「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・虜帝伝 5
神様たちの話、第322話。
兵(つわもの)。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
前回、簡単にあしらったはずの相手から一撃を受け、アルは膝を着いた。
「……ガ……ッ……ガピュ、……ナ、……何だ、この威力は?」
相当に効いたらしく、アルから戸惑った声が漏れる。
「二度もあんたにやられてたまるかっての!」
マリアは槍を構え直し、アルの喉元を狙って突きを放った。だがアルは身を翻し、マリアから距離を取った。
「脅威と判定するに値する。単独でのお前との戦闘は得策では無いと判断した。プランを変更する」
「あ?」
「レン。二人でこの女を倒すことを提案する」
「ほう?」
気を失ったハンから剣を奪い取り、今にも振り下ろそうとしていたジーンが、意外そうな顔でアルに振り向いた。
「お前ほどの者が余の救援を請うか。その猫女、それほどの手練か?」
「前回交戦時より筋出力及び神経反射速度が50%以上増加していると推定される。どうやら超適応能力を有しているようだ。戦えば戦うほど、脅威を増す類の人間だろう」
「相変わらずお前の言っていることが一体何を示すのか、さっぱり分からぬな。まあ良い、お前が余を恃(たの)みにするなど稀有なことだ。であればその提案、乗らぬのは勿体無い」
ジーンは踵を返し、アルの横に並ぶ。
「2対1ならば問題無かろう?」
「うむ」
ジーンに剣を向けられるが、マリアは不敵に笑って返す。
「2対1? こっちにはあんたを倒した奴がいるって忘れてない?」
「なに?」
マリアは背後のビートを親指で示し、啖呵を切った。
「こいつよ。こいつは一人でそいつを――あんたが言う悪魔を倒したのよ」
「私を?」
アルはマリアの陰にいたビートを一瞥し、それをあっさり否定した。
「そのような事実は存在しない。私を破壊したのは別の者だ」
「……え?」
マリアはジーンたちに槍を向けたまま、ビートに尋ねる。
「ねえ、あんた? あんたが倒したって言ったわよね? そうよね?」
「あ……そ、それは」
「……あんた、まさか」
マリアが振り向き、憤怒に満ちた目をビートに向けた、その瞬間――。
「くくく……」
ジーンは剣を薙ぎ、マリアの首を狙ってきた。
「……ッ」
それでもマリアは即応し、槍の柄で受け流して反撃する。
「らああッ!」
柄で剣先を絡め取り、ジーンが前のめりになったところで、回し蹴りの体勢を取る。
「く……っ」
ジーンもまた瞬時に動き、剣をぱっと手放して、空いたその手でマリアの脚をつかんだ。
「なるほど、なるほど。確かに速い。だがつかんでしまえばそれまでだ」
「う……ぐっ」
ギチギチと音を立て、具足がジーンの手の形に歪んで行く。同時にマリアの顔も、痛みで歪み始めた。
「ああ……ああああッ!」
「どれ、このまま握り潰して……」
と――ジーンはその手を離し、ぐるんと振り返った。
「驚いたぞ。もう目を覚ましておったか」
「訓練してるんでな」
ジーンはすぐ側まで迫っていた短剣を素手でつかみ、その短剣を握るハンににやぁ、と笑いかけた。
「将からして手練であったか。なかなかに手強い」
ジーンは右手で短剣をつかんだまま、左手でハンの腕を殴る。
「ぐ……っ」
ボキ、と痛々しい音が響き、ハンの腕が折れる。ハンとマリアの攻めが途切れたところで、ジーンはアルに向き直った。
「アルよ。もうそろそろ、救援が現れよう。100や200程度ならどうと言うことも無いが、その十倍でかかられるとなれば、ちと骨が折れる。その上、28日もの間宙吊りにされ、飯もろくに食わされておらぬのでな。これ以上の相手は御免被るところだ。こいつらは捨て置くぞ」
「了解した」
行動不能になったシモン班に背を向け、ジーンとアルはその場から姿を消した。
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兵(つわもの)。
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5.
