「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・虜帝伝 6
神様たちの話、第323話。
責任追及。
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6.
「腕は折れとったけど、しっかりくっつけたったで。せやけど一晩は安静にしいや。流石に今夜くらいは休まな」
「承知しました。ありがとうございます、エリザさん」
「マリアちゃんも脚折られとったけど、こっちもキレイに治したった。心配いらんで。あと、メリーちゃんと小屋守っとった子らも、気絶しただけやったわ。人的被害無し、っちゅうヤツやな。ただ、問題はや」
そこまではニコニコしながら伝えていたエリザも、流石にここで顔をしかめた。
「皇帝さんが逃げよった、と。しかもやっつけたはずの側近さんが助けに来よったって?」
「ええ。……極めて遺憾な点がいくつも出て来ましたね」
ハンは右手を開いたり、閉じたりしつつ、エリザとともに状況を整理する。
「皇帝の行先は不明と言えば不明ですが、推理するまでもないでしょう」
「十中八九、帝国首都やろ。一応、向こうにも話し合いのために人を送っとったし、何かあったら緊急警報送るようにしとったから、今回の件は既に伝わっとるはずや」
「助かります」
「ほんで、側近さんが生きとったっちゅうのんもびっくりやな」
「常識的に考えれば、ビートが死んだものと誤認したのでしょう。ビートの処罰は不可避です。彼は自分が側近を倒したと吹聴し、既に報奨も得ていますからね。その返還は当然行わせますが、それで問題無しとは行きません。事実として彼は虚偽報告を行ったわけですし、状況を正確に報告していれば――少なくとも彼から『死亡を確認した』と報告されなければ――より厳重な守備体制を敷いたでしょうからね。
現時点で彼には、不名誉除隊の処分を下すことを検討しています」
「や、そらちょっとキツすぎやろ。ちょっと勘違いした程度やないの。しゃあないやんか、そんな状況で死んだと思ってしもても。前にも言うたやんか、寛容が肝心やでって」
エリザの弁護を、ハンは頑として聞き入れない。
「無論、これが単なる一兵卒がした失敗で、逃がした相手が皇帝やその側近で無ければ、訓告程度で済みます。大きな問題にはしません。ですが事実として、この遠征隊における重要な地位を与えられた人間が、敵側の重要人物の死亡を確認したと嘘を付いたために、事態が深刻化したわけですからね。その責任を彼自身に取らせなければ、皆も納得しないでしょう。決してこのまま、この地位を維持させるわけには行きません」
「そらな、うん、そう言う意見もあるやろうけども、でもな……」
ビートに真実を告げることを止めさせたのは他ならぬエリザであり、その後ろめたさもあって、エリザは処分を差し止めるよう説得を重ねたが、ハン、そして怒りに満ちた遠征隊全体の意見を曲げさせることは、エリザにも困難であった。
その結果、どうにかビートの不名誉除隊と無期限の禁固処分は一時見送らせたものの、正式処分が決定されるまでの拘留は、回避できなかった。
とは言え、現時点での最優先事項は皇帝への対策である。ビートを拘留しておく場所については、ひとまずエリザが取っていた宿の一室を借りることとなった。
「……ゴメンな」
エリザはその部屋を密かに訪ね、ビートに深々と頭を下げて謝罪した。
「まさかこんなコトになるとは……」「僕がどんな目に遭ったか、知ってますか?」
謝るエリザに、ビートはとげとげしく言葉を連ねる。
「殴られましたよ、マリアさんに。『このウソツキ』って。尉官にはもう、目も合わせてもらえなくなりましたしね。それにこんなことがあった以上、除隊以外に選択肢はありません。全部、あなたのせいだ。先生の甘言に乗ったせいで、僕はすべてを失ったんですよ? それで頭下げてごめんなんて言われて、許すと思うんですか?」
「う……」
ビートはエリザに背を向け、こう続けた。
「でもまた後1つ、交渉材料があるんですよね」
「え?」
「僕も虚偽報告を行ったって話ですけど、エリザさんもですよね? 何か尉官に、嘘を付いてるって」
「……やっぱりアレ聞いとったか」
振り向いたビートと、頭を上げたエリザの視線が交錯する。
「ソレをバラされたくなかったら、アタシに何かせえって?」
「そうです。このまま手をこまねいてたんじゃ、本土に帰っても牢獄暮らしが待ってるだけですからね」
「しゃあないな。何してほしいんや?」
尋ねたエリザの狐耳に、ビートは顔を寄せた。
「教えて下さい。あなたが何を隠してるのか。それから……」
「ソレから?」
「あなたの持ってる、一番強力な術を」
「……は?」
顔を向けたエリザに、ビートは真剣な表情を見せた。
「虚偽報告じゃなけりゃいい。僕が本当に側近を倒せば、多少は処分も減免されるでしょう?」
「……アンタ、……何ちゅうか」
エリザは顔に手を当て、げらげらと笑い出す。
「悪人にはなられへんな」
「なりたくないです、そんなもの」
「……よっしゃ、分かった。どっちも、ちゃんと教えたる」
エリザは笑いながら、ビートの頭をぽんぽんと叩いた。
