「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・終局伝 6
神様たちの話、第335話。
すべてはもう、遅すぎて。
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6.
「ビート、何故お前がここにいる? 拘束していたはずだ」
「あ、ソレな」
ビートに代わり、エリザが答える。
「アタシが出してあげてん。ついでに大技もいっこ教えたった」
「何故です? 彼は……」
「ウソツキやからか? ほんなら聞くけど、ビートくんがどんなウソ付いたって?」
「側近を倒したと……」
言いかけて、ハンはエリザの思惑を悟る。
「……実際に倒せば嘘じゃない、と?」
「せやろ?」
「時系列の問題でしょう。あの時点では倒していません。であれば嘘じゃないですか」
「実際あん時も倒したんやろ。で、蘇った。ほんでまた倒してみせた。ほんならウソに当たる要素なんか何も無いやん。そう言うコトやんか」
「どう言うことですか。そもそも蘇るなんてこと、あるわけが……」
「実際あの通りやん。倒したけど、あのまま放っとけば蘇るんやろ、28日経ったら。でも皇帝さん倒せば蘇らへん。ソレが現状で得とる情報のすべてや。何やったらこのまま28日、皇帝さん放っとくか? 実証でけるかも分からんで」
「そんな無茶な理屈が通りますか! ……しかし、まあ、実際として」
ハンは苦々しい思いを抑え込みつつ、ビートに目を向けた。
「彼の行動によって、我々が窮地を逃れたことは事実です。その事実は評定に加味すべきでしょうね。脱走したことも考慮することになりますが」
「でも『戦果』に比べたら微々たるもんやろ? 大目に見たりいや」
「……はあ」
ハンはため息をつき、マリアに命じた。
「ロウが負傷したままだ。どうやらビートも火傷してるらしいし、お前は二人を連れて下山してくれ」
「了解です。尉官は?」
「28日放っておくなんてことは当然、できるわけが無い。いや、1日たりとも放置できない。このままエリザさんと、皇帝を捜索する」
「分かりました。お気を付けて」
三人が下山していくのを確認したところで、ハンはエリザに向き直った。
「軍規違反、これが最後にしてもらえると本当に助かるんですがね」
「律儀に守るよりええ結果になるんやったら、守る意味あらへんやんか。臨機応変っちゅうヤツや」
「またそう言う屁理屈を……。もういいです」
「さよか」
それ以上ハンも、エリザの方からも口を開くことなく、二人はふたたび山道を登り始めた。
山を降りながら、マリアはビートに質問する。
「で、あんた今までどこにいたの?」
「皆さんの後ろにいました」
「コソコソ付いて来てたってわけ? よっぽど戦果上げたかったんだね。命令違反までして」
「汚名を晴らす一番の手段ですから」
「あっそ。セコいヤツだよね、本当」
お互い目を合わせようとせず、会話は周囲の気温に負けないくらいに冷え切っている。いたたまれなくなったらしく、ロウが口を挟んで来た。
「ちょっと、お二人さんよ。前みたいにさ、仲良くできねーのかよ」
「できるわけないでしょ? こいつがウソ付いたせいで、皇帝逃したんだから」
「そのウソだってよ、結局あん時倒したってはずの側近が生き返っちまったからウソになったって話で、そのまま生き返んなかったら何にも問題無かったんだろ? 普通、生き返るなんてコトあるワケねえんだから。だのに、そんな思いも寄らないって話が起こったからって誰かを槍玉に挙げて吊し上げなんて、ひでえ話じゃねえかよ」
「あんたもそんなこと、本当にあるなんて思うの? 蘇るなんて、マジだと思ってんの? いくらエリザさんの話だからって、何でもかんでも信じるの、あんた?」
とげとげしく応じるマリアにたじろぎつつも、ロウはビートの肩を持つ。
「いやさ、そりゃま確かによ、俺だって丸っきり信じてるとは言えんが、でも実際の話、絶対死んだ、間違い無いってのが実は生きてたってことはあるワケだし、誤報告になったってのは、結果として仕方ねえだろって思うぜ、俺はよ。皇帝にしてもよ、もうじき捕まるか死ぬかするんだから、んな目くじら立てなくたっていいだろって話だよ」
「……そりゃ理屈じゃそうかも知んないけどさ」
マリアは顔を背けたままのビートをにらみつけ、こうなじった。
「でもあたしが許せないのは、こいつが自分の失敗認めないで、こんなとこまでノコノコやって来て、セコい点数稼ぎなんかしてまで、その失敗ごまかそうとしたってことなのよ。自分のやったこと、ちゃんと反省してないってことじゃん!?」
「それは違います!」
ようやくマリアに顔を向け、ビートは弁解する。
「僕は、みなさんにかけた迷惑を少しでも雪(そそ)ぎたくて……! 確かに僕は、つまらない欲から不義を働きました。それについては心の底から反省しています。それだけはどうか、信じて下さい」
「どうだか。口じゃどうとでも言えるでしょ?」
「ですから、こうして僕は、行動で示して……」
「自分の誠実さを行動で証明したいんだったら、尉官の決定通りにじっとしてるべきじゃないの? それをさも『助けに来たぞ』って言いたげに、得意げにしゃしゃり出て来ちゃってさ。そんなのあたしには、いいかっこしようとして狡(こす)い真似してるようにしか見えない。
ま、あんたが今更何をやったところであたしもう、あんたのことは絶対信用しないって決めてるし。あたしの中ではあんたはもう、クズ野郎としか思ってないよ」
だが、マリアは冷たくあしらうばかりで、ビートの言葉を一切受け付けようとしない。
「……そうですか……」
ビートも弁明をあきらめたらしく、それ以上はもう、一言も口を開かなかった。
