「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・虜帝伝 2
神様たちの話、第319話。
嘘と嘘。
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2.
ある晩、ビートは密かにエリザの元を訪れ、自身の嘘を告白した。
「……ですから、僕が側近を倒したのは誤解なんです」
「さよか」
が、あまりに気の無い返事をされ、ビートは面食らう。
「え……と、あの」
「そんなコトでアタシが怒ると思たか?」
エリザはクスクス笑いながら、ビートの頭をぽんぽんと撫でた。
「ええやないの。ホンマに仕留めたっちゅうヤツがどっか行ったっちゅうんやったら、手柄はアンタに譲ったっちゅうコトやん。もらって困るもんでもあらへんのやし、遠慮せずにもろときもろとき」
「で、でも」
「黙っといたらええんや、そんなもん」
エリザはパチ、とウインクし、ビートの長い耳にこしょこしょとささやいた。
「折角マリアちゃんがええ感じになついて来とんねやろ? そのまま『カッコええビートくん』のフリして射止めたったらええやんか」
「はぇ?」
間の抜けた声を漏らし、ビートは思わず口を両手で覆う。
「ど、どうしてそれを?」
「見てたら分かるわ。明らかにマリアちゃん、アンタにべったりやんか。アンタもまんざらや無い顔しとったし。ま、後ろめたそうにしとるのんもチョコチョコ見え隠れしとったけども」
「……気付かれてますかね?」
そう尋ねたビートに、エリザは肩をすくめて返す。
「気付いとるかも知れへんけど、その理由までは流石に分からんやろ。大方、恥ずかしがっとるとか照れとるとか、そんくらいにしか思てへんのやないか?」
「だといいですけど」
「ふっふふ……」
エリザはビートの肩を抱き、ニヤニヤと笑みを向ける。
「すっかりその気やな、ビートくん」
「え、えへへへ、へへ……」
ビートは自分の顔が熱くなっているのを感じつつ、エリザから離れた。
「え、えっと、まあ、じゃあ、今後は、それで通します」
「ん、そうしとき」
「はい……」
トテトテとした足取りで、ビートはエリザの部屋を後にした。
心の中にあった重荷がすっかり消え、ビートは天にも登りそうな心地になっていた。
(あー……すっきりしたよ、本当。先生に相談して、本当に良かった)
と、いくらか冷静になってきたところで、ビートはきちんと挨拶を交わさず部屋を出てしまったことに気付く。
(あ、……と。挨拶してなかったっけ、そう言えば。舞い上がりすぎだよな、もう)
慌てて踵を返し、ビートはエリザの部屋のドアを叩こうとする。と――。
「……ホンマに……変わってへん……」
エリザの声が聞こえ、ビートは首をかしげた。
(誰かいる? ……いや、『頭巾』か。誰と話してるんだろう?)
話が終わってから改めて挨拶しようと、ビートは何の気無しに聞き耳を立てた。
「目立ちたがりで自信家なんは、ホンマ筋金入りやな。死んでも治らんのとちゃうか? ビートくんが困った顔しとったで。アンタの手柄取ってええもんかって。……せや。とりあえず黙っときとは言うといたから、アンタのコトがバレるっちゅうコトは無いと思うけどな」
話が進むにつれて、ビートの心がざわめいていく。
(え、……え? 今話してる相手って、まさか、側近を倒したあの人? 先生、知り合いだったのか……!?)
聞き耳を立てる目的が、挨拶のタイミングを図ることから、内容を聞くことに切り替わる。
「大体な、こっそりやろかって言い出したん、アンタやないの。ソレが自分からノコノコ人前に出て来るとか、……分かってへんのはアンタやんか。もっぺん言うとくで? この件がバレたら、全部ワヤになるんやで?」
(な……何が?)
背筋に冷たいものを感じつつも、ビートはドアの側から離れることができなかった。
「アンタも分かるやろ、ソレくらい? コレがハンくんにバレてみいや。アタシ、間違い無く殺されるわ」
(!?)
