「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・占験録 5
晴奈の話、第256話。
吠える筋肉。
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5.
大会5日目(5月25日)、ゴールドコースト南西区の教会。
「勝つ、負ける、勝つ、負ける、勝つ……」
教会の子供、レヴィが花壇の花をちぎり、花占いをしていた。
「負ける、勝つ、ま……」
花びらが残り一枚になる。
「ま、……あー、あー」「はい」
レヴィが泣きそうになったところで、誰かがもう一本花を差し出した。レヴィは途端に笑顔になる。
「ありがとう、おじちゃん」
「いやいや。……ところで何を占っていたのかな?」
「お父さんがあさって、『エリザさん』で勝てるか」
「エリザさん……、ああ、エリザリーグか。はは、これは困った」
「え?」
花をくれた壮年の短耳は、頭をかきながら答える。
「明後日、僕は君のお父さんと対戦するんだ」
「ありがとうございます、ナラサキさん」
礼拝堂で楢崎を出迎えたロウは、深々と頭を下げた。
「いやいや、僕は何も」
「いえ、ナラサキさんのおかげです。あの助言が無かったらオレ、勇気出せませんでしたから」
「それでも決断したのは、君自身だからね。……まあ、何はともあれおめでとう」
楢崎は買ってきた花束を――先ほどレヴィに渡した花は、この中から取った――ロウに手渡した。
「へへ……、すいません、こんなコトまでしてもらっちゃって」
ロウははにかみながら、花を居間の方に持っていく。
「シル、花をもらった。飾ってくれるか?」
「ええ」
居間にいたシルビアは花瓶を探しに、台所の方に向かう。
「あ、その前にさ、ちょっと来てくれ」
「あ、はい」
ロウはシルビアの手を握り、礼拝堂へと戻る。シルビアを見た楢崎が、嬉しそうに立ち上がった。
「おお、その子が例の……?」
「ええ、まあ。……ほら、シル。この人が前に言ってた、ナラサキさん」
「あら……。その節は、ありがとうございました」
夫婦揃って頭を下げられ、楢崎はまた「いやいや……」と頭をかきながら謙遜した。
楢崎の助言で勇気付けられ、シルビアに想いを告げることができたロウは、楢崎に深く感謝していた。今日はその恩返しにと、楢崎を夕食に招待したのだ。
「おじちゃん、1日目でクラウンやっつけた人だよね?」
「ああ、うん。いきなり初日だったから、大分戸惑ったけどね」
ロウとシルビアに夕食を用意してもらっている間、楢崎は子供の相手をしていた。
「あんなでっかいクラウンを、こーやって、えいって」
両手を挙げ楢崎の真似をするチノを見て、楢崎は苦笑する。
「はは……、僕は力だけがとりえだから」
「ねーねーナラサキさん、力こぶ作ってー」
「うん? ……これで、いいかな?」
袖をまくり、腕に力を込めるナラサキを見て、子供たちがパチパチと拍手する。
「すごーい」「ぼこってなった」「お父さんよりおっきいかも」
子供たちの言葉に、ロウが反応した。
「マジでか?」
「うん。すごいよ、ナラサキさん」
「そうかー……」
ロウが手を拭きながら、楢崎の元にやって来る。
「ナラサキさん、一丁どうです?」
「うん?」
「腕相撲、してみませんか」
「ふむ……」
楢崎は立ち上がり、ロウに応じた。
「よし、やってみよう。お手柔らかに頼むよ」
ロウと楢崎はテーブルに右腕を置き、がっしりと握り合う。アズサが椅子の上に立ち、審判を務める。
「準備いい?」
「おう」「いつでも」
「じゃー……、はじめっ!」
アズサの号令と共に、ロウと楢崎はこめかみに青筋を浮き上がらせ、渾身の力を込める。
「うおおおおおおう!」「はあああああああ!」
テーブルがガタガタと揺れ、二人の気合いが共鳴する。
「ちょ、ちょっとあなた、ナラサキさん」
音に驚いたシルビアが、困った顔で居間に駆け込んできた。
「テーブル、壊さないでくださいね……」
「おう! 分かってらああああ!」「極力、気をつけるううううッ!」
二人はさらに、力を込めていく。
「うがあああああ!」「ぶるあああああ!」
鬼気迫る二人を見て、子供たちがボソボソと小声で話し始めた。
「テーブル、だいじょうぶかなぁ」
「お父さん、バカ力だもんねぇ」
「ナラサキさんも、腕があんなにムキムキしてるし」
「こわれたら、今日のごはんどこで食べるんだろ?」
だが、子供たちの声はロウたち二人の耳には入らない。
「くううおあああーッ!」「ちぇすとおおおーッ!」
そうして3分ほど拮抗していたが――。
(う……)
段々、子供たちが心配そうな顔つきになってくる。その様子をチラ、と見た楢崎は、懸命に力を入れながらも、ふと考えた。
(うーん、ここで僕が勝ってもあんまりいいことは無いような)
楢崎はほんのわずか力を抜き、負けることにした。
「うおりゃあッ!」「ぬわあああーッ!」
バン、とテーブルに楢崎の手の甲が叩きつけられた。
「うおっしゃ勝ったあああ!」「あなたッ!」
喜びかけたロウを、シルビアが叱る。
「お客さんに何てことなさるの!」
「あっ」
中途半端に拳を振り上げかけた状態で、ロウはぽつりと「……すいません、調子乗りました」と謝った。
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5.
