「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・終局伝 4
神様たちの話、第333話。
直感と猛襲。
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4.
ハンの目から見て、エリザ・ゴールドマンと言う女性には3つ、どんな相手でも敵わないほどの――ハンが最も尊敬するゼロ・タイムズでさえ及ばないかもと思えるほどの――優れた長所があった。
1つは、その美貌と魅力である。中央の人間はおろか、彼女の評判をまったく知らない北方の人間でさえ、彼女が街の通りを歩けば老若男女の区別無く振り返るほど、彼女は美しい。それでいて、いつも優しげな笑顔で気さくに接してくることもあり、事実としてこれまで、彼女が人心掌握策に失敗したことは、一度も無い。ハン自身も――彼女の破天荒な内面を知っていてなお――彼女に対してはどんな悪感情よりも、信頼と安心が勝ってしまうのである。
2つ目は、その知略である。ハンはこれまで幾度となく、ゼロをはじめとする智者・智将たちを彼女が易々と手玉に取るところを間近で見ており、北方の遠征においても彼女は人心の動き、欲求と願望、思惑と情勢を、まるで操っているかのように掌握・扇動し、そして制御してしまった。「彼女がその気になれば、全人民が操られてしまうだろう」と恐れたゼロの懸念も、あながち的はずれでは無いと言うことを、ハンは実感していた。
そして3つ目はその勘、直感力である。時折、彼女は異様な鋭さを発揮することがあるのだが、これに関しては普段から理知的で、丁寧に理屈を説明できるはずの彼女自身でさえも、「なんでやろな」と言葉を濁しており、彼女自身も良く分かっていないようだった。
「時々な、ピンと来んねん。『あ、今危ないな』っちゅうのんが。そう言う時やと大体、アタマん中でどうこう考えとったら遅い場合が多いから、カラダが勝手に動きよるんやろな」
マリアの方に振り返りかけたエリザが、突然ぐるんと反対側を向くと同時に、魔杖を掲げる。
「『マジックシールド』!」
「え」
状況の把握が追い付かず、ハンは硬直する。それでもエリザの挙動を目で追い、頭の中で整理して、彼女の行動の理由を理解した。
「……側近!」
エリザが展開した魔術の盾の向こうに側近、アルがへばりついている。
「何故……私の攻撃ガ読めたノだ!?」
「さあ? なんでやろな」
ハンはそれが虚勢や計算上の行動ではなく、彼女の本心であると直感した。
(いつものアレか)
ハンは周囲を見渡し、皇帝の姿が無いことに気付く。
「皇帝はどこだ?」
尋ねたが、アルはハンの方を見向きもせず、エリザの魔術を力づくで破ろうとしているらしく、打撃を繰り返している。
「元気一杯やな。ご飯食べてへんと思とったけど」
「私にハ必要のナい要素だ。コの盾をドけろ」
「寝言は寝て言うてんか。どけたら死ぬやんか」
と、エリザが魔杖を構えたまま、尻尾をふわ、と揺らす。背後にいたロウはその意図に気付いたらしく、そっと彼女の背後から離れた。ハンも同様に距離を取り、こっそりアルの横へと回り込む。
「……!」
アルがエリザへの攻撃をやめ、忍び寄っていたロウに向き直る。
「貴様ッ」
「オラああッ!」
アルが構えるより早く、ロウの戦鎚がアルの顔面を捉える。だが――。
「……んなっ!?」
戦鎚の柄がぼきんと折れ、さらに真っ二つになった鎚頭がアルの足元に落ちる。
「こんなモのが私ニ効くか」
ロウが呆気に取られた、その一瞬を突いて、アルがロウの腕を取る。
「い……ぎっ」
ミシミシと音を立て、ロウの右腕が握り潰されて行く。が、完全に千切られる直前、今度はハンが仕掛ける。
「させるかッ!」
ハンは短剣を抜き、フードの上からアルの首、後頸を突く。
(前回やって、分かってることだ。こいつは全身甲冑で武装してる。ただ斬り付けた程度じゃ効くわけが無い。だから――その『隙間』だ!)
ぎちっ、と気味の悪い音を立て、短剣がアルの首に突き刺さる。
「ギャア……ッ……」
その途端、輪をかけて気味の悪い悲鳴が、アルの口から漏れた。
「hgft@790evo……ta8n17……252#bpg……エラー……致命……チメイテキ……アガ……ガ……ググクグ……」
ガチャガチャとした、人の声とは思えないような音を立てて、アルの動きが乱れる。
「……エラー……エラー……リブート……セーフモード……クリア……」
動きががくん、がくんと、糸が一本、二本切れた操り人形のようになりつつも、アルは辛うじてハンの方を向いた。
「コレシキノ……コトデ……コウドウフノウ……ニハ……ナラン……! ワタシニハ……ミコヲ……ミチビキタスケル……シメイガアタエラレテ……イルノダ……! ワタシノソンザイリユウヲ……ミコヲ……オビヤカスモノドモハ……ゼンリョクヲモッテ……ハイジョスル!」
瞬間、アルはハンに飛び付く。あまりの速さに、流石のハンも対応し切れず、簡単に首をつかまれた。
「が……はっ……ぐ……っ……」
自分ののどがめりめりと音を立てるのを感じたのも一瞬、みるみる内にハンの意識が遠のいていった。
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直感と猛襲。
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4.
