「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・虜帝伝 3
神様たちの話、第320話。
和平へ至る、……か?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
3.
暦は8月に入り、北方情勢はついに、一大局面を迎えることとなった。
「先程、帝国からの使節が接触してきた。向こうからは『皇帝不在により、その権力・権威の代行者を選出するのに日数を要したが、どうにか折り合いが付いたため、南の邦の代表代行たる諸君らと協議を行いたい』だそうだ」
集められたシモン班の中から、マリアが手を挙げる。
「皇帝はどうするんですか? 引き渡しを?」
「それについてだが、向こうからはやたら言葉を濁された。要約すると、どうやら向こうとしては戦死したものとして扱ってほしいらしい」
これを聞いて、班員たちは揃って「あー……」と声を上げ、うなずく。
「向こうも皇帝の帰還・復位を嫌がったんですね」
「ま、そりゃそーですよね。あんな暴君、戻って来たら地獄に逆戻りでしょうし」
「それでは尉官は、現在拘束中の皇帝をどうされるんですか?」
「無論、あくまでも人道的に適切な処置を考えている」
そう返しつつ、ハンはため息をついた。
「皇帝は現在の拘束状態を維持したまま、本国へ移送する。クロスセントラルへ到着後、陛下の判断・判決に則って、然るべき処罰を加える。……と言うのが、エリザさんと陛下と親父とを交えて行った相談の結果だ。
ただ、結論はもう見えていると言っていいが」
「この邦で20年間続けられた非人道的行為と、僕たちと友好条約を結んだ国や組織に対する攻撃、そして何より、殿下を拐(かどわ)かしたことを考えたら、極刑はやむなしでしょうね」
「だろうな。俺も基本的には博愛主義であろうと努力はしているつもりだが、奴に関して言えば、その余地はこれっぽっちも無い」
「尉官……」
明らかに憤った様子のハンを見て、メリーがおずおずと手を挙げる。
「まだ、クーちゃんの居場所は分からないんですか?」
「そうだ。使節に聞いてみたが、初耳と言われたよ。向こうにも尋ねると言っていたが、そんな重大な情報をこの流れで伝えないわけが無い。恐らく知らないだろう。改めて皇帝にも尋ねてみたが、やはり無言のままだ。それどころか、さっきお前たちに伝えたことと同じ内容を奴に告げたにも関わらず、奴は表情一つ変えなかった。耳が聞こえてないんじゃないかと疑ったくらいだが、ふてぶてしいことに、飯だと告げると口を開けやがった」
「うわぁ……。腹立ちますね、それ」
マリアの同意を受けて、ハンは小さくうなずく。
「全くだ。しかしどれだけこちらがイラついたとしても、恐らく奴は動じまい。であれば怒るだけ体力と気力の無駄だ。奴にはもう、本国移送準備が整うまで会うつもりは無い。と言うよりも、会いたくないと言った方が正しいが」
「でも……」
ビートは反論しかけたものの、マリアが袖を引いてきたため、それ以上は続けなかった。
その後も遠征隊と帝国は何度か事前協議を行い、8月下旬、首都フェルタイルにおいて正式な停戦交渉を行うことが決定した。
「陛下からこの協議に対して、俺とエリザさんに全権を委ねることを伝えられた。と言っても、俺もエリザさんも変な要求をするつもりは無い。これまで他の国とそうしてきたように、友好条約を結ぶだけだ。今回はそれに、帝国の無条件降伏も付け加える。後、さらに付け足すとすれば、エリザさんが商売関係で何かしらの優遇措置を設けるよう提案する程度だろう。
これで北方での戦いは、完全に終息する。恐らく後1ヶ月、2ヶ月で遠征隊の役目は終わりとなる。俺たちも2年半ぶりに、故郷へ帰れるわけだ。……それまでにクーの居場所が判明すれば、他にはもう言うことは無いんだが」
班員たちにそう告げたハンの顔色は依然として青く、とても帰郷を喜んでいるようには見えない。
「あたしやビートも何度か尋問に参加しましたけど、本っ当に何にも反応しないですよね、あいつ。ボーッと前の方を見つめてばっかりだし」
「エリザさんでもどうにもならなかったんだ。他に誰が、奴の口を割れるって言うんだ?」
「……ですよねぇ」
「とは言え」
ハンはうんざりしたような顔をし、こう続けた。
「名実ともに帝国の最高権力者であった者に、その帝国が降伏した旨くらいは伝えておくのが筋だろう。例によって奴は何の反応もしないだろうが、これまでの事前協議でまとまった内容を聞かせるくらいのことはしておこうと思う。だが正直に言えば、とてもじゃないがもう一度だって会いたくない。
だからお前たち3人と一緒に、伝えに行こうと思う。その方がまだ、いくらか気分がマシだ」
「あ、はーい」
3人は素直に応じ、連れ立ってジーンが囚われている小屋付き馬車を訪ねた。
「異状は?」
尋ねたハンに、番をしていた兵士たちは無言で首を横に振る。
(敬礼とか経過報告とか色々端折ったけど、面倒になってきてるんだろうな、どっちも)
ビートがそんなことをぼんやり考えている間に、番兵が小屋の錠を外し、戸を開けた。
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和平へ至る、……か?
