「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・終局伝 1
神様たちの話、第330話。
朝の光。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
基本的に、ハンはどこで寝泊まりしようとも、毎日決まった時刻にきっかり目を覚まし、朝の自主鍛錬と地図の清書を行ってから朝食を取っている。一方でエリザは、特に予定が無ければ昼近くまでぐっすり眠っている。
なのでその日の朝、ハンの目の前にエリザが眠い目をこすりながら現れた時、彼はぎょっとした。
「珍しいですね。まだ太陽も昇ってないですよ」
「ふぁ……、おはようさん。なんかポンと目ぇ覚めてもうてな。……アンタ、寒ないんか? 一応夏やけども、雪山のすぐ近くやで?」
この時、ハンは上半身裸になっており、肩から湯気がほんのり上がっていた。
「体を動かしていると、どうしても暑くなりますから」
「律儀やな。こんな時までやるんか。……ふあ~ぁ」
エリザはあくびを繰り返しつつ、胸元に手を入れる。
「……あー、と、煙管置いて来てたわ」
「起きてすぐに喫煙ですか。相当体に悪そうですが」
「吸うてへん方が体に悪いねん、アタシの場合は」
「煙草呑みの言い訳ですね。俺には理解できそうにありません」
「さよか」
もう一つあくびをして、エリザはくるんと踵を返した。
「一服して来るわー」
「どうぞ、ご自由に」
エリザの後ろ姿を見送りつつ、ハンも彼女に背を向け、鍛錬を再開しようとした。
と――。
「エリザさん」「ハンくん」
二人が同時に互いを呼び、目線を合わせた。
「気付きましたか」
「そらまあ」
二人は悟られないよう、自分の体で隠しつつ、山の方を指差す。
「今の光の反射は……」
「単眼鏡やな。山の中腹ら辺は、もうお日さんが差しとるらしいな」
「丁度今、と言ったところでしょうね。それ故、油断していたんでしょう」
それとなく両者とも距離を詰め、山に背を向けてひそひそと会話する。
「皇帝でしょうか?」
「可能性めちゃ高やな。そらまだ何班か、山ん中探してくれとるけども」
「わざわざキャンプを単眼鏡で確認する人間が、こちら側にいるとは思えません」
「『あー疲れた、キャンプどこやったっけ』、……っちゅうのんは考え辛いわな。迷わへんように道標立ててってもろてるし、見るとしたら離れたふもとの方やなく、間近の道標やろ」
「今すぐ連絡しますか? それとも強襲すべきでしょうか」
「夜通しあっちこっち回ってヘトヘトの子らに、皇帝さん捕まえろっちゅうんは酷やで。ソレに大勢でわっさわっさ登ったら、気取られて隠れてまう可能性もある。上におる子らには『この辺りにおるからソレとなく囲んでや』、くらいに命令しとき。ほんで、ココに偶然おったアンタとアタシとで、急いで登るんが上策やろ」
「2名でですか?」
「準備がてら、アタシはロウくんに声掛ける。さっき起きとったん見かけたし。アンタはマリアちゃんを呼んでき。まだ寝とるやろけど、このキャンプん中で一番頼りにでけるしな。
この4人なら問題無いやろ。こっそり行くコトも考えたら、コレが丁度や」
「了解です」
ハンは脱ぎ捨てていたシャツをつかみ、エリザと共にキャンプの中へ戻った。
そして15分後、ハンとエリザはマリアとロウを伴い、山へと向かった。
「ふあ~……、マジなんですか?」
まだ頭をゆらゆらとさせたまま尋ねたマリアに、エリザが答える。
「マジや。朝ごはんは歩きながら食べてな。ゴメンやで」
「ふぁ~い」
「いよいよってワケだな、へっへへ……」
武者震いしているロウに、ハンが釘を刺す。
「こっそりと言っただろう? あんまり張り切るな」
「んなコト言ったってよ、そりゃ無理ってもんだろ? ようやく決着だってのに」
「その元気は、皇帝を殴る時に使ってくれ。今使い切られても困る」
「大丈夫だって。心配すんなよ、隊長さんよ」
「あんたが心配させてるんだっての……」
4人は登山口に到着し、揃って山を見上げた。
「コレが正真正銘、最後の戦いや。気ぃ引き締めて行くで」
