「双月千年世界 4;琥珀暁」
琥珀暁 第6部
琥珀暁・平東伝 6
神様たちの話、第342話。
千年級の会話;"LYCH"。
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6.
クーの消失が皇帝の仕業であると断定され、討伐が決定されたその夜、エリザはふたたびモールと、密かに接触していた。
「ほんならクーちゃんは無事なんやな?」
「ああ。実質眠ってるようなもんだしね。解除するまでそのまんまさ」
「今はドコにおるん?」
「ソコはもう、チョイチョイってなもんでね」
「またチョイチョイか」
「またチョイチョイだね」
手の内を明かさない師匠の態度を受け、エリザはそれ以上の詰問をあきらめ、話題を変える。
「ほんで先生、アンタなんでメリーちゃんたちをあんなイジメてたんよ?」
「あ? いやほら、ちょっとイライラしちゃってさ。言われたコトしかこなさないわ、嫌だ嫌だって思ってるクセしてニコニコしてるわ、見当違いのコトをドヤ顔でわめき散らすわで、コイツらなんかほんのちょっと腹立つなーってね」
「ちょっとは加減したりいや。アンタのせいで、みんな病院送りやで」
「そりゃ悪かったね。……ま、私の話なんかよりさ」
「いや、もうちょいさせてもらうで」
エリザはモールに詰め寄り、その胸をむにゅ、とわしづかんだ。
「アンタいつの間に女の子になってんねや。しかも若返っとるし。アタシとおった時、明らかにアタシより20歳は年上やったはずやんな? なんでアタシより若くなっとんの?」
「お、嫉妬?」
「アホか」
エリザはぺっちん、とモールの胸を叩き、にらみつける。
「せやけども、単純に若返ったにしては『猫』から長耳、男から女て、そんなトコまで変わっとるんはおかしいやん。まるで赤の他人の体を奪ったみたいやんか」
「……鋭いね、やっぱり君は鋭い」
モールは叩かれた胸をさすりながら、こう答えた。
「そうさ、私は他人の体を奪って生きるヤドカリさね。前使ってた体がボロボロになっちゃったもんで、どっかにいいのいないかなーって思ってたら、うまいコト見付かったってワケさ。でも勘違いしないでほしいんだけどね、この体は死んでたからもらったんだ」
「工事で事故った時か」
「そ、そ。偶然、この体持ってた娘が頭から血流して倒れててさ、意識確かめたり脈計ったりしたけども、そん時ゃもう完璧、死にたてホヤホヤの状態だったんだよね。念押しするけど、事故も偶然だからね」
「どっちでもええ。ほなアンタ、他人に乗り移れるっちゅうコトか」
「乗り移るって言うか、んー、言ってみると『上書き』みたいなもんだね。元あった記憶域に、私の情報をインプットしてるって感じで」
「よお分からんな。ホンマ変わってへんわ、説明ド下手なトコ」
「うっせ」
モールは若い娘の姿で笑いながら、エリザにパチ、とウインクして見せる。
「ともかく今はコレが、私の姿ってワケさね」
「はいはいはい、そらよろしいな。で、なんでこっち来たんよ? アタシの成長ぶりでも確かめに来たんか?」
「んなめんどいコト、誰がするかってんだね。そうじゃなくてさ、ほら、あん時もう、君らこっちの邦に渡ってただろ? 私も行ってみたいなーって思っててさ。そしたら丁度第二隊を募集してるって話だったから、私が手ぇ挙げたのさ。と言って、真面目に仕事すんのもガラじゃないしね」
「ほんでこっち来たところで、いちゃもん付けて逃げ出したっちゅうワケか。……アホかアホか思てたコトは今までちょこちょこあったけども、確信したわ。
アンタはアホや。マジもんのアホや。純度100%の、アホの塊やわ」
「人をアホアホ呼ぶんじゃないね、まったく。このバカ弟子、一体誰に似たんだか」
「鏡見せたろか? 犯人映るで」
「ところがどっこい、映るのは可愛い女の子でーす」
「シバくで、しまいには」
両者にらみ合ったところで――途端にふっと、互いに相好を崩した。
「……ま、もうええわ。ともかくアンタ、しばらくこっちにおるっちゅうコトやな」
「ああ。20年、30年くらいかけて一通り回ったら、また誰かの体もらって戻るつもりしてるけどね」
「ほんなら、ちょっとくらい手ぇ貸しいや。アンタみたいに誰にも存在を知られてへん上に、えげつないほど頼りになるっちゅう人間は、おったらかなり便利やからな。ソレに皇帝さんがのさばっとる今の状況やと、アンタも動くに動けへんのやろ?」
「なんだよ、自分の師匠を手駒扱いすんの?」
「さしてもらうで。アンタかて、素寒貧なんは嫌やろ?」
エリザはちゃら、と銀貨の詰まった袋を投げて寄越し、モールはニヤニヤ笑いながら受け取る。
「この大魔法使いサマをカネで買おうっての?」
「カネで買うんやない。コネで買うんや」