思いも寄らない話に、ビートの心臓がどくんと跳ね上がった。
「ん? ……ゴメン、ちょと外すで」
エリザの足音が近付いて来るのを察し、ビートは慌てて周囲を見回し、廊下の端にあるものを見付けた。
「誰かおるんか?」
まもなくエリザがドアを開け、首だけ出して廊下を確認する。と――。
「……あらぁ、かわええ子やん。にゃんちゃーん?」
「にゃーん」
廊下を歩いていた黒い猫を見付けたらしく、エリザはその猫に手招きする。
「おやつあげよかー?」
「にゃーん」
「お、欲しいかー? ええよ、こっちおいでー」
エリザは足元にやって来た黒猫を抱き上げ、頭を撫でながら部屋へと戻って行った。
(……た……助かった)
黒猫がいた廊下から、エリザの部屋を挟んで反対側にあった掃除用具入れから、ビートが恐る恐る姿を現す。
(尉官にバレたら殺されるようなこと、って……。詳しく聞いてみたいけど、……雰囲気が尋常じゃなかった。とてもじゃないけど、これ以上は聞く勇気無いよ……)
ビートは忍び足で、その場から離れた。
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嘘と嘘。
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ある晩、ビートは密かにエリザの元を訪れ、自身の嘘を告白した。
「……ですから、僕が側近を倒したのは誤解なんです」
「さよか」
が、あまりに気の無い返事をされ、ビートは面食らう。
「え……と、あの」
「そんなコトでアタシが怒ると思たか?」
エリザはクスクス笑いながら、ビートの頭をぽんぽんと撫でた。
「ええやないの。ホンマに仕留めたっちゅうヤツがどっか行ったっちゅうんやったら、手柄はアンタに譲ったっちゅうコトやん。もらって困るもんでもあらへんのやし、遠慮せずにもろときもろとき」
「で、でも」
「黙っといたらええんや、そんなもん」
エリザはパチ、とウインクし、ビートの長い耳にこしょこしょとささやいた。
「折角マリアちゃんがええ感じになついて来とんねやろ? そのまま『カッコええビートくん』のフリして射止めたったらええやんか」
「はぇ?」
間の抜けた声を漏らし、ビートは思わず口を両手で覆う。
「ど、どうしてそれを?」
「見てたら分かるわ。明らかにマリアちゃん、アンタにべったりやんか。アンタもまんざらや無い顔しとったし。ま、後ろめたそうにしとるのんもチョコチョコ見え隠れしとったけども」
「……気付かれてますかね?」
そう尋ねたビートに、エリザは肩をすくめて返す。
「気付いとるかも知れへんけど、その理由までは流石に分からんやろ。大方、恥ずかしがっとるとか照れとるとか、そんくらいにしか思てへんのやないか?」
「だといいですけど」
「ふっふふ……」
エリザはビートの肩を抱き、ニヤニヤと笑みを向ける。
「すっかりその気やな、ビートくん」
「え、えへへへ、へへ……」
ビートは自分の顔が熱くなっているのを感じつつ、エリザから離れた。
「え、えっと、まあ、じゃあ、今後は、それで通します」
「ん、そうしとき」
「はい……」
トテトテとした足取りで、ビートはエリザの部屋を後にした。
心の中にあった重荷がすっかり消え、ビートは天にも登りそうな心地になっていた。
(あー……すっきりしたよ、本当。先生に相談して、本当に良かった)
と、いくらか冷静になってきたところで、ビートはきちんと挨拶を交わさず部屋を出てしまったことに気付く。
(あ、……と。挨拶してなかったっけ、そう言えば。舞い上がりすぎだよな、もう)
慌てて踵を返し、ビートはエリザの部屋のドアを叩こうとする。と――。
「……ホンマに……変わってへん……」
エリザの声が聞こえ、ビートは首をかしげた。
(誰かいる? ……いや、『頭巾』か。誰と話してるんだろう?)
話が終わってから改めて挨拶しようと、ビートは何の気無しに聞き耳を立てた。
「目立ちたがりで自信家なんは、ホンマ筋金入りやな。死んでも治らんのとちゃうか? ビートくんが困った顔しとったで。アンタの手柄取ってええもんかって。……せや。とりあえず黙っときとは言うといたから、アンタのコトがバレるっちゅうコトは無いと思うけどな」
話が進むにつれて、ビートの心がざわめいていく。
(え、……え? 今話してる相手って、まさか、側近を倒したあの人? 先生、知り合いだったのか……!?)
聞き耳を立てる目的が、挨拶のタイミングを図ることから、内容を聞くことに切り替わる。
「大体な、こっそりやろかって言い出したん、アンタやないの。ソレが自分からノコノコ人前に出て来るとか、……分かってへんのはアンタやんか。もっぺん言うとくで? この件がバレたら、全部ワヤになるんやで?」
(な……何が?)
背筋に冷たいものを感じつつも、ビートはドアの側から離れることができなかった。
「アンタも分かるやろ、ソレくらい? コレがハンくんにバレてみいや。アタシ、間違い無く殺されるわ」
(!?)
思いも寄らない話に、ビートの心臓がどくんと跳ね上がった。
「ん? ……ゴメン、ちょと外すで」
エリザの足音が近付いて来るのを察し、ビートは慌てて周囲を見回し、廊下の端にあるものを見付けた。
「誰かおるんか?」
まもなくエリザがドアを開け、首だけ出して廊下を確認する。と――。
「……あらぁ、かわええ子やん。にゃんちゃーん?」
「にゃーん」
廊下を歩いていた黒い猫を見付けたらしく、エリザはその猫に手招きする。
「おやつあげよかー?」
「にゃーん」
「お、欲しいかー? ええよ、こっちおいでー」
エリザは足元にやって来た黒猫を抱き上げ、頭を撫でながら部屋へと戻って行った。
(……た……助かった)
黒猫がいた廊下から、エリザの部屋を挟んで反対側にあった掃除用具入れから、ビートが恐る恐る姿を現す。
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