「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・追討伝 5
神様たちの話、第329話。
皇帝追討、最終局面。
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5.
山狩りを始めてから丸1日が経過し――。
「1日で捜索可能な範囲は一通り、クリアリングが済んだわけだが……」
「確かに人が通った形跡はチラホラあったみたいですが、どの班も身柄の発見には至らなかった、……と」
「そう言うことだ」
ふもとに設営されたキャンプで夕食を取りつつ、ハンたちは各班から受けた報告を、マリアたちと共にまとめていた。
「でも尉官、普通に考えたらそれって、皇帝はもう死んでるんってことじゃないですか?」
「その可能性は非常に高いだろう。いくら超人的な身体能力を有していると言っても、酷寒と吹雪に加え、薄い空気の中だ。さらに言えば山に入るまでの2日、俺たちが散々追い回して来たんだ。休息も食事も、取れているはずが無い。これで生きていたら、それはもう人間じゃない。バケモノの類だ。
だがそれでも、油断のならない相手だ。推測だけで死亡と決め付けるのは、あまりにも危険だろう」
「でも、ずーっとここに陣取ってるわけにも行かないでしょ? いつまでとかって決めた方が良くないですか?」
「ふむ……」
マリアの意見を受け、ハンは横で煙管をくわえていたエリザに尋ねる。
「どうでしょう、エリザさん? マリアの言う通り、長期間詰めていてもあまり成果は上がらないと思います。正直なところ、俺としても死んでいる可能性の方が高いと思っていますし、であればフェルタイルに戻り、残った帝国高官らと今後の交渉を行わなければなりません。それにクーのことも……」
「せやな」
エリザはふーっと紫煙を吐き、短くうなずいた。
「せめて後6日、丸1週間は捜索を続けたいトコやな。ソレで見付からんようであれば、なんぼなんでも生きてるはずが無いやろし、その辺りで引き上げてええやろ」
「分かりました。ところでエリザさん」
「ん?」
「先程気付いたんですが、妨害術を展開していないんですか? 普通に通信術を使っていた者がいましたが……」
「ああ、ソレなー」
エリザは煙管の灰を捨て、新しい煙草を詰めながら答える。
「町やら村やらで妨害術を仕掛けてもろてたけど、そもそも山の方までは届かへんねんな、術の効果が。となるとかけとく意味があらへんし、使えるもんなら使た方が便利やしな」
「ですが、皇帝が術を使って移動したら……」
ハンの懸念に、エリザが「大丈夫やろ」と返す。
「町では今まで通り使てもろてる。せやから山で使たとしても、町へ移動するのんは不可能や。そもそもご飯も食べてへん、お休みもしたはらへんっちゅう状態で魔術なんか使てみ? 鼻血ブーッて噴いて倒れてまうで」
「ふむ……似たような話は、親父から何度か聞きましたね。陛下が戦いで根を詰めすぎられた際に、よくひげを真っ赤に染めておられたと」
「せや。実を言うと、アタシも2回ほどやってしもたコトあるねんな。まだ先生から色々教えてもろてた時の話やけども。ま、ソレはともかくとして、限界ギリギリっちゅう時に魔術を使おうと思ても、体が付いてかへん。実際使えへんもんなんよ。
ちゅうワケでな、明日からはアンタも気にせず使てええよ」
「そうします。と言っても、通信くらいしかできませんが」
その後3日、遠征隊は引き続き山狩りを行い、皇帝を探し回ったが、成果は一向に上がらなかった。兵士たちの中にも、皇帝はもう死んでしまっているだろうと予測する者が多くなり、ハンとエリザは一週間と予定していた捜索期間を切り上げることを検討し始めていたが――捜索5日目に入った朝、事態は動き出した。
琥珀暁・追討伝 終
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皇帝追討、最終局面。
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5.
山狩りを始めてから丸1日が経過し――。
「1日で捜索可能な範囲は一通り、クリアリングが済んだわけだが……」
「確かに人が通った形跡はチラホラあったみたいですが、どの班も身柄の発見には至らなかった、……と」
「そう言うことだ」
ふもとに設営されたキャンプで夕食を取りつつ、ハンたちは各班から受けた報告を、マリアたちと共にまとめていた。
「でも尉官、普通に考えたらそれって、皇帝はもう死んでるんってことじゃないですか?」
「その可能性は非常に高いだろう。いくら超人的な身体能力を有していると言っても、酷寒と吹雪に加え、薄い空気の中だ。さらに言えば山に入るまでの2日、俺たちが散々追い回して来たんだ。休息も食事も、取れているはずが無い。これで生きていたら、それはもう人間じゃない。バケモノの類だ。
だがそれでも、油断のならない相手だ。推測だけで死亡と決め付けるのは、あまりにも危険だろう」
「でも、ずーっとここに陣取ってるわけにも行かないでしょ? いつまでとかって決めた方が良くないですか?」
「ふむ……」
マリアの意見を受け、ハンは横で煙管をくわえていたエリザに尋ねる。
「どうでしょう、エリザさん? マリアの言う通り、長期間詰めていてもあまり成果は上がらないと思います。正直なところ、俺としても死んでいる可能性の方が高いと思っていますし、であればフェルタイルに戻り、残った帝国高官らと今後の交渉を行わなければなりません。それにクーのことも……」
「せやな」
エリザはふーっと紫煙を吐き、短くうなずいた。
「せめて後6日、丸1週間は捜索を続けたいトコやな。ソレで見付からんようであれば、なんぼなんでも生きてるはずが無いやろし、その辺りで引き上げてええやろ」
「分かりました。ところでエリザさん」
「ん?」
「先程気付いたんですが、妨害術を展開していないんですか? 普通に通信術を使っていた者がいましたが……」
「ああ、ソレなー」
エリザは煙管の灰を捨て、新しい煙草を詰めながら答える。
「町やら村やらで妨害術を仕掛けてもろてたけど、そもそも山の方までは届かへんねんな、術の効果が。となるとかけとく意味があらへんし、使えるもんなら使た方が便利やしな」
「ですが、皇帝が術を使って移動したら……」
ハンの懸念に、エリザが「大丈夫やろ」と返す。
「町では今まで通り使てもろてる。せやから山で使たとしても、町へ移動するのんは不可能や。そもそもご飯も食べてへん、お休みもしたはらへんっちゅう状態で魔術なんか使てみ? 鼻血ブーッて噴いて倒れてまうで」
「ふむ……似たような話は、親父から何度か聞きましたね。陛下が戦いで根を詰めすぎられた際に、よくひげを真っ赤に染めておられたと」
「せや。実を言うと、アタシも2回ほどやってしもたコトあるねんな。まだ先生から色々教えてもろてた時の話やけども。ま、ソレはともかくとして、限界ギリギリっちゅう時に魔術を使おうと思ても、体が付いてかへん。実際使えへんもんなんよ。
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