「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平東伝 2
神様たちの話、第338話。
ことばを重ねるよりも。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
客室に飛び込んだところで、ハンは「おっと」と漏らした。
(まだ寝てる……みたいだな)
ベッドの上に横たわったままのクーを見て、ハンはきょろ、と辺りを見回した。
(護衛はいないのか? エリザさんにしては無配慮と言うか、不用心と言うか)
ともかく戸をしっかり閉め、鍵をかけて、ハンはクーの顔を確認する。
(ただ寝てるだけ、……だな。ケガをしてる様子も無いし、他に、……何かされた感じでも無さそうだ。と言うか、……変だな?)
クーの衣服に汚れやほつれなどは見当たらず、3ヶ月前、グリーンプールから姿を消した日からそのまま、ここに移されたかのようだった。
(いや、比喩じゃなく本当に、あの日のままだ。まるであれから1日も、時が経っていないかのような……?)
と――クーが「ううん……」とうめき、うっすら目を開けた。
「むにゃ……え……っと……ハン?」
「クー!」
ハンはクーの手を取り、側に顔を寄せる。途端にクーは顔を真っ赤にし、ぷい、と背を向けてしまう。
「あ、あなた、人が就寝しているところに……」
「無事か? 何もされてないか?」
「……え?」
もう一度顔を向け、クーはいぶかしげに尋ねてくる。
「無事、とは? ご覧の通り、わたくしは眠っていただけですけれど」
「何も覚えてないのか?」
「覚えて……?」
むく、と上半身を起こし、クーは辺りを見回す。
「ここは……? わたくし、自室で泣い、……ではなく、その、眠っていたはずですけれど」
「君は誘拐されていたんだ」
ハンの言葉に、クーはぎょっとした目を向ける。
「誘拐? わたくしが? 一体、誰に?」
「皇帝だ」
ハンはこの3ヶ月間で起こっていた一連の事件を、クーに説明した。
「……で、今日になって突然、君が城の中に現れたと、エリザさんから」
「左様でしたか。けれどハン、繰り返しますがわたくし、そのような記憶は全くございませんわ。本当に、さっきまで眠っていたとしか認識しておりませんの」
「そうなのか……。じゃあ、……何がどうなっているんだろう?」
「見当が付きませんわね。……あの、それよりハン」
クーは間近に座っていたハンから、距離を取ろうとする。
「あなたにしては、はしたない振る舞いだと存じませんこと?」
「何がだ?」
「ですから、その、……近すぎると申しているのです!」
「近い? ……あ、と、そうだな。悪い」
ハンはベッドから離れ、近くにあった椅子に腰掛ける。
「ともかくこの3ヶ月間、君はどこにもいなかったんだ。だがこうして皇帝が討たれた直後に現れたと言うことは、やはり皇帝が君をさらっていたのだろう」
「いささか論理的とは申せませんが、恐らくはそうなのでしょう。……随分、わたくしのことを心配なさったご様子ですわね」
クーに問われ、ハンは「いや」と否定しかけたが、途中でその言葉を飲み込んだ。
「……素直に言う。君の言う通りだ。俺は君を心配していた。この3ヶ月間ずっと、気が気じゃなかったよ」
「まあ」
クーは目を丸くし、奇異な物を見るかのような顔をハンに向ける。
