうですね。……今はただ、クーの無事を祈りましょう」
「せやな」
エリザの情報網によってゼルカノゼロ南岸戦の結果と、そして皇帝が遠征隊の手に堕ちたことは、北方各地に喧伝された。その効果は非常に大きく、戦闘から半月後、東山間部の帝国属国であった二ヶ国から、遠征隊に帰順する旨の文書が届けられた。遠征隊はすぐにその二ヶ国と連絡を取り、友好条約を結んで帝国から離反させた。
この時点で帝国の支配圏はほぼ消滅し、帝国の領土は首都フェルタイルを残すのみとなった。事実上帝国への、そして皇帝への恐怖は、過去のものとなったのである。
「……と言うことまで、逐一伝えたんだが」
「何も反応無し、ですか」
「ああ」
半月の間に、遠征隊は東山間部のほぼ中心地、フェルタイルまで東北東へ十数キロのところまで進軍しており、ハンたちはこの時、とある村に駐留していた。
なお、この村もエリザが昨年の時点で接触し、人心掌握を仕掛けていたため、村人たちはとても友好的に遠征隊を持て成してくれており、シモン班はいつも沿岸部でそうしていたように、村の酒場で晩餐を楽しむことができた。
「普通、自分が築いてきたモノを全部失ったぞって言ったら、相当ショック受けると思うんですけどねー」
「俺もそう思う。だが妙に泰然としていると言うか、まるで意に介していないと言うか……。そもそも――本当に有言実行するのがエリザさんらしいが――鎖で両手両足を拘束した上、馬車の上にわざわざ小屋まで建てて、その中で宙吊りにしてるんだぞ? あれで堪(こた)えない人間は、そうそういるもんじゃない。飯も2日に1回しか食べさせてないってのに」
「鋼の精神、……なんてかっこいいことを言いたい相手じゃないですけどね」
「ああ。これまで奴がしてきたこと、そして今まさにやっていることを顧みれば、奴を少しでも人間扱いしようなどと言い出すような奇特な者は、一人としていやしないだろう。俺にしても、だ」
ハンは水をぐい、とあおり、席を立った。
「今日はもう寝る。これ以上あいつの話をしても、俺が勝手に不愉快になっていくだけって気がするからな」
「おやすみなさーい」
ハンが退出したところで、残った3人は顔を見合わせる。
「大分消耗してますね、尉官」
メリーの言葉に、ビートとマリアは同時にうなずく。
「本当にねー。相当辛そう」
「嫌な感じです。ああまで完全に拘束したはずなのに、僕らの方が振り回されてるような……」
そう言ったビートの手を取り、マリアが首を横に振る。
「そんな風に考えないの。……考えたくないってのもあるし、さ」
「……そうですね」
と、メリーが首をかしげているのに気付き、ビートが顔を向ける。
「どうしたんですか、メリーさん?」
「お二人って、そんなに仲が良かったでしたっけ?」
「え?」
「あ、いえ、今まで仲が悪かったって言うことじゃなくてですね、えっと、雰囲気って言うか、何と言うか、……今まで以上に、と言う感じで」
「そう?」
そう言いつつも、マリアはまだビートの手を握ったままである。その手を振り払う気になど到底なれないものの――ビートは内心、申し訳無い気持ちで一杯だった。
(側近を僕が倒したってことになっちゃったもんなぁ……。皆にもそう伝わっちゃったし、もう訂正しようが無いよなぁ。マリアさんが僕のことを良く思ってくれるのは本当に嬉しいけど、……でも、何だか騙してるみたいだ)
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語らぬ皇帝。
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「何や吐いたか、皇帝さん?」
「何も、……ですね」
ゼルカノゼロ南岸の戦いで皇帝レン・ジーンを拘束して以降、ハンは彼に、毎日のように尋問を行っていた。
「最後の意地、と言う奴でしょうかね。帝国の残存兵力についても、魔術を学んだ経緯についても、……そしてクーの安否について尋ねても、一言もしゃべりません」
「この期に及んでふてぶてしいやっちゃな。……ま、ええわ。後もうちょいで首都への道も開けるやろしな」
「……そうですね。……今はただ、クーの無事を祈りましょう」
「せやな」
エリザの情報網によってゼルカノゼロ南岸戦の結果と、そして皇帝が遠征隊の手に堕ちたことは、北方各地に喧伝された。その効果は非常に大きく、戦闘から半月後、東山間部の帝国属国であった二ヶ国から、遠征隊に帰順する旨の文書が届けられた。遠征隊はすぐにその二ヶ国と連絡を取り、友好条約を結んで帝国から離反させた。
この時点で帝国の支配圏はほぼ消滅し、帝国の領土は首都フェルタイルを残すのみとなった。事実上帝国への、そして皇帝への恐怖は、過去のものとなったのである。
「……と言うことまで、逐一伝えたんだが」
「何も反応無し、ですか」
「ああ」
半月の間に、遠征隊は東山間部のほぼ中心地、フェルタイルまで東北東へ十数キロのところまで進軍しており、ハンたちはこの時、とある村に駐留していた。
なお、この村もエリザが昨年の時点で接触し、人心掌握を仕掛けていたため、村人たちはとても友好的に遠征隊を持て成してくれており、シモン班はいつも沿岸部でそうしていたように、村の酒場で晩餐を楽しむことができた。
「普通、自分が築いてきたモノを全部失ったぞって言ったら、相当ショック受けると思うんですけどねー」
「俺もそう思う。だが妙に泰然としていると言うか、まるで意に介していないと言うか……。そもそも――本当に有言実行するのがエリザさんらしいが――鎖で両手両足を拘束した上、馬車の上にわざわざ小屋まで建てて、その中で宙吊りにしてるんだぞ? あれで堪(こた)えない人間は、そうそういるもんじゃない。飯も2日に1回しか食べさせてないってのに」
「鋼の精神、……なんてかっこいいことを言いたい相手じゃないですけどね」
「ああ。これまで奴がしてきたこと、そして今まさにやっていることを顧みれば、奴を少しでも人間扱いしようなどと言い出すような奇特な者は、一人としていやしないだろう。俺にしても、だ」
ハンは水をぐい、とあおり、席を立った。
「今日はもう寝る。これ以上あいつの話をしても、俺が勝手に不愉快になっていくだけって気がするからな」
「おやすみなさーい」
ハンが退出したところで、残った3人は顔を見合わせる。
「大分消耗してますね、尉官」
メリーの言葉に、ビートとマリアは同時にうなずく。
「本当にねー。相当辛そう」
「嫌な感じです。ああまで完全に拘束したはずなのに、僕らの方が振り回されてるような……」
そう言ったビートの手を取り、マリアが首を横に振る。
「そんな風に考えないの。……考えたくないってのもあるし、さ」
「……そうですね」
と、メリーが首をかしげているのに気付き、ビートが顔を向ける。
「どうしたんですか、メリーさん?」
「お二人って、そんなに仲が良かったでしたっけ?」
「え?」
「あ、いえ、今まで仲が悪かったって言うことじゃなくてですね、えっと、雰囲気って言うか、何と言うか、……今まで以上に、と言う感じで」
「そう?」
そう言いつつも、マリアはまだビートの手を握ったままである。その手を振り払う気になど到底なれないものの――ビートは内心、申し訳無い気持ちで一杯だった。
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