「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・占験録 6
晴奈の話、第257話。
シルビアの変調。
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6.
夕食後、ロウが子供たちを風呂に入れている間、楢崎とシルビアは居間で話していた。
「本当にすみません、ロウは子供っぽくて」
「いやいや、そう気になさらず」
顔を伏せ、恥ずかしがるシルビアをなだめつつ、楢崎はロウのことを尋ねてみた。
「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「え? はい、何でしょうか?」
「ロウくんは黒炎教団の人だったのかな」
楢崎の言葉に、シルビアは目を丸くする。
「え? そ、そうなのですか?」
「おっと、違ったか」
「いえ、実は……」
シルビアはロウが記憶喪失であること、自分が拾う前の経歴はさっぱり分からないと言うことを話した。
「ふむ、そうだったのか」
「あの人が昔、何をしていたのかはあの人自身も知らないんだそうです」
「なるほど……」
「あの、ナラサキさんはロウが、黒炎教団の僧兵だと?」
「ええ。あの身のこなしと鍛え抜かれた肉体、様々な武器に精通・習熟しているところを見ても、ほぼ間違いないと」
それを聞いたシルビアは悲しげな顔で帽子を脱ぎ、頭を抱える。
「ああ……。何てことでしょう」
「そうか、シルビアさんにとっては異教徒か」
「ええ。もし央北の評議会にこのことが知られたら」
「最悪、無理矢理に仲を引き裂かれるかも、と言うことに?」
「なるかも知れません」
悲しそうに顔をゆがめるシルビアを見て、楢崎はやんわりと励ます。
「まあ、昔のことを覚えていないのなら、もう黒炎教団の者では無いと思うよ。今のロウくんは、宗教的には何にも属してないんじゃないかな、と」
「そう、でしょうか」
「それに、ロウくんは君のことをすごく愛しているし、その気になれば改宗でも何でもするよ、きっと」
「……そう、ですね」
シルビアはまだ青い顔をしながらも、コクリとうなずいた。
「信じなきゃ、いけません、よね」
「うん、そうだね。……大丈夫かい? 顔色、悪いけれど」
「ええ。最近、ちょっとめまいが多くて。疲れてるのかしら……」
その様子を眺めていた楢崎は、ある原因に思い当たった。
「うーん、もしかしたら」
「はい?」
「近いうち、病院に行った方がいいかも知れないよ。素敵な発見があるかも知れない」
「はあ……?」
青い顔で不思議そうに見つめてくるシルビアを、楢崎は暖かく眺めていた。
大会7日目(5月27日)。第3戦、楢崎―ウィアード。
「東口からはシュンジ・ナラサキ! 先日の第1戦で、見事にあの『キング』クラウンを撃破したその剛腕ぶりは、前回覇者、ウィアードにどれだけ迫れるでしょうか!?
ここ最近絶好調のサムライ、『剛剣』ナラサキ! その活躍に、観客の注目が集まっております!」
アナウンスを聞き、楢崎は目を丸くしていた。
(『剛剣』って……、どこでその呼び名を調べたんだろう?)
前回クラウンを倒したことで、楢崎の人気は急上昇していた。
「シュンジ様、ステキー!」
「頑張ってー!」
「キャー!」
前回よりも多めに女性からの黄色い声援が飛んでくる。前回の活躍で注目を集め、ファンを増やしたようだ。いつも大言壮語を吐くアナウンスも、あながち適当にしゃべっているわけでは無いらしい。
「西口からはロウ・ウィアード! ついに出ました、前回のチャンピオン!
前回のエリザリーグで堂々の優勝を果たし、名実共に『キングの後継者』と目される地上最強の男!
これまで何度か武器を変え、対戦の度に破壊してしまっていたことから、一部では『壊し屋』などと称されてきましたが、今回選んだのはなんと、知る人ぞ知るマニアな武器、三節棍! 我々一同も、この不可思議な武器に関しての情報はつかめておりません! むしろ我々も、その武器がどんな形なのか、どのように使うのか、興味津々であります!
この三節棍は今度こそ彼のベストオブベストとなるのか、それともまた『壊し屋』伝説の一ページとなってしまうのか!?」
リングに上がったロウは、楢崎のように頭をかきながらアナウンスを聴いていた。
(くっそ、『壊し屋』かよ……。ま、しゃーねー。ホントに武器、バキバキ壊してたしな。
でも、ま、今度こそその汚名は返上してやるぜ。この『雅龍』がありゃ、怖いもん無しだ!)
両者がリングに立ったところで、二人は軽く会釈した。
(存分に腕を奮わせてもらうよ、ロウくん)
(望むところです、ナラサキさん)
互いに相手を見据え、目で意志を交わしたところで、アナウンスが締めくくられた。
「さあ、この豪腕対決! 果たして勝利はどちらがもぎ取るのか!?
