「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・終局伝 3
神様たちの話、第332話。
猛吹雪とクレバスの中で。
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3.
太陽が照らしたかと思ったのも束の間、空にはいつの間にか、薄暗い雲が漂っていた。
「ふぶきますかね」
不安げに尋ねたハンに、エリザも憂鬱そうな表情で答える。
「ふぶくやろな。みんな、しっかりコート着ときや。風邪で済まへんで」
「承知してます」
そう返しつつ、ハンはフードをかぶる。ロウも同じようにフードに手をかけたところで、道の先に兵士たちを見付け、片手を挙げる。
「あっ、みんないたっスよ、エリザさん。おーい!」
大声を上げたロウの声に気付き――その兵士たちは顔をこわばらせる。と同時に、エリザがロウの口をがばっと抑え込んだ。
「アホっ」
「もがっ!?」
「アンタ怖いコトするなぁ。ココ、雪山やで」
「もが? ……もっ」
合点が行ったような目をしたので、エリザはロウの口から手を離す。
「気ぃ付けてや。ココでアタシらも皇帝も一緒くたに雪崩に巻き込まれて死んだりなんかしたら、悔しゅうてかなわんで」
「す、すんませんっス」
辺りに変化が無いことを確認してから、一行は兵士たちの側に寄る。
「騒がせた。すまない」
「いえ。……ご命令通り、目撃された地点の周囲を回る形で動いています。どこの班もまだ、接敵していないようです」
「となると、この先にいるのは確実だな。仮に瞬間移動術で包囲の外に出られる気力と魔力が残っているなら、そもそも俺たちがキャンプを構える前に逃げてるはずだ」
「相当参っとるんやろな。魔術はまず使いもんにならんやろ」
「そんなら楽にボコれそうっスね」
そうつぶやいたロウに、エリザが釘を刺す。
「油断せんの。側近さんもまだ居てはるやろからな」
「あー……、そう言やそうでしたけど、……でも実際、どうなんスかね?」
尋ね返され、エリザは首をかしげた。
「どうって?」
「二人でメシも食わずに雪山ん中を1週間もウロウロって、相当ムチャだと思うんスけど。どっちか死んでてもおかしくないと思うんスよね」
「ふむ……」
話を聞いていたハンも、エリザに並ぶ形で首をかしげる。
「確かに2人共生きているとは思えないが……」
「もしもがあるかも分からんやんか。自分に都合ええ予想立ててもしゃあないやん」
「ま、確かに。気を付けて行きましょう」
兵士たちに待機するよう命じ、ハンたちは包囲の中へと向かった。
入り込んでまもなく、重たくべったりとした雪が一行の頭上から――いや、ほぼ横から降り出した。
「うわ……かなわんなぁ」
顔に張り付く雪を何度もこすり落としながら、エリザがうめく。
「息苦しくなってくるな」
「凍傷よりましでしょう」
そう返すハンも、既に軍帽とマフラーが真っ白になっている。
「まだ辛うじて周りは見えますが、これ以上激しくなってくると討伐どころじゃなくなりそうですね」
「せやな。早いトコ終わらせへんとアカンくなりそうやで」
「あ、そうだ」
と、マリアが声を上げる。
「尉官、エリザさん、お二人とも山に入ってなかったでしたよね」
「そうだ。何だかんだ言って、キャンプで指揮ばかりだったからな」
「ですよね。なのでいっこ、注意しないとってことがあるんで、今言っときます」
「なんだ?」
「あっちこっち雪だらけなので分かりにくいかもですけど、ところどころクレバスがあります」
言われて、ハンは辺りを見回す。
「そう言えば報告にあったな。滑落した者も数名いると」
「どーにか助け出しはしましたけど、落ちた人は大ケガしたり凍傷で動けなくなったりで、例外無く戦線離脱してる状態です。尉官もエリザさんも山は慣れてると思いますけど、ここのクレバスはかなり危険なので、十分気を付けて下さい」
「ありがとさん。気ぃ付け……」
エリザはマリアに振り返りかけ――直後、ぐるんと反対側を向いた。
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猛吹雪とクレバスの中で。
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3.