「了解です」
「うっス」
「りょうひゃいひぇふ、……ふぁ~」
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朝の光。
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基本的に、ハンはどこで寝泊まりしようとも、毎日決まった時刻にきっかり目を覚まし、朝の自主鍛錬と地図の清書を行ってから朝食を取っている。一方でエリザは、特に予定が無ければ昼近くまでぐっすり眠っている。
なのでその日の朝、ハンの目の前にエリザが眠い目をこすりながら現れた時、彼はぎょっとした。
「珍しいですね。まだ太陽も昇ってないですよ」
「ふぁ……、おはようさん。なんかポンと目ぇ覚めてもうてな。……アンタ、寒ないんか? 一応夏やけども、雪山のすぐ近くやで?」
この時、ハンは上半身裸になっており、肩から湯気がほんのり上がっていた。
「体を動かしていると、どうしても暑くなりますから」
「律儀やな。こんな時までやるんか。……ふあ~ぁ」
エリザはあくびを繰り返しつつ、胸元に手を入れる。
「……あー、と、煙管置いて来てたわ」
「起きてすぐに喫煙ですか。相当体に悪そうですが」
「吸うてへん方が体に悪いねん、アタシの場合は」
「煙草呑みの言い訳ですね。俺には理解できそうにありません」
「さよか」
もう一つあくびをして、エリザはくるんと踵を返した。
「一服して来るわー」
「どうぞ、ご自由に」
エリザの後ろ姿を見送りつつ、ハンも彼女に背を向け、鍛錬を再開しようとした。
と――。
「エリザさん」「ハンくん」
二人が同時に互いを呼び、目線を合わせた。
「気付きましたか」
「そらまあ」
二人は悟られないよう、自分の体で隠しつつ、山の方を指差す。
「今の光の反射は……」
「単眼鏡やな。山の中腹ら辺は、もうお日さんが差しとるらしいな」
「丁度今、と言ったところでしょうね。それ故、油断していたんでしょう」
それとなく両者とも距離を詰め、山に背を向けてひそひそと会話する。
「皇帝でしょうか?」
「可能性めちゃ高やな。そらまだ何班か、山ん中探してくれとるけども」
「わざわざキャンプを単眼鏡で確認する人間が、こちら側にいるとは思えません」
「『あー疲れた、キャンプどこやったっけ』、……っちゅうのんは考え辛いわな。迷わへんように道標立ててってもろてるし、見るとしたら離れたふもとの方やなく、間近の道標やろ」
「今すぐ連絡しますか? それとも強襲すべきでしょうか」
「夜通しあっちこっち回ってヘトヘトの子らに、皇帝さん捕まえろっちゅうんは酷やで。ソレに大勢でわっさわっさ登ったら、気取られて隠れてまう可能性もある。上におる子らには『この辺りにおるからソレとなく囲んでや』、くらいに命令しとき。ほんで、ココに偶然おったアンタとアタシとで、急いで登るんが上策やろ」
「2名でですか?」
「準備がてら、アタシはロウくんに声掛ける。さっき起きとったん見かけたし。アンタはマリアちゃんを呼んでき。まだ寝とるやろけど、このキャンプん中で一番頼りにでけるしな。
この4人なら問題無いやろ。こっそり行くコトも考えたら、コレが丁度や」
「了解です」
ハンは脱ぎ捨てていたシャツをつかみ、エリザと共にキャンプの中へ戻った。
そして15分後、ハンとエリザはマリアとロウを伴い、山へと向かった。
「ふあ~……、マジなんですか?」
まだ頭をゆらゆらとさせたまま尋ねたマリアに、エリザが答える。
「マジや。朝ごはんは歩きながら食べてな。ゴメンやで」
「ふぁ~い」
「いよいよってワケだな、へっへへ……」
武者震いしているロウに、ハンが釘を刺す。
「こっそりと言っただろう? あんまり張り切るな」
「んなコト言ったってよ、そりゃ無理ってもんだろ? ようやく決着だってのに」
「その元気は、皇帝を殴る時に使ってくれ。今使い切られても困る」
「大丈夫だって。心配すんなよ、隊長さんよ」
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