「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平東伝 1
神様たちの話、第337話。
帝国の後始末。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
皇帝の死亡がハンとエリザによって確認されたことにより、名実ともに帝国は崩壊した。
「皇帝には血縁者もおらず、妃も子供もいない。確かだな?」
「我々の知る限りでは、ですが。ただ、己の欲求に正直な皇帝のことですから、どこかで囲っていたとしても不思議ではないとは思いますが、我々は全く存じません」
残っていた大臣や将軍らから皇帝の権威・権力を継ぐ存在がいないことを確認したところで、ハンは彼らに問うた。
「あなた方の中で、帝位を継ぎたいと希望する者は?」
「め、滅相もございません!」
「とんでもない!」
「大した遺産も無いと言うのに、奴の責だけを問われるなど……」
「……分かった。では帝国および皇帝が所有している領土と兵員、金品、その他あらゆる資産、所有物に関しては、すべて我々が管理すると言うことで異論は無いな?」
「どうぞどうぞ!」
「ご自由に!」
「ですから、その、……我々に罪を追及することだけはどうか、ご勘弁のほどを」
「あなた方の希望に最大限沿えるよう、前向きに検討する姿勢が当方にあることは言及しておく。ともかく本日以降、詳しいことが決定するまでの間、あなた方には各自、自宅で待機するよう要請する。万が一無許可での外出を行うか、あるいは逃亡を図った場合には相応の対処を講じることを、予め伝えておく。話は以上だ」
30分もしない内に和平交渉は終了し、帝国は当面の間遠征隊、ひいてはゼロが所有・統治することで、話がまとまった。
「どいつもこいつも……!」
ようやく食糧が行き渡るようになった街の酒場で、ハンは一人少なくなった班員たちを前に、愚痴を吐いていた。
「やれ皇帝の遺産なんか欲しくない、やれ皇帝の遺した責任は追いたくないと! これまで少なからずそのおこぼれをもらっていたはずだろうに、なんと言う卑怯者だ!」
「まーまー。仕方無いですって。尉官だって他の人間ならまだしも、皇帝の尻拭いなんてしたくないでしょ?」
「まあ、……それはそうだ。その点については、同情の余地はある。気の毒と思う面も、無くはないからな」
ハンは鶏もも肉にかぶりつき、その肉と共に溜飲を下げた。
「陛下のことだし、納得行くような裁定をされるはずだ。むしろそれが無ければ、皇帝も陛下も変わらんと言う話になってしまう。清廉潔白を良しとする陛下が、道理を曲げた判断をすることはまず無いだろうな」
「わたしもそう思います」
そう返したメリーに、マリアも続く。
「きちんとした評価はしてほしいですよね。何だかんだ、納得行かないことばっかり続きましたもん」
「……そうだな。俺も、そう思う」
ハンがふーっとため息を付いたきり、場には気まずい沈黙が流れた。
と――。
「ハンくーん」
エリザがニコニコしながら、酒場に入って来た。
「どうしました? 随分機嫌がいいみたいですが」
重苦しい空気を振り払うように、ハンが立ち上がり、明るい声を出して応じる。
「アンタも機嫌良おなる話や」
「と言うと?」
「見付かったで、クーちゃん」
「……!」
がた、がたんと椅子を2、3脚蹴倒し、ハンはエリザに詰め寄る。
「本当ですか!?」
「ウソ言うてどないすんねんや」
「一体、今までどこに?」
「分からん。お城の広場で倒れてるんが見付かったんや。まだ目ぇ覚ましてへんから、起きてから聞きよし」
「今はどこに?」
「お城の客室や。ま、客室言うたかて、自己中皇帝の建てたお城やからな。こぢんまりしたもんやけども」
「すぐ行きます!」
大慌てで酒場を飛び出したハンを見て、店主が声を上げる。
「お客さん、お勘定……!?」
「あー、アタシが払たる払たる。心配せんでええよ」
「あ、ど、ども、女将さん」
店主がぺこりと頭を下げるのを横目に見つつ、エリザはハンが座っていた席に着いた。
「まだご飯食べてへんし、アタシもご相伴にあずかろかな。マリアちゃん、何が美味しかった?」
「え? 尉官とご一緒しないんですか?」
目を丸くしたマリアに、エリザはパチ、とウインクする。
「二人きりにさせたり。ハンくんかて、今更強情張るようなアホせんやろ」
