「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・追討伝 1
神様たちの話、第325話。
帝都制圧。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
皇帝の逃亡と言う非常事態に見舞われたものの、智将エリザがこの事態を想定していないはずは無かった。
「緊急警報が発令されました!」
「きんきゅうけいほう?」
協議のため、帝国首都フェルタイルに駐留していた遠征隊の兵士たちからその報せを告げられ、帝国側の代表らは尋ね返す。
「何かあったのか?」
「ま、まさか!?」
「皇帝が脱走した場合、自動で彼の瞬間移動を妨害する術を展開すると共に、我々に警報が届く手筈となっています。つまり……」
「や、やはり陛下、いや、皇帝が!?」
「ああ、何と言うことだ!」
嘆く大臣や将軍たちに、兵士が「落ち着いて下さい」と返す。
「警報が届いた場合に取るべき行動を、エリザ先生より指示されています」
「エリザ先生? ……と言うと」
「おお、あの狐の女将殿か!」
「先程申し上げた通り、皇帝が一瞬でこちらに戻る術(すべ)は封じています。よって我々には、避難できるだけの猶予があると言うことです」
「な、なるほど」
「その避難場所についても、皇帝との遭遇を回避するべく、南に点在する村落を指定されています。急ぎましょう」
「あ、ああ」
「承知した!」
遠征隊の者たちに先導される形で、彼らは大急ぎで首都から逃げ出した。その慌ただしい様子を見ていた市民たちも次々付いていき――半日もしない内に、首都に人の姿は無くなった。
その上で遠征隊は空っぽになった首都へ拠点を移し、事実上、帝国は遠征隊に下ることとなった。
「これが緊急事態でなければ、絶対に認可しなかったでしょう。これではまるで火事場泥棒も同然ですし」
「緊急事態や。やらなアカンやろ」
まだわだかまった様子のハンを尻目に、エリザは事実上支配下に置いた宮殿を、バルコニーの上から見渡す。
「にしてもあっさりやったな。ココまで来るにはもっと、苦労するかと思てたけど」
「こうして帝国を下すような事態になるとは、思いもよりませんでしたよ。2年半前であれば全力で止めていたでしょうね」
「覚悟の現れ、……て言いたいんか?」
「そう思っていただいて、差し支えありません。
それに、あれを見ればこの行動に、誤りなど無いと確信できます。あんな所業を行うような非道を野放しにしておくことは、到底できませんからね」
二人の眼下に設けられた広場には、布を被せた机が置かれていた。
「皇帝が拘束された時点で、丁重に埋葬したと伝えられましたが……」
「つまりソレまで、ずーっと野ざらしやったんやろ? いくら寒い目の北方やっちゅうても、もうぐっちょぐちょに腐っとったやろな」
「騒動を起こして無許可離隊した人間の末路ですから、どんな扱いをされていようと構うものかと思っていたんですが、……正直、嫌な気持ちですね」
「できそうやったら」
エリザはふーっ、と煙管の紫煙を吐き、空を仰いだ。
「ミェーチさんもこっちに移して、シェロくんの横に並べたいもんやな。二人ともめちゃめちゃ仲良うしとったし。倒した帝国に来られるんやったら、本望やろしな」
「……そうですね。この戦いが終わったら、是非」
と、二人の下にメリーがやって来た。
「尉官、先生。失礼します」
「ん、何や報告か?」
「はい。マリアさんの隊から、『皇帝と接触。拘束すべく襲撃したが逃げられた』と」
「ありがとさん。ハンくん、ちょと地図見して」
「どうぞ」
ハンから地図を受け取り、エリザは煙管の先でとん、とんと3ヶ所を叩いた。
「見付けた場所はこう、こう、こうか。北へ北へ逃げとるな」
「そのようですね。しぶといと言うか……」
「相手も最後の最後や。そら必死にもなるわな。捕まったら今度こそ、その場で首落とされると覚悟しとるんやろ」
「長引くようでしたら、俺も出ます」
真剣な面持ちでそう告げたハンに、エリザは肩をすくめつつ、地図をくるくると丸めて返した。