太陽が照らしたかと思ったのも束の間、空にはいつの間にか、薄暗い雲が漂っていた。
「ふぶきますかね」
不安げに尋ねたハンに、エリザも憂鬱そうな表情で答える。
「ふぶくやろな。みんな、しっかりコート着ときや。風邪で済まへんで」
「承知してます」
そう返しつつ、ハンはフードをかぶる。ロウも同じようにフードに手をかけたところで、道の先に兵士たちを見付け、片手を挙げる。
「あっ、みんないたっスよ、エリザさん。おーい!」
大声を上げたロウの声に気付き――その兵士たちは顔をこわばらせる。と同時に、エリザがロウの口をがばっと抑え込んだ。
「アホっ」
「もがっ!?」
「アンタ怖いコトするなぁ。ココ、雪山やで」
「もが? ……もっ」
合点が行ったような目をしたので、エリザはロウの口から手を離す。
「気ぃ付けてや。ココでアタシらも皇帝も一緒くたに雪崩に巻き込まれて死んだりなんかしたら、悔しゅうてかなわんで」
「す、すんませんっス」
辺りに変化が無いことを確認してから、一行は兵士たちの側に寄る。
「騒がせた。すまない」
「いえ。……ご命令通り、目撃された地点の周囲を回る形で動いています。どこの班もまだ、接敵していないようです」
「となると、この先にいるのは確実だな。仮に瞬間移動術で包囲の外に出られる気力と魔力が残っているなら、そもそも俺たちがキャンプを構える前に逃げてるはずだ」
「相当参っとるんやろな。魔術はまず使いもんにならんやろ」
「そんなら楽にボコれそうっスね」
そうつぶやいたロウに、エリザが釘を刺す。
「油断せんの。側近さんもまだ居てはるやろからな」
「あー……、そう言やそうでしたけど、……でも実際、どうなんスかね?」
尋ね返され、エリザは首をかしげた。
「どうって?」
「二人でメシも食わずに雪山ん中を1週間もウロウロって、相当ムチャだと思うんスけど。どっちか死んでてもおかしくないと思うんスよね」
「ふむ……」
話を聞いていたハンも、エリザに並ぶ形で首をかしげる。
「確かに2人共生きているとは思えないが……」
「もしもがあるかも分からんやんか。自分に都合ええ予想立ててもしゃあないやん」
「ま、確かに。気を付けて行きましょう」
兵士たちに待機するよう命じ、ハンたちは包囲の中へと向かった。
入り込んでまもなく、重たくべったりとした雪が一行の頭上から――いや、ほぼ横から降り出した。
「うわ……かなわんなぁ」
顔に張り付く雪を何度もこすり落としながら、エリザがうめく。
「息苦しくなってくるな」
「凍傷よりましでしょう」
そう返すハンも、既に軍帽とマフラーが真っ白になっている。
「まだ辛うじて周りは見えますが、これ以上激しくなってくると討伐どころじゃなくなりそうですね」
「せやな。早いトコ終わらせへんとアカンくなりそうやで」
「あ、そうだ」
と、マリアが声を上げる。
「尉官、エリザさん、お二人とも山に入ってなかったでしたよね」
「そうだ。何だかんだ言って、キャンプで指揮ばかりだったからな」
「ですよね。なのでいっこ、注意しないとってことがあるんで、今言っときます」
「なんだ?」
「あっちこっち雪だらけなので分かりにくいかもですけど、ところどころクレバスがあります」
言われて、ハンは辺りを見回す。
「そう言えば報告にあったな。滑落した者も数名いると」
「どーにか助け出しはしましたけど、落ちた人は大ケガしたり凍傷で動けなくなったりで、例外無く戦線離脱してる状態です。尉官もエリザさんも山は慣れてると思いますけど、ここのクレバスはかなり危険なので、十分気を付けて下さい」
「ありがとさん。気ぃ付け……」
エリザはマリアに振り返りかけ――直後、ぐるんと反対側を向いた。
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