「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平東伝 5
神様たちの話、第341話。
女狐エリザ。
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5.
ビートと連れ立ってエリザの部屋に降り、二人で掃除をしながら、ロウはエリザに状況を尋ねた。
「あの、エリザさん。なんでコイツがココにいるんスか?」
「言うたやん。ハンくんらからかくまってんねん」
「あ、はい。ソレは聞いたんスけど、でも何で?」
「約束やからな。あ、ちなみに店にも知っとる子は何人かいとるけど、あんまり言うたらアカンで」
「うス。……で、その約束って何スか?」
いくらはぐらかしても根掘り葉掘り尋ねられ、エリザは観念したらしい。
「しゃあないな。絶対秘密やで。絶対の絶対に絶対やからな?」
「うっス」
時刻は3ヶ月前、ジーンがグリーンプールを単騎で襲い、それをエリザたちが撃退した、その直後に戻る。
クーの自室に彼女の姿が無いことを確認し、遠征隊が大慌てで行方を追っている、その最中――エリザは随行してくれていたロウと丁稚たちに、こう告げた。
「ほな、アタシもちょっと、思い当たるところ回ってみるから」
「そんじゃ、俺も一緒に……」
付いて行きかけたロウに、エリザは掌を見せて制止する。
「女の子のヒミツ覗きたいんか、アンタ?」
「へ? ……あ、あーあー、そーゆー感じのトコっスか、すんませんっス」
「アンタは他の子と一緒に港の方当たっとって。おらへんかったらいっぺん、ココに戻って来てな」
「了解っス」
ロウと丁稚たちが消え、人払いが済んだところで、エリザはくるんと振り向いた。
「コレでええやろ。ええ加減、姿見せえや」
「……何だよ、気付いてたか」
そこに現れたのは、突如失踪したはずのお騒がせ者、エメリア・ソーンだった。いや――。
「中身にも気が付いとるで」
「へぇ? 私が誰だって言うんだね、君は?」
「あのなぁ」
エリザはエマにカツカツと靴音を立てて近寄り、その額を指先で小突いた。
「いって」
「そーゆーしょうもない話のタメ方なんかいらんねん。アンタ、先生やろ」
「……へへぇ?」
エマの姿をしたその女は、にやあっと笑って見せた。
「やっぱり気付いてたか。一体、ドコでさ?」
「アンタが脱走した後、部屋確かめさしてもろたんや。なんぼなんでも、アレで先生本人やと分からへんワケ無いやろ? 箱のサイズ、アタシの『ロータステイル』とぴったしやし、落ちてた魔術書も先生の使てた古代文字がずらーっと並んどったし」
「ま、そうまで判断材料が揃ってりゃ、そりゃ気付くってもんだね」
エマの姿をした「先生」――モールは、額を押さえながらくっくっと笑っている。
「ま、そんなら話が早い。だから私が取った行動だけを、手短に話してやるね」
「何て?」
「あのワガママお姫様、私がさらった」
「……ふーん」
それに対し憤慨も、罵倒もしないエリザに、モールはまたニヤリと笑みを向ける。
「どうやらその意味が分かってるみたいだね」
「さっき一瞬、『今このタイミングでこんなコトでけたらめっちゃ都合ええやろな』と思い付いとったコトやからな。流石にアタシにはやられへん話やから――やったら間違い無くハンくんに殺されるやろし――無しにしたけどもな」
「さっすがぁ。ま、君ならそうしてやった方がいいだろうってね」
「先生はホンマ、えぐい方向で頼りになるヤツやわ」
ろくに言葉も交わさぬまま、師弟は互いの思惑を悟り合っていた。
こうしてエリザは密かにモールと通じ、彼、いや、彼女にクーをさらわせ、クーがグリーンプールから行方をくらませたように見せかけたのである。そしてエリザは言葉巧みにハンを、そして遠征隊の皆を誘導し、クーの消失があたかも皇帝の仕業であるかのように見せかけたのだ。
その狙いは言うまでも無く、遠征隊を皇帝討伐に向かわせるためだった。いつまでも弱腰で直接的な行動に出ず、エリザに言わせれば「相手をナメきった」対応を続けるゼロに業を煮やしていたエリザは、この狂言誘拐で彼を焚き付け、彼自ら出撃を命じざるを得ない状況を作り上げたのである。
ただ、そこまで追い込まれてもなお、意を決しようとしなかったゼロには呆れるしかなかったが――エリザがゼロより信頼を置く人間、ゲート将軍に指揮権が移り、彼が出撃を許可したことによって、結果として目的は達成されたのである。