大会5日目(5月25日)、ゴールドコースト南西区の教会。
「勝つ、負ける、勝つ、負ける、勝つ……」
教会の子供、レヴィが花壇の花をちぎり、花占いをしていた。
「負ける、勝つ、ま……」
花びらが残り一枚になる。
「ま、……あー、あー」「はい」
レヴィが泣きそうになったところで、誰かがもう一本花を差し出した。レヴィは途端に笑顔になる。
「ありがとう、おじちゃん」
「いやいや。……ところで何を占っていたのかな?」
「お父さんがあさって、『エリザさん』で勝てるか」
「エリザさん……、ああ、エリザリーグか。はは、これは困った」
「え?」
花をくれた壮年の短耳は、頭をかきながら答える。
「明後日、僕は君のお父さんと対戦するんだ」
「ありがとうございます、ナラサキさん」
礼拝堂で楢崎を出迎えたロウは、深々と頭を下げた。
「いやいや、僕は何も」
「いえ、ナラサキさんのおかげです。あの助言が無かったらオレ、勇気出せませんでしたから」
「それでも決断したのは、君自身だからね。……まあ、何はともあれおめでとう」
楢崎は買ってきた花束を――先ほどレヴィに渡した花は、この中から取った――ロウに手渡した。
「へへ……、すいません、こんなコトまでしてもらっちゃって」
ロウははにかみながら、花を居間の方に持っていく。
「シル、花をもらった。飾ってくれるか?」
「ええ」
居間にいたシルビアは花瓶を探しに、台所の方に向かう。
「あ、その前にさ、ちょっと来てくれ」
「あ、はい」
ロウはシルビアの手を握り、礼拝堂へと戻る。シルビアを見た楢崎が、嬉しそうに立ち上がった。
「おお、その子が例の……?」
「ええ、まあ。……ほら、シル。この人が前に言ってた、ナラサキさん」
「あら……。その節は、ありがとうございました」
夫婦揃って頭を下げられ、楢崎はまた「いやいや……」と頭をかきながら謙遜した。
楢崎の助言で勇気付けられ、シルビアに想いを告げることができたロウは、楢崎に深く感謝していた。今日はその恩返しにと、楢崎を夕食に招待したのだ。
「おじちゃん、1日目でクラウンやっつけた人だよね?」
「ああ、うん。いきなり初日だったから、大分戸惑ったけどね」
ロウとシルビアに夕食を用意してもらっている間、楢崎は子供の相手をしていた。
「あんなでっかいクラウンを、こーやって、えいって」
両手を挙げ楢崎の真似をするチノを見て、楢崎は苦笑する。
「はは……、僕は力だけがとりえだから」
「ねーねーナラサキさん、力こぶ作ってー」
「うん? ……これで、いいかな?」
袖をまくり、腕に力を込めるナラサキを見て、子供たちがパチパチと拍手する。
「すごーい」「ぼこってなった」「お父さんよりおっきいかも」
子供たちの言葉に、ロウが反応した。
「マジでか?」
「うん。すごいよ、ナラサキさん」
「そうかー……」
ロウが手を拭きながら、楢崎の元にやって来る。
「ナラサキさん、一丁どうです?」
「うん?」
「腕相撲、してみませんか」
「ふむ……」
楢崎は立ち上がり、ロウに応じた。
「よし、やってみよう。お手柔らかに頼むよ」
ロウと楢崎はテーブルに右腕を置き、がっしりと握り合う。アズサが椅子の上に立ち、審判を務める。
「準備いい?」
「おう」「いつでも」
「じゃー……、はじめっ!」
アズサの号令と共に、ロウと楢崎はこめかみに青筋を浮き上がらせ、渾身の力を込める。
「うおおおおおおう!」「はあああああああ!」
テーブルがガタガタと揺れ、二人の気合いが共鳴する。
「ちょ、ちょっとあなた、ナラサキさん」
音に驚いたシルビアが、困った顔で居間に駆け込んできた。
「テーブル、壊さないでくださいね……」
「おう! 分かってらああああ!」「極力、気をつけるううううッ!」
二人はさらに、力を込めていく。
「うがあああああ!」「ぶるあああああ!」
鬼気迫る二人を見て、子供たちがボソボソと小声で話し始めた。
「テーブル、だいじょうぶかなぁ」
「お父さん、バカ力だもんねぇ」
「ナラサキさんも、腕があんなにムキムキしてるし」
「こわれたら、今日のごはんどこで食べるんだろ?」
だが、子供たちの声はロウたち二人の耳には入らない。
「くううおあああーッ!」「ちぇすとおおおーッ!」
そうして3分ほど拮抗していたが――。
(う……)
段々、子供たちが心配そうな顔つきになってくる。その様子をチラ、と見た楢崎は、懸命に力を入れながらも、ふと考えた。
(うーん、ここで僕が勝ってもあんまりいいことは無いような)
楢崎はほんのわずか力を抜き、負けることにした。
「うおりゃあッ!」「ぬわあああーッ!」
バン、とテーブルに楢崎の手の甲が叩きつけられた。
「うおっしゃ勝ったあああ!」「あなたッ!」
喜びかけたロウを、シルビアが叱る。
「お客さんに何てことなさるの!」
「あっ」
中途半端に拳を振り上げかけた状態で、ロウはぽつりと「……すいません、調子乗りました」と謝った。
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そういえば花占いは私が子どもころははやっていましたけどね。
・・・今の子どももはやっているのですかね。・・・と率直に年齢を感じてしまいましたね。
・・・今の子どももはやっているのですかね。・・・と率直に年齢を感じてしまいましたね。
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もう昔の遊びなんでしょうかね、花占い。