「昨日までのあなたからは――いえ、あなたからすれば3ヶ月前でしたわね――想像もできないようなお言葉ですわね。もっと憎まれ口を叩かれるものと存じておりましたけれど」
「その件も含めて、謝らせてほしい」
ハンは椅子を下り、その場にうずくまって頭を床にこすりつけた。
「本当に俺が悪かった。君の友情と誠実を疑い、ありもしない腹積もりまで邪推して、あんなくだらない騒ぎを引き起こしてしまった。すべては俺の責任だ」
「あ、……あの、ハン」
クーはベッドから離れ、土下座するハンの肩に手を置く。
「そこまでなさらないで下さい。わたくしにも非がございます。わたくしもあなたとの話し合いを厭い、強情な手段に出てしまったのですから。わたくしがあんなはしたないことをいたさなければ、こうして皇帝にかどわかされるような事態には、決して至らなかったはずですもの」
「それについても、謝りたいことがある」
ハンは顔を挙げ、クーの手を取った。
「君の言う通りだ。君と仲違いしなければ、俺はきっと、君を守るべく努めていたはずなんだ。それもこれもみんな、俺が変な見栄とプライドで自分の本意を粉飾して、まっすぐ進むべき道をうろうろと、回り込んでばっかりで、その、……ああ、まただ」
ハンはもう一方の手もクーに当て、意を決して告げた。
「素直に言う。俺は君のことが好きだ。たったその一つを、その大事な一点をずっとごまかしてきたせいで、君にも、周りの人にも迷惑をかけ続けた。だからもう、君に関することは何一つ、ごまかさない。
クー、君が好きだ。俺と結婚してくれるか?」
「あ、あにょ、っ、あのでしゅね、ひゃ、は、ハン」
この10秒足らずの、ハンからの素直な告白で、クーは耳の先まで真っ赤に染まっていた。
「い、いきなひ、……いきなり、そんにゃ、そん、そんなこと、おっしゃられても、わ、わたくし、そ、そう簡単に、お、お、お答え、いたせましぇん」
「……そ、そうだよな」
ハンはしゅんとなり、クーから手を放す。と、クーは空いた手ともう一方の手を使って、ハンの頭をぎゅっと抱きかかえた。
「えっ……」
「にゃぜにゃ、……何故なりゃ、わたくし、その、昂(たか)ぶりゅと、こ、言葉が、出にゃくて、……で、です、かりゃ、しょ、しょの、……こ、行動、で、示させて、下さひ」
「……あ、ああ」
ハンもクーの胴を抱き返し、二人はそのまま抱き合っていた。
@au_ringさんをフォロー
ことばを重ねるよりも。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
客室に飛び込んだところで、ハンは「おっと」と漏らした。
(まだ寝てる……みたいだな)
ベッドの上に横たわったままのクーを見て、ハンはきょろ、と辺りを見回した。
(護衛はいないのか? エリザさんにしては無配慮と言うか、不用心と言うか)
ともかく戸をしっかり閉め、鍵をかけて、ハンはクーの顔を確認する。
(ただ寝てるだけ、……だな。ケガをしてる様子も無いし、他に、……何かされた感じでも無さそうだ。と言うか、……変だな?)
クーの衣服に汚れやほつれなどは見当たらず、3ヶ月前、グリーンプールから姿を消した日からそのまま、ここに移されたかのようだった。
(いや、比喩じゃなく本当に、あの日のままだ。まるであれから1日も、時が経っていないかのような……?)
