「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平東伝 4
神様たちの話、第340話。
「狼」の嗅覚。
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4.
帰国の日が近付き、エリザは一際忙しそうに動き回っていた。
「ほんでな、イワンくんにはノルド王国の方、任したしな。何かあったらまずイワンくんに連絡入れや。……で、オルトラ王国の方にな、ユーリくんを居とくコトにさしたから。あの辺の流通で何やあったら、ユーリくんにまず話通すんやで。ほんでからな……」
今まで付き従っていた丁稚たちを各拠点のリーダーに据え、連絡網を固めているエリザの様子を眺め、ロウがつぶやく。
「マジ大変そうっスね……。俺、ボーッとしてていいのかな」
「ええねん、アンタはソレで」
指示の合間に、エリザはロウにも声を掛ける。
「アンタに商売、分からんやろ」
「そりゃまあ」
「アンタはアタシの用心棒や。そのお仕事してくれるだけで、アタシには十分ありがたいねん」
「どもっス」
「……あー、と、でもな、今、お茶淹れてくれたりなんかしたら、アタシはもっと嬉しいなーって」
「あ、了解っス! すぐ持って来ます」
「2人分な。アタシとアンタ」
「うっス!」
ロウはいそいそと、エリザの仕事部屋を後にした。
ちなみに――この世界において一般的には、五感がおしなべて優れているのは猫獣人であるとされているが、他の種族と比較した場合、より優れている感覚を持つ者もいる。例えば味覚に関しては、虎獣人は猫獣人以上であると言われており、また――この時代ではまだ接触を果たしていないが――兎獣人は、聴覚では他の種族を凌駕している者も多い。
そして狼獣人の中には、猫獣人以上の嗅覚を持つ者も少なからずいるのだ。
かいがいしく茶を淹れ、仕事部屋に運んでいたところで、狼獣人のロウはその「匂い」に気付いた。
(あれ? なーんか……、嗅いだ覚えあんな、コレ?)
廊下に漂う木材と塗料、そして漆喰の臭いに加えて、今ロウの手元からは茶の香りが漂っている。それとは別に、何かの匂いがロウの記憶を刺激している。
(最近……だよな、コレ嗅いだの。そう、えーと、アレだよアレ、……あー、のどまで出かかってんだけどなー、うーん)
エリザに茶を差し入れることも忘れ、ロウは記憶の糸を懸命に手繰り寄せる。
(そんなに昔じゃ無いんだよ。ついこないだなんだ。……ってなると、毎日顔合わせてるあの『猫』や短耳のねーちゃんじゃないよな。お姫様のでもないし。ってかコレ絶対、オトコの臭いだ。女の子がこんな汗臭くって油臭いって、そうそうねえし。ま、『猫』のねーちゃんはしょっちゅうだけども、……じゃなくって。
オトコだよな、オトコって言ったら隊長さんか? いや、もっと若い感じだ。ソレに汗臭いつったって、隊長さんほどじゃねえ。コレはもっと運動してない系のアレだ。……んー? あ、何か思い出しそうだ。そう、ちょっと前まで付き合いあって、でも最近めっきりってなった、運動不足のオトコ、……ってーと、アイツだよな。
そーそーそー、アレだよ! アイツに間違い無い。……間違い無いとしたら、ちょっとまずいんじゃねえか? だってアイツ、お尋ね者だろ?)
ロウは茶の載ったトレイを傍らの窓に置き、臭いの元を探る。
(そりゃまー、すげえ可哀想だなーとは思うけどもよ、だからってこうやって姿見せずにコソコソっと忍び込んで来るなんて、そりゃ怪しいってもんだろ? もしかしたら見境無くなってて、エリザさんに乱暴しに来たのかも分からんし。
となりゃ、俺が止めなきゃならんだろうが)
臭いは廊下の上、天井裏へと続いている。ロウはひょいと柱を登り、天井の板をはがして頭を入れる。
「あ」
そしてすぐに、臭いの元――ハンの下から姿を消したはずのビートが毛布にくるまって座り込んでいるのを見付けた途端、ロウは跳躍した。
「てめえッ! 何しようとしてやがる!?」
「わ、ちょ、ちょっと、違うんです! 誤解です!」
「誤解も六回もあるかってんだ!」
ビートにつかみかかり、馬乗りになったところで、その真下から声が聞こえてきた。
「アンタら、何しとん!? ほこり落ちて来とるやんか、もおっ!」
「……アンタ『ら』?」
ロウはビートから手を放し、下にいるエリザに声をかける。
「えっと、……エリザさん? コイツがココにいるって、知ってたんスか?」
「アタシがかくまっとるんや。ええから降りてき。掃除の手間まで増やしよって、ホンマに……」
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「狼」の嗅覚。
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4.
