「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・虜帝伝 7
神様たちの話、第324話。
討伐の覚悟。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
皇帝逃亡の翌日、帝国に派遣していた者からの連絡が届いた。
「向こうの人間と共に首都から逃亡し、今はここから東の村に滞在しているそうです。また、斥候からは既に皇帝が戻って来たと報告されています。ただし事前に首都内の人間を逃がすよう、エリザさんが手配してくれていたおかげで、彼ら以外の姿は無いとのことです。つまり敵の数は皇帝と側近、その2名だけと考えていいでしょう。
それが最大の問題であるとも言えますが」
頭を抱えるハンに続き、エリザも憂鬱そうな顔で煙管を口にくわえる。
「めちゃめちゃ強いらしいやんか、側近さん。皇帝さんも相当やし。こっちの精鋭全員ぶつけて、どうにかなるかやな。しかも側近さん、生き返るらしいし」
「そんな与太話を信じるんですか?」
「アンタ、ビートくんが丸っきりウソつきやと思とるんか? そんな子やったか?」
「虚偽報告は事実でしょう」
「ソレかて、相手が死んだと思とったからそう言うてしもたって話やんか。普段から真面目でちゃんとしとった子やないの。……ともかく、今まで持っとった常識はこの際置いといて、今回の場合だけとして考えたら、や。
死んでも復活するとなると、コレはめんどくさい相手やで。何遍(なんべん)やっつけてもキリが無いっちゅう話やからな。ただ、皇帝さんは『死んでから28日後に』て言うてはったんやな?」
「ええ、そんなことを言っていましたが、……それも信じると?」
「実際、きっちり28日経ってから来たやないの。そら勿論、皇帝さんが示し合わせてたとか、そう言うコトも考えられるけども、でもすぐ助けに来られるんやったらそうしたらええやんかって話やん? 防衛線構築までボーッとしとった時と違て、待っとる理由は無いやろし」
「自分が不在の期間を作り、その間に独断専行する者がいないか確かめていた、とか。……いや、それも変と言えば変か。最初から部下を信用していないような奴が、わざわざあぶり出しを行う理由は無いでしょうし。気に入らない点があれば即刻処刑するでしょう」
「皇帝さんが偉そうに言うてたその話は、真実やとアタシはにらんどる。せやからこそ、この情報は大きいと思うで」
エリザは煙管に新しい煙草を詰めつつ、自分の予測を話す。
「逆の見方をしたら、側近さんをやっつけたら28日間は復活でけへんっちゅうコトになる。その間に、討つんが得策やろな。
いや、そもそもの話――ゼルカノゼロ南岸でさっさと討っといたら、こうはならんかったんや。アンタは人道的観点やら、不誠実に思われるやらゴチャゴチャ言うて拘束に留めたけども、結局はこうなった。ずっと捕まえとくっちゅう考えが、そもそも下策やったんやろ」
「しかし……」
「ソレにアンタはクーちゃんの居場所を聞き出そうとしとったけども、結局一言もしゃべりよらんかったやろ? あんだけ拷問スレスレのコトしてしゃべりよらんとなると、後はもうホンマにガチの拷問にかけな、どないもならんかったんやないか? でもクーちゃんの命がかかっとるにもかかわらず、アンタはソレをせえへんかった。一体何でや?」
「それは……」
口ごもるハンの鼻先に、エリザは煙管を突き付ける。
「はっきり言うたる。アンタはまだクーちゃんの無事より、自分の手を汚さん方を選んどるんや。せやからアンタは、いつまで経っても決定的な手を打とうとせえへんのや。その煮え切らへんアンタのヌルさ、ニブさを、皇帝さんは見抜いてたんやろな。せやからあん時、抵抗せんと投降しよったんやろ。『どうせ生かしとく』と高をくくってたんや。
ナメられとるんや、アンタは」
「……っ」
憮然とした顔をし、黙り込んだハンに、エリザが畳み掛けた。
「ええ加減、覚悟決めえや。アンタはクーちゃんを助け出すって宣言したんやろ? ほんなら、ソレを第一に考えて行動せな。この期に及んでしょうもないコト考えてる場合か? そう言う日和見が結局、クーちゃんを取り戻すっちゅう一番大事な目的からどんどん遠ざかる原因になっとると、まだ分からへんのんか?」
「……」
何も答えないハンに、エリザは一転、優しい声で続ける。
「仮にや、アンタが皇帝さんを殺したとして、ソレでもう、クーちゃんの居場所が分からへんくなると思うか?」
「え?」
「アタシがおるんやで? アタシの情報網と知恵があったら、いくらでも見付け出したる。皇帝の顔色うかがいながら、根掘り葉掘り聞く必要なんか無いで」
「……」
ハンはまた黙り込んだが――やがて意を決した顔で立ち上がり、エリザに答えた。
「エリザさんの言う通りです。俺にはまだ、覚悟が足りていなかったんでしょう。今度こそ俺は、皇帝を討ちます」
「ん、頑張りや」
エリザはにこ、と笑みを返し、こう答えた。
「側近さんについてはアタシに策がある。アンタは皇帝さんを倒すコトに専念するんや」
「承知しました。頼みました、エリザさん」
「ん、任しとき」
琥珀暁・虜帝伝 終
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討伐の覚悟。
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7.