「ま、準備だけはしときよし。アタシもしとくわ」
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帝都制圧。
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皇帝の逃亡と言う非常事態に見舞われたものの、智将エリザがこの事態を想定していないはずは無かった。
「緊急警報が発令されました!」
「きんきゅうけいほう?」
協議のため、帝国首都フェルタイルに駐留していた遠征隊の兵士たちからその報せを告げられ、帝国側の代表らは尋ね返す。
「何かあったのか?」
「ま、まさか!?」
「皇帝が脱走した場合、自動で彼の瞬間移動を妨害する術を展開すると共に、我々に警報が届く手筈となっています。つまり……」
「や、やはり陛下、いや、皇帝が!?」
「ああ、何と言うことだ!」
嘆く大臣や将軍たちに、兵士が「落ち着いて下さい」と返す。
「警報が届いた場合に取るべき行動を、エリザ先生より指示されています」
「エリザ先生? ……と言うと」
「おお、あの狐の女将殿か!」
「先程申し上げた通り、皇帝が一瞬でこちらに戻る術(すべ)は封じています。よって我々には、避難できるだけの猶予があると言うことです」
「な、なるほど」
「その避難場所についても、皇帝との遭遇を回避するべく、南に点在する村落を指定されています。急ぎましょう」
「あ、ああ」
「承知した!」
遠征隊の者たちに先導される形で、彼らは大急ぎで首都から逃げ出した。その慌ただしい様子を見ていた市民たちも次々付いていき――半日もしない内に、首都に人の姿は無くなった。
その上で遠征隊は空っぽになった首都へ拠点を移し、事実上、帝国は遠征隊に下ることとなった。
「これが緊急事態でなければ、絶対に認可しなかったでしょう。これではまるで火事場泥棒も同然ですし」
「緊急事態や。やらなアカンやろ」
まだわだかまった様子のハンを尻目に、エリザは事実上支配下に置いた宮殿を、バルコニーの上から見渡す。
「にしてもあっさりやったな。ココまで来るにはもっと、苦労するかと思てたけど」
「こうして帝国を下すような事態になるとは、思いもよりませんでしたよ。2年半前であれば全力で止めていたでしょうね」
「覚悟の現れ、……て言いたいんか?」
「そう思っていただいて、差し支えありません。
それに、あれを見ればこの行動に、誤りなど無いと確信できます。あんな所業を行うような非道を野放しにしておくことは、到底できませんからね」
二人の眼下に設けられた広場には、布を被せた机が置かれていた。
「皇帝が拘束された時点で、丁重に埋葬したと伝えられましたが……」
「つまりソレまで、ずーっと野ざらしやったんやろ? いくら寒い目の北方やっちゅうても、もうぐっちょぐちょに腐っとったやろな」
「騒動を起こして無許可離隊した人間の末路ですから、どんな扱いをされていようと構うものかと思っていたんですが、……正直、嫌な気持ちですね」
「できそうやったら」
エリザはふーっ、と煙管の紫煙を吐き、空を仰いだ。
「ミェーチさんもこっちに移して、シェロくんの横に並べたいもんやな。二人ともめちゃめちゃ仲良うしとったし。倒した帝国に来られるんやったら、本望やろしな」
「……そうですね。この戦いが終わったら、是非」
と、二人の下にメリーがやって来た。
「尉官、先生。失礼します」
「ん、何や報告か?」
「はい。マリアさんの隊から、『皇帝と接触。拘束すべく襲撃したが逃げられた』と」
「ありがとさん。ハンくん、ちょと地図見して」
「どうぞ」
ハンから地図を受け取り、エリザは煙管の先でとん、とんと3ヶ所を叩いた。
「見付けた場所はこう、こう、こうか。北へ北へ逃げとるな」
「そのようですね。しぶといと言うか……」
「相手も最後の最後や。そら必死にもなるわな。捕まったら今度こそ、その場で首落とされると覚悟しとるんやろ」
「長引くようでしたら、俺も出ます」
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