「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・終局伝 7
神様たちの話、第336話。
皇帝の最期。
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7.
マリアたちと別れて20分ほど後、ハンとエリザは皇帝の痕跡を発見していた。
「雪を掘って、簡易的な休憩場所を設けたようですね」
「せやな。あと、焚き火したらしい跡も残っとる。ココで暖を取ったらしいな」
「あと、どうやら多少の食糧は得られたようですね」
焚き火の周りには小動物らしい毛が散らばっており、骨も転がっている。
「しかし……、この骨の量と大きさからして、成人男性が満足できる量では無さそうですね。それに焼いたとは言え、野山の動物をろくな処理もせず食べたとなると……」
「体調崩しててもおかしないな。……っちゅうか、ホレ」
エリザが魔杖で指し示した箇所に、茶色い黒ずみが点々と続いている。
「吐くか下すかしたっぽいな」
「間違い無く、極限状態に置かれていると考えていいでしょう」
「多分やけど、朝くらいに皇帝さん、えらい体調悪くなったんやろな。で、側近さんが万が一でもキャンプがどっか行ってへんやろかと見下ろして、ソレがアタシらの見た単眼鏡の反射やったんやろ。せやけどソレは逆効果――どっか行くどころか、アタシらの注意を引いてしもた。皇帝さんは寝込んどるまま。となれば側近さんは打って出るしか無かった。……っちゅうところやないか?」
「しかし側近がいつまでも戻って来ない、……いや、先程の爆発音を聞き、側近が仕留められたものと判断したんでしょう。慌てて起き上がり、辛うじて退避した。……となれば」
「近いで、多分」
二人は焚き火から離れ、それぞれ武器を取り出して、周囲の様子を探った。と――。
「エリザさん」
「おったか?」
「ええ。右です」
ハンが剣で指し示した先、20メートルほど先に、土気色のげっそりとした顔があった。
ジーンを見付け、ハンは声をかける。
「皇帝レン・ジーン! もうこれ以上逃げることは不可能だ。お前にも分かっているはずだ。大人しく投降しろ」
「……」
だが、ジーンは応じない。と言うよりも、ハンの言うことが理解できていないような、うつろな顔をしている。
「レン・ジーン! こっちに来い! 今更逃げても……」「あははははははは」
と、ジーンは突然、けたたましく笑い出した。
「貴様、この天の星たる余に向かって命令するのか! あはあははは、無礼な奴め! 処刑だ! 処す! 処罰である! 余が直々に、成敗してやろうではないか、あは、あははははは」
「どう見ます? 演技にしては気味が悪すぎますが」
小声で尋ねたハンに、エリザは無言で、頭の横で指をくるくると回し、掌を開いて見せた。
「……でしょうね。極限まで追い詰められたせいか、それとも何かの中毒症状で錯乱しているか」
「どっちもちゃう? ……来よるで」
ジーンはその辺りで拾ったらしい木の棒を振り上げ、ハンに襲い掛かって来た。
「っと」
が、あまりにも直線的で、しかも何度と無く足をふらつかせながらの詰めであったため、ハンは難無く剣で受け止め、がら空きになった胴を蹴飛ばす。
「げぼぉ!?」
ジーンは簡単に吹っ飛ばされ、胃の中にあったものをぶち撒ける。
「はっ……はひ……はは……あはははは……」
ふらふらと立ち上がり、また木の棒をつかんで、先程と全く同じように襲い掛かって来るが、これもハンは軽く止め、もう一度蹴り倒す。
「はー……あはっ……はー……はー……」
二度、三度と繰り返して、ようやくジーンは仰向けに倒れたまま、動かなくなった。
「これではもう、何を聞いても無駄でしょうね」
「何や、まだ尋問しようと思てたんか?」
「いや、流石に無いですが、それでも何かしら……」
と、もう一度ジーンが起き上がり、ぶつぶつと何かを唱え出す。
「アホやな」
それを眺めていたエリザが、哀れみと侮蔑の入り混じった声を漏らした。
「魔術使う気ぃか? 使てみたらええやんか」
「あは、はは、あはっ……」
掲げた木の棒がばん、と爆ぜ、ジーンの右腕が血で染まる。
「はあ、……あああ、……あはあー」
「そんな棒っ切れで撃てる思たんか。しょうもな」
「これ以上の応対は無意味でしょうね」
「せやな」
今度はエリザが呪文を唱え、魔杖をジーンに向ける。
「ほな、コレで仕舞いや。往生せえよ、『ファイアランス』」
ずばっ、と空気を裂く音を響かせ、炎の槍がジーンの胸を貫く。
「あは……っ」
ジーンはぶすぶすと胸から煙を噴きながら、後ろ向きによろめき――そのまま背中から、崖下へと落ちて行った。
「あは……ははは……はは……は……」
崖下からは乾き切った笑い声がわずかに聞こえてきたが、1分ほどで、声はやんだ。それでもまだ、ほんのわずかに人影が見えてはいたが、それももう1分ほど経つ頃には、吹雪ですっかり覆われた。
こうして双月暦25年8月末、北方の皇帝レン・ジーンは討伐された。
琥珀暁・終局伝 終
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皇帝の最期。
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7.