帰国の日が近付き、エリザは一際忙しそうに動き回っていた。
「ほんでな、イワンくんにはノルド王国の方、任したしな。何かあったらまずイワンくんに連絡入れや。……で、オルトラ王国の方にな、ユーリくんを居とくコトにさしたから。あの辺の流通で何やあったら、ユーリくんにまず話通すんやで。ほんでからな……」
今まで付き従っていた丁稚たちを各拠点のリーダーに据え、連絡網を固めているエリザの様子を眺め、ロウがつぶやく。
「マジ大変そうっスね……。俺、ボーッとしてていいのかな」
「ええねん、アンタはソレで」
指示の合間に、エリザはロウにも声を掛ける。
「アンタに商売、分からんやろ」
「そりゃまあ」
「アンタはアタシの用心棒や。そのお仕事してくれるだけで、アタシには十分ありがたいねん」
「どもっス」
「……あー、と、でもな、今、お茶淹れてくれたりなんかしたら、アタシはもっと嬉しいなーって」
「あ、了解っス! すぐ持って来ます」
「2人分な。アタシとアンタ」
「うっス!」
ロウはいそいそと、エリザの仕事部屋を後にした。
ちなみに――この世界において一般的には、五感がおしなべて優れているのは猫獣人であるとされているが、他の種族と比較した場合、より優れている感覚を持つ者もいる。例えば味覚に関しては、虎獣人は猫獣人以上であると言われており、また――この時代ではまだ接触を果たしていないが――兎獣人は、聴覚では他の種族を凌駕している者も多い。
そして狼獣人の中には、猫獣人以上の嗅覚を持つ者も少なからずいるのだ。
かいがいしく茶を淹れ、仕事部屋に運んでいたところで、狼獣人のロウはその「匂い」に気付いた。
(あれ? なーんか……、嗅いだ覚えあんな、コレ?)
廊下に漂う木材と塗料、そして漆喰の臭いに加えて、今ロウの手元からは茶の香りが漂っている。それとは別に、何かの匂いがロウの記憶を刺激している。
(最近……だよな、コレ嗅いだの。そう、えーと、アレだよアレ、……あー、のどまで出かかってんだけどなー、うーん)
エリザに茶を差し入れることも忘れ、ロウは記憶の糸を懸命に手繰り寄せる。
(そんなに昔じゃ無いんだよ。ついこないだなんだ。……ってなると、毎日顔合わせてるあの『猫』や短耳のねーちゃんじゃないよな。お姫様のでもないし。ってかコレ絶対、オトコの臭いだ。女の子がこんな汗臭くって油臭いって、そうそうねえし。ま、『猫』のねーちゃんはしょっちゅうだけども、……じゃなくって。
オトコだよな、オトコって言ったら隊長さんか? いや、もっと若い感じだ。ソレに汗臭いつったって、隊長さんほどじゃねえ。コレはもっと運動してない系のアレだ。……んー? あ、何か思い出しそうだ。そう、ちょっと前まで付き合いあって、でも最近めっきりってなった、運動不足のオトコ、……ってーと、アイツだよな。
そーそーそー、アレだよ! アイツに間違い無い。……間違い無いとしたら、ちょっとまずいんじゃねえか? だってアイツ、お尋ね者だろ?)
ロウは茶の載ったトレイを傍らの窓に置き、臭いの元を探る。
(そりゃまー、すげえ可哀想だなーとは思うけどもよ、だからってこうやって姿見せずにコソコソっと忍び込んで来るなんて、そりゃ怪しいってもんだろ? もしかしたら見境無くなってて、エリザさんに乱暴しに来たのかも分からんし。
となりゃ、俺が止めなきゃならんだろうが)
臭いは廊下の上、天井裏へと続いている。ロウはひょいと柱を登り、天井の板をはがして頭を入れる。
「あ」
そしてすぐに、臭いの元――ハンの下から姿を消したはずのビートが毛布にくるまって座り込んでいるのを見付けた途端、ロウは跳躍した。
「てめえッ! 何しようとしてやがる!?」
「わ、ちょ、ちょっと、違うんです! 誤解です!」
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「アンタら、何しとん!? ほこり落ちて来とるやんか、もおっ!」
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明日は僕の誕生日です。
毎年恒例の所信表明をするので、明日の連載はお休みします。
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