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女狐エリザ。
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ビートと連れ立ってエリザの部屋に降り、二人で掃除をしながら、ロウはエリザに状況を尋ねた。
「あの、エリザさん。なんでコイツがココにいるんスか?」
「言うたやん。ハンくんらからかくまってんねん」
「あ、はい。ソレは聞いたんスけど、でも何で?」
「約束やからな。あ、ちなみに店にも知っとる子は何人かいとるけど、あんまり言うたらアカンで」
「うス。……で、その約束って何スか?」
いくらはぐらかしても根掘り葉掘り尋ねられ、エリザは観念したらしい。
「しゃあないな。絶対秘密やで。絶対の絶対に絶対やからな?」
「うっス」
時刻は3ヶ月前、ジーンがグリーンプールを単騎で襲い、それをエリザたちが撃退した、その直後に戻る。
クーの自室に彼女の姿が無いことを確認し、遠征隊が大慌てで行方を追っている、その最中――エリザは随行してくれていたロウと丁稚たちに、こう告げた。
「ほな、アタシもちょっと、思い当たるところ回ってみるから」
「そんじゃ、俺も一緒に……」
付いて行きかけたロウに、エリザは掌を見せて制止する。
「女の子のヒミツ覗きたいんか、アンタ?」
「へ? ……あ、あーあー、そーゆー感じのトコっスか、すんませんっス」
「アンタは他の子と一緒に港の方当たっとって。おらへんかったらいっぺん、ココに戻って来てな」
「了解っス」
ロウと丁稚たちが消え、人払いが済んだところで、エリザはくるんと振り向いた。
「コレでええやろ。ええ加減、姿見せえや」
「……何だよ、気付いてたか」
そこに現れたのは、突如失踪したはずのお騒がせ者、エメリア・ソーンだった。いや――。
「中身にも気が付いとるで」
「へぇ? 私が誰だって言うんだね、君は?」
「あのなぁ」
エリザはエマにカツカツと靴音を立てて近寄り、その額を指先で小突いた。
「いって」
「そーゆーしょうもない話のタメ方なんかいらんねん。アンタ、先生やろ」
「……へへぇ?」
エマの姿をしたその女は、にやあっと笑って見せた。
「やっぱり気付いてたか。一体、ドコでさ?」
「アンタが脱走した後、部屋確かめさしてもろたんや。なんぼなんでも、アレで先生本人やと分からへんワケ無いやろ? 箱のサイズ、アタシの『ロータステイル』とぴったしやし、落ちてた魔術書も先生の使てた古代文字がずらーっと並んどったし」
「ま、そうまで判断材料が揃ってりゃ、そりゃ気付くってもんだね」
エマの姿をした「先生」――モールは、額を押さえながらくっくっと笑っている。
「ま、そんなら話が早い。だから私が取った行動だけを、手短に話してやるね」
「何て?」
「あのワガママお姫様、私がさらった」
「……ふーん」
それに対し憤慨も、罵倒もしないエリザに、モールはまたニヤリと笑みを向ける。
「どうやらその意味が分かってるみたいだね」
「さっき一瞬、『今このタイミングでこんなコトでけたらめっちゃ都合ええやろな』と思い付いとったコトやからな。流石にアタシにはやられへん話やから――やったら間違い無くハンくんに殺されるやろし――無しにしたけどもな」
「さっすがぁ。ま、君ならそうしてやった方がいいだろうってね」
「先生はホンマ、えぐい方向で頼りになるヤツやわ」
ろくに言葉も交わさぬまま、師弟は互いの思惑を悟り合っていた。
こうしてエリザは密かにモールと通じ、彼、いや、彼女にクーをさらわせ、クーがグリーンプールから行方をくらませたように見せかけたのである。そしてエリザは言葉巧みにハンを、そして遠征隊の皆を誘導し、クーの消失があたかも皇帝の仕業であるかのように見せかけたのだ。
その狙いは言うまでも無く、遠征隊を皇帝討伐に向かわせるためだった。いつまでも弱腰で直接的な行動に出ず、エリザに言わせれば「相手をナメきった」対応を続けるゼロに業を煮やしていたエリザは、この狂言誘拐で彼を焚き付け、彼自ら出撃を命じざるを得ない状況を作り上げたのである。
ただ、そこまで追い込まれてもなお、意を決しようとしなかったゼロには呆れるしかなかったが――エリザがゼロより信頼を置く人間、ゲート将軍に指揮権が移り、彼が出撃を許可したことによって、結果として目的は達成されたのである。
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