「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・追討伝 4
神様たちの話、第328話。
インセンティブ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「まあ、その。俺の話はそれくらいでいいでしょう」
たまらず、ハンは話題を変える。
「それでロウ、あんたはどうなんだよ? もう軍を抜けた身だし、表彰だの評定だのって話は、まず出ない。せいぜい、陛下か俺の親父から多少労われて終わりだろう。正直、いくら頑張ったって見返りなんか……」
「ああ。そんなもん、ハナっからいりゃしねえよ。チヤホヤされたりカネもらったりしたって、大して嬉しくもねえや」
笑いながらそう答えたロウに、ハンは首をかしげる。
「じゃあなんでこんなところまで来たんだ? せいぜい、エリザさんから給金をもらう程度だろう?」
「それがいいんだよ」
ロウは胸を反らし、満足げに鼻を鳴らす。
「俺はな、エリザさんの助けになれるってことが一番嬉しいんだよ」
「ぶっ」
煙管を吸っていたエリザが、煙を勢い良く吐き出す。
「ケホ、ケホッ、……アンタなぁ。そう言うコトをよお、アタシの真ん前で言えるな?」
「でへへ……すんません」
「まあ、うん。この3年、色々助けてくれたしな。帰ったら、何かしらごほうびあげるわ」
「どうもっス」
と、ハンがまた首をひねる。
「帰ったら、……って、あんたもうノースポートに戻るつもりは無いのか?」
「あん?」
ロウも首をかしげ返したが、「あ、そっか」と声を上げる。
「だよな、遠征隊が解散したらもう、用心棒やんなくてもいいってことだもんな。そっか……」
耳も尻尾も悲しげにだらんと垂らしたロウを見て、エリザが笑い出した。
「アッハッハ……、なんやな、そんなにアタシの側がええのんか?」
「そりゃもう!」
「んふ、ふふ、ふっふ、……まあ、ソコまで言うねんやったら、帰ってからもアタシんトコにおったらええよ。何かしらお仕事もお願いするやろしな」
「いいんスか!?」
一転、ロウの耳と尻尾がぴょこんと立ち上がる。
「えーよえーよ、好きなだけ居ときよし。なんやったらそのうち、奥さんも探したげるわ。いつまでも独り身は寂しいやろからな」
「えっ、……あ、……はい、……よろしくっス……うス……」
またも悲しそうな顔をしたロウを、ハンは複雑な気分で眺めていた。
(エリザさんのことだ。こいつの気持ちは知ってるだろうし、……わざとそう言って、釘を刺してきたんだろうな。『アンタはダンナやないからな?』って。正直、こいつのことはそんなに好きでもないし、評価してもいないが、……流石に可哀想になってきたな)
その後はマリアたちと合流するまでずっと、ロウはしょんぼりとした様子で手綱を握っていた。
フェルタイルを出発して四半日もしない内に、馬車はゴラスメルチ山脈の東側ふもとに到着した。
「お待ちしてました、尉官」
マリアをはじめとする追討部隊200名に敬礼され、ハンも敬礼して返す。
「状況は?」
「とりあえずここで陣取ってる感じですね。みんなで一斉に入るには道が険しすぎますし、うかつに深入りすると遭難しかねないくらい、吹雪もひどいんです」
「吹雪?」
言われて、ハンは山の上方に目をやる。
「確かに白いな。8月だってのに降ってるのか」
「ちょっと行くと急に気温が下がってくるんです。空気も薄いみたいで、焦って追いかけた人たちもすぐ戻って来ました。『とても息が続かない』って」
「ふむ……」
「だもんで、もしかしたら皇帝たちが引き返して来るかもってことも期待してたんですが、それらしい様子も全然無いです」
「しかしそんな状況では、踏破したとも考え辛いな。有り得る状況としては、遭難して死亡したか」
「せやったら話が早いんやけどな」
ハンの横で話を聞いていたエリザが、肩をすくめる。
「どうあれ確認せなアカンやろ。『死んだはずや』言うてほっとって、もし奇跡的に生きて西側に降りて来たりしたら、まずいコトになるしな」
「ええ、確かに。捜索は必須でしょう」
ハンたちは半数を実際に登らせ、残り半分をふもとに残して支援に当たらせる策を採って、山狩りを開始した。