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暦は8月に入り、北方情勢はついに、一大局面を迎えることとなった。
「先程、帝国からの使節が接触してきた。向こうからは『皇帝不在により、その権力・権威の代行者を選出するのに日数を要したが、どうにか折り合いが付いたため、南の邦の代表代行たる諸君らと協議を行いたい』だそうだ」
集められたシモン班の中から、マリアが手を挙げる。
「皇帝はどうするんですか? 引き渡しを?」
「それについてだが、向こうからはやたら言葉を濁された。要約すると、どうやら向こうとしては戦死したものとして扱ってほしいらしい」
これを聞いて、班員たちは揃って「あー……」と声を上げ、うなずく。
「向こうも皇帝の帰還・復位を嫌がったんですね」
「ま、そりゃそーですよね。あんな暴君、戻って来たら地獄に逆戻りでしょうし」
「それでは尉官は、現在拘束中の皇帝をどうされるんですか?」
「無論、あくまでも人道的に適切な処置を考えている」
そう返しつつ、ハンはため息をついた。
「皇帝は現在の拘束状態を維持したまま、本国へ移送する。クロスセントラルへ到着後、陛下の判断・判決に則って、然るべき処罰を加える。……と言うのが、エリザさんと陛下と親父とを交えて行った相談の結果だ。
ただ、結論はもう見えていると言っていいが」
「この邦で20年間続けられた非人道的行為と、僕たちと友好条約を結んだ国や組織に対する攻撃、そして何より、殿下を拐(かどわ)かしたことを考えたら、極刑はやむなしでしょうね」
「だろうな。俺も基本的には博愛主義であろうと努力はしているつもりだが、奴に関して言えば、その余地はこれっぽっちも無い」
「尉官……」
明らかに憤った様子のハンを見て、メリーがおずおずと手を挙げる。
「まだ、クーちゃんの居場所は分からないんですか?」
「そうだ。使節に聞いてみたが、初耳と言われたよ。向こうにも尋ねると言っていたが、そんな重大な情報をこの流れで伝えないわけが無い。恐らく知らないだろう。改めて皇帝にも尋ねてみたが、やはり無言のままだ。それどころか、さっきお前たちに伝えたことと同じ内容を奴に告げたにも関わらず、奴は表情一つ変えなかった。耳が聞こえてないんじゃないかと疑ったくらいだが、ふてぶてしいことに、飯だと告げると口を開けやがった」
「うわぁ……。腹立ちますね、それ」
マリアの同意を受けて、ハンは小さくうなずく。
「全くだ。しかしどれだけこちらがイラついたとしても、恐らく奴は動じまい。であれば怒るだけ体力と気力の無駄だ。奴にはもう、本国移送準備が整うまで会うつもりは無い。と言うよりも、会いたくないと言った方が正しいが」
「でも……」
ビートは反論しかけたものの、マリアが袖を引いてきたため、それ以上は続けなかった。
その後も遠征隊と帝国は何度か事前協議を行い、8月下旬、首都フェルタイルにおいて正式な停戦交渉を行うことが決定した。
「陛下からこの協議に対して、俺とエリザさんに全権を委ねることを伝えられた。と言っても、俺もエリザさんも変な要求をするつもりは無い。これまで他の国とそうしてきたように、友好条約を結ぶだけだ。今回はそれに、帝国の無条件降伏も付け加える。後、さらに付け足すとすれば、エリザさんが商売関係で何かしらの優遇措置を設けるよう提案する程度だろう。
これで北方での戦いは、完全に終息する。恐らく後1ヶ月、2ヶ月で遠征隊の役目は終わりとなる。俺たちも2年半ぶりに、故郷へ帰れるわけだ。……それまでにクーの居場所が判明すれば、他にはもう言うことは無いんだが」
班員たちにそう告げたハンの顔色は依然として青く、とても帰郷を喜んでいるようには見えない。
「あたしやビートも何度か尋問に参加しましたけど、本っ当に何にも反応しないですよね、あいつ。ボーッと前の方を見つめてばっかりだし」
「エリザさんでもどうにもならなかったんだ。他に誰が、奴の口を割れるって言うんだ?」
「……ですよねぇ」
「とは言え」
ハンはうんざりしたような顔をし、こう続けた。
「名実ともに帝国の最高権力者であった者に、その帝国が降伏した旨くらいは伝えておくのが筋だろう。例によって奴は何の反応もしないだろうが、これまでの事前協議でまとまった内容を聞かせるくらいのことはしておこうと思う。だが正直に言えば、とてもじゃないがもう一度だって会いたくない。
だからお前たち3人と一緒に、伝えに行こうと思う。その方がまだ、いくらか気分がマシだ」
「あ、はーい」
3人は素直に応じ、連れ立ってジーンが囚われている小屋付き馬車を訪ねた。
「異状は?」
尋ねたハンに、番をしていた兵士たちは無言で首を横に振る。
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