前回、簡単にあしらったはずの相手から一撃を受け、アルは膝を着いた。
「……ガ……ッ……ガピュ、……ナ、……何だ、この威力は?」
相当に効いたらしく、アルから戸惑った声が漏れる。
「二度もあんたにやられてたまるかっての!」
マリアは槍を構え直し、アルの喉元を狙って突きを放った。だがアルは身を翻し、マリアから距離を取った。
「脅威と判定するに値する。単独でのお前との戦闘は得策では無いと判断した。プランを変更する」
「あ?」
「レン。二人でこの女を倒すことを提案する」
「ほう?」
気を失ったハンから剣を奪い取り、今にも振り下ろそうとしていたジーンが、意外そうな顔でアルに振り向いた。
「お前ほどの者が余の救援を請うか。その猫女、それほどの手練か?」
「前回交戦時より筋出力及び神経反射速度が50%以上増加していると推定される。どうやら超適応能力を有しているようだ。戦えば戦うほど、脅威を増す類の人間だろう」
「相変わらずお前の言っていることが一体何を示すのか、さっぱり分からぬな。まあ良い、お前が余を恃(たの)みにするなど稀有なことだ。であればその提案、乗らぬのは勿体無い」
ジーンは踵を返し、アルの横に並ぶ。
「2対1ならば問題無かろう?」
「うむ」
ジーンに剣を向けられるが、マリアは不敵に笑って返す。
「2対1? こっちにはあんたを倒した奴がいるって忘れてない?」
「なに?」
マリアは背後のビートを親指で示し、啖呵を切った。
「こいつよ。こいつは一人でそいつを――あんたが言う悪魔を倒したのよ」
「私を?」
アルはマリアの陰にいたビートを一瞥し、それをあっさり否定した。
「そのような事実は存在しない。私を破壊したのは別の者だ」
「……え?」
マリアはジーンたちに槍を向けたまま、ビートに尋ねる。
「ねえ、あんた? あんたが倒したって言ったわよね? そうよね?」
「あ……そ、それは」
「……あんた、まさか」
マリアが振り向き、憤怒に満ちた目をビートに向けた、その瞬間――。
「くくく……」
ジーンは剣を薙ぎ、マリアの首を狙ってきた。
「……ッ」
それでもマリアは即応し、槍の柄で受け流して反撃する。
「らああッ!」
柄で剣先を絡め取り、ジーンが前のめりになったところで、回し蹴りの体勢を取る。
「く……っ」
ジーンもまた瞬時に動き、剣をぱっと手放して、空いたその手でマリアの脚をつかんだ。
「なるほど、なるほど。確かに速い。だがつかんでしまえばそれまでだ」
「う……ぐっ」
ギチギチと音を立て、具足がジーンの手の形に歪んで行く。同時にマリアの顔も、痛みで歪み始めた。
「ああ……ああああッ!」
「どれ、このまま握り潰して……」
と――ジーンはその手を離し、ぐるんと振り返った。
「驚いたぞ。もう目を覚ましておったか」
「訓練してるんでな」
ジーンはすぐ側まで迫っていた短剣を素手でつかみ、その短剣を握るハンににやぁ、と笑いかけた。
「将からして手練であったか。なかなかに手強い」
ジーンは右手で短剣をつかんだまま、左手でハンの腕を殴る。
「ぐ……っ」
ボキ、と痛々しい音が響き、ハンの腕が折れる。ハンとマリアの攻めが途切れたところで、ジーンはアルに向き直った。
「アルよ。もうそろそろ、救援が現れよう。100や200程度ならどうと言うことも無いが、その十倍でかかられるとなれば、ちと骨が折れる。その上、28日もの間宙吊りにされ、飯もろくに食わされておらぬのでな。これ以上の相手は御免被るところだ。こいつらは捨て置くぞ」
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