「……まったく、君は本当に図太いヤツだねぇ」
モールは胸のボタンを開け、胸元にその袋をしまい込んだ。
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クーの消失が皇帝の仕業であると断定され、討伐が決定されたその夜、エリザはふたたびモールと、密かに接触していた。
「ほんならクーちゃんは無事なんやな?」
「ああ。実質眠ってるようなもんだしね。解除するまでそのまんまさ」
「今はドコにおるん?」
「ソコはもう、チョイチョイってなもんでね」
「またチョイチョイか」
「またチョイチョイだね」
手の内を明かさない師匠の態度を受け、エリザはそれ以上の詰問をあきらめ、話題を変える。
「ほんで先生、アンタなんでメリーちゃんたちをあんなイジメてたんよ?」
「あ? いやほら、ちょっとイライラしちゃってさ。言われたコトしかこなさないわ、嫌だ嫌だって思ってるクセしてニコニコしてるわ、見当違いのコトをドヤ顔でわめき散らすわで、コイツらなんかほんのちょっと腹立つなーってね」
「ちょっとは加減したりいや。アンタのせいで、みんな病院送りやで」
「そりゃ悪かったね。……ま、私の話なんかよりさ」
「いや、もうちょいさせてもらうで」
エリザはモールに詰め寄り、その胸をむにゅ、とわしづかんだ。
「アンタいつの間に女の子になってんねや。しかも若返っとるし。アタシとおった時、明らかにアタシより20歳は年上やったはずやんな? なんでアタシより若くなっとんの?」
「お、嫉妬?」
「アホか」
エリザはぺっちん、とモールの胸を叩き、にらみつける。
「せやけども、単純に若返ったにしては『猫』から長耳、男から女て、そんなトコまで変わっとるんはおかしいやん。まるで赤の他人の体を奪ったみたいやんか」
「……鋭いね、やっぱり君は鋭い」
モールは叩かれた胸をさすりながら、こう答えた。
「そうさ、私は他人の体を奪って生きるヤドカリさね。前使ってた体がボロボロになっちゃったもんで、どっかにいいのいないかなーって思ってたら、うまいコト見付かったってワケさ。でも勘違いしないでほしいんだけどね、この体は死んでたからもらったんだ」
「工事で事故った時か」
「そ、そ。偶然、この体持ってた娘が頭から血流して倒れててさ、意識確かめたり脈計ったりしたけども、そん時ゃもう完璧、死にたてホヤホヤの状態だったんだよね。念押しするけど、事故も偶然だからね」
「どっちでもええ。ほなアンタ、他人に乗り移れるっちゅうコトか」
「乗り移るって言うか、んー、言ってみると『上書き』みたいなもんだね。元あった記憶域に、私の情報をインプットしてるって感じで」
「よお分からんな。ホンマ変わってへんわ、説明ド下手なトコ」
「うっせ」
モールは若い娘の姿で笑いながら、エリザにパチ、とウインクして見せる。
「ともかく今はコレが、私の姿ってワケさね」
「はいはいはい、そらよろしいな。で、なんでこっち来たんよ? アタシの成長ぶりでも確かめに来たんか?」
「んなめんどいコト、誰がするかってんだね。そうじゃなくてさ、ほら、あん時もう、君らこっちの邦に渡ってただろ? 私も行ってみたいなーって思っててさ。そしたら丁度第二隊を募集してるって話だったから、私が手ぇ挙げたのさ。と言って、真面目に仕事すんのもガラじゃないしね」
「ほんでこっち来たところで、いちゃもん付けて逃げ出したっちゅうワケか。……アホかアホか思てたコトは今までちょこちょこあったけども、確信したわ。
アンタはアホや。マジもんのアホや。純度100%の、アホの塊やわ」
「人をアホアホ呼ぶんじゃないね、まったく。このバカ弟子、一体誰に似たんだか」
「鏡見せたろか? 犯人映るで」
「ところがどっこい、映るのは可愛い女の子でーす」
「シバくで、しまいには」
両者にらみ合ったところで――途端にふっと、互いに相好を崩した。
「……ま、もうええわ。ともかくアンタ、しばらくこっちにおるっちゅうコトやな」
「ああ。20年、30年くらいかけて一通り回ったら、また誰かの体もらって戻るつもりしてるけどね」
「ほんなら、ちょっとくらい手ぇ貸しいや。アンタみたいに誰にも存在を知られてへん上に、えげつないほど頼りになるっちゅう人間は、おったらかなり便利やからな。ソレに皇帝さんがのさばっとる今の状況やと、アンタも動くに動けへんのやろ?」
「なんだよ、自分の師匠を手駒扱いすんの?」
「さしてもらうで。アンタかて、素寒貧なんは嫌やろ?」
エリザはちゃら、と銀貨の詰まった袋を投げて寄越し、モールはニヤニヤ笑いながら受け取る。
「この大魔法使いサマをカネで買おうっての?」
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