それでは試合、開始ッ!」
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シルビアの変調。
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夕食後、ロウが子供たちを風呂に入れている間、楢崎とシルビアは居間で話していた。
「本当にすみません、ロウは子供っぽくて」
「いやいや、そう気になさらず」
顔を伏せ、恥ずかしがるシルビアをなだめつつ、楢崎はロウのことを尋ねてみた。
「少し聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」
「え? はい、何でしょうか?」
「ロウくんは黒炎教団の人だったのかな」
楢崎の言葉に、シルビアは目を丸くする。
「え? そ、そうなのですか?」
「おっと、違ったか」
「いえ、実は……」
シルビアはロウが記憶喪失であること、自分が拾う前の経歴はさっぱり分からないと言うことを話した。
「ふむ、そうだったのか」
「あの人が昔、何をしていたのかはあの人自身も知らないんだそうです」
「なるほど……」
「あの、ナラサキさんはロウが、黒炎教団の僧兵だと?」
「ええ。あの身のこなしと鍛え抜かれた肉体、様々な武器に精通・習熟しているところを見ても、ほぼ間違いないと」
それを聞いたシルビアは悲しげな顔で帽子を脱ぎ、頭を抱える。
「ああ……。何てことでしょう」
「そうか、シルビアさんにとっては異教徒か」
「ええ。もし央北の評議会にこのことが知られたら」
「最悪、無理矢理に仲を引き裂かれるかも、と言うことに?」
「なるかも知れません」
悲しそうに顔をゆがめるシルビアを見て、楢崎はやんわりと励ます。
「まあ、昔のことを覚えていないのなら、もう黒炎教団の者では無いと思うよ。今のロウくんは、宗教的には何にも属してないんじゃないかな、と」
「そう、でしょうか」
「それに、ロウくんは君のことをすごく愛しているし、その気になれば改宗でも何でもするよ、きっと」
「……そう、ですね」
シルビアはまだ青い顔をしながらも、コクリとうなずいた。
「信じなきゃ、いけません、よね」
「うん、そうだね。……大丈夫かい? 顔色、悪いけれど」
「ええ。最近、ちょっとめまいが多くて。疲れてるのかしら……」
その様子を眺めていた楢崎は、ある原因に思い当たった。
「うーん、もしかしたら」
「はい?」
「近いうち、病院に行った方がいいかも知れないよ。素敵な発見があるかも知れない」
「はあ……?」
青い顔で不思議そうに見つめてくるシルビアを、楢崎は暖かく眺めていた。
大会7日目(5月27日)。第3戦、楢崎―ウィアード。
「東口からはシュンジ・ナラサキ! 先日の第1戦で、見事にあの『キング』クラウンを撃破したその剛腕ぶりは、前回覇者、ウィアードにどれだけ迫れるでしょうか!?
ここ最近絶好調のサムライ、『剛剣』ナラサキ! その活躍に、観客の注目が集まっております!」
アナウンスを聞き、楢崎は目を丸くしていた。
(『剛剣』って……、どこでその呼び名を調べたんだろう?)
前回クラウンを倒したことで、楢崎の人気は急上昇していた。
「シュンジ様、ステキー!」
「頑張ってー!」
「キャー!」
前回よりも多めに女性からの黄色い声援が飛んでくる。前回の活躍で注目を集め、ファンを増やしたようだ。いつも大言壮語を吐くアナウンスも、あながち適当にしゃべっているわけでは無いらしい。
「西口からはロウ・ウィアード! ついに出ました、前回のチャンピオン!
前回のエリザリーグで堂々の優勝を果たし、名実共に『キングの後継者』と目される地上最強の男!
これまで何度か武器を変え、対戦の度に破壊してしまっていたことから、一部では『壊し屋』などと称されてきましたが、今回選んだのはなんと、知る人ぞ知るマニアな武器、三節棍! 我々一同も、この不可思議な武器に関しての情報はつかめておりません! むしろ我々も、その武器がどんな形なのか、どのように使うのか、興味津々であります!
この三節棍は今度こそ彼のベストオブベストとなるのか、それともまた『壊し屋』伝説の一ページとなってしまうのか!?」
リングに上がったロウは、楢崎のように頭をかきながらアナウンスを聴いていた。
(くっそ、『壊し屋』かよ……。ま、しゃーねー。ホントに武器、バキバキ壊してたしな。
でも、ま、今度こそその汚名は返上してやるぜ。この『雅龍』がありゃ、怖いもん無しだ!)
両者がリングに立ったところで、二人は軽く会釈した。
(存分に腕を奮わせてもらうよ、ロウくん)
(望むところです、ナラサキさん)
互いに相手を見据え、目で意志を交わしたところで、アナウンスが締めくくられた。
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