「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・終局伝 2
神様たちの話、第331話。
上長七訓。
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2.
山を登って30分もしない内に、一行の背に太陽の光が当たり始めた。
「雪がやんでて良かったですね。これでふぶいてたら皇帝探すどころじゃないですよ、本当」
「こう言う時のために、どんな時でも測量を敢行して来たんだ。今更雪が降ったくらいじゃ、何ともないだろ」
そう返したハンに、エリザが苦い顔を向ける。
「アンタ無茶苦茶なコト言うなぁ。『平気』と『耐えれる』は別モンやで」
「同じでしょう」
「『平気』は何にも感じてへんけど、『耐えれる』は辛いと認識しとるんやで。アンタが言うてるんは前の方で、マリアちゃんが言うてるんは後や。アンタの感覚と一緒にしたらアカン。そもそも短耳と『猫』は感覚差がデカいねんから」
「そーですよ。あたしの知り合いなんか耳が良すぎて、ちょっと風が吹くだけで耳押さえて動けなくなっちゃうって子もいるんですから。みんなビンカンなんです」
「そんなもんなのか。……改めて思い出しますね。自分の常識が世界の常識じゃないって、あなたの言葉を」
「ああ、そんなん言うてたね」
ここにまで持ち込んで来ていた煙管をくわえつつ、エリザはニヤニヤと笑っている。
「アタシ自身、こっち来てから毎日のようにそう思てるわ。アタシもまだまだ経験が足らんと、痛感してばっかりやね」
「エリザさんが?」
3人同時に声を上げられ、エリザは紫煙を吹き出しながら笑う。
「アハハ……、アタシでもや。せやからな、アンタらも自分がもう学ぶコトも修めるコトもいっこもあらへん、完全無欠の人間やなんて思ったりすなよ? そう言うヤツほど、大した学もウデも持ってへん、しょうもないヤツやったりするからな」
「親父も同じようなことを言ってましたね」
ハンがうなずきつつ、こう返す。
「『自分がすごいヤツだなんて勘違いするな。素直になって周りを認めろ』って」
「お? 『上長七訓』だな。さっすが隊長さんだ」
と、ロウが感心したような声を上げて来たので、ハンはぎょっとする。
「あんた、知ってるのか?」
「俺が昔将軍の下にいたって、ずっと前に言ったろ? そん時に叩き込まれたんだよ。他のヤツと一緒に仕事する時、コレだけは忘れんなっつって。ま、ソラで言えって言われたら、1個か2個くらいしか思い出せんがね」
「いや、素直に感心したよ。意外とやるな、あんた」
「へっへへ」
「じょーちょーななくんってなんですか?」
マリアに尋ねられ、エリザが答える。
「ゲートが長年の経験でコレ重要やなっちゅうのんをまとめたお話やね。ほら、アンタもハンくんから何個か聞いた覚えあるやろ? 『飯は食える内に食え』やら、『言いたくないコト言わすな』やら」
「あー……。あれってそう言うのが元だったんですね。他にはどんなのが?」
「第一条がさっき言ったヤツだ。第二条が飯の話で、第三条は『どれだけ安全だと思っても一割は警戒を残せ』」
「そーそー、そんなヤツだよな。第四条は言いたくないならってヤツだよな?」
「そうだ。で、第五条が『無理してまで成果を挙げようとするな。今自分ができることをしろ』だ」
「んで第六条が『危なくなったら迷わず逃げろ。死んでからほめられても嬉しくない』だったよな」
「ああ。なんだよ、あんた結構覚えてるじゃないか」
「結構覚えてるもんだな。俺もびっくりしてる、へへ……」
交互に答えるハンとロウの間で、マリアはふんふんと鼻を鳴らしている。
「言われてみれば確かに、いっつも尉官が話してるヤツですね。なるほどー……」
「ゲートも将軍務めて結構になるからな。そら含蓄もあるっちゅうもんや。……そう考えると、ホンマに皇帝はポンコツやな」
「って言うと?」
首をかしげたマリアに、ハンが答える。
「他人を許容せず、兵隊に十分な飯や休息も与えずに戦闘を強い、しかも退却を許さない。そんな狭量で冷酷な人間が、他人の上に立てるわけが無いってことだ」
「逃げ足だけはいっちょまえやけどな」
エリザの一言に、一行は揃ってクスクスと笑い出した。
「ホント、そうですよねー。……で、残りいっこは何ですか?」
