「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・虜帝伝 4
神様たちの話、第321話。
吊られた男。
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4.
小屋の中央でぶらぶらと揺れている皇帝レン・ジーンを見て、ビートはとても嫌なものを感じていた。
(何て言ったらいいんだろう……。空気が違うんだよな。外と、中とで。……地獄の入口なんてものがあったら、こんな感じなんだろうなって)
その地獄の主とも言うべき相手に、ハンは入口に立ったままで告げた。
「帝国との正式協議が3日後に行われることになった。これにより、我々は北方全域と友好関係を結ぶこととなる。今後永久に、両者は互いに争わず、また、互いの領土を侵すことが無いよう、対等な関係を築き続けるべく、不断の努力を以て臨む、……と言うようなことを綱領とする予定だ。つまりこの邦の人間も、俺たちも、お前のこの20年における所業・足跡を全否定し、あらゆる観点での価値を認めないとともに、お前に関するそのすべてを永遠に消去・封印し、後の歴史には一切残さないことを決断した。
お前はもうこの世にも人の記憶にも、いてはならない人間だと言うことだ」
「……」
横で聞いていたビートも、この宣告には少なからず悪意と侮蔑が含まれていることを感じていた。
(ただただ辛辣だな……。僕がこんなこと言われたら、絶対立ち直れないよ)
だが、「全歴史から抹殺する」と宣言されてもなお、ジーンは虚空を見つめたままであり、何ら反応を示さない。
「……以上だ」
ハンもこれ以上は無駄だと思ったらしく、そこで話を切り上げる。
「帰るぞ」
「了解です」
踵を返したハンに続く形で、ビートたちもその場を後にしようとした。
その時だった。
「貴様たちは悪魔なるものを知っているか?」
これまで一言も発さなかったジーンが、唐突に口を開いた。
「……なに?」
「悪魔、だ。知っているかと問うておる」
「いきなり何を言うのかと思えば、そんなことか。いよいよ頭がどうかしてきたらしいな」
「知らぬのか?」
尋ね直してきたジーンに、ハンが吐き捨てるように答えた。
「お前のことだろう」
「余か。……くくく、……余は悪魔では無い。余は人に過ぎぬ身よ」
ぶらぶらと揺れたまま、ジーンは語り始めた。
「真の悪魔は余にこう告げた。『自分の導くままに振る舞い、進み続ければ、お前はいずれ、この世の王となるであろう』と。それが20年前のことだ。悪魔の導きに従い、余はこの大地を蹂躙し尽くし、確かに王となることができた。
王となった余に、悪魔はさらに告げた。『大地はここ一つでは無く、ここより南の世界にも三つあるのだ』と。あると言うのであれば、この世の王である余がそこに君臨せぬ理由は無い。故に兵を差し向け、諸君らの土地へと歩を進めたのだ」
「ああそうかい、そりゃ良かったな」
ハンははあ、と苛立たしげなため息を付き、ジーンをにらみつけた。
「で? 自分の悪行はすべて悪魔のせいだ、自分は悪くないって?」
「そうではない」
ジーンはニタリと顔を歪ませ、こう続けた。
「悪魔は常に余の味方、守護者であると言うことだ。悪魔は――余の第一の側近たるアル・ノゾンは約束してくれておる。『もし自分が倒れたとしても、お前がその生命さえ永らえていれば、私は28日の後に復活し、ふたたびお前の元に現れよう』と。
さて、海外人よ。余が貴様らの手に堕ちて、今日で何日目となるか?」
「……!」
ビートは頭の中で日数を数え、それが丁度28日であることに気付いた。
ドン、と小屋の天井から音が響き、そのまま崩落する。
「なっ……!?」
床に倒れ込んだジーンの側に、黒いフードを身に着けた何者かが立っていた。
「助けに来たぞ、レン」
「うむ。大儀であったぞ、アル」
アルはジーンの体を縛っていた鎖に手をかけ、そのまま引きちぎる。
「では戻るぞ。だが敵が妨害術を仕掛けたようだ。このままでは『テレポート』は使用できない。術者の位置は不明だ」
「この距離なら徒歩でも問題あるまい」
「うむ」
そのまま立ち去ろうとするジーンたちの前に、シモン班が立ちふさがった。
「そのまま行かせると思うか!」
「まだ自分が優位のつもりであるか、賊将」
次の瞬間、ハンの懐にジーンが滑り込み、拳を突き込んでいた。
「がは……っ」
「尉官!」
ハンが弾かれると同時に、アルも周りにいた他の班員に攻撃を仕掛ける。
「死ぬが……」「やらせるかあッ!」
だが、その初撃をマリアが槍の柄で受け流しつつ、蹴りを頭部に叩き込む。