ハンの目から見て、エリザ・ゴールドマンと言う女性には3つ、どんな相手でも敵わないほどの――ハンが最も尊敬するゼロ・タイムズでさえ及ばないかもと思えるほどの――優れた長所があった。
1つは、その美貌と魅力である。中央の人間はおろか、彼女の評判をまったく知らない北方の人間でさえ、彼女が街の通りを歩けば老若男女の区別無く振り返るほど、彼女は美しい。それでいて、いつも優しげな笑顔で気さくに接してくることもあり、事実としてこれまで、彼女が人心掌握策に失敗したことは、一度も無い。ハン自身も――彼女の破天荒な内面を知っていてなお――彼女に対してはどんな悪感情よりも、信頼と安心が勝ってしまうのである。
2つ目は、その知略である。ハンはこれまで幾度となく、ゼロをはじめとする智者・智将たちを彼女が易々と手玉に取るところを間近で見ており、北方の遠征においても彼女は人心の動き、欲求と願望、思惑と情勢を、まるで操っているかのように掌握・扇動し、そして制御してしまった。「彼女がその気になれば、全人民が操られてしまうだろう」と恐れたゼロの懸念も、あながち的はずれでは無いと言うことを、ハンは実感していた。
そして3つ目はその勘、直感力である。時折、彼女は異様な鋭さを発揮することがあるのだが、これに関しては普段から理知的で、丁寧に理屈を説明できるはずの彼女自身でさえも、「なんでやろな」と言葉を濁しており、彼女自身も良く分かっていないようだった。
「時々な、ピンと来んねん。『あ、今危ないな』っちゅうのんが。そう言う時やと大体、アタマん中でどうこう考えとったら遅い場合が多いから、カラダが勝手に動きよるんやろな」
マリアの方に振り返りかけたエリザが、突然ぐるんと反対側を向くと同時に、魔杖を掲げる。
「『マジックシールド』!」
「え」
状況の把握が追い付かず、ハンは硬直する。それでもエリザの挙動を目で追い、頭の中で整理して、彼女の行動の理由を理解した。
「……側近!」
エリザが展開した魔術の盾の向こうに側近、アルがへばりついている。
「何故……私の攻撃ガ読めたノだ!?」
「さあ? なんでやろな」
ハンはそれが虚勢や計算上の行動ではなく、彼女の本心であると直感した。
(いつものアレか)
ハンは周囲を見渡し、皇帝の姿が無いことに気付く。
「皇帝はどこだ?」
尋ねたが、アルはハンの方を見向きもせず、エリザの魔術を力づくで破ろうとしているらしく、打撃を繰り返している。
「元気一杯やな。ご飯食べてへんと思とったけど」
「私にハ必要のナい要素だ。コの盾をドけろ」
「寝言は寝て言うてんか。どけたら死ぬやんか」
と、エリザが魔杖を構えたまま、尻尾をふわ、と揺らす。背後にいたロウはその意図に気付いたらしく、そっと彼女の背後から離れた。ハンも同様に距離を取り、こっそりアルの横へと回り込む。
「……!」
アルがエリザへの攻撃をやめ、忍び寄っていたロウに向き直る。
「貴様ッ」
「オラああッ!」
アルが構えるより早く、ロウの戦鎚がアルの顔面を捉える。だが――。
「……んなっ!?」
戦鎚の柄がぼきんと折れ、さらに真っ二つになった鎚頭がアルの足元に落ちる。
「こんなモのが私ニ効くか」
ロウが呆気に取られた、その一瞬を突いて、アルがロウの腕を取る。
「い……ぎっ」
ミシミシと音を立て、ロウの右腕が握り潰されて行く。が、完全に千切られる直前、今度はハンが仕掛ける。
「させるかッ!」
ハンは短剣を抜き、フードの上からアルの首、後頸を突く。
(前回やって、分かってることだ。こいつは全身甲冑で武装してる。ただ斬り付けた程度じゃ効くわけが無い。だから――その『隙間』だ!)
ぎちっ、と気味の悪い音を立て、短剣がアルの首に突き刺さる。
「ギャア……ッ……」
その途端、輪をかけて気味の悪い悲鳴が、アルの口から漏れた。
「hgft@790evo……ta8n17……252#bpg……エラー……致命……チメイテキ……アガ……ガ……ググクグ……」
ガチャガチャとした、人の声とは思えないような音を立てて、アルの動きが乱れる。
「……エラー……エラー……リブート……セーフモード……クリア……」
動きががくん、がくんと、糸が一本、二本切れた操り人形のようになりつつも、アルは辛うじてハンの方を向いた。
「コレシキノ……コトデ……コウドウフノウ……ニハ……ナラン……! ワタシニハ……ミコヲ……ミチビキタスケル……シメイガアタエラレテ……イルノダ……! ワタシノソンザイリユウヲ……ミコヲ……オビヤカスモノドモハ……ゼンリョクヲモッテ……ハイジョスル!」
瞬間、アルはハンに飛び付く。あまりの速さに、流石のハンも対応し切れず、簡単に首をつかまれた。
「が……はっ……ぐ……っ……」
自分ののどがめりめりと音を立てるのを感じたのも一瞬、みるみる内にハンの意識が遠のいていった。
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