そして治療を受けた直後、ビートはキャンプから行方をくらまし――二度とマリアの前に現れることは無かった。
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すべてはもう、遅すぎて。
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「ビート、何故お前がここにいる? 拘束していたはずだ」
「あ、ソレな」
ビートに代わり、エリザが答える。
「アタシが出してあげてん。ついでに大技もいっこ教えたった」
「何故です? 彼は……」
「ウソツキやからか? ほんなら聞くけど、ビートくんがどんなウソ付いたって?」
「側近を倒したと……」
言いかけて、ハンはエリザの思惑を悟る。
「……実際に倒せば嘘じゃない、と?」
「せやろ?」
「時系列の問題でしょう。あの時点では倒していません。であれば嘘じゃないですか」
「実際あん時も倒したんやろ。で、蘇った。ほんでまた倒してみせた。ほんならウソに当たる要素なんか何も無いやん。そう言うコトやんか」
「どう言うことですか。そもそも蘇るなんてこと、あるわけが……」
「実際あの通りやん。倒したけど、あのまま放っとけば蘇るんやろ、28日経ったら。でも皇帝さん倒せば蘇らへん。ソレが現状で得とる情報のすべてや。何やったらこのまま28日、皇帝さん放っとくか? 実証でけるかも分からんで」
「そんな無茶な理屈が通りますか! ……しかし、まあ、実際として」
ハンは苦々しい思いを抑え込みつつ、ビートに目を向けた。
「彼の行動によって、我々が窮地を逃れたことは事実です。その事実は評定に加味すべきでしょうね。脱走したことも考慮することになりますが」
「でも『戦果』に比べたら微々たるもんやろ? 大目に見たりいや」
「……はあ」
ハンはため息をつき、マリアに命じた。
「ロウが負傷したままだ。どうやらビートも火傷してるらしいし、お前は二人を連れて下山してくれ」
「了解です。尉官は?」
「28日放っておくなんてことは当然、できるわけが無い。いや、1日たりとも放置できない。このままエリザさんと、皇帝を捜索する」
「分かりました。お気を付けて」
三人が下山していくのを確認したところで、ハンはエリザに向き直った。
「軍規違反、これが最後にしてもらえると本当に助かるんですがね」
「律儀に守るよりええ結果になるんやったら、守る意味あらへんやんか。臨機応変っちゅうヤツや」
「またそう言う屁理屈を……。もういいです」
「さよか」
それ以上ハンも、エリザの方からも口を開くことなく、二人はふたたび山道を登り始めた。
山を降りながら、マリアはビートに質問する。
「で、あんた今までどこにいたの?」
「皆さんの後ろにいました」
「コソコソ付いて来てたってわけ? よっぽど戦果上げたかったんだね。命令違反までして」
「汚名を晴らす一番の手段ですから」
「あっそ。セコいヤツだよね、本当」
お互い目を合わせようとせず、会話は周囲の気温に負けないくらいに冷え切っている。いたたまれなくなったらしく、ロウが口を挟んで来た。
「ちょっと、お二人さんよ。前みたいにさ、仲良くできねーのかよ」
「できるわけないでしょ? こいつがウソ付いたせいで、皇帝逃したんだから」
「そのウソだってよ、結局あん時倒したってはずの側近が生き返っちまったからウソになったって話で、そのまま生き返んなかったら何にも問題無かったんだろ? 普通、生き返るなんてコトあるワケねえんだから。だのに、そんな思いも寄らないって話が起こったからって誰かを槍玉に挙げて吊し上げなんて、ひでえ話じゃねえかよ」
「あんたもそんなこと、本当にあるなんて思うの? 蘇るなんて、マジだと思ってんの? いくらエリザさんの話だからって、何でもかんでも信じるの、あんた?」
とげとげしく応じるマリアにたじろぎつつも、ロウはビートの肩を持つ。
「いやさ、そりゃま確かによ、俺だって丸っきり信じてるとは言えんが、でも実際の話、絶対死んだ、間違い無いってのが実は生きてたってことはあるワケだし、誤報告になったってのは、結果として仕方ねえだろって思うぜ、俺はよ。皇帝にしてもよ、もうじき捕まるか死ぬかするんだから、んな目くじら立てなくたっていいだろって話だよ」
「……そりゃ理屈じゃそうかも知んないけどさ」
マリアは顔を背けたままのビートをにらみつけ、こうなじった。
「でもあたしが許せないのは、こいつが自分の失敗認めないで、こんなとこまでノコノコやって来て、セコい点数稼ぎなんかしてまで、その失敗ごまかそうとしたってことなのよ。自分のやったこと、ちゃんと反省してないってことじゃん!?」
「それは違います!」
ようやくマリアに顔を向け、ビートは弁解する。
「僕は、みなさんにかけた迷惑を少しでも雪(そそ)ぎたくて……! 確かに僕は、つまらない欲から不義を働きました。それについては心の底から反省しています。それだけはどうか、信じて下さい」
「どうだか。口じゃどうとでも言えるでしょ?」
「ですから、こうして僕は、行動で示して……」
「自分の誠実さを行動で証明したいんだったら、尉官の決定通りにじっとしてるべきじゃないの? それをさも『助けに来たぞ』って言いたげに、得意げにしゃしゃり出て来ちゃってさ。そんなのあたしには、いいかっこしようとして狡(こす)い真似してるようにしか見えない。
ま、あんたが今更何をやったところであたしもう、あんたのことは絶対信用しないって決めてるし。あたしの中ではあんたはもう、クズ野郎としか思ってないよ」
だが、マリアは冷たくあしらうばかりで、ビートの言葉を一切受け付けようとしない。
「……そうですか……」
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