「ウヌ……ッ!?」
具足で覆われたマリアの脚がアルの側頭部を捉え、相手の首が一瞬、がくんと斜めに傾いた。
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吊られた男。
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小屋の中央でぶらぶらと揺れている皇帝レン・ジーンを見て、ビートはとても嫌なものを感じていた。
(何て言ったらいいんだろう……。空気が違うんだよな。外と、中とで。……地獄の入口なんてものがあったら、こんな感じなんだろうなって)
その地獄の主とも言うべき相手に、ハンは入口に立ったままで告げた。
「帝国との正式協議が3日後に行われることになった。これにより、我々は北方全域と友好関係を結ぶこととなる。今後永久に、両者は互いに争わず、また、互いの領土を侵すことが無いよう、対等な関係を築き続けるべく、不断の努力を以て臨む、……と言うようなことを綱領とする予定だ。つまりこの邦の人間も、俺たちも、お前のこの20年における所業・足跡を全否定し、あらゆる観点での価値を認めないとともに、お前に関するそのすべてを永遠に消去・封印し、後の歴史には一切残さないことを決断した。
お前はもうこの世にも人の記憶にも、いてはならない人間だと言うことだ」
「……」
横で聞いていたビートも、この宣告には少なからず悪意と侮蔑が含まれていることを感じていた。
(ただただ辛辣だな……。僕がこんなこと言われたら、絶対立ち直れないよ)
だが、「全歴史から抹殺する」と宣言されてもなお、ジーンは虚空を見つめたままであり、何ら反応を示さない。
「……以上だ」
ハンもこれ以上は無駄だと思ったらしく、そこで話を切り上げる。
「帰るぞ」
「了解です」
踵を返したハンに続く形で、ビートたちもその場を後にしようとした。
その時だった。
「貴様たちは悪魔なるものを知っているか?」
これまで一言も発さなかったジーンが、唐突に口を開いた。
「……なに?」
「悪魔、だ。知っているかと問うておる」
「いきなり何を言うのかと思えば、そんなことか。いよいよ頭がどうかしてきたらしいな」
「知らぬのか?」
尋ね直してきたジーンに、ハンが吐き捨てるように答えた。
「お前のことだろう」
「余か。……くくく、……余は悪魔では無い。余は人に過ぎぬ身よ」
ぶらぶらと揺れたまま、ジーンは語り始めた。
「真の悪魔は余にこう告げた。『自分の導くままに振る舞い、進み続ければ、お前はいずれ、この世の王となるであろう』と。それが20年前のことだ。悪魔の導きに従い、余はこの大地を蹂躙し尽くし、確かに王となることができた。
王となった余に、悪魔はさらに告げた。『大地はここ一つでは無く、ここより南の世界にも三つあるのだ』と。あると言うのであれば、この世の王である余がそこに君臨せぬ理由は無い。故に兵を差し向け、諸君らの土地へと歩を進めたのだ」
「ああそうかい、そりゃ良かったな」
ハンははあ、と苛立たしげなため息を付き、ジーンをにらみつけた。
「で? 自分の悪行はすべて悪魔のせいだ、自分は悪くないって?」
「そうではない」
ジーンはニタリと顔を歪ませ、こう続けた。
「悪魔は常に余の味方、守護者であると言うことだ。悪魔は――余の第一の側近たるアル・ノゾンは約束してくれておる。『もし自分が倒れたとしても、お前がその生命さえ永らえていれば、私は28日の後に復活し、ふたたびお前の元に現れよう』と。
さて、海外人よ。余が貴様らの手に堕ちて、今日で何日目となるか?」
「……!」
ビートは頭の中で日数を数え、それが丁度28日であることに気付いた。
ドン、と小屋の天井から音が響き、そのまま崩落する。
「なっ……!?」
床に倒れ込んだジーンの側に、黒いフードを身に着けた何者かが立っていた。
「助けに来たぞ、レン」
「うむ。大儀であったぞ、アル」
アルはジーンの体を縛っていた鎖に手をかけ、そのまま引きちぎる。
「では戻るぞ。だが敵が妨害術を仕掛けたようだ。このままでは『テレポート』は使用できない。術者の位置は不明だ」
「この距離なら徒歩でも問題あるまい」
「うむ」
そのまま立ち去ろうとするジーンたちの前に、シモン班が立ちふさがった。
「そのまま行かせると思うか!」
「まだ自分が優位のつもりであるか、賊将」
次の瞬間、ハンの懐にジーンが滑り込み、拳を突き込んでいた。
「がは……っ」
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