「ん? ……あー、と」
ハンは一瞬エリザの方をチラ、と見て、複雑な思いを抱きつつ、質問に答えた。
「『情にほだされて判断を曲げるな。大抵、後でやっちまったと後悔する』、……だ」
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山を登って30分もしない内に、一行の背に太陽の光が当たり始めた。
「雪がやんでて良かったですね。これでふぶいてたら皇帝探すどころじゃないですよ、本当」
「こう言う時のために、どんな時でも測量を敢行して来たんだ。今更雪が降ったくらいじゃ、何ともないだろ」
そう返したハンに、エリザが苦い顔を向ける。
「アンタ無茶苦茶なコト言うなぁ。『平気』と『耐えれる』は別モンやで」
「同じでしょう」
「『平気』は何にも感じてへんけど、『耐えれる』は辛いと認識しとるんやで。アンタが言うてるんは前の方で、マリアちゃんが言うてるんは後や。アンタの感覚と一緒にしたらアカン。そもそも短耳と『猫』は感覚差がデカいねんから」
「そーですよ。あたしの知り合いなんか耳が良すぎて、ちょっと風が吹くだけで耳押さえて動けなくなっちゃうって子もいるんですから。みんなビンカンなんです」
「そんなもんなのか。……改めて思い出しますね。自分の常識が世界の常識じゃないって、あなたの言葉を」
「ああ、そんなん言うてたね」
ここにまで持ち込んで来ていた煙管をくわえつつ、エリザはニヤニヤと笑っている。
「アタシ自身、こっち来てから毎日のようにそう思てるわ。アタシもまだまだ経験が足らんと、痛感してばっかりやね」
「エリザさんが?」
3人同時に声を上げられ、エリザは紫煙を吹き出しながら笑う。
「アハハ……、アタシでもや。せやからな、アンタらも自分がもう学ぶコトも修めるコトもいっこもあらへん、完全無欠の人間やなんて思ったりすなよ? そう言うヤツほど、大した学もウデも持ってへん、しょうもないヤツやったりするからな」
「親父も同じようなことを言ってましたね」
ハンがうなずきつつ、こう返す。
「『自分がすごいヤツだなんて勘違いするな。素直になって周りを認めろ』って」
「お? 『上長七訓』だな。さっすが隊長さんだ」
と、ロウが感心したような声を上げて来たので、ハンはぎょっとする。
「あんた、知ってるのか?」
「俺が昔将軍の下にいたって、ずっと前に言ったろ? そん時に叩き込まれたんだよ。他のヤツと一緒に仕事する時、コレだけは忘れんなっつって。ま、ソラで言えって言われたら、1個か2個くらいしか思い出せんがね」
「いや、素直に感心したよ。意外とやるな、あんた」
「へっへへ」
「じょーちょーななくんってなんですか?」
マリアに尋ねられ、エリザが答える。
「ゲートが長年の経験でコレ重要やなっちゅうのんをまとめたお話やね。ほら、アンタもハンくんから何個か聞いた覚えあるやろ? 『飯は食える内に食え』やら、『言いたくないコト言わすな』やら」
「あー……。あれってそう言うのが元だったんですね。他にはどんなのが?」
「第一条がさっき言ったヤツだ。第二条が飯の話で、第三条は『どれだけ安全だと思っても一割は警戒を残せ』」
「そーそー、そんなヤツだよな。第四条は言いたくないならってヤツだよな?」
「そうだ。で、第五条が『無理してまで成果を挙げようとするな。今自分ができることをしろ』だ」
「んで第六条が『危なくなったら迷わず逃げろ。死んでからほめられても嬉しくない』だったよな」
「ああ。なんだよ、あんた結構覚えてるじゃないか」
「結構覚えてるもんだな。俺もびっくりしてる、へへ……」
交互に答えるハンとロウの間で、マリアはふんふんと鼻を鳴らしている。
「言われてみれば確かに、いっつも尉官が話してるヤツですね。なるほどー……」
「ゲートも将軍務めて結構になるからな。そら含蓄もあるっちゅうもんや。……そう考えると、ホンマに皇帝はポンコツやな」
「って言うと?」
首をかしげたマリアに、ハンが答える。
「他人を許容せず、兵隊に十分な飯や休息も与えずに戦闘を強い、しかも退却を許さない。そんな狭量で冷酷な人間が、他人の上に立てるわけが無いってことだ」
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