と――クーが「ううん……」とうめき、うっすら目を開けた。
「むにゃ……え……っと……ハン?」
「クー!」
ハンはクーの手を取り、側に顔を寄せる。途端にクーは顔を真っ赤にし、ぷい、と背を向けてしまう。
「あ、あなた、人が就寝しているところに……」
「無事か? 何もされてないか?」
「……え?」
もう一度顔を向け、クーはいぶかしげに尋ねてくる。
「無事、とは? ご覧の通り、わたくしは眠っていただけですけれど」
「何も覚えてないのか?」
「覚えて……?」
むく、と上半身を起こし、クーは辺りを見回す。
「ここは……? わたくし、自室で泣い、……ではなく、その、眠っていたはずですけれど」
「君は誘拐されていたんだ」
ハンの言葉に、クーはぎょっとした目を向ける。
「誘拐? わたくしが? 一体、誰に?」
「皇帝だ」
ハンはこの3ヶ月間で起こっていた一連の事件を、クーに説明した。
「……で、今日になって突然、君が城の中に現れたと、エリザさんから」
「左様でしたか。けれどハン、繰り返しますがわたくし、そのような記憶は全くございませんわ。本当に、さっきまで眠っていたとしか認識しておりませんの」
「そうなのか……。じゃあ、……何がどうなっているんだろう?」
「見当が付きませんわね。……あの、それよりハン」
クーは間近に座っていたハンから、距離を取ろうとする。
「あなたにしては、はしたない振る舞いだと存じませんこと?」
「何がだ?」
「ですから、その、……近すぎると申しているのです!」
「近い? ……あ、と、そうだな。悪い」
ハンはベッドから離れ、近くにあった椅子に腰掛ける。
「ともかくこの3ヶ月間、君はどこにもいなかったんだ。だがこうして皇帝が討たれた直後に現れたと言うことは、やはり皇帝が君をさらっていたのだろう」
「いささか論理的とは申せませんが、恐らくはそうなのでしょう。……随分、わたくしのことを心配なさったご様子ですわね」
クーに問われ、ハンは「いや」と否定しかけたが、途中でその言葉を飲み込んだ。
「……素直に言う。君の言う通りだ。俺は君を心配していた。この3ヶ月間ずっと、気が気じゃなかったよ」
「まあ」
クーは目を丸くし、奇異な物を見るかのような顔をハンに向ける。
「昨日までのあなたからは――いえ、あなたからすれば3ヶ月前でしたわね――想像もできないようなお言葉ですわね。もっと憎まれ口を叩かれるものと存じておりましたけれど」
「その件も含めて、謝らせてほしい」
ハンは椅子を下り、その場にうずくまって頭を床にこすりつけた。
「本当に俺が悪かった。君の友情と誠実を疑い、ありもしない腹積もりまで邪推して、あんなくだらない騒ぎを引き起こしてしまった。すべては俺の責任だ」
「あ、……あの、ハン」
クーはベッドから離れ、土下座するハンの肩に手を置く。
「そこまでなさらないで下さい。わたくしにも非がございます。わたくしもあなたとの話し合いを厭い、強情な手段に出てしまったのですから。わたくしがあんなはしたないことをいたさなければ、こうして皇帝にかどわかされるような事態には、決して至らなかったはずですもの」
「それについても、謝りたいことがある」
ハンは顔を挙げ、クーの手を取った。
「君の言う通りだ。君と仲違いしなければ、俺はきっと、君を守るべく努めていたはずなんだ。それもこれもみんな、俺が変な見栄とプライドで自分の本意を粉飾して、まっすぐ進むべき道をうろうろと、回り込んでばっかりで、その、……ああ、まただ」
ハンはもう一方の手もクーに当て、意を決して告げた。
「素直に言う。俺は君のことが好きだ。たったその一つを、その大事な一点をずっとごまかしてきたせいで、君にも、周りの人にも迷惑をかけ続けた。だからもう、君に関することは何一つ、ごまかさない。
クー、君が好きだ。俺と結婚してくれるか?」
「あ、あにょ、っ、あのでしゅね、ひゃ、は、ハン」
この10秒足らずの、ハンからの素直な告白で、クーは耳の先まで真っ赤に染まっていた。
「い、いきなひ、……いきなり、そんにゃ、そん、そんなこと、おっしゃられても、わ、わたくし、そ、そう簡単に、お、お、お答え、いたせましぇん」
「……そ、そうだよな」
ハンはしゅんとなり、クーから手を放す。と、クーは空いた手ともう一方の手を使って、ハンの頭をぎゅっと抱きかかえた。
「えっ……」
「にゃぜにゃ、……何故なりゃ、わたくし、その、昂(たか)ぶりゅと、こ、言葉が、出にゃくて、……で、です、かりゃ、しょ、しょの、……こ、行動、で、示させて、下さひ」
「……あ、ああ」
ハンもクーの胴を抱き返し、二人はそのまま抱き合っていた。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~