@au_ringさんをフォロー
インセンティブ。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
「まあ、その。俺の話はそれくらいでいいでしょう」
たまらず、ハンは話題を変える。
「それでロウ、あんたはどうなんだよ? もう軍を抜けた身だし、表彰だの評定だのって話は、まず出ない。せいぜい、陛下か俺の親父から多少労われて終わりだろう。正直、いくら頑張ったって見返りなんか……」
「ああ。そんなもん、ハナっからいりゃしねえよ。チヤホヤされたりカネもらったりしたって、大して嬉しくもねえや」
笑いながらそう答えたロウに、ハンは首をかしげる。
「じゃあなんでこんなところまで来たんだ? せいぜい、エリザさんから給金をもらう程度だろう?」
「それがいいんだよ」
ロウは胸を反らし、満足げに鼻を鳴らす。
「俺はな、エリザさんの助けになれるってことが一番嬉しいんだよ」
「ぶっ」
煙管を吸っていたエリザが、煙を勢い良く吐き出す。
「ケホ、ケホッ、……アンタなぁ。そう言うコトをよお、アタシの真ん前で言えるな?」
「でへへ……すんません」
「まあ、うん。この3年、色々助けてくれたしな。帰ったら、何かしらごほうびあげるわ」
「どうもっス」
と、ハンがまた首をひねる。
「帰ったら、……って、あんたもうノースポートに戻るつもりは無いのか?」
「あん?」
ロウも首をかしげ返したが、「あ、そっか」と声を上げる。
「だよな、遠征隊が解散したらもう、用心棒やんなくてもいいってことだもんな。そっか……」
耳も尻尾も悲しげにだらんと垂らしたロウを見て、エリザが笑い出した。
「アッハッハ……、なんやな、そんなにアタシの側がええのんか?」
「そりゃもう!」
「んふ、ふふ、ふっふ、……まあ、ソコまで言うねんやったら、帰ってからもアタシんトコにおったらええよ。何かしらお仕事もお願いするやろしな」
「いいんスか!?」
一転、ロウの耳と尻尾がぴょこんと立ち上がる。
「えーよえーよ、好きなだけ居ときよし。なんやったらそのうち、奥さんも探したげるわ。いつまでも独り身は寂しいやろからな」
「えっ、……あ、……はい、……よろしくっス……うス……」
またも悲しそうな顔をしたロウを、ハンは複雑な気分で眺めていた。
(エリザさんのことだ。こいつの気持ちは知ってるだろうし、……わざとそう言って、釘を刺してきたんだろうな。『アンタはダンナやないからな?』って。正直、こいつのことはそんなに好きでもないし、評価してもいないが、……流石に可哀想になってきたな)
その後はマリアたちと合流するまでずっと、ロウはしょんぼりとした様子で手綱を握っていた。
フェルタイルを出発して四半日もしない内に、馬車はゴラスメルチ山脈の東側ふもとに到着した。
「お待ちしてました、尉官」
マリアをはじめとする追討部隊200名に敬礼され、ハンも敬礼して返す。
「状況は?」
「とりあえずここで陣取ってる感じですね。みんなで一斉に入るには道が険しすぎますし、うかつに深入りすると遭難しかねないくらい、吹雪もひどいんです」
「吹雪?」
言われて、ハンは山の上方に目をやる。
「確かに白いな。8月だってのに降ってるのか」
「ちょっと行くと急に気温が下がってくるんです。空気も薄いみたいで、焦って追いかけた人たちもすぐ戻って来ました。『とても息が続かない』って」
「ふむ……」
「だもんで、もしかしたら皇帝たちが引き返して来るかもってことも期待してたんですが、それらしい様子も全然無いです」
「しかしそんな状況では、踏破したとも考え辛いな。有り得る状況としては、遭難して死亡したか」
「せやったら話が早いんやけどな」
ハンの横で話を聞いていたエリザが、肩をすくめる。
「どうあれ確認せなアカンやろ。『死んだはずや』言うてほっとって、もし奇跡的に生きて西側に降りて来たりしたら、まずいコトになるしな」
「ええ、確かに。捜索は必須でしょう」
ハンたちは半数を実際に登らせ、残り半分をふもとに残して支援に当たらせる策を採って、山狩りを開始した。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~