マリアたちと別れて20分ほど後、ハンとエリザは皇帝の痕跡を発見していた。
「雪を掘って、簡易的な休憩場所を設けたようですね」
「せやな。あと、焚き火したらしい跡も残っとる。ココで暖を取ったらしいな」
「あと、どうやら多少の食糧は得られたようですね」
焚き火の周りには小動物らしい毛が散らばっており、骨も転がっている。
「しかし……、この骨の量と大きさからして、成人男性が満足できる量では無さそうですね。それに焼いたとは言え、野山の動物をろくな処理もせず食べたとなると……」
「体調崩しててもおかしないな。……っちゅうか、ホレ」
エリザが魔杖で指し示した箇所に、茶色い黒ずみが点々と続いている。
「吐くか下すかしたっぽいな」
「間違い無く、極限状態に置かれていると考えていいでしょう」
「多分やけど、朝くらいに皇帝さん、えらい体調悪くなったんやろな。で、側近さんが万が一でもキャンプがどっか行ってへんやろかと見下ろして、ソレがアタシらの見た単眼鏡の反射やったんやろ。せやけどソレは逆効果――どっか行くどころか、アタシらの注意を引いてしもた。皇帝さんは寝込んどるまま。となれば側近さんは打って出るしか無かった。……っちゅうところやないか?」
「しかし側近がいつまでも戻って来ない、……いや、先程の爆発音を聞き、側近が仕留められたものと判断したんでしょう。慌てて起き上がり、辛うじて退避した。……となれば」
「近いで、多分」
二人は焚き火から離れ、それぞれ武器を取り出して、周囲の様子を探った。と――。
「エリザさん」
「おったか?」
「ええ。右です」
ハンが剣で指し示した先、20メートルほど先に、土気色のげっそりとした顔があった。
ジーンを見付け、ハンは声をかける。
「皇帝レン・ジーン! もうこれ以上逃げることは不可能だ。お前にも分かっているはずだ。大人しく投降しろ」
「……」
だが、ジーンは応じない。と言うよりも、ハンの言うことが理解できていないような、うつろな顔をしている。
「レン・ジーン! こっちに来い! 今更逃げても……」「あははははははは」
と、ジーンは突然、けたたましく笑い出した。
「貴様、この天の星たる余に向かって命令するのか! あはあははは、無礼な奴め! 処刑だ! 処す! 処罰である! 余が直々に、成敗してやろうではないか、あは、あははははは」
「どう見ます? 演技にしては気味が悪すぎますが」
小声で尋ねたハンに、エリザは無言で、頭の横で指をくるくると回し、掌を開いて見せた。
「……でしょうね。極限まで追い詰められたせいか、それとも何かの中毒症状で錯乱しているか」
「どっちもちゃう? ……来よるで」
ジーンはその辺りで拾ったらしい木の棒を振り上げ、ハンに襲い掛かって来た。
「っと」
が、あまりにも直線的で、しかも何度と無く足をふらつかせながらの詰めであったため、ハンは難無く剣で受け止め、がら空きになった胴を蹴飛ばす。
「げぼぉ!?」
ジーンは簡単に吹っ飛ばされ、胃の中にあったものをぶち撒ける。
「はっ……はひ……はは……あはははは……」
ふらふらと立ち上がり、また木の棒をつかんで、先程と全く同じように襲い掛かって来るが、これもハンは軽く止め、もう一度蹴り倒す。
「はー……あはっ……はー……はー……」
二度、三度と繰り返して、ようやくジーンは仰向けに倒れたまま、動かなくなった。
「これではもう、何を聞いても無駄でしょうね」
「何や、まだ尋問しようと思てたんか?」
「いや、流石に無いですが、それでも何かしら……」
と、もう一度ジーンが起き上がり、ぶつぶつと何かを唱え出す。
「アホやな」
それを眺めていたエリザが、哀れみと侮蔑の入り混じった声を漏らした。
「魔術使う気ぃか? 使てみたらええやんか」
「あは、はは、あはっ……」
掲げた木の棒がばん、と爆ぜ、ジーンの右腕が血で染まる。
「はあ、……あああ、……あはあー」
「そんな棒っ切れで撃てる思たんか。しょうもな」
「これ以上の応対は無意味でしょうね」
「せやな」
今度はエリザが呪文を唱え、魔杖をジーンに向ける。
「ほな、コレで仕舞いや。往生せえよ、『ファイアランス』」
ずばっ、と空気を裂く音を響かせ、炎の槍がジーンの胸を貫く。
「あは……っ」
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