皇帝逃亡の翌日、帝国に派遣していた者からの連絡が届いた。
「向こうの人間と共に首都から逃亡し、今はここから東の村に滞在しているそうです。また、斥候からは既に皇帝が戻って来たと報告されています。ただし事前に首都内の人間を逃がすよう、エリザさんが手配してくれていたおかげで、彼ら以外の姿は無いとのことです。つまり敵の数は皇帝と側近、その2名だけと考えていいでしょう。
それが最大の問題であるとも言えますが」
頭を抱えるハンに続き、エリザも憂鬱そうな顔で煙管を口にくわえる。
「めちゃめちゃ強いらしいやんか、側近さん。皇帝さんも相当やし。こっちの精鋭全員ぶつけて、どうにかなるかやな。しかも側近さん、生き返るらしいし」
「そんな与太話を信じるんですか?」
「アンタ、ビートくんが丸っきりウソつきやと思とるんか? そんな子やったか?」
「虚偽報告は事実でしょう」
「ソレかて、相手が死んだと思とったからそう言うてしもたって話やんか。普段から真面目でちゃんとしとった子やないの。……ともかく、今まで持っとった常識はこの際置いといて、今回の場合だけとして考えたら、や。
死んでも復活するとなると、コレはめんどくさい相手やで。何遍(なんべん)やっつけてもキリが無いっちゅう話やからな。ただ、皇帝さんは『死んでから28日後に』て言うてはったんやな?」
「ええ、そんなことを言っていましたが、……それも信じると?」
「実際、きっちり28日経ってから来たやないの。そら勿論、皇帝さんが示し合わせてたとか、そう言うコトも考えられるけども、でもすぐ助けに来られるんやったらそうしたらええやんかって話やん? 防衛線構築までボーッとしとった時と違て、待っとる理由は無いやろし」
「自分が不在の期間を作り、その間に独断専行する者がいないか確かめていた、とか。……いや、それも変と言えば変か。最初から部下を信用していないような奴が、わざわざあぶり出しを行う理由は無いでしょうし。気に入らない点があれば即刻処刑するでしょう」
「皇帝さんが偉そうに言うてたその話は、真実やとアタシはにらんどる。せやからこそ、この情報は大きいと思うで」
エリザは煙管に新しい煙草を詰めつつ、自分の予測を話す。
「逆の見方をしたら、側近さんをやっつけたら28日間は復活でけへんっちゅうコトになる。その間に、討つんが得策やろな。
いや、そもそもの話――ゼルカノゼロ南岸でさっさと討っといたら、こうはならんかったんや。アンタは人道的観点やら、不誠実に思われるやらゴチャゴチャ言うて拘束に留めたけども、結局はこうなった。ずっと捕まえとくっちゅう考えが、そもそも下策やったんやろ」
「しかし……」
「ソレにアンタはクーちゃんの居場所を聞き出そうとしとったけども、結局一言もしゃべりよらんかったやろ? あんだけ拷問スレスレのコトしてしゃべりよらんとなると、後はもうホンマにガチの拷問にかけな、どないもならんかったんやないか? でもクーちゃんの命がかかっとるにもかかわらず、アンタはソレをせえへんかった。一体何でや?」
「それは……」
口ごもるハンの鼻先に、エリザは煙管を突き付ける。
「はっきり言うたる。アンタはまだクーちゃんの無事より、自分の手を汚さん方を選んどるんや。せやからアンタは、いつまで経っても決定的な手を打とうとせえへんのや。その煮え切らへんアンタのヌルさ、ニブさを、皇帝さんは見抜いてたんやろな。せやからあん時、抵抗せんと投降しよったんやろ。『どうせ生かしとく』と高をくくってたんや。
ナメられとるんや、アンタは」
「……っ」
憮然とした顔をし、黙り込んだハンに、エリザが畳み掛けた。
「ええ加減、覚悟決めえや。アンタはクーちゃんを助け出すって宣言したんやろ? ほんなら、ソレを第一に考えて行動せな。この期に及んでしょうもないコト考えてる場合か? そう言う日和見が結局、クーちゃんを取り戻すっちゅう一番大事な目的からどんどん遠ざかる原因になっとると、まだ分からへんのんか?」
「……」
何も答えないハンに、エリザは一転、優しい声で続ける。
「仮にや、アンタが皇帝さんを殺したとして、ソレでもう、クーちゃんの居場所が分からへんくなると思うか?」
「え?」
「アタシがおるんやで? アタシの情報網と知恵があったら、いくらでも見付け出したる。皇帝の顔色うかがいながら、根掘り葉掘り聞く必要なんか無いで」
「……」
ハンはまた黙り込んだが――やがて意を決した顔で立ち上がり、エリザに答えた。
「エリザさんの言う通りです。俺にはまだ、覚悟が足りていなかったんでしょう。今度こそ俺は、皇帝を討ちます」
「ん、頑張りや」
エリザはにこ、と笑みを返し、こう答えた。
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