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責任追及。
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「腕は折れとったけど、しっかりくっつけたったで。せやけど一晩は安静にしいや。流石に今夜くらいは休まな」
「承知しました。ありがとうございます、エリザさん」
「マリアちゃんも脚折られとったけど、こっちもキレイに治したった。心配いらんで。あと、メリーちゃんと小屋守っとった子らも、気絶しただけやったわ。人的被害無し、っちゅうヤツやな。ただ、問題はや」
そこまではニコニコしながら伝えていたエリザも、流石にここで顔をしかめた。
「皇帝さんが逃げよった、と。しかもやっつけたはずの側近さんが助けに来よったって?」
「ええ。……極めて遺憾な点がいくつも出て来ましたね」
ハンは右手を開いたり、閉じたりしつつ、エリザとともに状況を整理する。
「皇帝の行先は不明と言えば不明ですが、推理するまでもないでしょう」
「十中八九、帝国首都やろ。一応、向こうにも話し合いのために人を送っとったし、何かあったら緊急警報送るようにしとったから、今回の件は既に伝わっとるはずや」
「助かります」
「ほんで、側近さんが生きとったっちゅうのんもびっくりやな」
「常識的に考えれば、ビートが死んだものと誤認したのでしょう。ビートの処罰は不可避です。彼は自分が側近を倒したと吹聴し、既に報奨も得ていますからね。その返還は当然行わせますが、それで問題無しとは行きません。事実として彼は虚偽報告を行ったわけですし、状況を正確に報告していれば――少なくとも彼から『死亡を確認した』と報告されなければ――より厳重な守備体制を敷いたでしょうからね。
現時点で彼には、不名誉除隊の処分を下すことを検討しています」
「や、そらちょっとキツすぎやろ。ちょっと勘違いした程度やないの。しゃあないやんか、そんな状況で死んだと思ってしもても。前にも言うたやんか、寛容が肝心やでって」
エリザの弁護を、ハンは頑として聞き入れない。
「無論、これが単なる一兵卒がした失敗で、逃がした相手が皇帝やその側近で無ければ、訓告程度で済みます。大きな問題にはしません。ですが事実として、この遠征隊における重要な地位を与えられた人間が、敵側の重要人物の死亡を確認したと嘘を付いたために、事態が深刻化したわけですからね。その責任を彼自身に取らせなければ、皆も納得しないでしょう。決してこのまま、この地位を維持させるわけには行きません」
「そらな、うん、そう言う意見もあるやろうけども、でもな……」
ビートに真実を告げることを止めさせたのは他ならぬエリザであり、その後ろめたさもあって、エリザは処分を差し止めるよう説得を重ねたが、ハン、そして怒りに満ちた遠征隊全体の意見を曲げさせることは、エリザにも困難であった。
その結果、どうにかビートの不名誉除隊と無期限の禁固処分は一時見送らせたものの、正式処分が決定されるまでの拘留は、回避できなかった。
とは言え、現時点での最優先事項は皇帝への対策である。ビートを拘留しておく場所については、ひとまずエリザが取っていた宿の一室を借りることとなった。
「……ゴメンな」
エリザはその部屋を密かに訪ね、ビートに深々と頭を下げて謝罪した。
「まさかこんなコトになるとは……」「僕がどんな目に遭ったか、知ってますか?」
謝るエリザに、ビートはとげとげしく言葉を連ねる。
「殴られましたよ、マリアさんに。『このウソツキ』って。尉官にはもう、目も合わせてもらえなくなりましたしね。それにこんなことがあった以上、除隊以外に選択肢はありません。全部、あなたのせいだ。先生の甘言に乗ったせいで、僕はすべてを失ったんですよ? それで頭下げてごめんなんて言われて、許すと思うんですか?」
「う……」
ビートはエリザに背を向け、こう続けた。
「でもまた後1つ、交渉材料があるんですよね」
「え?」
「僕も虚偽報告を行ったって話ですけど、エリザさんもですよね? 何か尉官に、嘘を付いてるって」
「……やっぱりアレ聞いとったか」
振り向いたビートと、頭を上げたエリザの視線が交錯する。
「ソレをバラされたくなかったら、アタシに何かせえって?」
「そうです。このまま手をこまねいてたんじゃ、本土に帰っても牢獄暮らしが待ってるだけですからね」
「しゃあないな。何してほしいんや?」
尋ねたエリザの狐耳に、ビートは顔を寄せた。
「教えて下さい。あなたが何を隠してるのか。それから……」
「ソレから?」
「あなたの持ってる、一番強力な術を」
「……は?」
顔を向けたエリザに、ビートは真剣な表情を見せた。
「虚偽報告じゃなけりゃいい。僕が本当に側近を倒せば、多少は処分も減免されるでしょう?」
「……アンタ、……何ちゅうか」
エリザは顔に手を当て、げらげらと笑い出す。
「悪人にはなられへんな」
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エリザは笑いながら、ビートの頭をぽんぽんと叩いた。
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