「あっ、……そーですね。えっと、美味しいヤツですよね? お芋と鶏肉のスープなんかどうでしょ?」
「ほな、ソレで。よろしゅー」
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皇帝の死亡がハンとエリザによって確認されたことにより、名実ともに帝国は崩壊した。
「皇帝には血縁者もおらず、妃も子供もいない。確かだな?」
「我々の知る限りでは、ですが。ただ、己の欲求に正直な皇帝のことですから、どこかで囲っていたとしても不思議ではないとは思いますが、我々は全く存じません」
残っていた大臣や将軍らから皇帝の権威・権力を継ぐ存在がいないことを確認したところで、ハンは彼らに問うた。
「あなた方の中で、帝位を継ぎたいと希望する者は?」
「め、滅相もございません!」
「とんでもない!」
「大した遺産も無いと言うのに、奴の責だけを問われるなど……」
「……分かった。では帝国および皇帝が所有している領土と兵員、金品、その他あらゆる資産、所有物に関しては、すべて我々が管理すると言うことで異論は無いな?」
「どうぞどうぞ!」
「ご自由に!」
「ですから、その、……我々に罪を追及することだけはどうか、ご勘弁のほどを」
「あなた方の希望に最大限沿えるよう、前向きに検討する姿勢が当方にあることは言及しておく。ともかく本日以降、詳しいことが決定するまでの間、あなた方には各自、自宅で待機するよう要請する。万が一無許可での外出を行うか、あるいは逃亡を図った場合には相応の対処を講じることを、予め伝えておく。話は以上だ」
30分もしない内に和平交渉は終了し、帝国は当面の間遠征隊、ひいてはゼロが所有・統治することで、話がまとまった。
「どいつもこいつも……!」
ようやく食糧が行き渡るようになった街の酒場で、ハンは一人少なくなった班員たちを前に、愚痴を吐いていた。
「やれ皇帝の遺産なんか欲しくない、やれ皇帝の遺した責任は追いたくないと! これまで少なからずそのおこぼれをもらっていたはずだろうに、なんと言う卑怯者だ!」
「まーまー。仕方無いですって。尉官だって他の人間ならまだしも、皇帝の尻拭いなんてしたくないでしょ?」
「まあ、……それはそうだ。その点については、同情の余地はある。気の毒と思う面も、無くはないからな」
ハンは鶏もも肉にかぶりつき、その肉と共に溜飲を下げた。
「陛下のことだし、納得行くような裁定をされるはずだ。むしろそれが無ければ、皇帝も陛下も変わらんと言う話になってしまう。清廉潔白を良しとする陛下が、道理を曲げた判断をすることはまず無いだろうな」
「わたしもそう思います」
そう返したメリーに、マリアも続く。
「きちんとした評価はしてほしいですよね。何だかんだ、納得行かないことばっかり続きましたもん」
「……そうだな。俺も、そう思う」
ハンがふーっとため息を付いたきり、場には気まずい沈黙が流れた。
と――。
「ハンくーん」
エリザがニコニコしながら、酒場に入って来た。
「どうしました? 随分機嫌がいいみたいですが」
重苦しい空気を振り払うように、ハンが立ち上がり、明るい声を出して応じる。
「アンタも機嫌良おなる話や」
「と言うと?」
「見付かったで、クーちゃん」
「……!」
がた、がたんと椅子を2、3脚蹴倒し、ハンはエリザに詰め寄る。
「本当ですか!?」
「ウソ言うてどないすんねんや」
「一体、今までどこに?」
「分からん。お城の広場で倒れてるんが見付かったんや。まだ目ぇ覚ましてへんから、起きてから聞きよし」
「今はどこに?」
「お城の客室や。ま、客室言うたかて、自己中皇帝の建てたお城やからな。こぢんまりしたもんやけども」
「すぐ行きます!」
大慌てで酒場を飛び出したハンを見て、店主が声を上げる。
「お客さん、お勘定……!?」
「あー、アタシが払たる払たる。心配せんでええよ」
「あ、ど、ども、女将さん」
店主がぺこりと頭を下げるのを横目に見つつ、エリザはハンが座っていた席に着いた。
「まだご飯食べてへんし、アタシもご相伴にあずかろかな。マリアちゃん、何が美味しかった?」
「え? 尉官とご一緒しないんですか?」
目を丸くしたマリアに、エリザはパチ、とウインクする。
「二人きりにさせたり。ハンくんかて、今更強情張るようなアホせんやろ」
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